第24回 教えて!校長先生 都立国立高校篇 ~小学6年生のあなたへ~

執筆者:鈴木亮介(Z会進学教室 調布教室長/国語科)
記事更新日:2021年12月17日

【インタビュー企画】教えて!校長先生 ~③ 都立国立高校~

Z会の教室による小学6年生の学びを助けるフリーマガジン「親子で始める、中学準備」が、皆さんの憧れる人気校の校長先生にお話を聞くインタビューシリーズ「教えて!校長先生」。連載第三弾は東京・多摩地区の都立トップ校、東京都立国立高校を直撃!佐藤文泰校長先生にお話を伺いました。中学入学、そして高校受験に向けて頑張る皆さんに心がけてほしいことや、高校選びのポイント、国立高校に通う生徒が心がけている「良い習慣」など、6年生の皆さんや、保護者の皆様が今知りたいことをたくさん伺いました。ぜひ最後までお読みくださいね。

東京都立国立高等学校

東京都国立市東4-25-1
JR南武線谷保駅下車、北口より徒歩10分
またはJR中央線国立駅下車、南口より徒歩15分
http://www.kunitachi-h.metro.tokyo.jp/

佐藤文泰校長先生は、どんな小学6年生でしたか?

学校の中で生徒会役員をやるなど積極的な子でしたね。テレビや本が好きで、親が買ってくれた文学全集や、小学生でも読めそうな評論に興味を持って読んでいました。小学校の頃に親と一緒に博物館で見たメソポタミア文明の展示がきっかけで、大学で古代の歴史を専攻することになりました。

「○○してはいけない」ではなく「○○についてはどう思うか」と問いかけるのが国立高校

――高校選びのポイント、注意点などを教えてください。

佐藤校長:高校を選ぶときのポイントは、小学生の方にとっては感覚的なところが大きいのかなと思います。その学校のいろいろな場面を見て「この学校いいなぁ」「面白そうだな」と思えるかどうか。たとえば国立高校の場合は校舎が決して新しくはありませんが、「この味わいのある校舎で学んでみたい」と思うか、「やっぱりきれいな方がいい」と思うか。そういったところも含めてその学校の雰囲気や高校生の様子を見てみると良いでしょう。

――小学生にとっては、中学と高校がどのように違うのかというのもイメージが持ちづらいかもしれませんね。

佐藤校長:中学と高校の違いの一つは「自立」だと思います。自分自身でものを考えて決めていくということの比率が高まります。例えば、服装一つにしても、小学生のうちは着る服を親御さんが用意してくれて、中学になると決まった制服を着ますが、高校に入ると本校のように私服の学校では自分で着ていくものを選んで決めます。勉強も、自分でどこまでやるか、何をやるかを自分で決めていく要素が増えていきます。

――自分自身で考えることは大学や社会に出た後も大事なことですね。

佐藤校長:ですから本校では「○○してはいけない」ではなく「○○についてはどう思うか」と問いかけるようにしています。大人の目から見て気になる行動も、できるだけ生徒自身に「そういう行動はどうなのか」と自分で考えて判断してもらうことを大切にしています。それができるようにならないと大人になって困りますよね。

――高校選びは将来の進路を考えることでもありますよね。

佐藤校長:自分が将来どんな仕事をしたいか、どんな人生を送り、社会でどんな役割を果たしたいかということも、学校選びでは大切ですし、保護者の方も一緒に考えていただきたいです。児童・生徒自身で手に入れられる情報は限られているので、小中学校や塾が提供する情報、保護者の方ご自身のお持ちになっている情報もあって初めて総合的に判断できます。そういう意味では保護者の方にもいろんな学校に足を運んでいただければと思います。

――やはり直接足を運ぶことが大切ですか?

