第71回 教えて!校長先生 横浜サイエンスフロンティア高校篇 ~小学6年生のあなたへ~

執筆者:鈴木亮介(Z会進学教室 調布教室長/国語科)
記事更新日:2022年10月14

【インタビュー企画】教えて!校長先生 ~⑦ 横浜サイエンスフロンティア高校~

Z会の教室による小学6年生の学びを助けるフリーマガジン「親子で始める、中学準備」が、皆さんの憧れる人気校の校長先生にお話を聞くインタビューシリーズ「教えて!校長先生」。連載第七弾は神奈川・横浜市にある横浜サイエンスフロンティア高校。永瀬哲校長先生にお話を伺いました。

横浜市立横浜サイエンスフロンティア高校は2009年(平成21年)に開校した理数科の公立高校で、翌2010年より文部科学省よりスーパーサイエンスハイスクール (SSH)の指定を受けているほか、スーパーグローバルハイスクール ネットワーク参加校、横浜市教育委員会指定の「進学指導重点校」の一つでもあります。2017年度には附属中学校も開校しました。高校は神奈川県の全域から志願者を集める人気校です。

中学入学、そして高校受験に向けて頑張る皆さんに心がけてほしいことや、高校選びのポイント、横浜サイエンスフロンティア高校に通う生徒が心がけている「良い習慣」など、6年生の皆さんや、保護者の皆様が今知りたいことをたくさん伺いました。ぜひ最後までお読みくださいね。

横浜サイエンスフロンティア高等学校

横浜市鶴見区小野町6
JR鶴見線 鶴見小野駅 徒歩3分
https://www.edu.city.yokohama.lg.jp/school/hs/sfh/

永瀬哲校長先生は、どんな小学6年生でしたか?

学校から帰ってきたらすぐ外に遊びに行くような子どもでした。当時は野球が流行っていて、グラウンドで友達と野球ばかりの日々。地元の公立中に行くと決めていたので勉強は学校の授業を聞いているだけでしたね。

ただ、本を読むのがすごく好きで、小学校の頃から父親の本棚にある小説などを手あたり次第読んでいました。その経験が今に活きていると感じます。

カリキュラムの差=特色。どんなことを学びたいかを考えよう

――高校選びのポイントを教えてください。

永瀬校長:小中学校と高校の違いは、1校1校のカリキュラムが違って、その違いが特色になるということです。どういう特色を持っているか理解することと、自分がどんなことを学びたいかを考えることが大切です。本校は理数科なのでサイエンスを学びたい人は本校を選んでいただいて間違いないですし、あるいは国際関係を学びたいなど、自分がやりたいことをできる学校を選ぶことが大切です。

 ――やりたいことが既にある子にとってはそうした観点で探しやすいと思いますが、一方で自分がまだ何をやりたいかわからない、決まっていないという子も多いと思います。

永瀬校長:学校説明会に参加すると生徒や先生の雰囲気が分かりますので、実際に足を運ぶと良いのではないでしょうか。コロナ禍でなかなか難しいかもしれませんが文化祭に来ていただくのも良いですね。

 ――横浜サイエンスフロンティア高校に入学すると、どんなことができますか?

永瀬校長:端的に言うと科学に対する興味関心をより高められる環境が整っています。実験室・実習が20以上ありますし、天文台や電子顕微鏡、3Dプリンターなど、大学の研究室にはあっても高校にはないような設備も本校にはそろっています。また、部活動も天文部、理科調査研究部、ロボット探究部など科学系のものが充実しています。本校で学ぶことで、科学に対する興味を高め、サイエンスの力で社会に貢献する力がつくと思います。コロナ禍で学習形態が変わることもありますが、高校生の実験は少人数でやっているのでコロナの影響はあまり受けなかったです。

 ――横浜サイエンスフロンティア高校は附属中学校もありますが、部活は中高一緒にやっているのですか?

永瀬校長:基本的には高校の部活と同じ内容を中学でもということで、中高一緒にやっている部が多いです。

 ――高1、高2のカリキュラムで「サイエンスリテラシー」という時間がありますが、これはどういった内容なのですか?

