第47回 最新!2022年度都立自校作成入試問題の問題分析 傾向と対策【多摩版】

執筆者:岡田久典(Z会進学教室 立川教室長/英語科)
記事更新日:2022年03月31日

最新!2022年度都立自校作成入試問題の問題分析 傾向と対策【多摩版】

こんにちは。Z会進学教室 立川教室で教室長をしている岡田です。今回は「都立自校作成校」についてお伝えします。2022年度(令和4年度)の各学校の問題分析もまとめていますので、小学6年生の皆さんや保護者の方はもちろんのこと、中学生の皆さんもぜひご覧いただき、学習の参考にしてくださいね。

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「自校作成」ってなに? 共通問題との一番の違いは?

東京都立高校入試で自校作成問題を導入しているのは「進学指導重点校」に指定されている日比谷、国立、西、戸山、青山、立川、八王子東の七校と、「進学重視型単位制」の新宿、国分寺、墨田川、そして国際(英語のみ)となります。

上記の高校はいずれも人気や難易度が高く、学力の高い受験生が集まります。共通問題ではこれらの受験生にとっては簡単で得点差が開かないため、自校作成問題として難しい問題を導入しているのです。また、「自校作成」ということで各高校が独自に問題を作っているため、学校ごとに特色が出ます。言い換えると、問題を見ればどういう生徒を求めているかが分かるというわけです。

自校作成校のうち、進学指導重点校は平均点が60点程度になるように各教科の問題が作られています(平均点が高すぎても、低すぎても、点差が開かないためです)。では、どのように難しくして平均点を下げているか。公立高校の入試ですから、中学で習わないことは原則として出題されません。

一番大きな特徴はどの学校も「時間との勝負」になっていることです。言い換えると、「100分あれば解ける問題を、試験時間50分で出題している」ということです。つまり、教科の力に加えて時間配分などタイムマネジメント能力が必要になります。

【国語】多摩地区の自校作成入試 2022年度の出題傾向

共通問題と自校作成では出題形式に大きな差はありません。

1,2】漢字の読み書き 【3】小説 【4】論説文(+課題作文) 【5】現古融合文

大学入試改革に対応した形式の出題が各校で見られるので、志望校の過去問だけでなく他の自校作成校の直近の問題にも目を通すと良いでしょう。

◆国立高校 2022年度

全体像を捉える力が問われます。R.4年度は小説で大学入試共通テストを意識した「生徒間の対話」形式の出題もありましたが、全体的にはその場その場で解ける問題が多く、例年より解きやすかったのでは。

文学的文章:武田綾乃「君と漕ぐ4」~高校で千帆と二人でカヌー部を立ち上げた希衣は、他の部員との交流を通じて自身の視野を広げ、勝てないと思い込んでいた千帆に勝つことができた。
説明的文章:品川哲彦「倫理学入門」~ 倫理的判断の基盤となる感情は普遍性がなさそうだが、現代では共感という感情が人間に元来自然に備わる素質であり、倫理が成立すると実証される。それでもなお、なぜ倫理的判断をするのかという課題は残る。
現古融合文:山口謡司「〈ひらがな〉の誕生」~ ひらがなには、不揃いで未完成のものこそ美しいとする徒然草に描かれた美意識が表れている。

 ◆立川高校 2022年度

ゆっくりしっかり考えれば正答を出しやすい問題が多いのが立川高校の特徴です。R.4年度は論説文で「2つの文章を出す」という傾向の変化が見られました。

文学的文章:額賀澪「風は山から吹いている」~ 高校時代にスポーツクライミングの全国大会に出場した岳は、大学で登山部に勧誘される。勧誘からのがれるため登山に行った岳は、山の静かさの中で心地の良い孤独に頭の中が整理されていく。
説明的文章 A 小林秀雄「感想」 B 伊藤亜紗「『うつわ』的利他ーケアの現場から」~
A 過去のものとなってからでしか文化を断ずることは出来ず、その可能性を考えるにしても、可能性は現実に先行できないためその予見も不可能である。
B 安心は不確実性を前提とせず、相手が想定外の行動を取る可能性を考えていない。それに対し、信頼とは不確実性を前提とした上で相手を信じるものである。
現古融合文:渡部泰明「和歌史 なぜ千年を越えて続いたか」~香川景樹は「歌はことわるものにあらず、しらぶるものなり」という発言をしている。「しらべ」には対象と主体が密接に連動するという意味合いがあり、景樹の和歌には言葉と主体が連動し溶け込むような感覚を与えるものが多い。

 ◆八王子東高校 2022年度

比較的取り組みやすい問題が多いのが特徴です。論説文は「音と文字の結びつき」という一見取っつきづらいテーマだが、その場面の中で何を言われているか読み取れれば難しくありません。

