子どもの失敗とどう向き合う?

忘れ物やなくし物などのちょっとした失敗から、友だちとのトラブル、発表会や試験など大事な場面での失敗まで、子どもは実にさまざまな失敗をします。保護者の方からすれば「こうすればいいのに」と言いたくなることもあるでしょう。そこで、『失敗する子は伸びる』『ほめない子育てで子どもは伸びる』(小学館)の著者で、コミュニケーションや能力開発のコーチングに取り組む岸英光さんに、子どもの失敗をどうとらえたらよいかについてうかがいました。

※本記事は、2022年5月26日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

 

失敗することで、子どもは成長する

――失敗は、子どもにとっては成長につながり、財産になるものだと言われています。なぜ子どもには失敗経験が重要なのでしょうか?

おっしゃるとおり、失敗は成長につながるので、たくさん経験しておきたいものです。

失敗経験によって得られるものとしては、まず、「こうしたらこうなる」という知見が挙げられます。水の入ったコップを倒してしまうと、テーブルや服がぬれてしまうことがありますよね。すると、次からはそうならないようにしたり、同じことが起こったときに台ふきでぬれたテーブルを拭いたり、服がぬれたら着替えたりなど、すぐに対処できるようになります。

また、「こうしたらこうなる」の先を想像する力も鍛えられます。たとえば、友だちがやっているゲームの遊び方を教えてあげるつもりで、ゲーム機を横からつかんで取り上げようとしたら、友だちが「取られた!」と言って腹を立ててしまい、大人からも叱られた、ということがあったとします。

すると本人は、「何も言わずに取り上げると相手は『取られた』と思うんだ」「教えたいと思って行動しても、ケンカになったら先生から叱られるんだ」といったことを実感するでしょう。それは、「自分がいいと思ってやったことでも、きちんと伝えないと相手を怒らせることがある」「自分が思うとおりに相手も思うとは限らない」という学びにもなります。その学びが、相手の気持ちを読んだり、自分の行動がどんなことを起こす可能性があるかを想像したりする力になるのです。

とくに、「自分が思うとおりに相手も思うとは限らない」ということを理解し、相手の表情を読んだり、周囲の空気を感じたりといった複雑な情報を感じる力は、10歳ごろには完成すると言われています。したがって、10歳までに、コミュニケーションの失敗も重ねながらたくさんの人の気持ちに触れる経験を積めるとよいと思います。

――ほかにも、失敗経験を積むことで培われる力はありますか?

自分の行動の結果を自分で引き受けるという責任感もつきます。日本では「責任」というと、「やらねばならぬ」という義務感と混同されていたり、「失敗したら責められる/叱られる」「矢面に立つのが責任」といったイメージがもたれたりしていますが、責任は英語だと「responsibility」と表現され、respond(=答える)と同じ語源になっていることからわかるように、本来は、「現実に対して対応できる」ということなんです。成功したらそれを縦横に展開する、また、失敗したら次にどうすればいいか考えて別の形で展開しようとするのが責任感です。

失敗の経験は、自分の行動の結果を自分で引き受け、別の形で対応できるという責任感を培います。

 

子どもの失敗は、どう受け止めればいい?

――とはいえ、失敗を良しとしない保護者の方も多いように思います。大人は、子どもの失敗をどのように受け止めるとよいのでしょうか?

失敗を良くないこととする意識自体を、変えていく必要がありますね。

成功も失敗も、どちらも体験です。体験に悪い評価を下すと失敗のように見えて、良い評価を下すと成功のように見えるだけ。評価する人の意図にかなっていれば成功で、かなっていなければ失敗なだけなんです。つまり、第三者がその人の価値観で「良い=成功」「悪い=失敗」と区別し、評価するから「失敗はしないほうがいい」という判断が生まれるんです。

テストの点数もそうです。たとえば、100点満点のテストで70点をとったとする。ニュートラルな見方をすると、70点という点数は、「得点できた問題が70点分あって、得点できなかった問題が30点分ある」という事実を示しているだけです。

そして、得点できた要因を振り返ることで、30点分を補う方法が見えてきます。70点は、何をしたからとれたのか、残りの30点はどうしたらとれるのかを考えるんです。「(70点という点数が)良かった/悪かった」という評価を下す会話からは何も生まれません。

――となると、保護者は、子どもの失敗に直面した際には具体的にどう向き合えばよいのでしょうか?

