気持ちを言葉にするための、親子の会話トレーニング

「〇〇が欲しい」「〇〇で悔しい」「〇〇がイヤだ」など、自分の感情を相手に伝えたいとき、お子さまはどんな言い方をしていますか? 気持ちを言葉で伝えることは、大人でも難しいもの。今回の特集では、一般社団法人教育コミュニケーション協会代表理事の木暮太一さんに、「自分の気持ち・考えを言葉にする」ための、ご家庭でできるトレーニング法を教えていただきました。

※本記事は、2020年2月27日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

 

「気持ちを言葉にできた」経験が、自信につながる

――「気持ち・考えを言葉にできる」と、子どもにとってどんなよいことがあるのか教えてください。

すべてのことに役に立ちますよ。たとえば、「友だちといい関係を築ける」ようになります。もちろん、友だちどうしに限らず、人間関係全般に役立ちます。感情を言葉にできないと、言いたいことを我慢しちゃったり、その我慢がつのって爆発しちゃったり、最終的に手が出ちゃったりする。「言いたいことを溜め込んでしまう」のが問題なので、溜め込む前に「自分はこう思っているんだけど、君はどう思う?」とか、そういう会話ができるとよいですね。感情を言葉にして表すことで、発散できるんです。言葉でちゃんとわかりあえれば、悲しみや怒りの感情も小さくなるでしょう。

ほかには、「自分が欲しいものを欲しいと言える」ようになります。実は、ほとんどの人は、自分がなにが欲しいか、どうしてほしいのかということを、言葉にできていないんです。自分の願望を言葉にできないと、ほかの人には伝わらないですよね。第三者から見ると欲しがっていないように見えてもしょうがない。そうするとなかなかその願望もかないません。

――子どものうちだけでなく、大人になってからも大切なことですね。

そうなんです。しかも、「自分の気持ち・考えを言葉で伝えられた」という経験、そして「伝えた相手がそれを受け入れてくれた」という経験を積むことで、自分の考えに自信をもてるようになります。よく自分は「根拠のない自信」という言い方をするのですが、自信って本来根拠がないものなんですよね。ぼくに言わせれば、「こういう根拠があるからうまくいく」という場面は、自信があるんじゃなくて、その根拠を信じているだけなんです。そして、その「根拠」がない場面なんて人生にはいくらでもあって、それでも行動しなければいけない。そういうときにあと押ししてくれるのが自信なんですよね。自分の考えを言葉で伝える経験を積んだ子は、自分の考えに自信をもてるようになって、行動に移すことができるようになるんです。

 

「気持ちを言葉にする」ためには、トレーニングが必要

 ――言葉にする大切さはよくわかりました。一方で、なかなか言葉にできない子もいます。

「言葉にできる」ようになるには、トレーニングが必要です。一種の筋肉を鍛えているようなもので、トレーニングをすればどんどん上達するし、さぼっているとどんどん衰えていってしまう。いきなり「言葉にする」ということをしようとすると、すごく緊張して、どきどきして、結果的に言いたいことの半分しかいえず、伝えたかったことが伝わらない。だから、日ごろから鍛えておくことが大切です。

そもそも、「言葉にできない」には、ふたつの状態があるんです。ひとつ目は、自分の気持ち・考えをどうとらえて、どう表現したらよいのかわからないという状態。「(1)とらえどころのない気持ち・考えを言葉にする」ためのトレーニングが必要です。ふたつ目は、気持ち・考えを相手に伝わるように話せないので、十分に伝わりきらない状態。「(2)気持ち・考えを、効果的に相手に伝える」ためのトレーニングが必要です。

たとえば、「どうしてケンカしちゃったの?」と聞いたとき、(1)ができていないと、泣いたり黙りこんだりしてしまって、何も言えない。(2)ができていないと、「むかついたから」と単語を発することはできるけど、きちんと状況が伝わったとはいえないですよね。(1)と(2)がどちらもできると、「○○くんが『その洋服ださい』って言ったのが、悲しくて悔しかったから、『うるさい!』ってどなってたたいちゃったの。」と、相手に伝わるように言えるようになるわけです。「何が」「どうした」「なぜ」の3つが基本になるので、これらを相手に伝えられるようにトレーニングしていきましょう。

低学年のうちは、(1)ができれば十分です。(2)は、大人が「それで?」「どう思ったの?」などと手を貸してあげてください。高学年になったら、だんだんと(2)も自分の力でできるようになるとすばらしいですね。

 

「(1)とらえどころのない気持ち・考えを言葉にする」ためのトレーニング

――「言葉にできる」ようになるには、トレーニングが必要とのことでしたが、どんなことから始めるのがよいでしょうか。

「(1)とらえどころのない気持ち・考えを言葉にする」トレーニングにぴったりの問いかけがあるんです。それは、「何を教えたい?」です。これは、いつでも使えます。「今日の学校はどうだった?」「どうしてケンカしちゃったの?」と聞かれても、ぱっと答えられなかったり、「わかんない」と言ってしまったりするのは、頭のなかにいろんな言いたいことがあって、どれに焦点を当てていいのか、どれを言ったらいいのかがわからないからなんですね。そこで、「自分が教えたいこと」に焦点をあててあげるのがこの問いかけ。「言葉にする」ためには、「言葉にしたい」という気持ちがとても大切なんです。

