教科を横断して学ぶSTEAM教育とは その1

2023年9月8日

カテゴリー : 教育情報全般

 

これからの複雑で変化の激しい社会の問題を解決するために、「STEAM(スティーム)」という学びが注目されています。STEAMとは、「科学:Science」「技術:Technology」「工学:Engineering」「芸術・教養:Arts」「数学:Mathematics」の頭文字をとったもので、これらの分野を横断して学ぶことで、これからに必要な「問題を見つけて解決する力」や、「社会的な価値を創造する力」を育むことを目指しています。
今回は、このSTEAMが具体的にどのような学びなのか、また、今行われている教科の学習との関係や、STEAMの重要性が言われている中で、進路選択のあり方は変わっていくのか、などについて、NPO法人東京学芸大こども未来研究所にて、STEAM教育プロジェクトに取り組む大谷忠先生に伺いました。

 

お話を伺った方

大谷 忠先生

東京学芸大学大学院 教授 東京学芸大こども未来研究所 理事長)

2013年にNPO法人東京学芸大こども未来研究所にて「STEAM(STEM)教育プロジェクト」を立ち上げ、AWSの支援のもと、幼児教育から高校までの学校教育、社会教育、遊び場におけるSTEM/STEAM教育の教材開発・普及等を推進している。木材及び教育に関わる研究の両方に取り組み、農学及び教育学に関する2つの博士号を取得。(一社)STEAM-JAPAN理事、日本STEM教育学会編集委員等を務める。

 

取材・文:浅田夕香

 

「問題の解決の仕方を学ぶ」のが、STEAMの学びの核

--「STEAM教育」という言葉をよく聞くようになりました。これはいったいどのような学びなのでしょうか? また、なぜ今、この学びが重要とされているのでしょうか?

 

「STEAM教育」とインターネットで検索すると、さまざまな情報や定義が出てくると思います。とくに近年は、文部科学省がこれからの学びの方向性として、「STEAMの各分野が複雑に関係する現代社会に生きる市民、新たな価値を創造し社会の創り手となる人材として必要な資質・能力の育成に向け、各教科等での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な学習を推進」すると打ち出したこともあり、注目されるようにもなりました。
このような流れにあって、私は、STEAM教育の核は、「社会におけるさまざまな問題をどうやって解決するか?」という学び、すなわち「問題の解決の仕方を学ぶ」ことだと捉えています。

 

今、世の中の至るところで“新たな価値を生み出す”ことが大事になってきています。上で紹介したもの以外でも、中高生のみなさんの学習内容の指針である学習指導要領に「これからの時代を生きる人たちには、新たな価値をつくり出す力が必要だ」という主旨が書かれています。
“新たな価値”は、世の中の問題や課題を解決することによって生み出されます。だからこそ、STEAM教育の核である「問題の解決の仕方を学ぶ」ということが、これからの時代に必要になってくるわけです。

 

さらにもう1点加えると、世の中にある問題を解決しようとする際には、さまざまな場面で小中高の各教科で学んだ内容を理解していることも必要です。学校教育でSTEAMによる問題解決に取り組もうとしているのは、「これまで学習しているような知識を身につけたうえで、教科の枠にとらわれずに横断的に学んでいくことだ」と考えると、STEAMという学びを捉えやすいのではないかと思います。
つまり、問題を解決しようとするときは、教科の学びが土台となり、生かされるということでもあるわけです。各教科の学びと横断的に物事をとらえることをうまくコンビネーションさせて問題解決させるということがこれからは大事になるわけですね。

 

--STEAM教育は、これまでも行われている「総合的な学習の時間」や「総合的な探究の時間」とどのような違いがあるのでしょうか?

 

詳しく説明する前に、探究学習についてどのように捉えていらっしゃるかを確認したいと思います。みなさんは、「探究」という言葉にどのようなイメージをもたれますか?

 

--「深めて究めていく」でしょうか。

 

そうですね。ただ、探究学習において、字の通りに「深めて究めていく」と、自分探しの旅で終わってしまう可能性があるんです。
自分が疑問に思う問題を設定して、情報を集めて整理・分析し、何かが「わかった」からよかったね、となって終わる…というケースが、今の探究学習には多いのではないでしょうか。
STEAMは、この「探究」を通して「わかった」と本人が成長するうえで、自ら社会に開かれた広い問題(社会課題)に取り組み、「創造」することによって、「わかった」という成長をもっと高めることができるんです。

 

他方で、STEAMは、問題解決のための解決策を考え、まずは創造してやってみることを重視しています。そして、うまくいかなければ「なぜだろう?」と探究する。この振り返って戻る「リターンとバックの繰り返し」が、STEAMの大事なポイントです。
実技教科にたとえるとわかりやすいかもしれません。5教科では、最終的に「わかった」となる探究することを目指した授業であることが多いのに対し、実技教科は、家庭科でも技術科でも、「わかった」となることを目指した授業より、創造する授業が多いんですよ。
たとえば、家庭科の調理実習で味噌汁をつくるときは、味噌汁の作り方を理解して終わる、ということはありません。手順を理解したら、どうやってつくるか計画を立て、完成したら味見をしておいしくできたかどうかを検証します。そして、おいしくできなかったときは、「なぜおいしくできなかったんだろう?」と分析します。
このときに、“探究のスイッチ”が入ります。原因を分析したり、味噌汁のおいしさを生み出すものが何かを探究したりして、その結果を調理の創造に反映していく。
STEAMは、このように自分の考えやアイデアを形にして創造してやってみる。そのワクワクする過程で探究すべきこと・したいことが出てきて探したり、調べたりしてみる。また、探究して何かがわかったら、形にするアウトプットに還元していくという学びなのです。

 

--STEAM教育が注目されると、「これは文理融合・文理横断の学びである」といった説明も聞こえてくるようになりましたが、これはどういうことなのでしょうか?

