思考力型入試にみるこれから求められる力~東大推薦入試(法学部)編~

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東京大学(以下、東大)では、多様な学生を取り入れ大学を活性化させる目的で平成28年度より推薦入試を実施しています。東大法学部の推薦入試で出題された「チケット転売問題」について、弁護士の福井健策先生にお話を伺いました。

 

 

 

 

 

平成 30 年度 東京大学法学部推薦入試 グループ・ディスカッション課題 を見る
 

「(前略)各種イベントのチケットの転売規制について、あなたは、どのように考えますか。
『チケットの転売』を規制することには、だれにとって、どのような意味をもつのか、また、それにはどのような限界や問題点があるのかについて、議論してください。」

 

 チケット転売問題とは?

 

今、例えばチケットぴあのような販売サイトあるいは主催者の直販のサイトでも人気のチケットが発売されるや否や瞬く間に売り切れてしまい、それからほとんど間をおかずに、転売サイトとか、オークションサイトなどにかなり高額で出品されるという姿が常態化しています。

どのくらいの価格がつくかというと、時には売り出し価格の数十倍、つまり数十万円というような価格でチケットが売り出されます。すぐに転売サイトに出てくるところを見ると、どうも最初から転売目的で購入しているようです。それも、おそらくは一人でかなりの枚数を買い占めていて、こういう方のことを、転売ヤー(転売するために買う人。「転売」と「バイヤー」を掛け合わせた俗称)という言い方をしたりします。

 

 

 

チケットの買い占めと高額転売がもたらす影響

これに対して、東大の問題文にもある通り、アーティストたちが反対の声明を出しました。音楽の未来を奪うという言い方をしているわけですけれども、一体何が困るかというと、直接的にはやはり収入の話をされることが多いですよね。

一万円を切るような価格で売り出したものを買い占められて、他のところで転売され、それが何十万円で売られようが、その上乗せされた数十倍の価格というのはアーティストのところにも主催者のところにも一銭も入りはしない。一方、購入者からすると、もう買い占められていますから、こういう転売サイトを利用せざるを得ないというのがだいぶ常態化していて、そこでしょうがないから数倍、ことによると、数十倍の価格で買う。

そうすると、来場者は、一枚買うので予算がなくなっちゃうわけですよね。ゆとりがあれば二度三度と行きたいわけだけれども、一枚だけで終わっちゃうと。また、ゆとりがあれば、会場に来てグッズを買ったり、そういう楽しみ方もできるわけですけれども、これもお金がなくなるからあまり買えないね、ということに原理上なるでしょう。懐の中身は一緒ですからね。

つまり、定価で売れたのだからいいじゃないかとは必ずしも言えなくて、それによって他のイベントの売り上げとか、ことによると、他のアーティストのコンサートの売り上げとか、グッズの売り上げとか、そういうところにかなり悪影響でてるよね、ということになる。

もともと、作家にしてもアーティストにしても、生活が豊かだったらそれはそれでいいのかもしれないですけれど、実際には、アーティストのいわゆる市場的な寿命はけっして長くはないので、生活が豊かなのはごくごく一握りの人たちで、武道館をいっぱいにするようなバンドでも、5年も経てば、収入的にはぐーっと減ってしまって、この仕事はもう続けられないかな、とか、コンビニでバイトしながらバンド活動続けるかな、なんていうことは十分ありうるわけですね。

スタッフも(生活の)保障がないという点では、まったくアーティストに引けを取らないわけで、正社員ですらなかったり、社会保障が十分受けられていなかったり、収入水準が低かったり、これもまたよく知られたことだと思うんですね。そうすると、主催者、アーティスト側にお金が入ってこない、むしろ他のコンサートとかグッズなどの収入が減ってしまう。じゃあ、転売での儲け分はどこにいくかというと、まったく関係ない買い占めをしたであろう人間の不労所得になっていると。これはちょっと問題があるんじゃないか、ということがおそらく音楽の未来を奪うという訴えにつながっているかなと思うんですね。

 

需給にあわせてチケットを高額にするのは難しい?

