“10の視点”が新しい価値を生み出す土台になる(後編)_2016.1

NPO法人CANVASが企画・開発・運営してきたワークショップの開催数は、設立から13年間で延べ3000回にのぼり、参加児童の数は35万人に達します。そうした活動を通して、石戸さんはこれからの教育をどのような視座で見つめているのか、引き続きお話を伺います。

前編はこちら 

プログラミングも「つくる」ためのツールに過ぎない

――中央教育審議会の答申では、これからの学力に必要とされる重要な要素として、「基礎的な知識・技能の習得」とともに、「思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」が置かれています。これらはいわば「21世紀型」の能力といえるものですが、ここまでに伺ったCANVASの実践にも通じる部分がたくさんあります。

はい。私たちのワークショップでは「かんじる→かんがえる→つくる→つたえる→(再び、かんじる)」のスパイラルを基本としています。「感じる力」「考える力」「つくる力」「伝える力」、これら4つの力が育まれるカリキュラムを提供しようと試行錯誤しています。そこに重なる部分があると思います。

――一方でCANVASのワークショップは、「ワークショップコレクション」に出展するワークショップを見ても明らかなように(前編参照)、さまざまなジャンルがあることが特徴です。どのような意図で設計されているのでしょうか?

子どもたちに主体的・協調的・創造的になってもらうことに大きな目的を置いていますが、私たちが活動のなかで忘れてはいけないと掲げているのが「10個の視点」です。ワークショップにおけるジャンルの多様性は、このうちの「学び方を学ぶ」ということに大きく関連しています。

CANVASが大事にしている10個の視点

視点1 学び方を学ぶ 学びの内容ではなく、学びの方法を伝える
視点2 楽しく学ぶ 場とツールを提供すれば、子どもたちは自然と学ぶ
視点3 本物と触れる 各分野の本物に触れられる機会を大事にする
視点4 協働する 1人ではできなくても、誰かと一緒ならできると気づかせる
視点5 教え合い学び合う 教え合わせることで、知識の定着をうながす
視点6 創造する 頭で考えさせるだけでなく、必ず形にしてもらう
視点7 発表して人に伝える 成果を発表し、評価を得ることで自信を深める
視点8 プロセスを楽しむ ゴールを意識しながらも、プロセス自体を楽しんでもらう
視点9 答えはない 答えはないこと、多様性を受け入れることを大切にしてもらう
視点10 社会とつながる 子どもたちの創造力と社会の接点ができるように努める

――なぜ、学びの“内容”よりも“方法”が必要なのでしょうか?

いまの常識は10年後の非常識かもしれない。そのような変化の激しい時代においては、生涯にわたり学び続けることが大切です。だからこそ、私たちは「学び方を学ぶ」ということを大切にしています。そしてまた、学ぶことの楽しさに改めて気がついてもらいたいと思っています。

国際教育到達度評価学会(IEA)で2011年に実施された「国際数学・理科教育動向調査2011」に興味深い調査結果があります。「勉強を楽しいと思うか?」「役立つと思うか?」と聞くと、国際平均と比べて、「勉強が楽しくない、役に立たない」と回答する子どもが20~30ポイント多く、モチベーションが低いというのです。これは、とても深刻な状況だと思います。

 

実現したい未来があるなら、発信し続けよ!

――国際数学・理科教育動向調査の結果から、石戸さんが感じられたことは?

子どもたちは日頃学んだ知識を活用しアウトプットできる、その「出口」を必要としているのだと思います。学んだことをどうやっていかすのか、それを解決する方法のひとつがワークショップです。ワークショップで「つくる」ことには知識の総合力が求められます。

子どもたちは自らの探究心を源泉にワークショップを楽しむ(提供:NPO法人CANVAS)
子どもたちは自らの探究心を源泉にワークショップを楽しむ(提供:NPO法人CANVAS)

誰でも「つくる」という場面に直面したとき、自らのさまざまな知識を活用し、どのようにしてアウトプットすればよいか考えますよね? 私たちはワークショップを通し、断片的に学んできた知識を統合し、新しい価値を生み出すことができる、そのような学びの場をつくりたいと考えています。

――プログラミング教育などのIT系スキルもこれから求められていくと思いますが、石戸さんはどのようにお考えですか?

CANVASでは「PEG」(programming education gathering)というプロジェクトを展開しています。最近はSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)教育も盛り上がりを見せており、私たちのワークショップにも関連したものがたくさんあります。しかしこれらも「つくる力」を育てるための手段もしくはツールの1つに過ぎません。

もちろん、これだけコンピューターやプログラミングに囲まれた社会生活のなかでは「読み・書き・そろばん」と同様にプログラミングが大事なスキルになっていくことは確かです。しかしCANVASは特定のスキルを見にくけてもらうことを目的とはしていないのです。

今の常識は10年後の非常識かもしれません。だからこそ子どもたちには、将来何かのスキルが必要になったときに「あ、学べばいいんだ」ということに立ち戻ってもらいたい。学び方そのものを学んでいれば、自分の知らない“非常識”にも立ち向かえるでしょう。

――なるほど。では最後に、中高生とその保護者に向けてメッセージをお願いします。

CANVASを立ち上げてからの13年間を通じて改めて思うことは「願えば叶う」ということです。これまで何か足りないものがあったり、できないことが生じたりしたとき、私は多くの方に助けられました。

その経験から子どもたちに伝えたいのは、やりたいことを発信していると必ず手を差し伸べてくれる人が現れ、夢の実現に1歩近づくということ。実現したい未来があるのならば、自分の考えやアイデアを恐れることなく口に出し、発信し続けるといいのではないかと思います。

自分1人の力ではどうにもならないことがほとんどですが、まわりの人たちとのコラボレーションをカタチにしていけば、次第にいろいろなことができるようになる。皆さんにもそうあってほしいと願います。

プロフィール
石戸奈々子(いしど・ななこ)
NPO法人CANVAS理事長/株式会社デジタルえほん代表取締役
慶応義塾大学准教授

東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、子ども向け創造・表現活動を推進する NPO「CANVAS」を設立。これまでに開催したワークショップは 3000回、約35万人の子どもたちが参加。実行委員長をつとめる子ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は、2日間で10万人を動員する。その後、株式会社デジタルえほんを立ち上げ、えほんアプリを制作中。総務省情報通信審議会委員、デジタル教科書教材協議会理事などを兼務。著書に『子どもの創造力スイッチ! 遊びと学びのひみつ基地CANVASの実践』(フィルムアート社、2014年)、『デジタル教育宣言 スマホで遊ぶ子ども、学ぶ子どもの未来 (角川EPUB選書)』(KADOKAWA/中経出版、2014年)がある。

 

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