物理 – 共通テスト(2023年度)の分析&対策の指針
投稿日時:2023年2月1日
Z会の大学受験生向け講座の物理担当者が、2023年度の共通テストを分析。出題内容や「カギとなる問題」の攻略ポイント、次年度に向けたアドバイスなどを詳しく解説します。
共通テスト「物理」の出題内容は?
まずは、科目全体の傾向を把握しましょう。分量・問題構成、難度などを解説します。
試験時間と配点
時間 / 配点:60分 / 100点
全体の傾向
●物理の各分野から幅広く出題された。2023年度は、原子が第1問の小問集合で扱われた。
●取り組みやすい設問が増えたが、ボリュームが増したため、難易度は2022年度共通テストと同程度。
●設問数は20問のまま変更なし。マーク数は25から26に微増。ただし、組合せで答える設問が増加したので、全体的な分量はやや増加した。
●2023年度も、中問(A・B)に分かれた大問はなかった。
●探究活動、実験に関する設問が増加した。会話文もあり、学校の探究活動で行う実験、考察を意識した問題になっている。与えられた表の読み取りや活用、予想が違っていたと判断する根拠に関する考察、グラフを用いた測定値の導出など、知識や典型問題の定着度ではなく、論理的思考力や情報の運用力を測る共通テストの出題方針に変わりはなかった。
●問題のページ数が増え、問題文を読む量と状況把握の負担は増加した。一方、説明が丁寧であったこともあり、探究活動、実験に関する問題では、方針が立てやすい設問も見られた。
物理の「カギとなる問題」は?
次に、物理で「カギとなる問題」を見てみましょう。共通テスト特有の問題や、合格点をとるうえで重要な問題を取り上げ、攻略ポイントを解説します。
第2問の問3
予想した結果と異なると判断できる根拠を選ぶ問題が出題された。仮定が抵抗力の大きさRと終端速度vfの間の比例式であり、よくある設定なので、予想と異なると言われて戸惑った受験生がいたかもしれない。また、終端速度vfとアルミカップの枚数nのグラフから根拠を見つけなければならず、議論の流れを正確に把握した上で根拠を考える必要があった。
第4問の問3
電気容量を求める計算の手順に関する問題が出題された。電流の定義より、導線を単位時間に通過する電気量が電流であるが、この知識をI–tグラフに応用する運用力が試された。かなり丁寧な誘導がなされており、誘導に乗ることができれば困ることはないが、電流の定義を、導線に定常電流が流れる場合でしか使ったことがないと、誘導の意図がつかめず苦労したかもしれない。
第4問の問5
生徒の会話をもとに、より正確に電気容量を求める工夫を考える設問で、情報量が多く、問題文の意図が読み取りにくかった。短い試験時間の中で長い問題文を読み、情報を集めて答を導き出すのは難しかっただろう。
大問別ポイント/設問形式別ポイント
次に、物理の出題内容を詳しく見ていきましょう。各問の難度や求められる知識・考え方を解説します。
第1問:小問集合 [やや易]
・小問集合は力学2問、電磁気1問、熱力学1問、原子1問の5問が出題された。
・すべて典型的な設問である。
・問2の仕事の総和と熱量の総和の比較、問3の運動量の総和と力学的エネルギーの総和の比較、問4の正負の荷電粒子の円運動の向きや半径の大きさの比較など、2つの物理量の比較に重きを置かれた出題であった。
・典型的とは言え、定性的な理解がないと、時間短縮のために式を立てずに考えて思わぬミスをする可能性があった。
第2問:空気中での落下運動に関する探究 [標準]
・問1は先生の発言の空欄を埋める設問。初速度0で落下し始めた物体が一定の速度で落下するようになるまでの、抵抗力の向きや大きさの変化、加速度の大きさの変化を確認する。基本的。
・問2は終端速度の大きさを、与えられた表から必要な値を読み取って計算する設問。作業はシンプルなので、状況把握および数値計算をスムーズに行いたい。
・問3は予想した結果と異なると判断できる根拠を選ぶ設問。2ページ前の問題文の生徒の発言に「そうすると、vfがnに比例することが予想できますね。」とあることを思い出し、そうなっていない選択肢を根拠として選ぶ。選択肢には、図の状況の説明としては誤りではないが判断の根拠にならないものが含まれており、議論の流れを把握できているかどうかが問われた。正解の選択肢も素直な表現ではなかった。
・問4は速さの2乗に比例する抵抗力のみがはたらく場合、縦軸と横軸をどのようにとれば、グラフが原点を通る直線となるかを考える設問。学校の探究活動でのグラフ作成の経験を生かして解答する。探究活動での経験がなくとも、与えられたvfの式と選択肢から、解答方針は立てられる。
