総合型選抜や学校推薦型選抜など、「年内入試」とも呼ばれる入試方式で早期に大学合格を決め、入学手続きを終えた生徒に対して、今、各大学は「入学前教育」に取り組んでいます。この入学前教育とは、どのような取り組みなのでしょうか?
長年、推薦入試合格者に入学前教育を行ってきた中央大学総合政策学部の取り組みついて、学部長である堤 和通先生と、教授である篠木幹子先生に伺いました。
※本文中は敬称を省略させていただきます。
高校で培った学力の維持や学習習慣の継続を期待
堤:高校で培ってきた学力や学習習慣を大学入学後まで継続してほしいというのが学部としての考えです。
近年は、文部科学省の方針により、入学前年の12月以前に入学手続きをする生徒さんに対して入学前教育を積極的に講ずることとされています。本学部では、指定校推薦、スポーツ推薦、附属校推薦で合格した生徒さんに、合格後、1〜3月の期間で入学前学習に取り組んでもらっています。
指定校推薦で入学予定の生徒さんには、推薦を得るために地道に努力してきた学習習慣を継続してもらいたいですし、附属校からの生徒さんには、希望する学部への進学を叶えた学力を維持して入学後さらに伸ばしてもらいたいと考えています。
中学・高校までの教育と異なる大学教育に戸惑うことのないよう、大学で学ぶ準備として取り組んでもらいたいと思っています。
堤:一つは、総合政策学部の学部教育の特色からです。本学部は、「政策と文化の融合」という学部の理念の下、文化的背景を理解して現代社会が直面する諸問題を解決する視点を養うべく、特定の分野・領域の系統的な学びだけでなく、複数の専門分野の知を積み上げ、さまざまな観点から課題の発見と解決ができる人材を育てていくことを目指してカリキュラムを組んでいます。
この総合政策学部のカリキュラム・ポリシーやディプロマ・ポリシー、アドミッション・ポリシーに結びつく学びとして、「課題発見・解決能力テスト」に取り組んでもらっています。総合政策学部での学びがどのようなものか、「課題発見・解決能力テスト」を通じて十分な関心を持って入学してきていただきたいと思っています。
篠木:課題を発見するには訓練が必要です。様々な視点から課題を見つける訓練を、まずは入学前課題で経験をしてほしいという面もあります。
堤:また、本学部では1993年の学部創設以来、グローバルで多文化共生の学びや政策系分野の学修の基盤となるものとして英語を重視していることから、入学前教育でも英語課題を取り入れています。入学後、TOEICのスコア別にクラスを分けて英語教育を行うため、その準備をしてもらうというねらいもあります。
英語は、国内外の様々な場所で使われている非常に有力な言語で、かつ、多くの分野において、最も多くの文献にアクセスできる言語です。また、ニュースなども、英語で視聴することができれば、多角的で、多くの場合非常に上質の情報を得られるので、大学での学びにも役立ちます。それはきっと、将来のキャリアにも活かせるものだと思います。もし英語に対する苦手意識を持っているのであれば、英語課題を通じてぜひとも取り払ってもらいたいと思っています。
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堤:「課題発見・解決能力テスト」に取り組んだ生徒さんからは、「高校までで出会ったことのないような学びだった」といった感想が寄せられることがあります。限られた分量の教材ではありますが、じっくりと考えること、そして、じっくりと考える際には複数のものの見方を自分の中に取り込みながら自分の思索を練っていくことが非常に重要であるという気づきになっているのではないかと思います。
篠木:英語課題については、取り組んだ生徒さんの模擬テストのスコアに伸びが見られ、効果があらわれています。
堤:受講後のアンケートには「TOEICの苦手分野がわかった」「TOEIC対策の仕方がわかった」「自分の実力を知ることができた」などの感想が書かれているので、その課題感を出発点に継続して英語学習に取り組めば、英語力を伸ばしていけるのではないかと思っています。
入学後に”伸びる”のは「他者の意見を自分の中で消化し、次の一歩を考えられる人」
堤:社会で頑張っている卒業生の話を聞いていると、その時々で自分の足元を見て次に進むということを主体的にやっていると感じます。そのためには、学ぶ姿勢を常に持っていなければなりませんし、周りとのコミュニケーションから得られる様々な意見を自身の中に取り込みながら、次の一歩を考えることが重要ではないかと思います。