文学的文章:原田マハ「斉唱」~中学2年生の唯は母の梓と自然体験学習のため佐渡島を訪れ、トキ交流会館にやってくる。そこで日本の田園に暮らしたことのある最後のトキの話を聞く。トキの棲むビオトープを前に梓は親として子を保護することの弊害にも気づく。
説明的文章:バトラー後藤裕子「デジタルで変わる子どもたち」~文字を読む際には視覚符号化経路だけではなく、音韻符号化経路を経て心的語彙にアクセスをする。このプロセスは年齢や言語を問わず基本的に当てはまる。だから音と表記の関係をつかむことが大切になるが、デジタル教材がその理解の促進に役立つと期待されてきた。
現古融合文:鉄野昌弘「歌謡の仕組み」~特に古今集にみられる類歌性は、連続性を保ちながら集団に関わることでかえって個が鮮明になっている。近代では個の要素や独自性ばかりが重視されたが、表現は受け手に共感されて初めて意味を持つため、集団や社会を勘定に入れるのは当然である。

 ◆国分寺高校 2022年度

例年論説文が難しいとされますが、今年もマルクスの労働論を題材にしており、難問と言えそうです。

文学的文章:笹山久三「やまびこのうた」~豊かな自然の中、小学六年生の兄やんをリーダーとする十人ほどの仲間は山芋掘りに出掛ける。そこで三年生のサチは、五年生のテツオの成長を目の当たりにし、一年生のブンヤンも同様に大きくなるのだろうかと感慨にふけった。
説明的文章:内山節「自然と人間の哲学」~労働の目的とは使用価値を作り出すことだが、商品経済の浸透により商品生産・貨幣獲得の労働が特別な地位を獲得し、自然と人間との関係を変化させた。
現古融合文:渡部泰明「和歌史」~自然物や現象を、そこに存在しない別の物に見せる「見立て」について。紀貫之は視覚的な実感と、自在な言葉の想像力を用いた「見立て」を用いた作品を残している。

【数学】多摩地区の自校作成入試 2022年度の出題傾向

まずは共通問題と自校作成の違いを見てみましょう。

<共通>【1】小問集合 【2】式の説明 【3】関数 【4】平面図形 【5】空間図形
→毎年同じ出題傾向です。計算問題が大半で難易度が低い【1】の配点が46点と非常に高く、中1で学習する「正負の数の計算」なども出題されるため、平均点が高くなりやすいですが、【4】、【5】は難易度が高い問題も一部含まれます。共通問では作図・記述問が合計3題・20点分出題されます。

<自校>【1】小問集合 【2】放物線と図形 【3】平面図形 【4】空間図形
→小問集合から難易度が異なります。自校作成では中3で学習する平方根の計算や、連立方程式、二次方程式が出題。中1の学習範囲は出題されません。【1】から【4】まで配点が同じ25点なので、図形なども満遍なく取れる必要があります。自校作成では作図・記述問題が合計4題・35点分出題されます。

共通問題では「基本問題を確実に正解する力」、自校作成では「記述に対応する力」が求められます。

また、2021年度(令和3年度)は新型コロナウイルス感染拡大による一斉休校の影響で出題範囲の削減があり、出題傾向に変更がありましたが、2022年度(令和4年度)は全ての学校で出題範囲・傾向を2020年度以前に戻しています。過去問を解く際には令和3年度のみ傾向が異なる問題として注意して取り組む必要があります。

自校作成志望者は【1】の小問集合と【2】~【4】の各(1)の合計約40点分で確実に正答していくことが基本戦術になります。記述問題は完璧を求めすぎず、分かるところまでしっかり書く練習をして、部分点を取れるようにしていきましょう。

「定期試験前にまとめて勉強」ではなく、毎日少しずつコツコツ勉強して、計算ミスを減らしていきましょう。「入試の直前に記述対策を始める」と考えるのではなく、普段から途中式、途中経過をしっかり書く習慣を作ることも大切です。わからない問題、間違えた問題を放置せず、解き直しを必ず行い、わからない問題を数学の先生に質問に行きましょう。

◆国立高校 2022年度

【2】は放物線と三角形の問題。【3】は円と正三角形の問題。【4】は立方体(三角錐)の問題。難易度の高い学校ではあるが、出題形式や難易度について年による変化が少ない。【3】の記述問題が(3)に出題されているが、(1)、(2)を解いた後に取り組めるので受験生としては取り組みやすかったのでは。

◆立川高校 2022年度

記述問がどの小問に出題されるかは年によって変化します。【1】の小問の難易度が例年より上がりました。ここが難しくなると、慌てる受験生が多かったのでは。【4】も切頭三角柱が出題され、やや難しいです。
※切頭三角柱の体積を簡単に求められる公式がありますが、公立中学では学習しません。過去の卒業生による得点開示・答案コピー開示の結果、中学で未習の公式等を使って解いている場合も、正答していれば〇が付いており、禁じ手ではありません。

◆八王子東高校 2022年度

記述問の位置が例年と変わり、例年は(2)に出題されていたが2022年度は(3)に出題されました。例年より易しい問題が多く、前半【1】、【2】に平易な問題が多かったため解きやすかったのではないでしょうか。

