学校での勉強や友だちとの遊びに加えて、数々の習いごとに通う小学生。毎日が忙しすぎて、「習いごとに行くこと」だけで精一杯になってしまったり、どれも中途半端に終わってしまったりしていませんか? 今回は、今がんばっている習いごとをやりこなし、充実させるコツについて、2017年に『習い事狂騒曲』(ポプラ新書)を上梓された育児・教育ジャーナリストのおおたとしまささんにうかがいました。
(取材・文 浅田夕香)
※本記事は、2019年5月23日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。
目次
子どもの習いごとの適正量の見極め方は?
―― 小学生にとって適切な習いごとの数はいくつくらいなのでしょうか?
教育学の専門家への取材や、僕自身の経験から考えると、低学年であれば週2〜3回が限度かなと思います。習いごとの数ではなく1週間に通う回数で考えた方がよいでしょう。
高学年の場合、子ども自身が自分である程度判断できるようになっているのであれば、本人の意思を尊重することがいちばんです。発達心理学では、11歳ごろから抽象的な思考を深められるようになり、子どもなりに見通しを立てて考えることができるようになると言われています。したがって、放課後の使い方として、「そろばんをがんばりたいから毎日教室に通いたい」などと本人の意思で選択するなら、通う回数を増やしていくのは「あり」だと思います。
ただ、実際のところ、週にどれだけ活動できるかは、その子がもつエネルギーによって異なります。「週1回でも大変」という子がいれば、「毎日でも平気」という子もいるでしょう。したがって、「週何回が適切」と一概には言えないのが正直なところですね。
―― では、「その子にとって適正量かどうか」を見極めるポイントはありますか?
4つあると考えています。
1つ目は、自分の時間をデザインする機会を確保できているかどうか。お子さんが、「今日の放課後は、だれと、どこで、何をして遊ぼうか?」と自由に考えたり、「自分が楽しい/幸せと感じるのは、何をしているときか」を感じたりする機会をもてているか、ということです。これは、大げさにいえば、自分の人生を自由にデザインする練習の機会でもあります。
この機会が奪われて、毎日、時計の針に合わせてどこで何をするのか決められている生活では、受け身の姿勢が身についてしまう危険性があります。自分の意思で自分の人生を生きる練習ができていないと、将来、困ってしまいますよね。
2つ目は、ぼーっとする時間を確保できているかどうか。この間に、子どもは、自分を見つめ、成長します。
3つ目は、家族が一緒に過ごす時間を確保できているかどうか。家族との会話の時間も、子どもの心に安定をもたらす重要なものですから。
4つ目は、落ち着いて、地に足をつけて過ごせているかどうか。いつもに比べて暴力的だったり、攻撃的になっていたり、落ち着きなくずっとしゃべっていたりなど、何か違った様子が見えれば、負荷がかかりすぎている可能性があります。「疲れたー」なんて口にしていればなおさらです。
習いごとによって、上で述べたような大切な時間が奪われていたり、お子さんの落ち着きがいつもと異なっていたりするようであれば、多すぎると考えてよいでしょう。
子どものやる気を引き出し、持続させるには?
―― 習いごとをしていると、やる気が持続しないことがあると思います。そのようなとき、保護者としてどのような対応ができるでしょうか?
まず大前提として、モチベーションが下がる時期があるのは当然のことで、それを大人がコントロールしようとするのは無理な話だということは理解してほしいと思います。大人でさえ、物ごとに対するモチベーションが下がることはありますから、いくら自分の子とはいえ、そんなにうまくコントロールできるわけありません。
その前提に立った上での対処として、まずは、やる気が出ない原因を見極めるところからです。原因は、2つ考えられます。
まず、「スランプから逃げたい」「さぼりたい」など、本人の弱さが出てきていること。そして、「興味を失ってしまった」「練習がつらい」など、切実な訴えがあること。
前者の場合、対処法は3つあります。1つ目は、「それでも見守る」です。「モチベーションが下がる時期もあるよね」ということで、見守る。
2つ目は、「何かしらモチベーションが上がるような目標を一緒に設定する」。たとえば、「いつまでに△級を目指す」「次の試合でヒットを前回よりも多い◎本打てるようにがんばってみる」などです。3つ目は、「今がんばっている部分やできている部分をほめてあげる」。「この前、疲れていてもがんばって行けたから、そろばんでいい点数とれたよね」「練習でちゃんと最後まで走ってたね」「あのプレーはよかったよ」など、できたことをほめてあげると、本人のやる気が回復するかもしれません。
―― 後者の、切実な訴えの場合はどうすればいいでしょうか?
