教科を横断して学ぶSTEAM教育とは その2

2024年1月11日

カテゴリー : 教育情報全般

教科を横断して学ぶSTEAM教育とは その1はこちら

 

これからの複雑で変化の激しい社会の問題を解決するために、「STEAM(スティーム)」という学びが注目されています。STEAMとは、「科学:Science」「技術:Technology」「工学:Engineering」「芸術・教養:Arts」「数学:Mathematics」の頭文字をとったもので、これらの分野を横断して学ぶことで、これからに必要な「問題を見つけて解決する力」や、「社会的な価値を創造する力」を育むことを目指しています。
今回は、このSTEAMが具体的にどのような学びなのか、また、今行われている教科の学習との関係や、STEAMの重要性が言われている中で、進路選択のあり方は変わっていくのか、などについて、NPO法人東京学芸大こども未来研究所にて、STEAM教育プロジェクトに取り組む大谷忠先生に伺いました。

 

お話を伺った方

大谷 忠先生

東京学芸大学大学院 教授 東京学芸大こども未来研究所 理事長)

2013年にNPO法人東京学芸大こども未来研究所にて「STEAM(STEM)教育プロジェクト」を立ち上げ、AWSの支援のもと、幼児教育から高校までの学校教育、社会教育、遊び場におけるSTEM/STEAM教育の教材開発・普及等を推進している。木材及び教育に関わる研究の両方に取り組み、農学及び教育学に関する2つの博士号を取得。(一社)STEAM-JAPAN理事、日本STEM教育学会編集委員等を務める。

 

取材・文:浅田夕香

 

STEAMの学び、そして教科学習の取り組み方

--STEAMの学び方がこれから重視されるようになる一方で、まだまだ科目ごとに知識・技能を習得する段階にある中高生は、今後どのような意識で学んでいくのがいいのでしょうか?

 

一つは、「総合的な学習の時間」や「総合的な探究の時間」のなかで、STEAM的に問題解決に取り組めるといいのではないかと思います。
自分の関心のあることや、好きなことで、社会に役立てるような何かをやってみる。その過程においては、たとえば「社会科で学ぶような何かを調べないと先に進めない」など、各教科の知識を得なければ解決できない場面に出くわし、探究する必要が出てくるでしょう。

 

まず、何かをやってみて、どうしてうまく行かないんだろうとリターンして考える、またバックしてやってみる、これらを繰り返していく中で、「社会科のこの知識はここで使われてるんだ!」「数学で学んだあの知識はここで活用するといいんだ!」などと教科との関連に気づくと、教科学習の意義を感じますよね。そうです、自分が理解した成長のあかしであり、確認です。
今「この科目って学ぶ必要ある?」と思っているような科目の学び方も少し変わってくるかもしれません。
ただ、今の「総合的な学習の時間」や「総合的な探究の時間」では、探究学習が調べ学習にとどまってしまい、学校ではまだそこまでSTEAMについてはふれられないというケースもあると思います。自分の成長が確認しにくいんです。
その場合、学校の外で、自分の興味・関心のあることについて、何かを形づくったり、創造したりといったことをやってみるのはどうでしょうか。

 

たとえば、家族が食べたい料理を作ってみたり、飼っている犬の犬小屋を買うのではなく自分で作ってみたりと、身近な生活の中で「失敗してもいいからやってみよう」とトライしてみる、創造してみる、デザインしてみるのです。
料理をするにしても、犬小屋を作るにしても、創造活動をするときは、材料を買いに行って揃えるところから始めなければなりません。そうして進めていくと、うまくいけばワクワクするし、「うまくいかないな」と思ったら「なぜ」とそこから探究が始まります。何度も言いますが、うまくいかなかったときの「なぜ?」を大切にして、探究することと、探究してわかったことを活用して、創造に生かすことを繰り返すのが大事なところですよ。

 

いろいろと実践してみることを英語で“hands-on”と言いますが、アメリカのシリコンバレーのテクノロジーに携わる企業が先進的なイノベーションを起こせるのは、とにかくhands-onでやってみるからこそだと言われています。
あとは、学校でも、学校外でも、探究活動や創造活動を行っていく中で、特定の分野や科目の知識が必要だと感じたり、「もっと仕組みを知りたい」「原理・法則を知りたい」と思ったとき、関連する科目の先生に質問しに行くなど、知識を得るために積極的に行動することもぜひやってほしいと思います。
それが、自分のありたい姿を探す“A”の始まりにもなります。

 

文理選択は、自分の興味・関心にしたがって行おう

--とはいえ、文系のほうが得意、理系のほうが得意といった傾向はあると思います。それでも、STEAM教育では、文理とも偏りなく学ぶことが求められるのでしょうか? 苦手科目や興味をもてない科目に対してはどのように向き合えばいいのでしょうか?