 

そもそも「STEAM」と言われるようになる前、「STEM(ステム)教育」と言われる時代がありました。
このSTEM教育は、新しい価値を生み出すために、問題を解決して新たな価値を生み出すことを仕事にしている人々、すなわち科学や工学分野の研究者や技術者の手法を学び、取り入れるべきだという考えから、生まれた教育です。これには、「A」が含まれていません。
科学や工学分野の研究者や技術者は、新しいものを生み出すための科学的・工学的方法をよく知っている人たちですが、その気質として言われがちな特徴があります。
何だと思いますか? 素直に言っちゃってください。

 

--「堅い」などでしょうか?

 

そうです。私も研究者の一員ですが、研究者や技術者は、科学的・工学的な方法によってきちんと結果を出さないといけないことが多いので、どうしても堅くなりやすいんですよね
他方で、これからの社会においては、もっと人々の心に寄り添い、人々が心身ともに豊かに暮らしていくために本当に必要なものを生み出していくことが大事になってきます。でも、従来の研究者や技術者といった堅い人たちだけだと、それができない場合がある。
そのときに必要なのが、STEAMの「A」なんです。

 

STEAM教育における「A」には、芸術(Art)の「A」と、教養(Liberal Arts)の「A」の両方が含まれていると文部科学省は定義しています。
科学的・工学的手法で新しいものを生み出していく手前のところで、「世の中を豊かにしていくために、自分たちはどうありたいのか」という思いを引き出せるようなアートの力や、「こういう世の中にしたい」というビジョンを描いて実行していくうえで、過去に似たような挑戦をした歴史やそこから生まれた文化に学び、教訓を生かせるだけの教養が、豊かな社会をつくったり、思いを実現したりするには必要だということです。
だからこそ、STEMではなくSTE“A”Mであり、文系的な知見と理系的な知見を融合して、よりよい社会をつくっていかなければならないという考えが根底にあるのです。
ちなみに、私は教育学の研究と、木材を材料として活用する理系の研究を行っています。木材の研究が具体的にどのような研究かというと、木材を今よりも多くの場所で使っていけるようにするための研究をしています。
今までは、木材は水を吸う性質を持っているために、変形してしまう、割れてしまうということが起きて、材料として使うときに困ることがよくありました。また一方で、木材は木から取り出して使いますが、木は光合成をして炭素を吸収するため、木材は炭素を吸収した材料と言うことができます。そのため、木材をより多くの場所に使って第二の森林をつくっていけば、炭素を吸収・固定して温暖化を防ぎ、脱炭素社会の実現にも大きく貢献できるという考え方が最近注目されるようになってきました。

 

そこで、私が今一番力を入れているのが、木材のわずかな表面だけを摩擦処理して、物理的にも化学的にも性質を変え、水をはじくようにするという研究です。そうすると、屋外でも使えるようになりますよね。
この研究を進めるにあたり、「木材の表面を摩擦処理して新しい表面をつくるための方法」を「創造」し、この方法を実現するために「どのような摩擦処理をすれば、水をはじく表面になるか?」ということを「探究」しています。
前者は、こうありたいと願い、どうしたらそれが実現できるかということをデザインする創造活動であり、後者は仮説を立てて実験を行い、現象を解明する科学的な探究活動で、いずれも問題解決の活動です。

 

このように、我々の生活や社会に役立つための研究を進めるには、創造する活動や、探究する活動など、創造と探究が繰り返される中で問題解決が行われるのです。
STEAM教育で大事にしなければいけないのは、研究して「なぜだろう?」ということを明らかにする問題解決だけでなく、「研究結果を世の中でどう使えるのか?」「開発した新しい手法によって、どうやったら社会に新しいモノや価値を生み出すことができるか?」という社会に役立つ問題解決も考えるということです。
この点で、私が行っている木材の研究は、生活や社会に役に立つように創造や探究を繰り返す問題解決の活動であり、まさにSTEAMなんです。そうやって、自身の研究に取り組む中でSTEAM教育の本質や考え方をつかみとってきた感覚があるので、皆さんにもこうやってちょっと自信をもって、偉そうに話しているんだと思います(笑)
研究も、基礎的な研究に始まり、社会に還元するところまでを考える研究まで、広範囲の研究があります。STEAM教育が今なぜ注目され、どうしてSTEAMの中にTやEがあるのかは、研究した成果などを世の中に役に立つものにまでアウトプットすることによって、新たな価値を生み出すことができるからです。また、STEAMにAがあるのは、どのようなありたい姿を描くかまでを考えて、世の中に本当に役に立つ価値を生み出すことによって、人々の心を豊かにする社会ができるからです。

 

教科を横断して学ぶSTEAM教育とは その2はこちら

 

Z会の通信教育中学生向けコースは、STEAM教育にも力を入れています。

「科学:Science」「技術:Technology」「工学:Engineering」「芸術・教養:Arts」「数学:Mathematics」の5つの要素を含む総合的なテーマを題材に映像講義を配信。多角的な思考について探究します。

 

 

 

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