第65回 教えて!校長先生 東京学芸大学附属高校篇 ~小学6年生のあなたへ~

執筆者:鈴木亮介(Z会進学教室 調布教室長/国語科)
記事更新日:2022年07月22

【インタビュー企画】教えて!校長先生 ~⑥ 東京学芸大学附属高校~

Z会の教室による小学6年生の学びを助けるフリーマガジン「親子で始める、中学準備」が、皆さんの憧れる人気校の校長先生にお話を聞くインタビューシリーズ「教えて!校長先生」。連載第六弾は東京・世田谷区にある国立の東京学芸大学附属高校。大野弘校長先生にお話を伺いました。中学入学、そして高校受験に向けて頑張る皆さんに心がけてほしいことや、高校選びのポイント、学芸大附属高校に通う生徒が心がけている「良い習慣」など、6年生の皆さんや、保護者の皆様が今知りたいことをたくさん伺いました。ぜひ最後までお読みくださいね。

東京学芸大学附属高等学校

東京都世田谷区下馬4-1-5
東急東横線 「学芸大学」駅下車 徒歩15分/東急田園都市線 「三軒茶屋」駅下車 徒歩20分
http://www.gakugei-hs.setagaya.tokyo.jp/

大野弘校長先生は、どんな小学6年生でしたか?

物を知るのは好きでした。文学も、社会科学も…新しいことを授業で学んだり考えたりするのは好きなんですが、得た知識を定着させる、つまり復習は大嫌いでしたね。予習や授業は好きでしたが復習はやらないので、成績は悪かったです。

小学校の頃は教科書を読むだけでおよそのことは分かっていたのに、中3になると俄然わからなくなる。そこで初めて復習の大切さに気付きましたね。定着させるという地味なことも大切です。

「受験の教育」と「本来の教育」分けなくて良いのでは

――高校選びのポイントを教えてください。

大野校長:中学3年時点での生徒本人と相手となる高校との相性が一番大事だと思います。相性というのは、一つには勉強に対する姿勢です。難関大学合格に向けてガンガン勉強するぞ!というタイプの高校なのか、高校卒業生として恥ずかしくない学力を、ゆっくりていねいにつけていく高校なのか。学習面以外の、行事や部活もポイントになります。

――一般的には「行事や部活は盛んな方がいい」と言われていますね。

大野校長:高校生になったら部活を一生懸命やりたいという人や、●●高校の体育祭、学園祭にぜひ自分も生徒として参加したい!という希望を持って入る人。それもいいと思います。ただ、そういう志向の生徒ばかりではありません。学校全体が行事に燃えているとちょっと疎外感を覚えて、自分は静かに本を読んだり小数の友達と静かに話をするのが好きだという生徒もいます。国立大附属は比較的「全員でワーッ」というよりも、「そういうのが得意じゃない」というのが認められるというか、そういう子にも合っている学校だと思います。

――なるほど。

大野校長:ただ、高校に入ったら今までの自分とは変わってみようと考えて、敢えて行事が盛んな学校を選ぶ人もいますし、特段意識せず高校生活を送るうちに、行事や団体行動が好きになっていく人もいます。そういう変化を楽しむ気があるなら、敢えて予定調和的な自分に合った学校を選ばないというのも、リスクはありますが、大きな成長があるかもしれません。

――そうした「自分に合っているかどうか」はどうやって見極めると良いでしょうか?

大野校長:やはり実際に見学に行ってみることでしょうね。学園祭や体育祭などその学校の売りになっている行事に参加したり、できれば公開授業なども実際に行ってみると良いです。できれば保護者の方と一緒に行き、保護者の方と感想を話し合ってもらうと良いと思います。

――国立大附属の高校にはどういった特徴があるのでしょうか?

大野校長:強烈な創立者のカラーがありませんし、中高のつながりはゆるやかです。私立の中高一貫校の場合はほとんどそのまま中学から高校に上がっていくので、強い文化ができます。しかし国立大附属の場合はほとんどの学校が完全に中高一貫ではなく接続型なので、1~2クラス分高校募集を行い、外の文化も入ってきます。特に学芸大附属の場合は附属中が3校あり、合計200人くらいが内部進学で、あとの120~130名を高校募集します。附属中3校それぞれから学芸大附属高校に進学するのは多くても各校70~80人くらいなので、「外部」を一括りにすると実は「外部」という集団が一番多いんです。ある程度中学の文化も持ってきますが、世田谷、竹早、小金井でそれぞれ違います。そして、多くの高校募集をする私立一貫校では中学から上がる人と高入生とでクラスを別々に分けていますが、学芸大附属高校では高1から全員混在します。

――勉強の進度についてはどうですか?

