Z会の大学受験担当者が、2023年度前期試験を徹底分析。長年の入試分析から得られた知見もふまえて、今年の傾向と来年に向けた対策を解説します。
今年度の入試を概観しよう
分量と難度の変化 (理科…1科目90分、2科目180分)
・例年、難関大化学入試の中でもトップクラスの難度である。高度な設問は相変わらず出題されているが、2022年度に比べると難度はやや抑えられた。また、大問間の難易度差はかなり大きいため、平易な設問では確実に得点しておく必要があった。
・大問4題構成であるのはこれまでと同じである。2022年度はすべての大問が中問に分かれていたが、今年度の大問のうち、中問に分かれていたのは問題Ⅰのみであった。
・問題ページ数は20→13に減少した。また、中問に分かれていたのは問題Ⅰのみで、設問数も減少したため、2022年度に比べて分量が減少し、負担感は緩和された。
2023年度入試の特記事項
・難度の高い設問は相変わらず多いが、2022年度に比べれば難易度はやや抑えられた。
・長い問題文を読み解き、高校知識をフル活用して考えさせるような、思考力・応用力が必要な出題が見られた。
・2022年度に続き、論述問題は出題されなかった。
・導出過程を書かせる計算問題が、2020年度以前は毎年数題出題されていたが、2021年度以降は出題されていない。計算問題は立式だけでなく、正しい答までたどりつかないと得点につながらない解答形式である。
合否の分かれ目はここだ!
・解答方針が比較的立ちやすい、化学問題Ⅰ(b)、化学問題Ⅲ、化学問題Ⅳは手際よく解答を進めたい。さらに他の大問に含まれる平易な設問は押さえたい。
・そのうえで、読解力・思考力が必要な化学問題Ⅰ(a)問3や化学問題Ⅱでどれだけ正解できたかが合否の分かれ目になったであろう。
・例年は時間に対して分量が多いため、化学問題Ⅱのように難度が高く次の設問に連動していくような問題は、ある程度のところで割り切ることも必要となるが、今年度は最後まで粘り強く得点を積み重ねることが求められる。
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大問別のポイント
化学問題 I
(a)<理論> 黒鉛の結晶、グラフェン
・問1、問2は平易であるため、確実に得点したい。
・問3の「単位質量あたりの表面積」を求める問題は、あまり見慣れない問題である。用いる炭素原子の数がポイントであり、初見では判断が難しいため決して易しい問題ではない。
(b)<理論> 鉄の製錬、化学平衡
・Fe2O3を逐次的に還元するとき、はじめにFe3O4が生成することは押さえておきたい。
・問5は誘導に沿って不等式を求める問題で、「反応が右向きに進行する」という条件を、平衡定数を用いて不等式で表せるかがポイント。典型問題の演習だけでは対応しにくく、化学平衡の深い理解が求められる問題であった。
化学問題 II
<理論> 気液平衡(ラウールの法則)
・数式の空欄補充が中心の問題であり、京大化学では定番の形式である。
・各状態について正しく理解し、適切な文字を用いて関係式を立てていくためには、高度な思考力を要する。
・それぞれの設問について、使用する文字の指定はなく、問題文および空欄となっていない数式部分のみがヒントとなるため、どのように式変形を進めていくかの正しい判断が求められる。
化学問題 III
<有機> ベンゼン環およびピリジン環をもつ化合物の構造決定
・問1、問2は平易であるため確実に得点したい。
・化合物BとFの構造決定は、(え)の条件から、化合物Bがカルボキシ基を有することに気づけるかがポイント。
・問4の化合物Iの構造決定では、(け)で与えられたヒントはわずかであるが、化合物Iの分子式および化合物Oの分子式中の酸素原子の数から、化合物Iにアミド結合が存在することを見抜けたかで差がついただろう。
化学問題 IV
<有機ミ> アミノ酸の構造決定
