学習指導要領から垣間見えるこれからの学び_2020.2

2020年2月24日

カテゴリー : 教育情報全般

「学習指導要領」とは何か知っていますか。
私たちが学ぶ内容をきちんと定めた「学習指導要領」が新しく改訂されます。そこで、文部科学省の板倉寛さんに、学習指導要領から垣間見えるこれからの学びについて伺いました。

 

 

学習指導要領とは

学習指導要領という名前くらいは、もしかしたら聞いたことがあるかもしれませんが、おそらく中高生の皆さんは普段は目にしないでしょうし、どういうものかというイメージがないかもしれませんね。学習指導要領というのは、法律に基づいて、各学校で教育課程(カリキュラム)を編成する際の基準を定めたものです。具体的には、皆さんのもっている時間割にある、国語や数学、外国語、理科、社会、保健体育、技術・家庭や美術などの教科等について、どの教科等のどのような内容を年間でどれくらいの時間授業をするかという国の基準を定めたものが学習指導要領です。日本は、歴史的に見ても、教育に関して非常にしっかり取り組んできた国でもあり、学習指導要領は昭和30年代にできてから、60年以上という長い歴史をもつものになっています。

学習指導要領が何のためにあるかというと、一言でいえば、全国どこでも一定レベルの教育が受けられる、つまり全国的に一定の教育水準を確保するためと言えるでしょう。日本では、都市部に住まわれている方もいれば、雪国や逆に全く雪が降らない地域もあれば、離島も中山間地域もありますね。どこで暮らしても、仮にどこかに引っ越したとしても、一定の教育水準が確保できるように、教育内容の全国的な基準として学習指導要領があるのです。

学習指導要領というのは、おおむね10年に一度くらいのタイミングで改訂されています。今回は、中学校が2021年度から、高等学校が2022年度から新しい学習指導要領が実施されますが、言ってみればこれは、この学習指導要領で定められた教育を受けた生徒の皆さんが、2030年ごろに大人になったときに、よりしっかりと未来を切り拓いていける資質を身につけることを目指して決められたものである、ということを知っておいてほしいと思います。

 

 

学習指導要領改訂の三つの柱

【図1】を見てください。これは、今回の学習指導要領の改訂にあたり、生徒の皆さんがどんな力をつけていったらよいかを三つの柱で整理したものです。

一つ目の柱は、「知識及び技能」です。皆さんが学力と聞いてまずイメージするのが、試験いわゆるペーパーテストではかるような力ではないでしょうか。漢字の書き取りや英単語のテスト、歴史に出てくる重要人物の名前や計算ドリルなど、さまざまな知識や技能がありますが、当然ながらこれらは学習の基礎となる大事なもので身につけるべきものです。ただ、そのような知識や技能というのは、学習指導要領のなかでは、身につけてほしい資質・能力の中の一部にすぎません。

今回の学習指導要領改訂で強調している二つ目の柱は、こういった知識や技能を身につけたうえで、それらをどのように使っていくかということ、つまり「思考力、判断力、表現力等」になります。知識がいくらあっても、結局、活用できなければ意味がありません。テストのときに紙の上で解答できるというだけではなく、日常生活のなかで、得られた知識をしっかり活用できるという力がとても大切なのです。

皆さんも、学校で勉強したことというのは、本当に将来役に立つのかなと、思ったことがあるかもしれません。しかし、私たちが学校で学んでいることは、その一つひとつに本質的な役割があるので、基本的には「役に立つもの」であり、無駄なものなんてないはずです。授業中も、「こんなの何の役に立つの?」と不安に思いながら勉強するのではなく、この知識をどのような時にどのようにして役立てたらよいのだろうと考えてみてはどうでしょう。そうして、自分なりに考えたことを、実際に行動につなげてみることも大切ですね。今学んでいることの本質的な役割は何かということを考えつつ、これをどうやって実際の生活に生かそうか探っていければ、これまでの学び方とは大きく変わると思います。