 

難しい質問ですね。苦手なものは苦手ですからね。100%得意にすることはできませんよね。
先ほど話した、STEAM教育における探究活動や創造活動に没頭することを通して、その中で苦手科目に関連する内容が出てきたときに、ワクワクする思いで苦手を克服することによって、そこから苦手意識を減らしていくというのは一つの手ですね。わたしも昔、よくものづくりをして、どうしても電気の配線を知る必要が出てきたとき、夢中で苦手な電気の本を読んだのを覚えています。

 

あとは、グループの中で互いに苦手を補い合って問題解決をしていくことも大切かと思います。私たちは、企業や大学などさまざまな集団において、自分たちの社会や生活をどうしたいのか、またそこに自分たちはどのように関わっていくのかというありたい姿を考え、その姿に共感・共鳴する人たちと一緒に問題解決に取り組んでいます。

 

そこでは、ありたい姿の大枠は共通していても、その詳細や思いの大小は、個々のメンバー間で微妙に異なっています。当然ですよね。ここがとても大事で、このようなときは互いに意見を聞き、折り合いをつけながらありたい姿を目指す必要がでてきます。それが、社会協調であり、協働であり、共生なんですよね。

 

そして、この社会協調や協働、共生は、学校教育の中でも皆さんは経験しています。たとえば、グループで何かに取り組む際、「自分はこれが苦手だから、得意な〇〇さんにやってもらおう」などと、互いに苦手なことを補いながら取り組んでいきますよね。そうした、互いに補い合う方法を学んでいったり、得意な人のやり方を横で見て一緒に学び合っていったり、ということも、苦手意識を克服する方法の一つになると思います。

 

また、STEAMの学びや、文理横断、文理融合という言葉について誤解してほしくないのは、「これからは文理融合、文理横断が大事だから必ず全教科学ぼうね」ということではないということです。

 

ここまで話してきた文理融合、文理横断というのは、たとえば理系に進んだ人が「私は将来工学部に入って、モノづくりの勉強がしたいから数学だけ勉強しておけばよい」なんて思っていたら大間違いです。モノをつくるうえでは責任や倫理も重要であり、その重要性は、歴史や文化に学ぶことができるという考えを理系の人ももっていなければならないということです。

 

文系に進んだ人も、「わたしは世界を旅することがとても好きだから、観光学部に進学して観光業に就くので、数学なんていらない」と思っていたらダメなんです。本当に、世界の素敵なところに人々を連れて行って心から喜ばせてあげたいなら、ビッグデータに基づいて、どのような旅が人々に好まれるのかを分析してプランを企画するなど、理系的な観点から物事を捉えることも必要だという意味での文理融合、文理横断です。

 

したがって、文理どちらに進んでも両方の発想や両方のことを理解できることが必要なんだと思います。そのことを念頭に置いて各自の進路を選ぶことが大事で、自分の興味・関心などに基づいて文理選択をし、大学でその専門性を高めていくことはとても大事です。
そして、自分の専門性を活かして社会に出た後に、いろいろな問題解決の活動に取り組むことになります。社会は問題解決のかたまりです。その時に、各自の専門性を持ち寄ってありたい姿を描き、目指していくということを通して、文理が融合したり、分野横断が起こったりするのです。この時に文理両方の発想や両方のことを理解できる柔軟な考え方が必要になるんです。

 

他方で、「数学が嫌いだから文系に行く」「好きだから理系に行く」といった一元的な捉え方だけに偏りすぎて、お互いの発想や理解を閉ざしてしまわないようにすることが大切かなと思います。
それから、文理を問わず苦手意識をもたないでいてほしい分野があります。それは、データサイエンスをはじめとしたICT活用に関する分野です。この分野の知識・技術は、今、何をするにしても必要になっているので、文理問わず、どんな道に進むにしても苦手意識をもたずに扱えるようになっていかなければならないものだと考えてほしいです。

 

Z会の通信教育中学生向けコースは、STEAM教育にも力を入れています。

「科学:Science」「技術:Technology」「工学:Engineering」「芸術・教養:Arts」「数学:Mathematics」の5つの要素を含む総合的なテーマを題材に映像講義を配信。多角的な思考について探究します。

 

 

 

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