“新しい学力”を身につけるために中高生にしてほしいこと_2020.6

新しい学習指導要領による学校教育が始まります。それに伴い、私たちは何を知り、どう自分の学びに生かしていけばよいのでしょうか。
新学習指導要領と社会とのつながりについて、文部科学省の板倉寛さんに伺いました。

 

 

 

学校で学ぶことの意義

みなさんは、なぜ学校で学ぶのでしょう。学校というのは、いろいろな人が集まる場所です。いろいろな人が集まることで、お互いの違いを知り、自分がどういう人かを知ることができます。さまざまな人と関わるなかでは、成長を感じることもあれば、挫折(ざせつ)もあるかもしれませんね。そうやって、試行錯誤しながら自分を伸ばしていくことができる場、それが学校だと私は考えます。
一人で教科書を使って勉強に取り組んだり、読書したり、コンピュータに向かうことで学べることはもちろん多くあります。一方で、友だちと一緒に考えたり、教え合ったりすることで学べることも同じように多くありますよね。先生の問いかけや同級生の考え方にハッとさせられることもあれば、「周りはこんなにやっているのだから自分ももっとがんばらないと」と刺激をもらうこともあるでしょうし、自分と同じような考え方や逆に全く違う考え方をする同級生の意見から、より自分の内面に気づかされるということもあるでしょう。こういった経験は、学校という「みなで教育を受ける場」があるからこそできることだと思います。

 

 

 

「コンパス」を持って自ら学びの旅に出よう

中高生のみなさんが社会に出て行くこれからの時代では、AI( 人工知能)技術の発展に伴い、働き方が大きく変わるだろうと言われています。人が今までやっていた仕事のうち、合理化できるところは、AI技術にまかせるようになるでしょう。すると、将来の仕事は今とは全く違うものになる可能性があるわけです。
また、保護者の方だとよくおわかりになると思うのですが、社会人になると、中高生のころに「自分が身につけなければいけない能力」と考えていたものとはまた違う能力を、時代の流れに合わせて自分の中に取り入れながら仕事をすることが求められます。2030年、みなさんが生きていく時代は、「将来の変化を予測することが困難な時代」などと呼ばれますが、求められる力が変わるという流れが急速になってきているように思います。そのようななかで必要とされるのが、成長し続けようとする力、自分をアップデートしていく力でしょう。【図1】の学習指導要領で育成を目指す資質・能力でいうと、「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか『学びに向かう力・人間性等』」です。

では、これからの時代に必要とされる力とはどのようなものでしょうか。国際機関である経済協力開発機構OECD が2019年5月に「Learning Compass 2030」というものを策定しました。この「Learning Compass 2030」で生徒が身につけるべきコンピテンシー(資質・能力)として、「自ら考え、主体的に行動して、責任をもって社会変革を実現していく力」を上げています。【図2】を見てください。

※「The OECD Learning Compass 2030」を元にZ 会で作成。
元の図や、動画による説明(英語)は以下のサイトで見られます。
https://www.oecd.org/education/2030-project/teaching-and-learning/learning/

 

真ん中の大きなコンパス(学びの羅針盤)をもった学習者、つまり生徒のみなさんが、知識、スキル、態度、価値という核となる基本のコンピテンシーを用いながら、「新たな価値を創造する力」「対立やジレンマに折り合いをつける力」「責任ある行動をとる力」を身につけるため、「見通し」「行動」「振り返り」のサイクルをくるくる回しながら、多くの選択肢となる道がある中で、さまざまな友人や大人のサポートを受けつつ、自分で選んだ道を歩んでいく…というところを表しています。そして、目指す先には「ウェルビーイング」(心身ともに健全で幸福な状態)があります。
そして、ウェルビーイングには、図にあるように、① 個人のウェルビーイング、② 集団のウェルビーイング、③地球のウェルビーイングの3つがあります。自分と、自分の周りの人たちと、そしてさらに広く持続可能な社会において、私たちはウェルビーイングを目指して進んでいこうという目標が表されています。世界的な学びの潮流のなかでも、「学びに向かう力・人間性等」が重要だと考えられていることがおわかりいただけるかと思います。

 

 

 