ポイントは2つあります。

まずは、起こったことは何か?という現実に目を向けることです。「失敗だった」「成功だった」「良かった」「悪かった」などの評価はしないこと。

そして次に、子どもの感情を一緒に味わってあげてください。子ども自身が失敗したと感じて、たとえば「悔しい」という気持ちを表したなら、保護者の方は、それを一緒に味わうのです。そして、おもてに見えた感情の下にあるさまざまな感情を少しだけ掘り下げてみてください。「ほかに思うこと/感じている気持ちはある?」と。

子どものおもてに見える感情の下には、たとえば、「残念だ」「恥ずかしい」など、もっとたくさんの感情があります。それらの感情もできるだけ味わってみて、本人が言葉にして吐き出せたら、保護者はそれを受け止めるようにするといいでしょう。

このような経験を積んでいくと、自分の感情の扱い方がわかるようになり、ネガティブな感情をもったときもすっと味わい、通り抜けて次の行動に移れるようになります。あるいは、嫌なことも、やりたくないことも、その気持ちをもったままできるようになります。朝起きるのは嫌だけど学校に行くから起きる、やる気がでないけれど授業を受ける、というようにです。

――その場合、味わったつもりだけど味わえてなかった、といったことも起こりうるのではないかと思います。適切に味わうにはどうすればよいでしょうか?

まずは、保護者の方が、自分の中にあるさまざまな気持ちを味わいながら表現し、感情の種類を伝えていけるとよいでしょう。というのは、子どもはまだ、自分の気持ちの探り方を知らないので、大人が自身の中に生まれる複雑な気持ちをたくさん言葉にして表現してあげると、子どもは「なるほどそういう気持ちもあるんだ」と自分の中を探ることができます。

たとえば、子どもが危ないことをしているとき、「ダメだよ、危ないでしょう!」と怒りをぶつけるのではなく、「心配してすごくドキドキした」「ケガして入院したり、死んじゃって会えなくなったりしたら悲しい」「友だちをケガさせてあとでつらい思いをするんじゃないかと思った」「だから叱ったけど、叱りたくて叱ったわけじゃないんだよ」などと、すべての気持ちを説明するのです。

また、たとえば、子どもが他者と競った結果負けてしまって「悲しい」と気持ちを言葉にしたとき、次のように子どもが気持ちを言葉にできるようガイドするのもよいでしょう。

保護者:負けちゃったね。
子ども:うん…。
保護者:「悲しい」のほかにも何かあるかな?
子ども:がんばったのに勝てなくて、残念。
保護者:ほかにもある?「悔しい」とか?
子ども:ある!

こうして本人が自分の感情に気づき、言葉にする経験を積んでいくと、感情を味わい、通り抜けられるようになります。

 

「できるだけ失敗を回避してあげたい」という気持ちとどう向き合うか

――保護者の方には、「自分の子どもにはなるべく失敗してほしくない」という気持ちがあるのも正直なところだと思います。だからといって、子どもが失敗を回避できるように先回りするといったことは、やめたほうがいいものでしょうか?

たとえば、命を落とす、大ケガをする、誰かを傷つけるといった、本人が引き受けきれない失敗は、回避させてあげなければいけません。しかし、本人が引き受けられて、まだ体験していない失敗はさせてあげるべきです。

というのも、人は、新しいことに挑戦しなければ成長しないからです。とくに、それまで難しくてできていなかったことをやろうとしたときに、大きく伸びていきます。たとえば、自転車に乗る練習は、転んでしまいそうになったときに一番バランス感覚が磨かれます。友だちとも、ケンカをすることで距離感の保ち方や、相手への踏み込み方を理解できる場合がありますよね?

だから、本人が引き受けられる範囲の失敗は一つの経験ととらえて、何が起こったか、何を感じたか、このあと何が起きそうかなどについて、本人が見えていないことも見せてあげながら、考えることを促しましょう。

――小学生にもなると、先回りするのではなく、見守るというフェーズに進まないといけないんですね。

そうです。「失敗してはいけない」と保護者が思っていると、子どもにもその価値観が植えつけられて、どんどん何もできなくなります。
「失敗していい」「できてもできなくてもいい」「できたならすばらしい」という余裕が、子どもを伸ばしていくと思います。

――ただ、時間的・精神的な余裕がない保護者の方も多い中、常に余裕をもって構えるのも難しいことのように思います。どのような心持ちでいるとよいものでしょうか?

大人も完璧ではないので、子どもが失敗したら、最初は「えー?」という顔をしてしまうでしょうね。そういうときは、子どもと一緒に現実を見て、気持ちを吐き出していきましょう。お子さんと一緒にやれば、互いにすっきりして、「さあ、次にいこう」となれるでしょう。
保護者の皆さんは、「良い保護者でなければいけない」と思い過ぎなくていいんです。子どもと共に育っていくのでいいんですよ。

【岸先生より】中学受験をするご家庭へのアドバイス

受験をされる子ども・保護者の方には、前提として、第一志望校に合格することだけがゴールではないという認識はもっていただきたいと思います。受からなくても、いくらでも別の未来があるんだ、という価値観がお子さんの中にはぐくまれるように、あらかじめ伝えておくことが大切です。