例えば、講義やゼミで教員が「こうだ」と言ったとき、同意するにしても、「いやそれは違う」と反論するにしても、そのやりとりの中で聞いたことや感じたことを生かして次の一歩を進められる。それを地道にやってきた人たちが、卒業後、総合政策学部での学びに非常に意義を感じたと言ってくれている印象を持ちます。
篠木:相互作用とでも言いましょうか、教員と学生、あるいは学生同士でも多様な意見や考え方がある中で、自分とは異なる意見をどのように消化していくか、あるいは、それをどうやって政策的な側面に繋げていくかが非常に大切で、それを諦めずにできた人は伸びるのではないかと思います。
また、自分の興味・関心から問いを立てて考え続けられる人も同様です。「なぜ学食はこんなに混んでいるのだろう?」「なぜ中央大学は多摩のこの場所にあるのか?」「なぜいつも自分はこの席に座って授業を受けるのか?」など、身近なところから生まれる問いでも、地球環境問題や世界平和といった世界的な問題・課題に対する問いでも構いません。問いを立てて考え続けることに勉強している内容が結びついたとき、人は伸びるのではないかと個人的には思います。
もちろんそこには人間同士のやり取りがとても重要で、少人数での学びや対話を重視して教育を行う総合政策学部の特長を大いに生かしてもらいたいとも思っています。
入学までの期間、読書やニュースの視聴を通じて思索を深めてほしい
堤:いくつかありますが、まずは、本は読んだ方がいいということと、英語のものも含めてニュースを見たり聞いたりしてくださいということは伝えたいですね。
大学で学び、研究する上では、文献を読んで自分の中で消化し、次の思考に繋げることが必要です。学生のレポートなどを読んでいると、Web上の情報を繋ぎ合わせることは上手ですが、文献を系統立てて読んで思考することは苦手であることが伺えます。系統だった読書によって培われる思考力は、論理を構築する力にもつながりますし、書籍に書かれている文章そのものが論理構築力のお手本でもあるので、本をじっくり読むということは非常に重要だと思います。
だからといって難しい本を読んでほしいというわけではなく、分野を問わず、自分が面白そうだと思えるものから読んでみるといいと思います。何を読めばいいのか悩むくらいなら、書店や図書館に行ってみましょう。タイトルを見ていけば、「面白そう」と思える一冊が見つかると思います。もし満足できる内容でなかったとしても、それも一つの経験で、また他の本を探せばいいのです。
篠木:学問は自由ですから、どのような本でもいいと思います。ただ、一つ大事にしてほしいことは、本を読んでいる中で違和感や共感を覚えた際には、「なぜここで違和感/共感を覚えたのか?」と考えることです。例えば、昔の小説を読んで「女性の幸せは結婚だ」といった描写が出てくると、私は「違和感」や「不満」を覚えることがあります。なぜそう思うかと考えていくと、当時は、女性の権利が抑制されていたからだというところに行き着きます。こうした違和感から、社会の問題や課題はたくさん見つかります。材料はどこにでも転がっているものです。
堤:あともう一つ、取り組んでほしいことがあります。それは、問いを掲げて考えてみることです。自分の身の回りのことでも、世界的な問題・課題についてでも構わないので、何かしら問いを掲げて、調べたり考えたりしてみる。それも大学で学ぶ準備になると思います。
堤:読書でも、旅をすることでも、他にもいろいろとあり得ますが、もしお子さんが何かに関心を持ち、行動を始めた際には、ぜひ応援していただきたいと思います。
篠木:保護者の方自身の過去の経験を話していただくのも良いのではないでしょうか。例えば、大学進学率は今では約58%ですが、当時はどれくらいだったのかといった話をすると、「なぜ低かったのだろう?」「その時から現在に至るまでにどのような社会の変化があったのだろう?」と疑問を持つお子さんもいるかもしれません。本でも、ニュースでもなく保護者の方からの言葉が響くこともあるかもしれませんから、日々のコミュニケーションの中で、「じゃあ自分で調べてみようかな」とお子さんが思えるようなお話をしていただけるといいのかなと思います。
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