佐藤校長:様々なところで出ている情報は断片的なものもあり、その部分だけで判断すると「あれ?」ということも往々にしてあります。たとえば「国立高校は学校行事がさかん」という情報だけを入手すると、「国立高校では行事にだけ力を入れればいいのかな」というニュアンスで伝わりかねません。実際には前提として日々の学習や部活動があり、その積み重ねの上に行事があり、日常の学校生活も含めて生徒たちは成長していきます。その部分も含めて学校の様子を見てもらいたいと思います。

やってみて「できた」ことより、「できない」ことが実はとても大切

――改めて、佐藤校長先生自身が考える「国立高校の特徴」はどういったところにありますか?

佐藤校長:やはり授業そのものですね。質の高い授業を提供していると思っていますが、それ以外にも部活や行事を大切にして、トータルで人間力を高められる学校だと思います。単純にテストの点数が取れるというではなく本来の学び、生きる力を育める場所です。いろいろなことが100%できなくても、自分のできる範囲の中で様々なことを全部やっていこう、とできるのが国立高校の魅力だと考えています。

――「本来の学び」や「人間力」ということについて、小学生はどのようにイメージすれば良いでしょうか。もう少し詳しく教えてください。

佐藤校長:小学生の皆さんは好きなこと、嫌いなことが様々あると思いますが、嫌いなことや得意ではないことについても自分のできる範囲でチャレンジしてみてください。それが、人間力につながっていきます。やってみて「できた」ことより、「できない」ことが実はとても大切です。

――「できない」方が大切なんですね。われわれ大人はつい「できる」を重視してしまいます…

佐藤校長:なぜできないんだろうと考えることも大事だし、できないことがあるという自分を認めることで、できない人の気持ちがわかるようになります。それはすごく意味があることです。優秀なお子さんはなんでもできてしまうと思いますが、でもそこで自分が得意ではないことがあったら、そのときに自分にもできないことがあると気づき、そしてできない子のことを慮ることができます。これからの社会を担うリーダーにとっては人の気持ちや心のありようまで思いやれることが大事だと思います。

――なるほど。できない人がいるということにも意識が向くようになるわけですね。

佐藤校長:それがないとくじけてしまうこともあると思うんです。小中学校時代に優秀で、みんなから「あの子はできる」と言われて来た子たちが(国立高校のようなトップ校に)集まったときに、自分の思い通りにいかないことがあって、そのときに「自分はだめだ」と思ってしまうか「でももうちょっと自分にできることを頑張ってみよう」と思えるか。そういう経験は高校に限らず大学や企業に入って何度もすると思うので、そのとき自分の心をコントロールし、自分の力を発揮できるようになってほしいです。

――これは保護者の方にも持っていてほしい視点ですね。

佐藤校長:「転ばないようにどうするか」ではなく、「転んでしまって、じゃあその後どうしていくのか」を見守っていくことが大事だと思います。

コミュニケーション力を磨き、受け皿を広げよう

――国立高校に入ると、どんなことができるようになるのでしょうか?

佐藤校長:具体的に説明するのが難しいのですが、自分のやってみたいことにチャレンジできる楽しさがあると思います。様々なことが試せる学校だと思います。最近は報道でも「普通科の再編」ということが言われ、どちらかというと「うちの高校はこういう特色がありますよ」と打ち出している高校の方が多いですよね。国立高校では学びについての方向付けをあえてしていません。授業の幅も広く、いろいろな可能性を広げ、自分で興味関心を見つけ、広げられるスタイルになっています。高3になってから文系理系が決まってもダメではないし、大学選びも本当に決まらないなら進振りのある東大にという選択もあるでしょう。

――そんな国立高校に入りたいという受験生には、どんなことが求められますか?

