執筆者:工藤琢磨(Z会進学教室 八王子教室/社会科)
記事更新日:2022年03月29日
社会科は小学校と中学校でこう変わる ~小学6年生のあなたへ~
みなさん、こんにちは。Z会進学教室で社会科を担当している工藤と申します。今回は、私から社会科の学習についてお伝えします。…とは言っても、第41回の記事で小原先生が「小学校のうちにしておいた方が良いこと」を書いているので、私は中学校で新しく学習する内容を中心にお伝えします。
社会、好きですか?
突然ですが、みなさんは社会科は好きですか?どの教科でも同じですが、特に社会科は好き嫌いが成績と直結する傾向にあります。よく「社会科は暗記科目」と言われますけど、これは半分正しくて半分間違っています。確かに、他教科と比べると社会科は「覚えることが多い教科」です。しかしながら、「覚えれば点数を取れる教科」ではありません。実際の入試では、「覚えた知識を活用しつつ、与えられた資料を分析して答える問題」が多く出題されるからです。
例えば、都立高校入試の問題はほとんどが地図や統計等の資料を活用して考察・表現する能力をみる問題になっています。(都立入試の問題は東京都教育委員会のウェブサイトに掲載されているので、ぜひ見てみてください。)この問題で高得点を取るためには、社会科の知識だけでなく考察力や表現力も欠かせません。
中学では「世界地理」の学習が始まります
さて、社会科は大きく3つの分野、「地理」「歴史」「公民」に分かれています。小学校では5年生まではおもに地理(土地の様子や産業について)、6年生では公民(政治や国際社会について)や歴史を学習してきたはずです。
中学校では、おもに中1・中2で地理と歴史(~江戸時代)、中3で歴史(明治時代~)と公民を学習します。(中学校によっては、学習の進め方が少し異なる場合もあります。)他教科の教科書は学年ごと(「中1」「中2」「中3」)に分かれていますが、社会科は学年をまたいで学習を進めることもあり、教科書が分野ごと(「地理」「歴史」「公民」)に分かれているのが特徴です。
この3分野のうち、ここから先は地理にしぼって具体的な話をします。小学校の地理と大きく異なる点として、中学校では「世界地理」を学習することが挙げられます。地理は大きく「世界地理」と「日本地理」の2つに分けられますが、小学校で学習してきた内容はほぼ日本地理のみで、本格的な世界地理の学習は中学校で行います。一般的には中1で世界地理、中2で日本地理を学習します。
実は、この世界地理の学習には注意が必要です。多くのみなさんにとっては、海外のことは馴染みが薄いからです。日本に関しては普段から様々な形で見聞きすることが多いのに対し、世界に関して目を向ける機会は少ない方がほとんどでしょう。特にこの2年間は新型コロナウイルス感染症の世界的流行もあって、海外のことを身近に感じる機会も少なかったはずです。21世紀はグローバル化(国際化)の時代だと言われますが、小学生のみなさんが世界に目を向ける機会はまだまだ少ないのが実情です。
また、英語や数学のような「積み上げ型」の教科と違って、社会や理科は中1で学習した単元をその後に改めて学ぶ機会がありません。つまり、中1で扱う世界地理は、学校では中2以降で扱うことがないのです。放っておくと中3で本格的に受験勉強を始める頃には「何も覚えていないので、またイチから勉強し直す」ということになってしまうかもしれません。そのため、Z会進学教室では中2で世界地理を詳しく扱い、中学と塾での反復学習によって知識を定着させるカリキュラムを採用しています。
なぜイギリスは北海道より暖かいのか
では、世界地理についていくつか具体的な話をしましょう。みなさんは「時差」という言葉を聞いたことがあると思います。テレビのニュースやスポーツ中継などで、日本は朝なのにある国では夕方だったり夜だったりするのを見たことがありますよね。これは地球が1日に1回転しているために起こる現象です。その結果、地球上の場所によって時刻にずれが生じることを時差と言います。高校入試では、ある2地点間の時差を計算で求める問題がよく出題されます。