永瀬校長:「サイエンスリテラシー」は課題探究型の授業です。テーマを設定してそれについて自分で探究していくための時間ですが、特に1年生は研究の基礎を学ぶ時間です。サイエンスと一口に言っても幅広い分野に及びますので、それぞれの専門について大学の先生に来ていただき、単に講義を受けるだけでなくそこから自分たちでテーマを設定し研究し、アウトプットをしていきます。それが下地になって、2年生になったら11テーマを持って探究活動をしていきます。56人のグループに1名教員がついて、週に2時間研究をしていきます。道しるべになるものが何もないと研究の方向性が定まらないので、夏休みに中間報告を行うのですが、その際に大学の先生に来ていただいて指導、講評をお願いしています。

 ――大学の先生と関わる機会が多いのですね。

永瀬校長:高校の教員からも指導は受けられるのですが、より高い専門性を持った先生方にアドバイスしていただけることで、自分で気づかなかったことに生徒たちは気づけます。さらに研究を継続していって、10月頃に研修旅行を行います。今はコロナで出来ていませんが以前はマレーシアの連携校へ行って、そこで英語で自分たちの研究発表を行いました。今は日本に留学に来ている留学生の前で発表を行っています。そこでのアドバイスを踏まえて最終的に1月に自分たちの研究発表を行い、最優秀賞を決めていきます。

 ――かなり濃厚な、大学の研究室並みの探究が行えるわけですね。小学校の調べ学習や自由研究と高校での探究はどのように違うのでしょうか?

永瀬校長:調べ学習と大きく違うのは「自分の頭で考えること」です。例えば道端の雑草を見て「この植物はどうしてこんな形をしているのだろう」と疑問を持つことから自分で考えるということが始まります。実験装置があることも小学校との違いですね。例えば電子顕微鏡を使って細かく観察することもできるし、模型を作って考えることもできるし…ただ調べて終わるのではなく、考えて疑問に思ったことを実際に実験装置で検証できることが、小学校の学びとの違いだと思います。

 ――これまでの横浜サイエンスフロンティア高校の生徒の研究テーマではどのようなものがありましたか?

永瀬校長:いろいろありますが、先日行われたSSH(スーパーサイエンススクール)の生徒研究発表会で文部科学大臣賞を取った生徒は、ネジバナという雑草の形態を研究テーマにしています。それぞれのネジバナの花のつきかたが違うことをたまたま見つけて、その理由に迫る研究を行いました。

 参考:風を味方に昆虫を誘う!?〜ネジバナはなぜ花で螺旋を描くのか~
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2022/r4sshssf.htm

科学に関心を持ち、自分の頭で考える習慣を

――やはりこうした特色のある学校ですので、横浜サイエンスフロンティア高校に入学する生徒は初めから「こういうことをやりたい」と決めて入学する生徒が多いのでしょうか。

永瀬校長:元々やりたいことが決まっている人は少数派だと思います。ただただ科学が好きだということで入る生徒もいるので、高2で研究テーマを決めるときに悩むようです。ただ、先輩たちの研究成果が図書室にファイルされているので、それを見ながら参考にして自分の研究テーマを見つけていく生徒も多いです。

 ――横浜サイエンスフロンティア高校に入学するためには、小中学生のうちにどのような準備をしていくと良いでしょうか。

永瀬校長:やはり学校の勉強を第一にしてほしいです。学校の勉強を通じて基礎的な学力をしっかり身につけてもらわないと、研究は成り立たないと思います。また、科学に対する意識を高めてほしいです。科学と一口に言っても植物からAIまで色々ありますが、ニュースにも関心を持つなど、アンテナを広く張ってほしいですね。

 ――研究活動のための下地づくりが学校の勉強と科学への関心という姿勢になりますね。

永瀬校長:それだけではありません。入学後に行き詰まってしまうことも考えられますが、そういう生徒に共通しているのは自分の頭で考えることをしていない、ということです。ですから、自分の頭で考える習慣を小中学生のうちからつけてほしいです。人から言われたことをただ受け取っているだけだと考えることがなくなりますので、自分から疑問を持って考えることは大事ですね。それから特に小学生の皆さんには、受験のためというより、入学してその先のために、色んな人とコミュニケーションを取れるようになってほしいです。実際に研究の現場に出ると一人で研究を行うということはほとんどなく、たいていはチームを組んで他者と一緒に研究していきます。そこでコミュニケーションが取れることは大事で、ある程度慣れることが必要です。

 ――研究の場で必要なコミュニケーションの力は小中学生のうちにどのようにしたら磨いていけるのでしょうか。

永瀬校長:自分から集団に入っていくことですね。部活動や地域の運動のクラブチームでも良いですし、科学に関する催しに参加するのも良いと思います。本校でも生徒が講師になって小中学生向けにサイエンス教室を行っていますが(https://www.edu.city.yokohama.lg.jp/school/hs/sfh/index.cfm/36,html)、自ら外に出ていろんな人と関わっていくことは必要だと思います。

 ――研究発表は英語で行うということを考えると、語学力も大切ですね。

永瀬校長:もっとも、最初から語学力がなければいけないわけではないと思います。本校には英語が苦手な生徒もいますが、入学後に話す力をつけていきます。きっかけになるのは、「英語を使ってしゃべる内容がある」ということだと思います。それぞれが研究していて、その成果を話すことはモチベーションになるので、英語を勉強したいと思う動機づけになります。