佐藤校長:自分自身の受け皿、器を広げておくことが大事です。これからの時代は、コンピューターのできない文系の人も、文章の書けない理系の人も通用しない時代です。文理融合が必須で、それが活躍するためのカギになると思っています。

――特に小学6年生のうちは、どんな準備をすれば良いでしょうか。

佐藤校長:自分の小学校での生活を大事にしてほしいです。学校の勉強はきちんとやり、それ以外に+αをやってもいいし、自分のやりたいことがあれば積極的に取り組んでほしいです。また、これは本校を志望する受験生に限らず、コミュニケーションの力も大事だと思います。コミュニケーションというのはおしゃべりをするだけでなく、文章で自分の思いや考えを伝えることも大事ですし、言葉を大事にすることも意識してほしいです。昨年の本校の入試問題では漢字の問題で「イチジツの長」という出題をしましたが、いろんな文章に触れてるお子さんは「一日」という漢字が正答だとピンと来たのではないでしょうか。

――普段どのような行動・習慣をしていると言葉を大切にできるようになるのでしょうか。

佐藤校長:これが絶対に良いかはわかりませんが、情感豊かな多様な文章に触れることが大切かと思います。名作文学全集や、岩波ジュニア新書のような論理的な文章など、比較的読みやすく多様な表現に触れられる本が良いでしょう。

――保護者の方の働きかけも大事ですよね。

佐藤校長:そうですね。高校生になると親御さんと話す機会も減ってくるので、話せるうちにできる限りいろいろと話をしてほしいと思います。何時間もかけて話すことができなくても、朝のちょっとした挨拶だけでも十分だと思います。

――佐藤校長先生からご覧になっていて、国高生にはどんな特長がありますか?

佐藤校長:自分でやってみたいと考える生徒が多いですね。文化祭では様々な役割に挑戦したり、授業でいろんなグループワークをしていても(誰かに任せるのではなく)自分が関わりたいという生徒が多いです。

――行事や部活に積極的な生徒が多い学校というのは、「集団行動は苦手」という子にはあまり向いていないのでしょうか。

佐藤校長:そんなことはないですよ。国立高校にも「一人でいる時間も大切にしたい」という生徒はいますし、少人数で成立している部活もあります。距離感の取り方はみんなうまいですね。文化祭の準備に来ない子もいますけど、だからと言ってその子が責められることはなく、むしろ「その子の代わりに自分がやりたい」という子もいて、「そういう子もいるんだ」と認め合える環境があると思います。探せば居場所はいくらでもある。ただ、学校が与えてくれるわけじゃなくて、自分でその居場所を探さないといけないというところは小学校や中学校との違いかもしれませんね。

小学6年生のあなたへ メッセージ

小学生のうちに、身近な自然や博物館、美術館など、いろんなことに触れることが大切かなと思います。私自身、小学校の頃に親と一緒に博物館で見たメソポタミア文明の展示が大学の専攻を決める要因になりました。そのときは「昔の人たちはこんなすごいものを作ったんだ」というくらいの感想でしたが、そのとき感じた面白さがずっと残っていたのだと思います。高校生になると活動の範囲は広がりますが、忙しくなるので受け身でいると、新たに興味を持てるものを見つけることが難しくなりますね。

これからの世界を支えていくのが今の小中学生だと思いますので、やろうという気持ちを大事にして、それを叶えるために努力をしてほしい。その前提として「こうありたい」「こうなりたい」「こうしてみたい」という強い想いを持ってほしいです。「想い」が一番大事なことだと思います。今具体的にやりたいことが決まっていなくてもそれは決して悪いことではありません。「将来人の役に立ちたい」など漠然としたことでも良いので、そうした意識を持って、これからの社会を創っていってほしいなと思います。中学、高校という期間があることで、自分のできること、できないこと、やるべきこと、いわば志のようなものがだんだん見えてくると思います。やりたいことが決まらないという人は、国立高校のような学校に来ていただければ可能性を広げることができると思います。

この記事の著者

鈴木亮介(すずき・りょうすけ)
2013年よりZ会進学教室にて中学生の国語、小6公立一貫校受検コースの文系を担当。立川教室や池袋教室を中心に数多くの6年生の作文指導に携わり、南多摩中、立川国際中、大泉中などの合格者を輩出。2016年よりZ会に入社し、同年より調布教室の教室長を務めるほか、国語科の一員として校正業務、冬期講習単科ゼミ「西の作文」の講座設計・教材作成も担当。肥薩線の三段スイッチバックのごとく「地味にすごい」をモットーに教壇に立つ。

 

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