・問5は抵抗力の大きさRと速さvの関係を求める手順を確認する設問。ポイントは、速さvと時刻tのグラフから加速度の大きさaを求める手順について理解しているかどうか。問1で確認したように、加速度の大きさが変化することを押さえた上で、各選択肢を慎重に吟味する必要があった。
第3問:斜め方向のドップラー効果 [標準]
・問1は力学の設問で、円運動する音源にはたらいている向心力の大きさと向心力がする仕事の組合せを求める。基本的。
・問2は音源の等速円運動にともなって観測者が測定する音の振動数に関する設問。斜め方向のドップラー効果は教科書では発展事項として扱われるが、問題文に与えられた考え方を用いて定性的に解く。速度の直線PQ方向の成分を正確に把握できれば解答は容易である。問2以降は全体的に、難関大志望者にとっては演習経験のあるドップラー効果の問題で、取り組みやすかったと思われる。
・問3はドップラー効果の式を用いた計算問題。共通テストにしては計算処理が多い。音源の振動数f0が、fAの選択肢中にはあるがvの選択肢中にはないので、答に使う文字に注意が必要。
・問4は音源と観測者を入れかえ、静止した音源からの音を等速円運動する観測者が観測する場合の振動数についての定性的な設問。問2と同様に考える。
・問5は音の速さや波長についての理解を問う定性的な設問。音の進む速さは媒質(空気)の状態によって決まり、音源の運動する速さによらないことが重要で、ドップラー効果の式の導出の考え方を生かして解く。ドップラー効果の式を丸暗記だけしていた人には考えにくい設問であった。
第4問:コンデンサーの電気容量を測定する実験 [やや難]
・問1は平行平板コンデンサーにガウスの法則を適用して電気容量を求める設問。教科書の説明を記憶していなくても、公式から答にたどりつくことが可能であった。基本的。
・問2は与えられた図や問題文から必要な情報を見抜く力が問われた。演習問題で多く扱われるテーマであり、解きやすい。
・問3は電気容量を求める計算の手順に関する設問。電流の定義の知識を、電流Iと時間tのグラフの面積と電気量の関係として理解し、I–tグラフに応用する運用力が試された。
・問4は指数関数的に変化する電流に関する設問。放射性原子の半減期と同様の考察を行うが、厳密な計算をするのではなく、おおよその時間を見積もる柔軟性が要求された。
・問5は生徒の会話をもとに、より正確に電気容量を求める工夫を考える設問。情報量が多く、問題文の意図が読み取りにくかったと思われる。「最初の方法」が、問3で「t=120s以降に放電された電気量を無視」する方法であったことを覚えていれば、最後の設問の答は容易にわかる。
攻略へのアドバイス
最後に、次年度以降の共通テストに向けた攻略ポイントを確認しましょう。物理で求められる力をふまえて、必要となる対策を解説します。
知識や公式の抜け・漏れをなくし、基本問題を確実に解答できる力を身につける
共通テストは思考力が問われる問題が多いが、それ以前に考える材料となる知識や使うべき公式を正しく身につけていなければ太刀打ちできない。まずは基本問題の演習を通して、知識を定着させ、公式をすぐに使用できる状態にしておくことが最優先である。
実験を行い、図やグラフを用いて情報を整理したり、議論をしたりする機会を増やす
実験を行い、図やグラフを用いて情報を整理したり、議論をしたりする機会を増やすことが重要である。実験では、教科書の結果と一致することを確かめるだけではなく、誤差が生じた原因はなぜか、実験結果から新しい仮説が考えられないか、その仮説が正しいことを検証するためにはどのような実験を行えばよいか、あるいは反証するためには何を考えればよいか、などの発展的な考察もぜひ行ってほしい。
様々な物理現象を言葉で説明する訓練をする
共通テストは全体的に計算量が少ないため、物理現象を言葉を用いて説明する訓練が重要である。友達どうしでわからない問題を教え合うなどして、物理現象を自分の言葉で説明をする機会を増やしてほしい。
また、教科書傍用の問題集に取り組むときも、ただ場当たり的に問題の解き方を身につけるのではなく、「どのような条件のときに運動量保存則が成立するのか」「運動の向きを変化させる原因は何か」など、物理現象の根本的な部分を意識・理解しながら取り組んでほしい。
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