「感じる心」を大切に!親子で理科や科学を楽しもう

小学3年生から学習が始まる理科。学習を通じて、身のまわりの自然科学についての知識だけでなく、物事を科学的に見る態度なども身につく教科です。子どもが理科を学ぶことを楽しみ、科学への関心をもち続けたり、科学的なものの見方を身につけたりするために、保護者はどのようなことを心がけたらよいのでしょうか。科学ジャーナリストの瀧澤美奈子さんにお話を伺いました。

※本記事は、2024年1月25日に「Z-SQUARE」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

 

科学のここがおもしろい!

———瀧澤さんは、科学のおもしろさはどんなところにあるとお考えですか?

科学のおもしろさには、大きく3つあると私は思っています。

1つめは、心の中に「不思議だな」や「なんだろう?」という「はてなマーク」が生じたときのワクワク感と、それについて考えたり調べたりしていくうちに「わかった!」「そういうことか!」と「びっくりマーク」に変わる瞬間のアハ体験。これらの感覚を得られることが、科学のおもしろさの1つだと思います。

未知の物事・現象を目にしたときに「なんだろう?」と感じ、それを知りたいと思う知的好奇心は、本来誰もが生まれながらにもっているものです。「?」が「!」に変わると、これまで知っていたことと、考える過程で得た知識を一緒にして世界を眺められるようになります。そうしてまわりを見渡すと、世界が今までとはまた違った見え方をして、改めて「世界はすごいな、美しいな」といった感覚が生まれるんです。これってとても楽しいことだと思います。

———瀧澤さんご自身も、そのような体験をされたことはありますか?

子どもの頃の体験で、大人になった今でも強く印象に残っているものもありますよ。

私が子どものころ、父が運転する小さな幌付きトラックの荷台の中に入れてもらったことがありました。そのとき、荷台の運転席側に、外の景色が逆さまになって映っていて、トラックが動くと映った逆さまの景色も一緒に動いていたんです。それを見て「なんだこれは!!何の仕掛けもないのに!」と子ども心に本当にびっくりしました。これ、実は幌にごく小さな穴が空いていたようで、ピンホールカメラの原理で外の風景が映っていたんですね。今でこそ「光の性質によるものである」と、理由や原理がわかるのですが、これを目の当たりにした当時は予備知識などがまったくない状態だったので、「これはなんだろう? 私が知らない自然の仕組みかあるに違いない、それを知りたい!」と、とても好奇心がかき立てられました。

子どもの頃は、知識がない故の驚きや発見がありますよね。理由を知りたいけれど、わからないところがまたおもしろいといった、魔法のような楽しさがありました。

———すてきなご経験ですね。では、2つめのおもしろさというのは、どんなおもしろさでしょうか?

2つめは、地球・宇宙といった世界の広がりを意識したときに「自分は今、広い宇宙のいったいどこにいるんだろう?」とか、「自分はなぜここにいて、何者なんだろう?」といった根源的な問いに、科学は答えてくれようとすることです。これらの問いはすべて、私が子どものころ、「地球が太陽系の第三惑星であること」や「太陽系は銀河の一部であること」を初めて知ったときに、星空を見上げて思ったことなのですが、科学はこういった問いも解き明かそうとしているんですね。

というのは、17世紀ごろ、それまでは宗教がすべてだったところから、自然科学が哲学として頼りにされるようになりました。ガリレオやニュートンの時代です。敬虔なキリスト教徒だった彼らは、創造主の意図を探るためには、「真実の自然の姿とはどうなっているのか?」という問いに答えなければならないと考えました。それには、ものごとを観察したり実験したりすることで、その問いに対する一番確からしい答えにたどり着くだろうと考えたところから、科学が始まりました。

それは現在も続いていて、たとえば宇宙論であれば、今現在も宇宙ができたばかりのころの様子を知るために最新鋭の望遠鏡で宇宙を観察・観測し、どのようにして宇宙が始まり、「今」があるのかということを学者たちが解き明かそうとしています。

このように、私たちの根源的な問いに答えてくれるのが、科学のもう一つのおもしろさかなと思います。

———なるほど。科学史を知ることも、2つめのおもしろさをより深めてくれそうですね。では、3つめのおもしろさは何でしょうか?

3つめは、科学は私たちの未来を作っていく上での大きな武器になることです。これは、科学そのものというよりは、科学が間接的に影響している、と言った方が近いかもしれませんけれど。

わかりやすい例で言えば、地球温暖化の問題が挙げられます。学者たちが大気中の二酸化炭素の濃度を何十年も計測して、「どうも濃度が上がっていっている、気温や海水温の上昇の原因はここにあるのではないか」ということを突き止めました。そして、スーパーコンピュータによるシミュレーションなどによって、実際の観測データや計算を統合し、もう一つの地球を仮想的に作り、さまざまな条件を入れることで何十年後の地球の姿も予測できるようになりました。これらの科学的データををもとに、世界各国で気候変動の危機的な状況が共有されて、よりよい未来をつくるためには私たちはどうしていけばよいのか、解決策についての議論が進んでいますよね。

———たくさん科学者たちの努力が課題解決につながっていっている、というのも科学のおもしろさの一つですね。そういった科学のおもしろさへの入り口の一つに、小学校の理科があると思います。保護者は、小学校の理科をどのような教科だととらえておくとよいでしょうか?