この時差は各国の産業にも影響を与えています。例えば、インドはICT(情報通信技術)産業が大きく発展していますが、この理由の1つにインドとアメリカの時差が挙げられます。この2国は昼夜がほぼ反対なので、アメリカの会社が夕方にインドの会社へ仕事を依頼すると、アメリカが夜の間に昼間のインドでその仕事を進められるので、時間を有効的に使うことができます。
次に、気候についても少し話をします。みなさんは「南の方が暖かく、北の方が涼しい」という印象を持っているでしょう。これは北半球にいる人々にとっては当たり前ですが、南半球では反対に「北の方が暖かく、南の方が涼しい」ことになります。なぜなら、地球上では赤道周辺の気温が最も高く、北極や南極に近づくほど気温が低くなるからです。
また、北半球でも必ずしも北の方が涼しいとは限りません。1つ具体例を挙げるので、お手元に世界地図(日本が中心にある一般的なもの)を用意してください。用意できたら、北海道とイギリスの位置を確認しましょう。すると、北海道よりもイギリスの方が少し北に位置していることがわかりますね。あれ、でも不思議ではないですか。北海道といえば「冬は寒くて雪が多い」というイメージを持っていると思いますが、イギリスに対して雪のイメージを持つ人は少ないでしょう。実は、イギリスは北海道よりも北にありますが、北海道が「冷帯」と呼ばれる涼しい気候なのに対して、イギリスは「温帯」と呼ばれる気候に属しており、平均気温はイギリスの方が高いのです。これはイギリスの西側を流れる「北大西洋海流」という暖流の影響によるものです。今回はこれ以上の説明は省略しますが、高校入試では頻繁に出題されるテーマの1つでもあります。
小麦輸出量が多いロシア、ウクライナ
気候に関してもう1つ話をしましょう。日本は米を多く生産している一方、パンや麺類などに使われる小麦は国内消費量の8割以上を輸入に頼っています。これは梅雨や台風の影響などで年間降水量の多い日本の気候が小麦の栽培に適していないからです。そこで、アメリカやカナダ、オーストラリアといった生産国から小麦を輸入しているのです。ちなみに、現在(2022年3月)はロシアがウクライナへ侵攻したことが毎日のように報道されていますが、小麦の輸出量ではロシアが世界一、ウクライナも第5位なので、この戦いが長期化すると世界的な食糧問題が引き起こされるかもしれません。
輸出入といえば、みなさんは「加工貿易」という言葉を聞いたことがあるでしょう。これは原材料となるものを輸入し、製品に加工して輸出する貿易です。日本は資源となるものがあまり採れないので、例えば石油はサウジアラビアなどの中東の国々、石炭や鉄鉱石はオーストラリアなどから輸入しています。それらを元にして様々な製品を作り、海外へ輸出しています。日本からの輸出がさかんなものとしては自動車が特に有名で、海外では日本産の自動車がたくさん走っています。今後、みなさんも海外へ行く機会があれば、自動車に注目してみましょう。
好きこそものの上手なれ
ここまでに書いた話は中学校で習う地理に関する話のごく一部です。もしここまで読んで少しでも社会科という教科に興味を持ってもらえたら嬉しいです。そして、気付いたかもしれませんが、中学校で習うことは小学校で学習した内容とも深く結びついています。社会科が苦手な方は今のうちにもう一度小学校の教科書を読み返しておくことをお勧めします。
冒頭に書いたように、社会科は好き嫌いが成績に直結しやすい教科です。「好きこそものの上手なれ」ということわざがあるように、社会科は好きになりさえすれば成績を伸ばしやすい教科です。社会科が好きな方もそうでない方も、この記事をきっかけに社会科についてさらなる興味を持っていただけると幸いです。
この記事の著者
工藤琢磨(くどう・たくま)
Z会進学教室で中学生の社会科を担当。公立中高一貫校受検の指導も得意。新宿教室の副教室長を経て、2018年の八王子教室開校に伴い、教室長として着任。八王子教室のWebページにて【はち便り】を月1回連載配信中。