教育課程が社会に開かれたものになるために

みなさんが未来を切り拓けるように、私たちはどのような教育を行なっていくべきなのか、ということについて、多くの方たちに共感をもっていただくようにすることが大変重要です。
今回の学習指導要領では、「社会に開かれた教育課程」を掲げています。これは、学校に直接関わっていない人々にも「当事者」として、教育に参画していただきたいというメッセージが込められています。多くの方々に次世代の子どもたちにどういう学びが必要かと考えていただくことはとても大事なことですが、今回の学習指導要領の構造が、資質・能力、「何ができるようになるか」をベースとしたものになることで、より多くの方と共有しやすなったのではないかと考えています。
学校の先生はもちろん、保護者の方も、もちろん中高生のみなさんも共通の目標「~~ができるようになる」を目指してがんばる。そして、地域の方々もみなさんに必要な力を伸ばせるよう協力する。そういう流れこそが「社会に開かれた教育課程」が目指す姿だと思うのです。
教育は「自分ではない、ほかの誰かのためにがんばる」という力を引き出す側面があると考えています。「誰かのために」という大きな目標があって、そのためにがんばると思ってもみなかったような自分の力を引き出すことがあります。社会を変えていくような商品やサービスも、「誰かのために」という出発点があるから生み出されるものですよね。一人が誰かのためを思う力であったり、仲間のみんなと一緒にがんばれる力であったりが、社会をよりよくしていくためのきっかけになるといいですよね。
教育基本法では、教育の目的は「人格の完成を目指し」行われるものとされています。それぞれの人が強みとして伸ばしていくべき資質や能力は、それぞれ異なっていますし、安心して思いきって自分ならではの強みを最大限伸ばしてほしい。そのためにも、自分で課題を設定したり、それを乗り越えるためにいろいろな試行錯誤をしてみたり体験したりといった挑戦を高校生までにできるだけたくさん経験してほしいですね。失敗したってよいのです。むしろ、その方がよいくらいです。その失敗が長い目で見てより大きな成功につながる非常に重要な経験になります。

 

 

 

常に成長し続けられる人になるための土台をつくろう

みなさんはまだ今のところはサービスの受け手、消費者的な役割が中心ですが、勉強して、問題意識を磨き、その背景や意味を深く理解し、専門性を高めることで、よいサービスを作ったり、社会を形成することに関わることができるようになります。もっとよくしていくという思いをもって勉強していくことは、自分の力を伸ばすうえで重要なことだと思います。そういうみなさんが増えていけば、よりよい社会変革だって起こせるんじゃないかと思いますし、みなさん方にはその力があると思っています。
中高生のみなさんのなかには、今は勉強の目的が目の前のテストでよい点を取ることだという人もいるのかと思いますし、身近な目標に向けてがんばることは非常に大切なことです。スモールステップの積み重ねはとても大事なことです。ですが、そこはゴールではありませんし、学びというのは一生続くものです。大人になっても、自分が成長しようとする火を灯し続けていくことが、これからの時代、とくに必要だと感じています。そのための土台をつくるのが、中高生という時期であり、その土台づくりとして何をするべきなのか、どのような力をつけるべきなのか示されたものの一つが、新学習指導要領となるわけです。
教育というのは、次の世代がよりよく生きていけるようになるために行われる営みです。中高生のみなさんと同じように、私たちも次の世代の社会をもっとよくしていきたいと思っていますし、学校の先生も保護者の方もそういう思いでみなさんに関わっているはずです。みなさんもあと10年程度で社会人として世に出ていくわけですね。今のうちにどんどんさまざまなことにチャレンジしてください。そして、将来、社会人となったみなさんが中心となってつくる社会に、私も縁の下から関わり少しでもみなさんが活躍しやすくなるようにサポートできることを楽しみにしています。

 

新しい学習指導要領」については、文部科学省のWebサイトで見ることができます。

 

 

 

▼中高生とその保護者の方向け情報誌『Z3』

この記事は、Z会の通信教育を受講する会員と保護者の皆さまを対象に年3回お届けする情報誌、『Z3』(ゼットキューブ)に掲載されたものです。
『Z3』は、さまざまなジャンルで活躍中の社会人や、同世代の声を盛り込んだ記事から、中高生が、社会をグローバルに見渡す視野の広さや次世代を担うのに必要な意志力を育むきっかけとなることを目指しています。

 

プロフィール

板倉 寛(Itakura Hiroshi)
1999年文部省(現文部科学省)入省。体育課、学校健康教育課、教育課程課係長、内閣官房副長官補室参事官補佐、島根県健康福祉部少子化対策推進室調整監、同県教育委員会総務課長、特別支援教育課課長補佐、大臣政務官秘書官、初等中等教育企画課課長補佐、在英国日本国大使館参事官(外務省出向)などを経て、現在は文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室長。

板倉さんへのインタビュー「学習指導要領から垣間見えるこれからの学び」も合わせてお読みください。

 

 

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