まずは本人の気持ちを聞いて、受け止めてあげることが大事です。たとえば、「最近、習いごとに行くとき元気がないけど、何かあった?」と聞いてみる。そこで「行きたくない」という言葉が帰ってきても「行きなさい」といきなり返すのではなく、「あんなにがんばってたのにどうしたの?」などと、本人の気持ちを聞いてあげてください。すると、「実はこういうことがあって……」と気持ちを打ち明けてくれる場合があります。
そうして保護者の方が子どもの気持ちを頭ごなしに否定せず、受け止めれば、「やっぱり行く」となる可能性もあります。人間はだれしも、自分の気持ちをだれかが理解してくれていると安心できたときにがんばれるもの。子どもも同じで、自分の気持ちを保護者が「本当に理解してくれた」「受け取ってくれた」と安心感を覚えると、「じゃあがんばってみよう」という気持ちになるんですよね。
夢中になることが、習いごとを充実させるコツ
―― 今取り組んでいる習いごとについて、技術を習得するだけでなく、何か別の素養を身につける機会にしたり、日常生活に役立てたりするためのコツはありますか?
それは欲張りな話ですね。大人が「仕事をしながら体力も鍛えよう」「飲み会を楽しみながら人脈も広げよう」と言っているようなものですから。
たとえば、チームスポーツをやっていれば、チームワークやコミュニケーション能力、役割分担の意識などが培われますが、それは、とにかく夢中になって、没頭して取り組んだ結果として身につくもの。意識しながら取り組むことではありません。意識した時点で習いごとがつまらなくなると思いますよ。
―― では、保護者の方が、「これ以上習いごとは増やせないけど、今の習いごとをとおしてもう少し別の力もつけさせたい。何か保護者の声かけで子どもの意識が変わったりするかな」などとあれこれ考えるのではなく、お子さま本人が気に入って続けているなら、見守ることが大事でしょうか?
そうです。その習いごとを深く愛して、没頭して取り組めば、技術だけでなく付随する力もついてきます。
そもそも、習いごとの目的の一つは、夢中になることです。夢中になると上達して、何かを達成しますよね。達成すると楽しいからどんどん練習して、技術の向上も見られる。でも、どこかで必ず壁にぶち当たり、そこで初めて「やめたいな」とか「さぼりたいな」などのネガティブな気持ちに気づく。それを乗り越え、克服することで「物ごとをやり切る力」が身についていくんです。僕はこれを、「夢中→達成→挫折→克服の4つのサイクル」と呼んでいます。
この4つのサイクルを回せていれば、技術を習得するだけでなく、使う道具も大切にするようになるだろうし、時間も守るようになるだろうし、約束も守るようになるだろうし、目標を達成できないことに対する悔しさも学ぶでしょう。なので、習いごとの内容はなんでもいいし、取り組む際もひたすら没頭して、余計なことは考えないほうがいいですね。
―― 保護者としては、習いごとを通じて何かしらの能力を引き出したい、開花させたいという思いが強いように思います。
習いごとによって身につくスキルに気を取られてはいけません。たとえば、平泳ぎができるようになったとして、平泳ぎができること自体はそれだけのスキルですが、平泳ぎができるようになるまでのプロセス、たとえば、上手に泳いでいる子を観察してまねをしたり、先生に言われたとおりにやってみたり、自分なりに試行錯誤して少しでもうまくなろうとしたプロセスは、かけっこにも、縄跳びにも、勉強にも、仕事にも応用できます。
このプロセスを経験すること自体が習いごとから得られる最大のものであり、これによって非認知能力が鍛えられます。非認知能力とは、物ごとをやり抜く力や勝ちたいと思うハングリー精神、コミュニケーション能力、思考力や表現力、協調性など、学力テストでは測れない能力全般のことで、種目が変わっても応用が効く基礎体力みたいなもの。習いごとをとおしてこの非認知能力を鍛えておけば、将来、いろいろなことに挑戦してやり切ることができる素地が作られます。
保護者の方のよくあるお悩みQ&A
ここからは、習いごとに関して保護者の方が感じることの多い質問に答えていただきました。
習いごとから得られる財産は、技術だけではない
―― ありがとうございました。最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。
先ほども申し上げましたが、習いごとをとおして何かを好きになって夢中になる経験こそが、技術が身につくこと以上に財産となるものです。培われるのは、非認知能力だけではありません。他人や世の中を思うこともできるようになると思います。
というのは、好きになって、夢中に取り組んでいると、だからこそ傷つく瞬間や嫌になる瞬間があったりもします。たとえば、「一生懸命練習しているのに、レギュラーを外された」など。そうした、無意識に自分の心の奥底にもっていた本音や汚い気持ちに対峙する。その経験を積み重ねていけば、自分で自分を欺くことはできないことがわかるし、自分以外の人にも心があって、それを無下にしたり、傷つけたりできないことがわかってきます。そうすると、将来、家族や友人を大事に思うことができる、また、世の中のことを思って仕事ができる人にもなれると思います。
あれもこれもと広く浅く取り組むのではなく、本当にやりたいことに絞って、夢中になる。習いごとをとおして、ぜひこの経験をしてほしいと思います。
おおたとしまさ
育児・教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学外国語学部英米語学科中退、上智大学外国語学部英語学科卒業。株式会社リクルートで雑誌編集に携わったのち、2005年に独立。育児・教育誌などの監修・編集・執筆を務め、現在は、育児や教育、夫婦のパートナーシップなどに関する書籍やコラム執筆、講演活動を行っている。著書に『習い事狂騒曲』(ポプラ新書)、『中学受験「必笑法」』(中公新書ラクレ)など。