プログラミングは大学入試必須に?|概要や例題、言語を解説

「大学入試にプログラミングが導入される」という話、聞いたことありませんか?
部分的には正しいのですが、多くの人に誤解をされているこの話、わかりやすく解説します。

※本記事は、2021年11月10日に「Z会 STEAM・プログラミング教育情報サイト」上で掲載した記事を一部修正の上、再掲しています。

「プログラミングが大学入試に導入される?」

まず、現状を正しくお伝えしましょう。

  • 「2025年度より、大学入学共通テストに、プログラミングの内容を含む教科『情報』の試験が設置される」
  • 「すでに複数の大学が『情報』の試験を評価対象にすることを決めている」
  • 「一方、慶應義塾大学の一部の学部など、すでに教科『情報』を入試科目としている大学もある」

が現時点での正しい情報です。

「大学入試でプログラミングが必修科目になった」といった論説は、部分的には正しいものの、誤りです。
昨今のプログラミング教育ブームにより、プログラミングばかりに注目した情報が目立ちますが、大切なのはプログラミングではありません。
大学入試を例にとってもわかるように、教科「情報」の重要性が高まっていることが本質なのです。

教科「情報」は、2003年度より高等学校の必修教科として設置されました。
しかし、大学入試に直接関係ある教科ではなかったため、時間割上は「情報」の時間があるものの、実際にはその時間に数学の演習が行われるなど、進学校を中心に多くの学校で実質的な未履修問題が発生しました。

この問題が発覚して以降は、さすがに「『情報』の時間に数学が行われる」といったことは起きなくなったはずですが、それでも扱いが大きく改善したわけではありません。
「パソコンの授業でしょ」「ワードやエクセルをやっておけばいいんだよね」といった考えも根深くあり、教科「情報」が目指した本来の授業は必ずしも行われていませんでした。

また、教員も不足していました。教科「情報」の免許状だけを所持する人は多くの自治体で教員採用試験の受験資格がなく、また、採用されても、数学や理科などの他の教科との兼任であることが珍しくありませんでした。それどころか、教科「情報」の免許を所持しない先生が、「免許外教科担任制度」といういわば特例で授業を担当する例も多く見られます。

そんな中でも本来の姿――情報をいかに扱うか、どのように処理すべきかを学ぶ――を追求し、試行錯誤を繰り返してきた先生方がいらっしゃったことは忘れてはなりません。

そうした高校の先生方や、情報教育の重要性を発信してきた大学の先生方の努力がみのり、2021年の夏に「2025年1月からの大学入学共通テストに教科『情報』の試験が加わる」ことが決まったのです。
それも、数学や理科などの選択科目としてではなく、教科「情報」として独立した60分間の試験となることが発表されています。

ところで、現在行われている大学入試での教科「情報」の試験の多くはペーパーテストで行われています。
2025年度の大学入学共通テストも同じくペーパーテストで実施されました
コンピュータを用いたテスト(CBT)とする必要はないのでしょうか。

試験で何を問いたいのかによっては、現行のペーパーテストであっても差し支えないでしょう。
プログラムをイチから書くのであれば、もちろんCBTであるほうが適しています。
しかし、例えば背景にある理論について問うのであれば、むしろペーパーテストのほうが適しているかもしれません。
言い換えるならば、スキルについて問うのであればペーパーテストはナンセンス、理論や考え方について問うのであればペーパーテストでも差し支えはない、と考えればよいでしょう。

もちろん、今後はCBTで実施する方向で検討はされていくでしょう。
ただ、CBTを実施するためのハードルは決して低くありませんし、そもそもCBTに適した問題を検討する必要もあります。
こうした状況を鑑みるに、当面はペーパーテストが行われていることになると考えられます。

※CBT・・・Computer Based Testingの略。問題用紙・マークシートなどの紙を使わずにコンピュータで受験するテスト

大学入試ではどのような問題が出題されるのか

大学入試で教科「情報」の試験が出題されるようになった理由は明らかです。
大学別の、いわゆる2次試験であれば、「その大学の学部・学科で学ぶために必要な知識と思考力を持っているかを問う」ためです。