よく、「うちの子は何も考えていなくて……」なんておっしゃる方もいらっしゃるのですが、そんなことはありません。頭のなかでいろいろなことを考えていても、どこに焦点を当てて話せばいいかわからない。だから、「わかんない」とか「なんでもいいよ」と言ってしまうんです。「お母さんに教えてあげたいと思うことは何?」と聞くようにすると、話したいことがどんどんと出てきますよ。子どもって、「教えてあげる」ことが大好きなんです。積極的な子も、引っ込み思案な子も、これまで接してきたほとんどの子が、「何を教えたい?」と聞くと、ドヤ顔で話してくれました。

子どもの言葉を引き出すときに大切なのが、「テンションを上げること」と「まずは受け止めること」です。テンションが上がると「言葉にしたい」ことがどんどん出てくるので、保護者の方は「それでそれで!?」と前のめりで聞いてあげてください。また、言ったことに「そういうことじゃなくて」のように否定してしまうと、そこでその子の言葉は止まってしまいます。子どもが「教えたいこと」に正解があるはずはないんです。まずは、子どもが「教えたい」と思ったことを受け止めて、「それで?」「もっと教えて!」と、さらに言葉を引き出してあげてください。最初にもお話ししたとおり、言葉にして、それを受け止めてもらった、という経験を積むことが、その子の自信につながるんです。

 

ふだんの会話がトレーニングになる!

 

感情のゆれがなくなると、自分の好きなことがわからなくなる

――このようなトレーニングは、自分の気持ちと向き合うきっかけになりそうですね。

「自分の感情を正直に認める」ことが大切なんです。顔を引きつらせて、好きでもないものを「好きだ」と言っている大人をよく目にしますが、ぼくに言わせるとこれは最悪ですね。ごまかして嫌いなものを好きだと言っていると、自分が本当に好きなものが何かわからなくなってしまう。すると、感情がゆれなくなって平坦になってしまうんです。せっかく旅行に行っても、おすすめルートをなぞるだけで、自分が行きたいところを「選択」することができなかったり。自分の感情を認められると、自分の価値観に優先順位をつけて、「選択」することができるようになります。楽しみも増えるし、人生が豊かになるはずですよ。

 

「(2)気持ち・考えを、効果的に相手に伝える」ためのトレーニング

――気持ち・考えを言葉にできるようになると、自分の感情に敏感になれそうですね。

そうですね。そこで認識した自分の感情のゆれを相手に伝えるためには、「(2)気持ち・考えを、効果的に相手に伝える」ためのトレーニングが有効です。どのくらいの強い気持ちでそう思ったのか、そう思った根拠はなんだったのかを伝えられるようになるといいですね。

たとえば、気持ちを表すときには、「楽しかった」「おいしかった」などの形容詞を使いますよね。こうした形容詞を使うと、その程度は「very」をたくさんつけることでしか表現できないんです。でも、それだけだと、自分の気持ちを表す言葉のバリエーションが少なすぎますよね。そこで、次のようなトレーニングに挑戦してみましょう。

――ふだんからこのような会話をとおして、気持ち・考えを言葉にするトレーニングをしておくことが大切なんですね。

はい。最初にこのような会話で、フォーマットというか、表現のしかたを示してあげると、だんだんと子どもひとりでもできるようになります。

また、このような表現は、作文にも応用できますよ。たとえば、作文を書くことが事前にわかっているときには、その作文のテーマについてコミュニケーションをとっておいて、作文の材料となるような要素を引き出しておくのもよいでしょう。

 

「言葉にする力」は、人生に役立つベーススキル

――気持ち・考えを言葉にするトレーニングを積んでおくことは、さまざまな場面で役に立ちそうですね。

今って、いろんなことがめまぐるしく変わっていく時代で、あるときに「正解」だったことが、次の瞬間には正解ではなくなっていますよね。英語が話せるだけではいけないし、学歴があるだけではいけない。その先の時代で新しいことを考え続けて、自分の意見に自信をもてなければいけないんです。そんななかで、自分の気持ち・考えを、自分でとらえて言葉にして、相手に伝える、ということは、どんな時代になっても必要だと思うんです。

ぼくは数学が得意なんですけど、今の仕事で「数学の問題を解く」スキルは使っていません。一方で、数学の勉強をしているときに身についた「勉強し続ける」というスキルは、今でも役に立っています。前者を特殊スキル、後者をベーススキルと考えたときに、何かに夢中になったり楽しんだりしながら特殊スキルを身につけると、別のベーススキルも一緒に身につくものなんです。けん玉を毎日練習していたら、体幹が鍛えられて集中力が上がった、みたいに。今回お話しした「言葉にする力」は、ベーススキルのひとつです。家族と会話で盛り上がったり、友だちと意見を交わしたり、作文で自分の語りたいテーマについてとことん語ったり、そういうことを楽しんでいるうちに、どんどん力がついていきます。「うまく伝わった!」と思えると、それだけでうれしいし、そういう経験を積むことが自信になります。小学生のうちは、自信をつけてあげることが何よりも大切なんです。自分の考え・気持ちを言ってもいいんだ、という安心感を身につけられるようにする。そのことを意識して会話を工夫してみてください。

 

木暮 太一(こぐれ・たいち)


一般社団法人教育コミュニケーション協会代表理事。「難しいことをわかりやすくする方法」を中学2年生から研究しており、『「自分の気持ちを言葉にする」練習帳』(永岡書店)、『伝え方の教科書』(WAVE出版)など、著書多数。伝えたいことを言葉にすること、自分がもっている価値を言葉にすることの専門家。日本各地で小・中学生に作文の書き方を教えるボランティア授業も行っている。

 

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