・難しい条件はないものの、細かな条件がいくつもあるため、それらの条件を漏れなく複合的に考慮する必要がある。
・X1とX2の決定では、X1に関する電気泳動の結果とエステル化させたあとの分子式から、それぞれのアミノ酸に含まれる炭素数を決定することができる。
・Y1とY2の決定では、Y1がα-アミノ酸以外のアミノ酸であるという条件を見落とさないよう注意したい。
攻略のためのアドバイス
2023年度の京大化学は、難度が前年比でやや落ち着いたものの、相変わらず長いリード文を正しく読解し知識を応用させて思考する必要がある、難度の高い設問が出題された。ただ、このような出題はかつての「京大化学」らしい出題であり、思考力・読解力といった力を試す内容であるという根本的な特徴は、今後も変わらないと考えられる。
京大化学を攻略するために、高校化学の内容を完全に理解したうえで、それを応用する問題に意欲的に取り組んでほしい。また、出題範囲の約半分を占める有機化学は重点的に学習し、幅広い知識とその活用力を養成してほしい。
京大化学を攻略するには、次の3つの要求を満たすことをめざそう。
●要求1● 思考力
高校で学習する内容をそのまま当てはめるだけの問題も出題はされるが、合否の決め手となるのは、高校範囲の知識を応用させて自分で考えなければならない問題である。このような問題を考える力、またそれに立ち向かおうとする姿勢がない限り、合格を手にすることはできない。
●要求2● 読解力
京大化学の大きな一角を占めるのが、空欄補充形式の問題である。また、受験生が目にすることの少ない題材を取り上げ、それを理解した上で解答する問題も出題される。初見の題材であっても、限られた時間の中で問題文を読みこなし、正確に内容を理解する力が要求される。
●要求3● 有機化学分野の幅広い知識と活用力
京大化学では、出題の約半分を有機化学が占める。高校範囲の内容理解はもちろん必須であるが、読解や思考の前提となる幅広い知識と深い理解が必要となる。構造決定問題はとにかく演習をたくさん積んでおきたい。また、天然有機化合物の分野は、基本知識に穴がないように早めに対策をしておくこと。
対策の進め方
まずは、高校化学の内容を完全に理解することから始めよう。高校化学の内容で曖昧な部分があると、●要求1●を満たすことはできない。Z会の通信教育で、基本的な各単元の理解を確認しながら学習を進めていこう。
高校化学の内容を理解したら、次に●要求1●を満たすために、Z会の通信教育、Z会の本などで、高校範囲の内容を応用させて考える問題に取り組んでみよう。このタイプの問題は問題文が長いことが多いため、並行して●要求2●を満たしていくこともできる。また、●要求3●を満たすため、有機化学の補強も重点的に行っておきたい。
空欄補充形式の中には数値計算を要するものもあるので、計算力も必要である。そのため、普段の問題演習では、実際に手を動かして計算し、計算自体にしっかり慣れておこう。
Z会で京大対策をしよう
繰り返しにはなりますが、京大化学は、長いリード文を正しく読解し知識を応用させて思考する必要がある、難度の高い問題が多く出題されます。ただ、難しい問題が多くても、平易な小問は含まれています。これらの小問をミスなく手際よく解き進める得点力も備えている必要があります。
読解力・思考力・有機化学の幅広い知識などといった、京大化学攻略に必須の力は、今後も求められることに変わりはありません。Z会の通信教育・[本科]京大講座では、対策が遅れがちな天然有機化合物や高分子化合物の範囲も扱いますし、長いリード文をとおして読解力を養う問題も出題しますので、京大化学攻略に必要な力を養うのに最適です。
また、京大は結果重視の採点のため、自己採点ではついつい単なる答え合わせにとどまりがちですが、「[本科]京大講座」では添削指導をとおして結論に至る過程のミスも分析し、得点力を高めます。「Z会の通信教育」で学習を積み重ね、京大合格を勝ち取りましょう!