第79回 内申を上げたければ「内申対策」はやめなさい

執筆者:鈴木亮介(Z会進学教室 調布教室長/国語科)
記事更新日:2023年05月19

内申を上げたければ「内申対策」はやめなさい

突然ですが今この記事を読んでいる皆さんは、学校の成績を上げたいと思っていますよね? 成績を上げるために、つまり対策をするために、「内申の上げ方」など検索してこのページにたどり着いたという人もいるでしょう。そんな皆さんに、「対策をしなければ上がるよ」という逆説的な?禅問答のような?お話を今日はしたいと思います。

保護者の方も、「うちの子は内申が取れないから…」「中学受験はさせたくないけど、高校受験は内申点が不安だから…」とあきらめてしまわず、ぜひ「内申が取れる子」を目指していただきたいと思います。結論を先取りすると、現在は「内申点がしっかり取れること」が、「社会に出て役立つ力がしっかり身につくこと」とイコールになるように、制度が変わりつつあるのです。

そして、この記事を読んでいる小学生の皆さんは、中学校の「内申書(調査書)」は小学校の「通知書(通信簿)」とどう違うのかな? と疑問に思っている人もいるかもしれません。ネット上には様々な記事でこの「違い」が一生懸命説明されています。詳しい内容はそれらの記事に譲るとして、ここでは(公立の場合)小学校に比べると3段階評価→5段階評価となり、高校入試において得点化されることを踏まえ、「よりいっそう、しっかりと対策をしなければならないもの」と捉えていただければと思います。

「内申が低いから公立は捨てて私立…」は誤り 私立入試でも内申は大事

ではどの程度「しっかりと対策をしないといけない」のか。ここでは東京を例に説明しますが、お住まいの道府県の制度がどうなっているか、気になる方は最寄りのZ会の教室までお気軽にお尋ねください。

東京都の場合、仮に公立中高一貫校受検をする場合は通知書を得点化して判定材料の一つとしますが、適性検査試験の当日得点に比べると加算する割合が低く、合否への影響は限定的です。一方、東京都立高校の入試においては、1月下旬に行われる推薦入試では選抜方法の全体に対して4~5割を内申点が占め、2月下旬に行われる一般入試でも普通科の高校では当日点:内申点が7:3となり、その得点が合否に大きな影響を与えます。(都立高校の入試制度については、こちらの記事でも詳しく説明しています)

東京に限らず、公立入試においては内申点をしっかり取ることがとても大切。こう言うと、中には「自分は高い内申が取れなさそうだから公立はあきらめて私立に絞ろう」と考える人がいますが、この考え方は誤りです。なぜなら、私立高校においても内申点が合否に大きく影響しているケースが多々あるためです。

「併願優遇制度」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。高校入試では最低1校、必ず抑えの私立学校(いわゆるすべり止め)を受験することになりますが、その際「英数国理社の5科で23以上あれば、当日のテスト得点に+50点加点します」、「9科で38以上ある人がこれまで本校を受けて不合格になったことはほぼありません」などの優遇がもらえるため、「どこにも受からないかもしれない」と心配せずに、本命の高校の試験対策に専念できるというものです。逆に言うと、内申点が低いと希望する併願校を受験しても不合格の可能性があったり、狭い選択肢の中から併願校を選ばないといけなくなるわけです。

さらに、難関私立高校の中には中学の内申点を当日点に加点し合否判定を行う学校もあります。東京都内で例を挙げると、中大杉並高校、国際基督教大学高校(ICU)、青山学院高校、法政大学高校など…たとえばICUでは、英数国の筆記試験各100点満点に、中3の12月時点での内申点を9科目×5段階評価×2の90点満点を加えた計390点満点で合否判定を行います。ほぼ1科目分に相当しますね。加えてこれらの高校では推薦入試を行っていますが、その出願基準として「内申○○以上」と制限を設けている学校も多々あります。私立志望者にとっても内申点は非常に大切です。

2021年度から内申の付け方が変わった

内申点の重要性はよくわかっていただけたかと思います。では、内申を上げるためにはどうすれば良いのでしょうか。保護者の方が中学生だった頃を思い出していただくと、どうでしょうか。「中間考査と期末考査の得点をきちんと取ることが大事だ」「テストの点は良かったけど、授業中寝てたら内申下げられた」といった声が聞こえてきそうです。

確かに定期試験で高得点を取ることは非常に大切です。ですが、それだけでも5段階評価の5を確実に取ることは難しいかもしれません。実は2021年度から学習指導要領の変更に伴い、内申点(調査書)の観点が従来の4つから3つに変わりました。具体的には次の3項目です。

❖知識・技能
❖思考・判断・表現
❖主体的に学習に取り組む態度

従来は「知識・技能」の部分、いわゆるペーパーテストで測れる部分が全体の5割を占めていましたが、そのウェイトが下がっており、その代わりに「授業中の取り組み」「課題や提出物など家庭学習の完成度」の重要度が高まっているのです。

思考力、判断力、表現力。この3つの力は近年様々な場面で重要だと言われていますね。大学入試もこうした力を問う出題に変わってきています。自分でしっかり考えて、それを書いて伝えること。旧来の丸暗記式の学習は終わりを迎えています。