たとえば慶應義塾大学の「総合政策学部」「環境情報学部」。「情報」の試験を行っているどちらの学部も、情報処理のエキスパートを輩出しています。
大学入学共通テストでも、「どの大学の、どの学部学科であろうとも、必要とされる知識や考え方を問う」のが本質です。
大学入学後に必要だから。
だからこそ、大学入学共通テストで教科「情報」が課されるようになったのです。

それでは、大学入試の問題としてどのような出題がされるのでしょうか。

2025年1月19日の大学入学共通テストにおいて、新科目「情報Ⅰ」が実施されました。
初年度ということもあり難易度は高くはありませんでしたが、他の教科同様に、数年後、出題傾向が安定してくると、今年度より難しくなると考えられます。
以下の各サイトで、新科目「情報Ⅰ」について取り上げて解説していますので、ぜひご覧ください。

個別試験では、大学によって難易度や出題傾向は大きく変化します。
一例として慶應義塾大学では、適切な知識と洞察と、一定の数学力が求められる問題が出題されています。

たとえば2021年度には、「個人情報の保護に関する法律」「特許法」「著作権法」に関わる問題が出題されています。
これらの法律に関する知識はもちろんのこと、具体的な適用事例をある程度知らないことには答えが出ません。

ほか、「複数ビット同士の加算を行う回路」に関する問題(論理回路の問題)や、「整数の乗算を加法で実現するプログラム」に関する問題が出題されています。
数学的な洞察と、プログラミングの知識・経験がなければ対応しづらいものでした。

対策はできるのか?

これまでに出題されている「情報」の入試問題を見ても、一筋縄ではいかないような印象を受けます。
それでは、こうした問題への対策はどのようにすればよいのでしょうか。

まずは、情報機器に慣れ親しむ必要があります。

そして、できることであれば、そうした機器の設定を自分でしてみるとよいでしょう。
多くの場合「やり方」を調べて終わりになってしまうことになるかもしれません。
そこで終わるのではなく、「なぜそうなるのか」「どうしてそのような設定をするのか」といったことを考え、調べ、知識を蓄えていくことが、結果として対策となります。

大学入学共通テストの試作問題には、ネットワークの不具合にどのように対処するのかを問うものがありました。
知識を知識として身につけるのではなく、具体的な課題・問題を解決するものとして身につけているのかを問うていると考えられます。

知識の具体的な使い所が分かれば、たとえ新たな技術が登場しようとも、その背景や使い所が見えてくるはずです。
試験対策のみならず、日常生活にも、社会に出てからの業務にも活きてくるものです。

「使ってみる」ことにも含まれるかもしれませんが、プログラミングを経験しておくことも対策となります
すでにあるアプリやツールを使えるようになるだけではなく、自分で作ってみることは、コンピュータやネットワークの仕組みを知ることにつながります。
また、課題や問題を解決する手段をひとつ多く持つことにもなります。

「そのためのプログラミング言語は何がよいですか」との質問には「何でもよい」が答えです。
経験してみるだけであればScratchでもよいでしょう。
また、データ分析や人工知能、機械学習などで多く使われるPythonもよいでしょう。
iPhoneのアプリが作りたければSwiftでしょうし、Androidのアプリを作るのであればJavaでしょう。
楽しいと思えるものを、目的に応じて選ぶことが大切です。

少なくとも現時点では、「どの言語が大学入試に有利か」という見方はしないほうが得策です。
大学入学共通テストではDNCLという独自の記述体系を使用していますし、慶應義塾大学でもプログラムの構造を日本語で記述しています。

一部の試験では特定の言語を使うこともあるものの、学んだ環境による有利・不利を排除するためにも、当面は特定の言語体系によらない問題が出題されることでしょう。
なお、DNCLの仕様は公開されており、事前に知ることができます。
知らなくとも、何らかの言語でプログラミングの経験があれば、その場で十分に理解できるものですので、「DNCLを事前に詳しく学んでおく」必要はありません。
それよりも、情報機器に慣れ親しむことや、たとえば「Scratch」などでプログラミングを体験してみることが大切なのです。

まとめ

  • 2025年1月から大学入学共通テストで教科「情報」の試験が行われる。
  • 慶應義塾大学など、一部の大学ではすでに「情報」の試験が行われている。
  • 「プログラミング」は出題されるものの一部。広く「情報」の知識が必要。
  • 情報機器を使い、背景を知り、現実に適用できる形で知識をつけていくことが大事。
  • プログラミングをしてみることも大事。

 

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