大野校長:国立の場合はあまり中学で先取り教育をしていません。高校から入ってきても、少なくとも勉強に関しては全く問題ありません。SNS等では「中と外が」と色々書かれていますが、実際に「附属学校の文化に合わない」ということはその人次第なのではとも思います。大学受験への受験合理性で選べば、私立の中高一貫校の方がメリットはあるかもしれません。一方で、国立は高校受験があってもう一度シャッフルされますから、「中学の時は活躍できなかったけど高校では変わるぞ!」というチャンスがあります。高校受験があることで、内部であっても特に学芸大附の場合は高校受験のための時間をとったり、場合によっては不合格のリスクもありますが、そこで中だるみがなくなり、それがきっかけで基礎基本の徹底ができるようになります。必要悪としての受験というものはあると思います。

――「大学受験があるから勉強する」というのはよくないのでは?という考え方もありますね。

大野校長:動機は何であれ勉強すればいい、と私は思います。意味のない単なる暗記のみでは問題ですが、それなりに意味のある出題をする学校を目指し、そのための勉強をすることが本物の学力を身につけることになると思います。例えば東大の二次の問題は良いですよね。

――確かに東大の入試問題を解ける力は、社会に出て役立つ力そのものと言えそうです。

大野校長:そもそも、「受験の教育」と「本物の教育」と分けて考えられがちですが、フィールドワークなどの探究活動は入試問題を解く力になりますし、良質な入試問題を解く力をつけることは社会に出てから課題解決する力を身につけることになると私は思います。そして今後の教育は、一生学び続ける姿勢と自分一人でも学べる方法を身につけることが重要です。

――一生学び続ける…なるほど。受験が終わったら勉強が終わるわけではないですよね。

20年後を見据えた「本物教育」

大野校長:一生学び続ける姿勢というのは、「なんだろう」と思ったらすぐ調べるという姿勢のことで、これはやはり学校が果たす役割が大きいです。本校でも2年間の「探究」という授業を行っていますが、自分で疑問に思ったものを調べようと思って、実際に調べる方法を身につけます。例えばネットで調べる場合、その情報は玉石混交ですから、その中で自分が本当に知りたい情報を探し出す経験を積むわけです。社会的権威のあるwebページだったり、幾つかのwebページで共通して言っていることだったり…そうした知的生産の技術は、意識的に学ばないと、自然に勝手に身につくものではありません。これを学芸大附属高校では「本物教育」として推進し、大学入試にも活かそうじゃないかと言っています。

――先ほど私立一貫校と国立の違いについてお話しいただきました。では、公立高校と国立大付属高校の違いはどんなところでしょうか?

大野校長:公立は入学の難易度による違いによってかなり特色が違いますので、一概に「公立高校」という枠組みで比較をすることに意味はないように思います。例えば都立の「進学指導重点校」や神奈川県立の「学力向上進学重点校」と国立大附を比較した場合最近の公立高校は大学受験を強く意識しながらも、旧制中学以来の伝統的な自由度があります。一方、国立大附属の創立時のミッションは「これからの日本の教育、教育学の研究に役立つということの追求」で、先進的な取り組みを行っています。

――「先進的」とは具体的にどのようなことですか?

大野校長:今の大学受験に役立つかどうかよりも、将来の日本の教育に役立つかどうかということです。ただ、それが常に大学受験にとってデメリットかというとそれはまた別の話です。たとえば「情報」という教科が2022年に高1の代から共通一次試験や国公立大の二次試験にも導入される見通しで、場合によっては数学と並ぶほど重要な教科になる見込みです。本校では「情報」という教科ができる前から情報教育への取り組みを行っていて、本校の研究成果が「情報」の教科化にあたって参考にされたものと考えられます。そういう先鋭的なことを学芸大附や筑波大附など国立大付属高校では行っています。今の生徒、保護者、今の社会情勢に完全適合しているかというよりは、もう少し先の社会に、どうやったら活躍できるかという視点で教育を行っています。大学に入って社会に出た後に役立つだろうと思いますし、あまり今に適応しすぎてしまうと、変わったときに困ると思います。そこそこに適応しながら、違和感を持つ、そういうある種の余裕も大切だと思います。

 ――よくネットの書き込みなどで”実験台”と評されてしまうこともあると思いますが、生徒目線から見て国立大附に入学するメリットは少し先の時代を見据えた教育を受けられるということになるのでしょうか。

大野校長:もちろんそういう面もありますが、さすがに教育系大学のフラッグシップである東京学芸大学の附属ですから、大学の中である程度「こうなるだろう」としっかり研究したうえでやっていますから、決してイチかバチかで実験しているわけではありません。10年、20年先を真剣に研究して大丈夫だろうと判断しています。高校を選ぶ小中学生の皆さんが持てる力が10あれば10全てを大学受験に使う学校を選んでもよいと思います。一方、うちの場合は、10持っていたら7、8は受験に使うかもしれないけど、あとの2、3はさらにその先に備えて勉強していきます。

――とはいえ、実際に大学の合格実績を見ると、大学入試に向けた指導にも力を入れているように感じます。戸山高校の校長も務めた大野先生が学芸大附に着任されてから取り入れたことはありますか?