私は、目標をかかげるときは、自分を引っ張ってくれる高い目標と、身近な目標の2つを設定することをおすすめしています。あるいはその中間にあたる目標を立ててもいいでしょう。受験の場合でしたら、第一志望校はチャレンジ校としてA校、第二志望校として校風が気に入っているB校、滑り止めとしてC校。そして時系列でも、次のテストで〇点を取る、というようにいくつかの到達目標を立てるといいですね。 目標を二重、三重に持っていれば、大きな目標を達成したらよし、できなかったら失敗、でも最低ここはクリアできたからグッドだね、となります。少しずつ大きな目標に近づき、もっと上に行きたいという気持ちがあれば、子どもは伸び続けます。

受験は対策に数年を費やして臨むものですから、第一志望校に合格できなかったときは、本人のショックも大きいものとなるでしょう。その場合は、落ちたという現実に目を向けて、「悲しい」「悔しい」「もうこの気持ちを味わいたくない」など、思っていることを本人が言葉にできるようにして、保護者が受け止めるようにしましょう。そして、大きな目標(第一志望校合格)は達成できなかったけれど、ほかに達成できたことはたくさんあると伝えられるといいでしょう。受験の場合は、志望校に落ちた=失敗と思われがちですが、受験を通して、子どもはたくさんの経験をしてきたはずです。そういった経験が、子どもの成長につながるのです。

 

場面別 子どもの「失敗」に対する声のかけ方・応じ方

保護者から見て子どもが失敗したと思うとき、保護者はどのようなことに気をつけて子どもに声かけをするといいのでしょうか?場面別に岸さんにアドバイスをいただきました。

 

まずは、起こった現実に目を向け、どのような影響があったのかを考えられるような声かけをしましょう。「忘れ物をして何が起こった?(どんな影響があった?)」と。すると、「友だちに借りないといけなくなった」「メモできなくて困った」「みんなにいろいろ言われた」など、本人の前で起こった現実を話してくれると思います。保護者の方から見て、本人には見えていないことがあるようなら、「貸してくれた友だちは、自分が使いたいときに使えなくて不便だと思っていたかもしれないね」など、少しだけ言い添えてもいいかもしれません。

こうして、本人が見えている範囲のことを振り返るとともに、見えていないところも見せてあげた結果、「これはまずいな」「忘れ物をするのは嫌だな」などと本人が思えば、気をつけるようになるでしょう。他方で、本人が「直さなきゃ」「気をつけなきゃ」と思えるだけの現実が見えない場合、まだ直りません。成長するにつれて現実の中にだんだんと影響が見えてくるようになるとは思います。

 

何らかのミスや失敗など保護者が良くないと思うことを繰り返す場合も、1と対処法は同じで、「何が起こった(起こる)?」と影響を本人と一緒に見つめることから始める必要があります。

よく「なぜ遅刻したの?」「(テストで)なぜここをまちがえたの?」「次はどうすればいいと思う?」などと問い詰める人がいますが、「なぜ?」は、受け取る側の心理的には否定語です。というのは、幼いころから叱られるときや否定されるときに「なぜ?」と言われてきて、「なぜ?」=ダメ出しだと感じるようになってしまっているからです。結果、出てくるのは「眠かったから」「勉強をしようと思ったけど時間がなかった」などの言い訳で、意識は変わりません。「次はどうする?」という問いかけも、やらされ感があり自主的な行動にはつながりません。

「なぜ?」「どうする?」ではなく、「どんな影響があるか?」を考えることが、本人の意識を変えます。その結果、「時間は守った方がいいんだな」となれば時間どおりに行動するようになりますし、「勉強したらこんなよいことがある」となれば自然と勉強をするようになるでしょう。本人が気づくことと、大人が言語化して本人の気づきを助けることが大事です。

子どもが失敗して悔しさや悲しさ、つらさを味わうことは、その気持ちを乗り越えて前に進むために大切なことです。もし、テストや発表会など大事な場面で子どもが失敗してネガティブな言葉を発したら、保護者はその言葉を受け取るようにしましょう。そして、子ども自身を否定する声かけや評価はせず、「どこがうまくいかなかったの?」「どこかできたの?」と事実を見る声かけをしてください。このとき、「できたこと」にも注目し、「何をしたからうまくいったのか」を探るといいでしょう。本人が事実と向き合い、感情を味わうことができれば、「さあ、次!」と次の行動ができるようになります。保護者は子ども自身が解決策を見つけ、自分で立ち上がるようにサポートするという姿勢でいましょう。

――ありがとうございました。

 

岸 英光(きし・ひでみつ)


コミュニケーショントレーニングネットワーク®統括責任者・主席講師、岸事務所代表 エグゼクティブコーチ。大学卒業後、企業勤務と並行して最新の各種コミュニケーション・能力開発などのトレーニングに参加。自らコーチされることを通して日本人に即したプログラムをオリジナルで構築し、人間関係や能力開発に関する分野でセミナー・講演・研修・執筆活動を展開している。『ほめない子育てで子どもは伸びる』、『失敗する子は伸びる』(いずれも小学館)など著書多数。

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