もう一つ、これは現場に行かないとなかなか通じないところかもしれないですけれども、コンサートに来場する多くのファンたちというのは、単なる商品の購入者とはちょっと違うということですね。(ファンは)コンサートを一緒に成立させる参加者という度合いが強いですよね。

ポップスなんかですと、だいたいもう総立ち状態、少なくともアリーナは総立ち。それで、イントロの一音目からドッと反応できるようなファンたちが(コンサートを)かなり支えている。同様にサビが歌えないようでは盛り上がらないわけですよね。振りはできなきゃいけない。ある種の空気感というのがわかったファンたちがいて、一緒に盛り上げる。

これは昔から歌舞伎の大向こうなんかもそうですから、よくあることですけれども、ライブイベントとは、観客がいて初めて完結する、あるいは観客が(ライブイベントを成功させる上で)何割かの比重を占めている文化や営みですよね。そうすると、価格設定はどうやるかというと、そういうコアなファン層が買えそうな価格で基本的な設定をするはずなのです。

もちろん、ジャニーズだって、人気のグループの良席だったら十万円でも売れるぐらいのことは百も承知ですよね。では、なぜ十万円で売り出さないかというと、高校生や大学生のファンが来られなくなってしまうからです。だから、一万円を切る価格にこだわって、出す。そうすると、当然、申込多数になるから抽選をする。抽選で当たった人たちに来てもらう。これによって、コアなファン層が買える価格で提供し、なおかつ、そういう人たちが、少なくとも会場の中心部にどーんといて、盛り上がる。コンサートの満足感が上がる。また行こうねっていう話になる。そういうことをおそらく考えている。これは十万で売れるから十万で売り出せ、と言って、コアなファン層をちょっと無視したような客席構成になっちゃって、それで構わないとはあまり思ってないのでしょう。

もちろん、(ファンは皆)平等でいてほしいという思いもあるでしょう。(値段が)高いからいい席にどーんと座っています、安い人は一番後ろでね、というオペラみたいな形はできればあまりやりたくないと(主催者は)思っているのかもしれない。

 

チケット転売を法律面から考えると……?

では、(こうした転売を)防げないのかというと、実際、法的にはだいぶ難しいところがあります。迷惑防止条例というのが各都道府県にあって、これはいわゆるダフ屋行為を規制しているのですが、対象は公共の場所でうろついたり行列に並んだりする行為です。

インターネットは広い意味では公共の場所なのでしょうけれども、いわゆる迷惑防止条例が従来考えてきた公の場所とは違うので、これに基づく摘発は少なくとも容易ではない。中古品の転売には免許が必要なので(古物営業法)、この免許がないということで転売ヤーを摘発したケースはありました。しかし、これはまず古物でなければいけないので、新品を買ってきて転売する人は古物営業ではないのです。ただの仕入れ販売です。だから、古物に当たらない限り、古物営業法の話は出てこない。転売チケットを買い集めて、また転売しようという人が古物営業なのです。実際、札幌で逮捕されたのはこういうケースです。転売チケットを買い集めて、さらに値を上げて転売しようということをやった人が「免許ないね」、となって逮捕されましたけれども、必ずしも多くの転売ヤーはこれでは規制できない。

昨年、逮捕され、有罪判決があったのは詐欺によるものです。
もちろん、転売するよと言って誰か買い手を見つけてきて、その人がお金を振り込んだのにチケットを渡さない、みたいな、こういうストレートな詐欺は昔から逮捕があるのですが、そうではなくて、主催者に対する詐欺だというわけです。主催者は、元々、転売目的での購入を禁止している。そういう利用規約があると。この利用規約は正しく設計すればたぶん合意として有効でしょう。じゃあ、チケット購入を申し込む行為とは何かというと、「転売目的ではないですよ」と言って申し込んでいることになりますよね。転売目的じゃないよと(いう、買う側の主張を)信じるからチケットを売って渡しているのですね。

ところが、実は転売目的なわけで、すぐに転売されていると。ならば騙してチケットを入手したことそのものが違法行為だよね、という話になって、詐欺であるという立論です。これで実際有罪判決が出た。そうした悪質なケースは確かに詐欺に当たるかな、というふうには思います。また、これは摘発例がないけれども、業務妨害罪が成立する可能性もあるでしょう。

元々はさっき言ったように、転売(されているもの)以外でチケットを買って欲しい。そういうつもりでコンサートビジネスをやっているのに、買い占め転売をされてしまう。それによって実際、労力も増えているし、混乱も広がっているじゃないですか、という意味で言うと、業務妨害という立論もあり得るかもしれない。あり得はするが、悪質なケースだと詐欺もあり得るなというぐらいで、他のケースは申し上げた通り、なかなか摘発は難しかった。ただ、だいぶ警察も本腰を入れてきたことで、チケットキャンプが廃業したというのが今年になってからの大きな動きでした。

 

東大法学部の推薦入試問題を考える

まず、規制そのものに反対する意見というのが当然あると思います。

その一つは、「これは経済原理でしょう」という意見ですね。
確かに、商品を安く仕入れて高く転売するというのは市場経済の根本原理ですから、我々はそうやって生きているわけです。よって、より高く買いたい人がいるので転売するということの何が悪いんだ、という意見はあります。特にチケット転売サイトの方からは主張されていました。なるほどと。確かに原則としてはそうでしょう。