大野校長:模試について学内のテストだけでなく業者テストを導入しました。それによって個々の生徒の「●●大学の合格可能性がどのくらい」に注目するということよりも、それを通じて個々の教科の指導の改善に役立てています。一つ一つとしては進学指導を行う他校でも行っていることだと思いますが、先ほどお話しした「本物教育」が土台にあります。大学の教育学における課題をどうやって生徒のための指導に生かすか、またそれが大学受験への指導に生かせるか、という視点も持っています。それは意識的に取り組まないといけないことですね。

読書によって、知的柔軟さを手に入れよう

 ――では、そんな東京学芸大附属高校に(高校受験から)入学したいという6年生、中学生は、今からどんな準備をすれば良いでしょうか?

大野校長:小学6年生の1年間はもちろん、中学校でも、まずは学校の授業を大事にして、基礎基本を徹底してください。基礎基本を十分に身につけたうえで、知的好奇心に富んだ柔軟な精神を持っている生徒に来てほしいと本校では考えています。何か不思議だなと思ったら、調べてみよう。そういう姿勢を身につけてほしいです。柔軟という意味では「算数は得意、国語は嫌い」といった場合に、算数を伸ばすのはもちろんですが、国語は嫌いだからやらない、ではなく、やってみたら面白くなるかもと思って好き嫌いを固定化せず、もしかしたら自分は違うかもしれないから敢えてやってみようという知的柔軟さがあるといいですね。

――知的柔軟さを身につけるにはどうしたらよいのでしょうか?

大野校長:時代遅れと言われるかもしれませんが、私は読書が大切だと思います。岩波ジュニア新書のようなものは、一流の学者がしっかり考えて解りやすく書いてくれていますので、分野をあまり固定化せず、文学以外の世界にも興味を広げてほしいです。例えば理学と工学の違いを6年生の皆さんはわかりますか?小中高の理科では理学が中心ですが、大学に行くと理学部はごく一部で、工学が大半になります。「知りたいな」と思って仕組みを学ぶのが理学ですが、工学は世のため人のために何かをしたいという、社会のための目的を持った研究です。自分が勉強していることをわかっておしまいではなく、勉強する動機・意欲を作るためにも工学的な分野にも読書を通じて触れてもらいたいです。それは効率主義から言っても大切なことで、読書により「学ぶ目的」を見出し世界を広げることは、受験を考えたときにも回り道にはならないと思います。

――確かに、読書は大切ですね。

大野校長:本校では毎月1回「中庭集会」を行い、その中のあいさつで必ず本を1冊紹介しています(校長ブログという形でも毎月掲載 http://www.gakugei-hs.setagaya.tokyo.jp/blog/ )。本を読むことが直接大学受験に役立たないかもしれませんが、そういういい意味での無駄はあってもいいんじゃないかと思います。

小学6年生のあなたへ メッセージ

コロナ禍でもあり近隣諸国も物騒な時代ですが、いろいろ真面目に物事を考えれば考えるほど憂鬱になるような状況が多いわけですが、そういうトラブルが多い大変な時代を切り拓いて良くしていくのも今小学6年生の皆さんです。今厳しい状況というのは客観的に受けながらも、そのことに打ちひしがれるのではなく、自分が、日本人が、人類が頑張ればなんとかなるのではという楽天主義を持ってほしいです。

勤勉な楽天主義であれ。何とかなるさと思って足元のやるべきことをコツコツと努力していく。何とかなるさと思って何もしなかったらダメなんですけど(笑)、一方、現実を直視するがために「あれもやってもだめだ」「これも無理だ」と絶望し、やらなきゃならないことをやらなくなってしまったらおしまいです。大きくは楽観的に捉えて、日々の勉強や体力トレーニング、読書をコツコツやっていく。そういうことが必要だと思います。

大きな希望、夢を持って、毎日の努力をコツコツとやってほしい。それが一番ですね。

この記事の著者

鈴木亮介(すずき・りょうすけ)
2013年よりZ会進学教室にて中学生の国語、小6公立一貫校受検コースの文系を担当。立川教室や池袋教室を中心に数多くの6年生の作文指導に携わり、南多摩中、立川国際中、大泉中などの合格者を輩出。2016年よりZ会に入社し、同年より調布教室の教室長を務めるほか、国語科の一員として校正業務、冬期講習単科ゼミ「西の作文」の講座設計・教材作成も担当。肥薩線の三段スイッチバックのごとく「地味にすごい」をモットーに教壇に立つ。

 

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