小学生は、好奇心の土壌になるような豊かな感性や、科学的なものに気づく感受性を育てる時期にいると思いますので、理科の学習も、そういった感性や感受性を育てる機会になるのではないでしょうか。

子どもたちにとって、初めて見るものや触れるものは、すべて驚きです。小学校での理科学習を通して、子どもたちが何かに気づいたり、心が動かされたとき、保護者の皆さんはその気持ちに寄り添い、同じ目線に立って一緒に感動したり驚いたりできるといいのかなと思います。
 

子どもと科学を楽しむために、家庭内でどんなことができる?

———子どもの「なんだろう?」「どういうことだろう?」といった疑問に保護者はどの程度答えられるといいのか?と悩まれる方もいらっしゃいます。この点についてはどう思われますか?

お子さんの性格にもよると思いますが、必ずしも保護者の方がお子さんの疑問に対して一から十まですべて答えたり、教えたりする必要はないのではないでしょうか。

たとえば、私は子どもの頃はあまのじゃくでして(笑)。何か疑問が生まれたときに、親に答えを与えられるととたんに興味を失ってしまうタイプでした。このような場合、親が答えや知識をあれこれ教えるのではなく、「なんでだろうね? お母さんも知りたいな」とお子さんの疑問に同調してあげる程度の方が、疑問に対する興味を持続させる上ではよいのではないかと思います。

他方で、大人の話を素直に聞いて、そこから自分で考えを発展させ、さらに問いを繰り返していくようなお子さんなら、少しヒントとなる情報をあげてもいいかもしれないですね。

———子どもが「これはなんだろう?」「これはすごい!」と心を動かされる経験をするために、家庭でできることは何かありますか?

「家庭内で特別な経験をさせなくては」と身構えてなくても、虫めがねを一つ持って、一緒に自然散策をするのでも十分な気がします。身のまわりにある自然には、科学という原理や現象があるだけでなく、必ず生命も存在しますよね。たとえば、公園の苔むしたところに行って虫めがねで観察してみると、ふだん歩いているだけでは見えなかった生物がたくさん見えてきます。それを見つけて観察するだけで、たくさんの発見や驚きはあると思うのです。

また、磯遊びもたくさんの発見があっていいと思います。干潮時の海辺や、干潟、岩場などには、本当にたくさんの生物がいます。保護者の皆さんも「この生き物は見たことがない!」「潮の満ち引きは不思議だな」と改めて自然科学に対する驚きや発見があり、お子さんと一緒に夢中になれると思います。

———さまざまな生物に出会ったり、現象を目にしたりすることで心が動き、「ほかにどんな生き物がいるんだろう?」「なぜここにいるんだろう?」といった疑問に発展していくということですね。

そうですね。そうした疑問が生まれた際、調べることへの障壁も、昔よりずっと低くなっています。たとえば生き物の名前を知りたいとき、撮影した生き物の写真を使ってインターネット検索ができます。そういったものを利用すると、お子さん一人でも同定がしやすいと思います。そうして、写真から種の名前がわかり、名前から生態がわかり、生態から分布がわかり……と自分で調べていくと、どんどんのめりこんでいけるのではないでしょうか。

また、自然の中を散策することで、「動植物の営みは私たちが暮らす人工物に囲まれた世界のすぐ隣にあるけれど、自然には自然の営みがあるんだ」ということを知る楽しみもあると思います。「自分たちのくらし」だけでなく「虫めがねでしか見えない虫のくらし」「海の小動物のくらし」と大小さまざまな世界がある……子どもにとって、もっと立体的に深くものごとを見られる感性につながると思います。
 

この先も、科学への興味・関心をもち続けるには

———小学生のときは理科が好きでも、中学生以降、だんだんとその気持ちを失っていく子どもがいることが、国際調査でわかっています(※)。理科や科学の事象について、子どもがワクワクする気持ちや「なんでだろう?」と疑問をもち続けることを、保護者の方はどのようにサポートしていくといいのでしょうか?
※国際数学・理科教育調査TIMSS(TIMSS2019)によると、「理科の勉強は楽しい」と答えた日本の児童・生徒の割合は、小学校では92%、中学校では70%、「理科は得意だ」と答えた日本の児童・生徒の割合は、小学校では86%、中学校では47%だった。

難しい課題ではありますが、一つ、手として考えられるのは、「まだここがわかっていない」といった情報にお子さんが触れられるようにするということです。すると、「大人でも知らないこと・わかっていないことがあるんだ!いつか自分が解き明かしてみたい!」と思うお子さんもいると思います。研究者も挑戦しているような未解明のことについて、わかりやすく話してもらえる機会を見つけていけるといいかもしれませんね。

———「調べてみたい」「探究してみたい」といった気持ちを呼び起こせるといいですね。

そうですね。逆に、「わからないんだ。ふーん」で終わった場合は、その分野については関心がないということなので、素通りしていいんだと思います。

でも、なにか一つでも、興味がある・解き明かしたいというテーマが見つかれば、それをじっくり調べてみると、その子が成長してからも、宝物のような経験になると思います。
 

科学的なものの見方をどう身につける?