ただ、それは買い占めを前提としても成り立つものですか、という指摘はあるだろうと思います。技術の急速な発達の結果で買い占められているわけですよね。公正な競争があった上で最高値のところにいくのが市場原理ですが、(買い占めは)公正な競争とはあまり言わないですね。情報の非対称性と言ったりしますけれど、一部の人がより高い技術とかより多くの情報を持つから買い占めができちゃうわけであって、本当に公正な競争だったら、買い占め自体ができないはずです。買い占めを何とか防止しようと言っているんだから、市場原理では答えにならないのではないですか、と。むしろ一部の人たちにわーっと買い占められてしまい、本当に欲しいなと思っている人たちが購入できないというのは、公正な競争がない、市場の失敗じゃないんですかという指摘はあり得ると思います。

もっとも、全面禁止がいいかというと、ちょっと話は変わってきます。行けなくなっちゃった人がいますよね。いわゆる「不要チケット対策」、これはやらなきゃいけないんじゃないかなと。つまり、行けなくなっちゃった人が、例えばレストランやホテルだったらキャンセルできるわけですけれども、コンサートチケットの場合には経済的な事情もあってキャンセルはお断りしているケースが普通じゃないですか。だったらせめて、行けなくなっちゃった人が定価で転売することは許すべきじゃないかと。定価転売の仕組みを導入するべきだという意見ですよね。

例えば、「チケトレ」という新しいサービスで、定額でのリセールを許すようなことも始まっています。これは非常に重要なことで、こういう仕組みが使いやすくあることで、悪質な買い占め転売だけを防止したいという動機に、正当性を与えると思うんですよ。

別な意見で、市場原理論と近いのかもしれませんが、価格をもっと上げて最初から売りだせばいいんだよという、価格の弾力化に関するものがあります。要するに、何で高額転売が成立しうるかといえば、市場での実勢価格と売り出し価格がこんなに開いているからでしょう、と。世間の人が三万円払ってもいいと思っているものを一万円で売り出すからこういうことになるんじゃないですか、と。三万円のものは三万円で売り出せばいいです。そうすれば、買い占め転売なんかしたところで利ざやはわずかしかないから、そんなビジネスは成立しないですよというのが、価格の弾力化ですね。

この点への主催者側の思いはさっき申し上げたとおり、そんなことは百も承知だよということかもしれません。

 

東大法学部推薦入試問題から見える、「東大が問いたい力」とは?

現実の身近な問題の中で、異なる立場の人たちやその意見をどう想像できるか、ある対策が誰にとってどのような意味を持つか、どこまで限界があるかというのを考えさせたかったのではないかと思われます。多くの人が(チケット購入を)経験してきているはずですから、より現実的に語ることができる題材でもありますし。

 

法律家を目指す中高生が、いま、身につけるべき力とは?

法律家は総合力です。よって、どんな専門分野につきたいと思っていたとしても、最も重要なのは、やっぱり総合的な社会人としての力だろうと思います。その意味で言うと、あらゆることが役に立つから、好きだと思うことに打ち込めばいいと思います。もし、今現在、例えば演劇をやっている人は演劇に打ち込めばいいし、本を読むことが大好きな人は本を読めばいいし、スポーツだったら、スポーツをやればいい。目の前のことに打ち込んでいる時間ってものすごく脳が回転するんですよ。時間が飛ぶように過ぎていくということに打ち込むことが、多分、いちばん脳や想像力が育つのではないかなと思います。ただ、大学入試の前は勉強に打ち込んだほうがいいと思います。現実はシビアですので。

 

 

 

 

 

 

法学部以外の学部を志望する中高生が知っておくべき法律の知識とは?

情報社会ですから、情報社会の基本法である著作権などを知っておくのは万人にとって実際おもしろいだけじゃなくて役に立つし、必須だと思いますね。

それと同様のことが言えるのが契約の知識なんですよね。難しい契約書だけじゃなくて、例えば利用規約とかね。それらの、条件を読んで理解し、ことによると交渉できる力、契約力ですね。これを義務教育から大学に至るまで16年間、ほぼ一回も教えないのが日本の教育です。

社会に出たら確実に人生で何度も節目節目で真剣に向き合わざるを得ないものを全く教えていないというのはどうかと思っています。そして、読み方一つわからない現状。法学部ですら法解釈学が中心です。言ってみれば法解釈学のアカデミズムに進む学者の卵みたいな人が知っていればいい問題を万人に教えるのが、まだまだ、法学部教育の中心だと思うのですが、現実では万人が確実に使うのはネットの利用規約の読み方や、身近なちょっとした交渉とか妥結の仕方、つまり契約力です。どんなジャンルに進む人でも、ちょっとした交渉はその後のトラブルやギスギスを防止するためにもあってしかるべきで、学んでおくべきだと思います。

 

公開日:2018/07/06

 

 

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