そして「主体的に学習に取り組む態度」とは、どのように養っていくとよいのでしょうか。「主体的に取り組む態度」とは、具体的には ❖自尊感情 ❖学習習慣 ❖目的意識 の3点です。これらを身につけるためには、「授業中にしっかりこなすこと」が大切です。

小学校のときは「授業中に今わからなくても、家に帰ってパパママに聞けばいいや」と考えていたかもしれません。こうした姿勢は、中学に向けて卒業しましょう。授業中に、その場でしっかり理解しようと努め、わからないことはわからないまま家に持ち帰らないようにしましょう。授業後、先生に質問に行くことで、「その日の課題はその日のうちに理解する」姿勢が身につくばかりか、「主体的に、積極的に、意欲的に学習に臨んでいるね」と先生からの高評価にもつながります。

保護者の方が学習に口出ししすぎないこともまた大切です。「勉強を教えてあげる」は小学生までで、今後は本人の学習姿勢を見守ってあげてください。

巷間の「内申対策」の実態は「定期テスト対策」である

さていよいよ表題の話に入ります。内申を上げたければ「内申対策」はやめなさいとはどういうことか。正確に言うと、内申を上げたければ「内申対策と称した塾の定期テスト対策に頼ること」はやめなさい、ということです。

定期テストで高得点を取る対策をするな、というわけではありません。定期試験に向けて、きちんと計画的に学習を進めていくことは大切です。その際すべきことは、大きく分けて次の2つに集約されます。

❖授業中に板書をしたノートや、先生の作ったプリントを見返し、覚えるべきことを覚える
❖類題を解いて単元を理解し、用語はきちんと説明できるレベルまで理解する

これを、テスト前に慌ててやるのではなく、毎日少しずつ取り組むことが大切です。例えば「漢字テスト」は小学校でも行われているかと思いますが、その目的は何でしょうか。端的に言えば「漢字を覚えること」ですよね。たまに、「満点を取ること」が目的化している人がいます。小テストの直前に何十回もノートに答えを書きまくって、テストをもらった瞬間に今自分が書いた文字(厳密にいえば記号)を書き写す。これで満点は取れるかもしれませんが、1週間後に同じテストをやったらどうでしょうか。そのときまで覚えていられるでしょうか。(もっと言うと、違う例文でも書けるように、意味までしっかり覚えておきたいですね)

「一夜漬けの勉強」を繰り返していても、高校受験という3年間の膨大な範囲を全て網羅する力として蓄積されていきません。まして「予想問題」(と称した「先輩秘伝の定期試験の過去問」なるものも出回っていたりしますが…)で対策をして、定期試験で高得点を取れたとしても、それは本質的な学力ではありませんし、悪い勉強の習慣がついてしまいます。「先輩の過去問」は長期的に見ればデメリットだらけです。

さらには、こうした「定期テスト対策」に身を委ね、依存することは主体的に学習に取り組む態度を育むどころか衰退させますし、自ら思考し、判断し、表現する力を伸ばすこともできません。結局、内申点の3本柱の1本だけに偏って対策をした結果、残り2本を疎かにしているというのが、いわゆる「内申対策」の実態です。

内申対策をしなくても高い内申が自然と取れる

Z会進学教室では「定期テスト対策」と称してカリキュラムを止めて、近隣中学のテスト範囲を授業中に扱うことをしていません。ですから、「テスト対策をしない塾」と言えるかもしれません。(定期試験用のワークを教材として渡したり、自習室利用の促進、質問対応、定期的な生徒面談での学習相談を行っていますので、厳密には「一切やっていない」わけではないのですが…)

それでも、Z会に通ってくれる生徒の多くは5段階評価の「5」、「4」を当たり前のように取ってきてくれます。その理由は、Z会進学教室が大切にしている指導方針「自主性、自学力の養成」、これが機能していることに尽きるのではないでしょうか。

Z会では手取り足取りの指導を行いません。ともすると「面倒見が悪い」と誤解されてしまいますが、そんなことはありません。先生たちは一人ひとりの生徒を温かく見守っています。「わからないことを明日に持ち越さない姿勢」を身につけ、自ら考えたのちに先生に質問・相談に行く習慣をつけられると、それが学校の勉強にも役立ち、そして高い内申点を維持することにつながっていくのだと思います。

高校受験における最大のネックとして内申点を上げる人も多いと思いますが、この記事を読んでいただき、その不安が少しでも和らぐことを祈っています。

この記事の著者

鈴木亮介(すずき・りょうすけ)
2013年よりZ会進学教室にて中学生の国語、小6公立一貫校受検コースの文系を担当。立川教室や池袋教室を中心に数多くの6年生の作文指導に携わり、南多摩中、立川国際中、大泉中などの合格者を輩出。2016年よりZ会に入社し、同年より調布教室の教室長を務めるほか、国語科の一員として校正業務、冬期講習単科ゼミ「西の作文」の講座設計・教材作成も担当。肥薩線の三段スイッチバックのごとく「地味にすごい」をモットーに教壇に立つ。

 

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