———日々の生活において、科学的な知識をもって情報の真偽を判断することが必要な場面は多々ありますね。たとえば新型コロナウイルス対策などは、その顕著な例だったように思います。
そうですね。誰かが「正しい」「安全だ」と言っている情報についても、きちんと科学的な裏付けをもった人が発信しているかどうかといったレベルでの情報の見分けができるといいのではないかと思います。これは情報の真偽を見分ける力、すなわち情報リテラシーの領域ですね。

さらにいえば、「科学の確からしさはどのように確かめられているのか」という仕組みをある程度知っていることも、情報を判断する上で有意義だと思います。

たとえば、先ほどもお話しした地球温暖化についても、原因は何か、実はさまざまな議論があります。それでも、国際的にも国内的にも、どうも二酸化炭素が真犯人らしいとされているのは、世界中の何千、何万のピアレビュー、すなわち、専門家同士の高度な査読や検証論文がその事実を支えているからなんですよね。それに対して、二酸化炭素は原因ではないという言説は、根拠が極めて脆弱です。科学というのは、このように、「どうしてそれが正しいと言えるのか」を、世界中の科学者がさまざまな観点から検証し、データを積み重ねてきた学問なのです。

———なるほど。そうした仕組みを知っておくことも、情報の真偽を見きわめる力につながりますね。ほかに、子どもたちが判断力を身につけていくためにできることはあるでしょうか。

仮説を立てて調べ、考察し、その考察をもとにさらに新しい仮説を立てて……という繰り返しで真理に近づいていくというのが、ガリレオの時代くらいから発達してきた科学的方法論です。この科学的方法論を意識して、何か情報を得たときにも「それが正しいなら、この条件ではこのような結果になるはずだ」などと仮説を立て、それを検証する手段を考えてみるといいですね。

その際、感情を優先して考えるのではなく、なるべく目の前で起こっている現象の理屈を考えることが重要です。そうしたものの見方ができるようになっておくと、この先、未知の感染症などが発見されたときなどにも、正しく怖がること、対策することができるようになると思います。
 

「感じる心」を大切に

———では改めて、子どもが科学に関心をもち続けるために、保護者はどのように子どもを支えていくといいでしょうか?

やはり、お子さんの心が動くような経験を重ね、それを保護者の方も一緒に楽しむことが一番ではないでしょうか。

私の好きな本に、海洋生物学者、レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』という本があります。カーソンが、5歳の甥っ子を森に連れて行って自然散策をしたときの情景や、その時の甥っ子の反応を綴った本で、いかにして自然科学的な感性を伸ばすかについてヒントになることが書かれています。

その中に、「『知る』ことは、『感じる』ことの半分も重要ではない」という言葉が出てきます。その意図として、「未知のものに触れたとき、感激や驚嘆といったさまざまな感情がひとたび呼び覚まされると、次は対象についてもっと知りたいと思うようになる。そうして見つけ出した知識はしっかりと身につく」という趣旨のことをカーソンは記しています。

この言葉からも、やはり、「心が動く」ということが一番大事なんじゃないかと思います。保護者の方々としては、たとえば、「わあ、すごい!」「自然って不思議!」といった感情が喚起されるところにお子さんを連れて行って、保護者の方も一緒に「すごくきれいだね」とか「なんでだろう? 不思議だね」などと共感してあげる。すると子どもは、「お母さんも、お父さんも、自分と同じ気持ちなんだ!今目の前で起こっていること、目の前にあるものの正体は、一体何なんだろう?」とその先が知りたくなってきます。ですので、保護者の方ができるはたらきかけとしては、いかにして子どものたちの情動を呼び覚ましてあげるか、また、感性を刺激してあげるかが大事だと思います。あるいは、そのときに、少し会話をしてヒントを出せば、子どもたちは自然と知識を求めていくと思います。
 

瀧澤 美奈子(たきざわ・みなこ)


東京理科大学理工学部物理学科卒業後、お茶の水女子大学理学研究科物理学専攻修了・修士。天文学を学んだ。大学を離れてから科学と社会とのかかわりに関心をもち、科学ジャーナリストに。科学のおもしろさを豊かな文化として多くの人に紹介し、科学を知っていただくことを通して社会に貢献したいと考えている。単行本の執筆のほか講演も行う。慶應義塾大学理工学研究科で非常勤講師としてサイエンスライティングの授業を担当。日本科学技術ジャーナリスト会議副会長。内閣府、農林水産省、文部科学省などの審議会・懇談会委員も務めている。
おもな著書に『150年前の科学誌NATUREには何が書かれていたのか』(ベレ出版)、『日本の深海』(講談社)、『アストロバイオロジーとは何か』(ソフトバンク・クリエイティブ)、『地球温暖化後の社会』(文藝春秋)、『植物は感じて生きている』(化学同人)など。

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