そして三つ目の柱が、「学びに向かう力、人間性等」です。これも、今回の学習指導要領で新しく取り入れられた重要なポイントです。これは、将来どのように社会生活を送り、世界と関わっていくのか、よりよい人生を送るにはどうすればいいのかということに向かいあっていく力です。

長い人生を生きていくなかでは、目に見えてわかりやすい力だけではなく、見ただけではわかりにくい力が実は大事だということがあります。たとえば、学びのなかでも、テストの点数のようなわかりやすい力だけでなく、難しい問題に直面したときにも我慢強く粘り強く取り組むことができるか、あるいは、自分から主体的に学習に取り組もうとしたり、グループワークなどに取り組むときに、ほかの人の意見を取り入れながら調整していくことができるか、などといった姿勢が大事になってきます。

また、ここに「よりよい人生を送る」ということが出てきますが、これも今回の改訂でとくに重視しています。学習指導要領の前文にも「一人一人の生徒が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。」と書かれています。この「自分のよさや可能性を認識する」ということ、「他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働」していくこと、こういう価値観というものが、よりよい人生につながることだと大人たちは考えている、ということはぜひ中高生の皆さんに知っておいていただきたい点です。

これら三つの柱をバランスよく育成することが、学校教育の目的でもあるわけなのですけれども、それだけではなくて、皆さんが学校の外でも何かを学ぶというときには非常に重要になってくる要素ではないかと思います。

 

 

予測困難な時代の変化に対応できる力をつける

学習指導要領の目的のなかには、「生涯にわたって学び続けること」というものがあるのですが、これは、これからの10年、20年というのは、どんな社会になっているのか、かなり予測が困難になっているということからきています。

皆さんの保護者の世代の方は、私と年齢が近い方が多いと思うので、「昔と比べてまったく変わってしまった」ということが世の中にたくさんあるというのは、おわかりいただけると思うのですが、なかでも一番大きいのは、インターネットのような情報技術でしょう。ICT技術の進展によって、私たちと情報というものの関わり方が根本的に変わってきてしまいました。私たちが子どもだったころは、テレビや新聞というメディアは今と同様にありましたが、その存在感は今以上だったように思います。社会の流れを変えるような情報というのは、マスメディアであったり、政府であったり、あるいは大企業であったり、そういう非常に限られたところだけが発信の主体であったわけで、それらの情報を見聞きするのがだいたいはテレビ・ラジオや新聞だったからです。それがインターネットの時代になって、ブログであったり、SNSであったり、動画サイトであったりと、「個人」が情報を発信できるようになって、世の中の流れを大きく変えるインフルエンサーになるチャンスというのがすごく広がってきていますよね。一方で、昔に比べると難しくなったのは、誰でも多くの人に情報の発信をするのが簡単になったがために、受け取る側は非常に多くの情報のなかで、時には疑いながらその処理をしていかなければいけなくなったことではないでしょうか。これまでは学ぶ必要があまりなかったかもしれない情報のリテラシーをしっかり学ぶ必要が出てきたわけです。

また、「グローバル化」もあります。日本だけで考えても、さまざまな人が国境を越えて行き来するようになり、人だけでなく、モノや経済活動など、さまざまなものが動くようになってきている。実際に旅行で日本に来る外国人の方も増えていますし、日本で働いたり、留学したりする外国人の方も増えてきている。そのようななかでは、よりいろいろな価値観と協調していく必要がありますね。これも、大きな時代の流れの変化かと思います。

こういった時代のなかでは、時代の変化に対応できる能力を身につけていくための学習が必要になります。変化を見極め、それに対応するために、何を学習していくか、どういう人間になっていくかということも今回の学習指導要領の改訂を検討する際には、考慮していく必要があったのです。

 

 