 ――先ほどの「科学に対する意識を高めてほしい」というお話をもう少し詳しく教えてください。子どもたちが「意識を高める」ために、どんなことをしていくと良いでしょうか。

永瀬校長:ニュースを見たり新聞を読んだりして、メディアが発信する情報を積極的に理解しようと努力することは必要です。すそ野を広げるということだけではなく、「好きを伸ばす」ということでも良いです。プログラミングが好きな子はプログラミングだけをひたすらやるということでも良いと思います。

――これは保護者の方の目線になりますが「科学に興味を持ってくれない」「うちの子は理科嫌いだけどどうしたら良いか」と相談をいただくこともあります。

永瀬校長:先ほどの話と重複してしまいますが、本校に限らず「サイエンス教室」を見つけて、お子さんを誘って連れ出してあげることが良いのではないでしょうか。また、保護者の方がある分野に詳しいとそこでお子さんも興味を持つことがよくありますね。本校は「ほんもの体験」を掲げてノーベル賞を受賞した先生や日本を代表する科学者の方の講演会を行っています。「ほんもの」に触れることは本当に大きいです。高1の生徒に向けて、光触媒で知られる藤嶋昭先生に毎年講演をお願いしていますが、身近なところに研究成果が発揮されていることを知り、藤嶋先生や光触媒のことを知らなかった生徒も科学者の仕事の意義を実感しているようです。

 ――そういったお話を伺えることで、生徒は科学をより身近に感じることができますね。

永瀬校長:そうですね。本校では「研究の成果がどうやって社会実装されているか」ということも理解してもらえるよう努めています。ミドリムシを活用した事業開発で有名な(株)ユーグレナの研究所の方に毎年来ていただき、講演していただくのですが、自分の興味本位で研究を始めたとしても、その先に社会とつながっていくんだということも実感してもらえたらと思います。

「失敗ばかり」の環境で、へこたれず続ける力が身に付く

――横浜サイエンスフロンティアで学んだ生徒の特長はどのようなところにあると考えますか?

永瀬校長:いわゆる普通の高校から大学に進学して研究を始めた生徒は、大学に入って初めて失敗を経験し、落ち込んでしまうことも多いと聞きます。本来、研究ってうまくいかないことの方が圧倒的に多いですよね。本校の生徒は高校生のときに研究をして失敗も経験しているので、大学に入ってうまくいかないことが重なっても、へこたれないで研究を続ける力がついていると思います。

 ――なるほど。失敗体験を既にしているということが強みになるのですね。

永瀬校長:もちろん失敗して落ち込む生徒がいないわけではないですが、失敗するのは当たり前なんだということが周りを見ても感じられる環境があるのは大きいです。

 ――「失敗するのが当たり前という環境」ということですが、その中での生徒同士の関係性というか、空気感はどうなのでしょうか。

永瀬校長:様々な分野に興味を持つ生徒が集まりますので、中学の時には「そんなことに興味があるの?」と驚かれていたのが、うちに入ってくるとそれが当たり前になるので、そういうところで仲間意識というか連帯感、コミュニケーションの良好さが生まれてきます。生徒同士でも特定のことに興味がある生徒を認め、お互いに肯定し合う空気が自然と生まれてきています。

 ――いわゆる普通の学校だと個性的だと思われる生徒も、横浜サイエンスフロンティアに来れば活き活きできるということですね。

永瀬校長:グラウンドの脇にビオトープがあるのですが、そこで虫や植物を観察することが好きな生徒がいます。中学時代は自分と同じような興味関心をもつ生徒がいなかったのが、本校に来たら一緒に観察する仲間ができたと話してくれました。特定の分野に興味がある生徒が過ごしやすい環境なのだなと思います。

小学6年生のあなたへ メッセージ

本校は科学好きの人が興味関心を高められる環境があり、何かにチャレンジしたいと思って来る生徒が多い学校です。教育方針の中で「先端科学の知識・知恵を活用して、世界で幅広く活躍する人間の育成」を掲げていますが、組織にはリーダーだけでなくそれを支える人たちもいます。自己主張ばかりが強くても組織は成り立たないので、自己主張に加えて調和できるコミュニケーション力を併せ持った生徒に本校の門を叩いてほしいです。

この記事の著者

鈴木亮介(すずき・りょうすけ)
2013年よりZ会進学教室にて中学生の国語、小6公立一貫校受検コースの文系を担当。立川教室や池袋教室を中心に数多くの6年生の作文指導に携わり、南多摩中、立川国際中、大泉中などの合格者を輩出。2016年よりZ会に入社し、同年より調布教室の教室長を務めるほか、国語科の一員として校正業務、冬期講習単科ゼミ「西の作文」の講座設計・教材作成も担当。肥薩線の三段スイッチバックのごとく「地味にすごい」をモットーに教壇に立つ。

 

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