◆国分寺高校 2022年度

2022年度は解きやすい問題が多かった印象です。進学指導重点校の7校と比べると、配点が異なり【1】34点、【2】22点、【3】22点、【4】22点と、【1】小問集合の配点が高いのが特徴です。かつては【1】の配点が40点でしたが、2021年度より配点を下げています。(同じく進学指導重視型単位制高校の新宿高校はさらに顕著で、【1】28点、【2】22点、【3】26点、【4】24点となっています。)

【英語】多摩地区の自校作成入試 2022年度の出題傾向

自校作成校も(国際高校を除いて)【1】リスニング問題は全校共通問題です。全ての学校で【2】は対話文。【3】は学校によって説明文や物語文、エッセイになることもあります。【4】を出題しているのは日比谷、西、新宿、国分寺の4校で、日比谷は英作文を大問として独立させており、西、新宿、国分寺はもう一題長文が出題されています。

2022年度は中学の学習指導要領の改訂を受けて、従来は高校で学習していた使役動詞や知覚動詞、現在完了進行形、仮定法などの単元が、日比谷、戸山、青山、国際では長文の一部に出題されました。また単語の難易度も上がり、覚えるべき単語量が増えたことから、従来は注釈が付いていた単語も複数の自校作成校で注釈なしでの出題が見られました。

長文の出題傾向としては、例年自校作成校全般で理系の内容を扱った対話文(2022年度は日比谷、戸山、国立、立川)や説明文(西、戸山、新宿、国分寺)が多く出題されています。物語文の出題は減少傾向で、2021年度は国立、立川、新宿の3校のみが出題していましたが、2022年度は日比谷が【3】で物語文を出題し、代わりに新宿が出題を取りやめています。八王子東高校は理系の題材を扱ったエッセイを【3】で出題しています。

また、大学入試の新傾向への対応として、図表・グラフ・イラストの読解や、自由度の高い英作文が自校作成校の問題でも多く見られます。2022年度は国立高校で英作文の配点が16点と、前年度の8点から倍増し、記述・抜き出し問の配点が合計36点分と、日比谷・西の32点を抜いて自校作成校の中で最も高い配点(リスニングの記述を含む)となりましたが、難易度は日比谷が群を抜いています。

 ◆国立高校 2022年度

英作文の配点が2021年度の8点から16点と倍増し、記述・抜き出し問の配点全体も2021年度の24点から36点に増えました。英語四技能(読む、書く、聴く、話す)の一つであるスピーキング力が重視されていることもあってか、発音問題が初めて出題されました。

 ◆立川高校 2022年度

理系を意識した作問が特徴です。想像理数科と普通科では同じ問題が使用されていますが、高校からのメッセージとして「普通科でも理数教育を重視する」とあるように、英語の対話文でも理系の内容が出題されています。

 ◆八王子東高校 2022年度

2021年度は【3】が説明文でしたが2022年度はエッセイに変更されました。長文の内容がユニークですが、今年は「親切な行為が自分にとって効能がある」といった内容で、様々な分野に興味・好奇心があれば解きやすい文章と言えます。

 ◆国分寺高校 2022年度

大問4題構成という難しさがあり、近年は問題の難易度自体も進学指導重点校に近づいてきています。異なる内容の文章や多くの資料をスピーディーに読み進めていく練習が必要です。

都立自校作成(グループ作成)問題 受験者平均点

 

国立高校
英語 数学 国語
令和3年度 全体 59.6 61.9 61.1
男子 59.6 63 60.3
女子 59.7 60.9 61.9
令和2年度 全体 64.4 44.6 54.2
男子 64.2 47.5 52.2
女子 64.7 41.7 56.2
平成31年度 全体 47.4 44.9 61.1
男子 47.4 49.2 61.5
女子 47.4 40.3 60.7
立川高校
英語 数学 国語
令和3年度 全体 51.6 54.8 63
男子 51.5 56 62.5
女子 51.7 53.2 63.5
令和2年度 全体 66.8 46.3 53.9
男子 67.4 50.2 54.3
女子 66.3 42.4 53.5
平成31年度 全体 65.1 46.3 60.9
男子 65.1 49.2 60.1
女子 65.1 43 61.6
八王子東高校
英語 数学 国語
令和3年度 全体 59.5 44.9 66.3
男子 59.4 47.2 65.9
女子 59.7 42 66.8
令和2年度 全体 64.2 48.9 60.2
男子 64.1 51.2 59.1
女子 64.3 46.8 61.2
平成31年度 全体 58.6 52.7 65.2
男子 57.8 55.4 63.1
女子 59.5 49.9 67.3
国分寺高校
英語 数学 国語
令和3年度 全体 53.9 57.6 61
令和2年度 全体 46.8 51.2 65.1
平成31年度 全体 51 54.1 69.2

この記事の著者

岡田久典(おかだ・ひさのり)

Z会進学教室の立川教室教室長。英語科のカリキュラム・教材作成にも関わる。曰く「中学3年間は人生というロケットの発射台」。

立川市の学習塾・進学塾「Z会立川教室」

 

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