資質・能力ベースの学習指導要領に

今回の学習指導要領の改訂で、もう一つ大きく変わったのが、学校の授業等を通じて実現を目指す目標や内容が「資質・能力」になったということです。それぞれの教科で育成を目指す資質・能力を明確に言語化して、目標や内容をわかりやすく整理したのです。

【図2】にあるように、この目標というのが、皆さんに身につけてほしいところ、つまりこの教科で具体的に育成を目指す資質・能力です。この目標について、改訂された指導要領では、「知識及び技能」として何を身につけるのか、「思考力、判断力、表現力等」として何を身につけるのかを具体的に明らかにしました。

学習指導要領に、各教科ごとの目標のうち、どの要素がどのように必要なのかということがきれいに整理されていますので、評価の基準としても非常に利用しやすいものになったと思います。また、このように資質・能力として整理することで、学校はもちろん、保護者の方や学校を支援する地域の方、そしてもちろん生徒の皆さんなどとも教育の目標や内容について共有しやすくなったように思います。

たとえば、保護者の方や地域の方が教育に関わりたいといったときに、学習指導要領を確認することで、「学校はこういうことを目標に今、子どもたちの授業をしているんだ」ということがわかり、「そのなかでどうやってサポートができるか」ということが考えやすくなるんじゃないかと思います。「学校が何をしているのかがわからない」という状態がなくなり、「何をしようとしているかわかる」ことは、中にいる生徒の皆さんにとっても、プラスになるはずで、このことも、今回の学習指導要領改訂の一つ大きなポイントだと考えています。

しかし、同時に学習指導要領にとらわれすぎてもいけないとも思います。学習指導要領というものは基本的に「大枠」なわけですから、各学校や先生方の裁量というものもかなりあるわけです。学校の先生方には、今までの学校教育で培ってきた蓄積を生かしながら裁量を発揮していただきたいです。私もこれまでの仕事のなかで海外の学校教育などを見る機会が多かったのですが、改めて日本の学校教育のよさというのは、生徒の皆さんが学級活動でがんばっていたり、学校給食や清掃をきちんとやっている姿や、行事や部活でどれだけリーダーシップやチームワークを発揮しているかなど、さまざまな場での活動も、先生が見守っていることだと思っています。海外の学校では授業が全てのケースが多いですが、日本ではテストの点数や評定だけでなく、皆さんの授業内外での取り組みを一つひとつ受け止めて、伸ばしていくことを、日本の学校は大切にしているということなのです。

インターネットでも見られますので、ぜひ、一度、この新学習指導要領を見ていただきたいですね。私たち大人が、「皆さんにはこんな大人になってほしい」というメッセージがそこにはあります。これから、学校の学習に取り組むなかで、そのメッセージを感じながら、自分はどう力を伸ばしていくのか、考えてみてほしいと思います。

 

新しい学習指導要領」については、文部科学省のWebサイトで見ることができます。

 

 

 

▼中高生とその保護者の方向け情報誌『Z3』

この記事は、Z会の通信教育を受講する会員と保護者の皆さまを対象に年3回お届けする情報誌、『Z3』(ゼットキューブ)に掲載されたものです。
『Z3』は、さまざまなジャンルで活躍中の社会人や、同世代の声を盛り込んだ記事から、中高生が、社会をグローバルに見渡す視野の広さや次世代を担うのに必要な意志力を育むきっかけとなることを目指しています。

 

プロフィール

板倉 寛(Itakura Hiroshi)
1999年文部省(現文部科学省)入省。体育課、学校健康教育課、教育課程課係長、内閣官房副長官補室参事官補佐、島根県健康福祉部少子化対策推進室調整監、同県教育委員会総務課長、特別支援教育課課長補佐、大臣政務官秘書官、初等中等教育企画課課長補佐、在英国日本国大使館参事官(外務省出向)などを経て、現在は文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室長。

板倉さんへのインタビュー「“新しい学力”を身につけるために中高生にしてほしいこと」も合わせてお読みください。

 

 

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