大学で学ぶ意義を自問し、常に最先端を選び取ろう(前編)_2016.3

「社会の無関心を打破する」というミッションのもと、教育、社会福祉、医療、農業など社会課題の現場に赴くスタディツアーを企画する一般社団法人リディラバ。代表を務める安部敏樹さんは、東大在学中にリディラバを設立し、現在もメディアでの情報発信や企業研修などさまざまな形で当事者意識を高めるしくみをつくるべく活動を行っています。大学時代にマグロ漁師として海に出たり、東大で「社会起業」の講義を持ったりなど、多様な経験をしてきた安部さん。変化の激しい時代における「学びの場」の選び方を伺いました。

社会課題を自分ごと化するために、乗り越えるべき3つの壁

――安部さんが代表を務めるリディラバは、どんな事業をしているのでしょうか?

「社会の無関心を打破する」というのが、リディラバのミッションです。
社会には、関心の壁・情報の壁・現場の壁、3つの壁があると僕は考えています。そもそも社会課題に“関心”がない。もしくは興味を持とうにもそのための“情報”がない。また、いざ行動に起こそうとしても、社会課題に触れられる“現場”がない。リディラバではそれぞれの壁を打ち破るために、いくつかのサービスを提供しています。

 

リディラバが考える「3つの壁」
リディラバが考える「3つの壁」

――具体的には、どのようなサービスを展開されているのでしょうか?

代表的なものが、「スタディツアー」です。保育福祉、障害者福祉、農業、環境問題といったさまざまな社会課題の現場を訪れるツアーで、数千円程度で誰でも参加できます。企業や団体向けに、修学旅行や研修旅行も企画しています。

リディラバが企画した「日本の農業の「生産性」とは?小規模養豚をこぶたと学ぶ農業体験ツアー」の様子
リディラバが企画した「日本の農業の「生産性」とは?小規模養豚をこぶたと学ぶ農業体験ツアー」の様子

これとは別に、社会課題に関心を持ってもらうためのニュースメディア「TRAPRO」を運営しており、最近では地方のリアルな口コミを掲載する「TRAPRO移住クチコミ」もリリースしました。社会課題解決のためのノウハウや人脈を提供する場として「R-SIC」というカンファレンスも、年に一度企画・運営しています。

 

“すべての人”が社会課題に触れられるしくみづくり

――リディラバの起業には、どんなきっかけがあったのでしょうか?

大学1年の夏に、人権問題を取り扱うゼミに参加したことが、今振り返ると1つの大きなきっかけだったように思います。約300名のゼミ生がいる大きなゼミで、ここでは「人権侵害」をテーマに、現場に赴き、当事者の話を聞く活動を頻繁に行っていました。そこで「社会課題を解決するには、まず現場に行かなければいけない」と感じるようになったんです。

一般社団法人リディラバ 代表理事 安部敏樹さん
一般社団法人リディラバ 代表理事 安部敏樹さん

社会課題の解決はいわゆる「ノブレス・オブリージュ(高貴なる人が果たすべき義務)」的に一部の人だけがやればいいというものではなく、「すべての人が気軽に触れられる」しくみづくりが必要だと思い、それがリディラバ設立につながっていきました。

――東大での講師経験をお持ちの安部さんですが、ご自身の経験から、大学生たちに大学で学ぶ意義をどのように伝えていますか?

「大学に通う意味がわかりません」という学生は、実際、大学にもたくさんいます。

僕は常々「起業をしたい」「お金持ちになりたい」だけなら、大学の学び以外にもっと他にやるべきことはあるし、大学に行く必要もないと言っています。「新しいビジネス、事業をつくる」という観点だけで見れば、大学へ行くことにほとんど意味なんてありません。

ただし「社会をもっと前に進めたい、アップデートしたい」という観点であれば、まだまだ大学で学べることはあります。背景や文脈を踏まえて、「人類の歴史や文化の変遷はこうだから、そのうえで世のなかをアップデートさせていくために、こういうものが必要である」というように、段階を追って考えていく必要があるからです。

過去の人たちの知が蓄えられた機関であり、同時に自由闊達な議論のできる場でもある。そして冗長性(編集部注:必要最低限のもの以外にも余分や重複がある状態)が確保されていて、自分でゆっくりとものを考える機会が与えられる。その点で、大学はこれからも必要な場です。

 

アカデミックな場を自ら探しにいこう

――逆に言うと、それらを提供するのが大学の役割ということでしょうか。

ただし、その場がいつまでも“大学だけ”であり続ける必要があるのか、という点に疑問は残ります。今は、さまざまな種類の講義をネット上で無料受講できるシステム「MOOCs(Massive Open Online Courses)」もありますし、学び方そのものも変わってきている。だから中高生が大学を目指すことだけに注視することに、いささか戸惑いを感じるんです。

特に大学生予備軍である小学生や中高生に伝えたいことは、「どこの大学に入りたいか」を探すのではなく、「今、知の最先端が研究されているアカデミックな場がどこにあるのか」を探してほしいということ。中高生が自らそれを選ばなければいけない時代になっているし、それがどんな大学にもあるわけではないと思うんです。

――そうしたアカデミックな場は、どこにあるとお考えですか。

これからは、事業モデルのなかで、そのアカデミックな研究がスタッフの意欲を引き出したり、新たな製品開発に結びついたりしているなど、組織の成長のためのインセンティブ設計と結びついている組織・企業・非営利組織がアカデミズムの一端を担っていく可能性が高いと思います。たとえば、ロボットや人工知能の研究など、昔は大学しか持っていなかった役割も、部分的に国内外の民間企業で行われるようになってきている。

僕は、リディラバも最先端を知ることのできる場にしていきたいと考えています。大学だと、文理を問わず現場を経験できるのは、せいぜい年間1回程度のフィールドワーク。一方で、リディラバのスタディツアーは数日や数時間の単位で設定しているので、行こうと思えば1週間に何度でも行けます。

当事者意識を持つために原体験の数を増やさないと、知識だけを持った厚みのない人になってしまう。そんなものに人は説得されません。そういった意味でこれからの時代で活躍する中高生に開放した学びの場をつくることも、これからめざす道の1つだと思っています。

プロフィール
安部 敏樹(あべ・としき)
一般社団法人リディラバ代表理事

1987年生まれ。一般社団法人リディラバ代表。東京大学在学中の2009年に「社会問題解決のプラットフォーム」リディラバを設立。600名以上の運営会員と150種類以上のスタディツアーの実績があり、3,000人以上を社会問題の現場に送り込む。総務省起業家甲子園日本一、学生起業家選手権優勝、ビジコン奈良ベンチャー部門トップ賞、KDDI∞ラボ第5期最優秀賞など受賞多数。
東京大学大学院総合文化研究科の博士課程では脳と社会論のインタラクションの研究に取り組む。「マグロ漁師」としての顔も持つ。著書に『いつかリーダーになる君たちへ』(日経BP社)がある。

 

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