鶏もも肉、さっと煮る? じっくり煮込む?

「科学する料理研究家」平松サリーさんが、料理に役立つ知識を科学の視点から解説します。お子さまと一緒に科学への興味を広げていきましょう。

 

鶏肉の煮方を変えて、異なる食感を楽しもう!

肉料理の注意点として「肉は加熱し過ぎると硬くなる」というのを聞いたことはあるでしょうか。一方で「肉をじっくり煮込んでやわらかくする」と言うこともあります。肉は加熱すると硬くなるのでしょうか? それともやわらかくなるのでしょうか?

実は両方正解。加熱すると、はじめは肉の繊維が縮んでだんだん硬くなります。しかし、これをさらにじっくり加熱していくと、繊維同士を束ねていたコラーゲンが溶け出してほぐれやすくなり、ほろっとやわらかく感じられるのです。

したがって、同じ材料を使っても、加熱時間を変えれば仕上がりも変わります。今回は、火が通る程度にさっと煮て作るオーソドックスな親子丼と、同じ材料でじっくり煮込んで作るほろほろ鶏の親子煮、2つのレシピを紹介します。プリっとやわらかい鶏肉とほろりとやわらかい鶏肉、2種類の食感を比べて楽しんでみましょう。

 

材料(2人分)

  • 鶏もも肉 1/2枚
  • 玉ねぎ 1/2個
  • 卵 3個
  • だしつゆ パッケージの記載通りに薄めて200ml
    (4倍希釈タイプなら50ml+水150ml)
  • ご飯 2杯分
  • 三つ葉(または青ネギや海苔) 少々


1.下ごしらえ
玉ねぎは繊維と平行に薄切りにする。鶏もも肉は小さめの一口大に切る。
卵はざっくりとときほぐしておく。


2.煮る
フライパンにだしつゆと水、玉ねぎを入れて火にかけ、煮立ったら鶏もも肉を加えて3分ほど煮る。


3.仕上げ
鶏肉に火が通ったら溶き卵を回し入れ、蓋をして好みの固さに火を通す。
温かいご飯の上に盛り付けて出来上がり。
お好みで三つ葉や青ネギ、海苔などをのせてもおいしいです。

材料(3〜4人分)

  • 鶏もも肉 1枚
  • 玉ねぎ 1個
  • 卵 3個
  • だしつゆ パッケージの記載通りに薄めて240ml
    (4倍希釈タイプなら60ml+水180ml)
  • 水 100ml
  • ネギ、海苔、山椒など お好みで


1.下ごしらえ
玉ねぎは8等分のくし切りにする。
卵はときほぐしておく。


2.煮込む
鶏もも肉を広げ、丸ごと鍋に入れる。あいている部分に玉ねぎを並べ入れる。
だしつゆと水を入れ、表面が乾かないようフェルトタイプのキッチンペーパーをかけて蓋をする。
火にかけ、沸騰したら弱火にして30分煮込む。

ポイント

肉を加熱するとまず、生のぐにゃぐにゃとした状態から歯切れの良い食感に変わります。中に閉じ込められていた水分が自由になるため、肉汁のジューシーさが感じられるようになり、風味も良くなります。さらに加熱が進むと肉の繊維が縮み、肉汁が絞り出されていきます。そのため、加熱しすぎた肉は硬くパサパサとしてしまうのです。

これをさらに加熱していくと、今度は肉の繊維を束ねていたコラーゲンという成分が分解され、煮汁に溶け出します。これにより、肉の繊維がほろほろと崩れ、やわらかく感じられるようになります。

したがって、肉をやわらかく仕上げるには、さっと加熱して歯切れよくジューシーにするか、じっくり加熱してほろほろにするか、どちらかの戦略をとる必要があります。中途半端に長く煮るのが一番硬くなるのです。

たとえば親子丼は、小さく切った鶏肉を玉ねぎと一緒に煮て、卵でとじて作る料理。鶏肉は火が通る程度にさっと煮ると、プリっとやわらかく仕上がります。一方で、鶏肉を切らずに丸ごと鍋に入れ、じっくりことこと煮込むとどうなるでしょうか。肉が箸でほぐせるくらいにほろほろとやわらかく仕上がり、卵でとじればこれはこれでおいしい親子煮になります。

同じ材料を使っても、火の通し方次第で食感や味わいが違って感じられるおもしろさがあります。ぜひ作り比べてみてください。

 

3.仕上げ
鶏肉がやわらかくなったら火を止め、菜箸などで食べやすい大きさにほぐす。

再び火にかけて、ふつふつとしたら溶き卵を回し入れ、半熟状態で火を止める。
器に盛り付け、お好みでネギ、海苔、山椒などをかけて食べる。
ご飯にのせて親子丼として食べてもおいしいです。

さっと加熱するのがおいしいか、じっくり加熱するのがおいしいかは、肉の種類や形状によって異なります。たとえば今回の鶏もも肉は、さっと煮てもじっくり煮てもおいしく食べられますが、さっと煮るなら中まで火が通りやすいよう一口大に切ったり、そぎ切りにしたりするのがおすすめ。じっくり煮込むなら1枚丸ごと煮たほうが、肉汁や分解されてゼリー状になったコラーゲンが肉の中に留まりやすく、しっとり仕上がります。

牛肉や豚肉の場合、ロースやヒレは肉質がやわらかく、煮込むと硬くパサつきやすいのでさっと加熱して食べるのがおいしい部位です。逆に、肩やスネ、スジ肉などはコラーゲンが多いので、加熱時間が短いと硬くて食べにくいですが、かたまりをじっくり煮込むと繊維がほろりとほぐれ、コラーゲンの部分がとろりとしておいしくなります。やわらかくなるまで1〜2時間かかりますが、圧力鍋を使うと煮込み時間を短縮できます。


次回は「魚をおいしく食べる、臭み取りの方法」について、科学的な要素に焦点を絞って解説いたします。どうぞお楽しみに!

科学する料理研究家、料理・科学ライター

平松 サリー(ひらまつ・さりー)


科学する料理研究家、料理・科学ライター。京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。生き物がつくられる仕組みを学ぼうと、京都大学農学部に入学後、食品科学などの授業を受けるうちに、科学のなかに「料理がおいしくできる仕組み」があることを知る。大学在学中に、科学をわかりやすく楽しく伝えたいとブログを始め、2011年よりライター、科学する料理研究家として幅広く活躍している。著作には『おもしろい! 料理の科学 (世の中への扉)』(講談社)などがある。

 

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