Z会の大学受験担当者が、2022年度前期試験を徹底分析。長年の入試分析から得られた知見もふまえて、今年の傾向と来年に向けた対策を解説します。
今年度の入試を概観しよう
分量と難度の変化
- 分量:増加
- 難易度:やや難化
2022年度入試の特記事項
- 【1(B)長文読解】ダミー選択肢の数が3つから1つに減った。整序問題の語数が大幅に増えた。また、選択肢も含めた全体の総語数は5の長文読解とほぼ同じだった。
- 【2(A)自由英作文】意見陳述(賛否)型のオーソドックスなスタイルとなった。
- 【3 リスニング】3つのパートがすべて独立した内容となり、対話形式が姿を消した。
- 【4(A)文法】4年連続で正誤問題が出題された。
- 【5 長文読解】ジェンダーについての筆者の経験を語ったエッセイであった。
合否の分かれ目はここだ!
- 例年通り、英語の発信力・受信力・批判的な思考力を試す問題がバランスよく出題された。
- 大問別に見ると、2(B)、4(B)などは取り組みやすい問題であった一方、1(B)、2(A)、3(B)、4(A)は昨年度よりやや難化した。
120分という限られた時間内でこれだけの問題をこなさなければいけないことを考えると、決して時間的余裕はなく、負担感の多い問題構成であることは例年と変わらない。取り組みやすい問題をできるだけスピーディーに処理し、確実に得点した上で、負担感の大きい問題にかける時間を確保したい。
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大問別のポイント
1(A)要約
- 約410語の「食と人間の営みの関わり」についての英文を読んで、70〜80字の日本語で要約する問題。昨年度のような「まとめるべき内容」についての指示はない。
- 英文では、生きるために必要不可欠な「食」にまつわる活動が人間に与えてきたさまざまな影響が述べられている。
- 英文の内容は比較的理解しやすいが、制限字数内に収めるためポイントを絞って取捨選択する作業は困難だったと思われる。
1(B)長文読解(文補充、語句整序)
「会話の切り上げ時に関する心理学的研究」について論じた英文。語数は選択肢を含めて約990語で昨年度より100語以上増加した。英文テーマ、パラグラフ展開共にわかりやすかったため、内容把握はそれほど難しくはなかっただろう。
- (ア)は例年出題されている文補充。ダミー選択肢は昨年度の3つから1つに減った。ダミー選択肢1つになったのは2017年度ぶりである。空所には肯定文と疑問文のうちどちらが入るのか、前後の文脈から判断することができるが、ダミー選択肢を見極めて正解にたどり着くためには、パラグラフ展開に着目して選択肢を吟味する必要があり、手間がかかった。
- (イ)は2020年度から3年連続で1(B)での出題となる語句整序。語数はこれまでで最も多い11語であった。have が2回与えられており戸惑ったかもしれないが、文脈から空所(イ)の意味する内容を推測することは可能だっただろう。その上で与えられた語群から、would like 目的語 to do(目的語に〜してもらいたい)という表現が使えることに気づき、適切に変形できたかがポイントとなった。
2(A)自由英作文
「芸術は社会の役に立つべきだ」という主張について、どう考えるか(賛否)を理由とともに述べる自由英作文。
- 解答の語数は昨年度と変わらず60~80語。普段から「芸術」という抽象的なものについて考えていないと、短時間で説得力のある内容にまとめるのは困難だろう。
- 文法・語法のミスなく、読み手が納得しやすい形で論理的に述べることが求められた点は例年通り。
2(B)和文英訳
下線部の日本語を英訳する問題。昨年度と同様に和書からの引用文で、出典は、多和田葉子『溶ける街 透ける路』。
- 昨年度に続き、比較的英訳しやすい日本文であった。「それはそれでいいのだが」の部分は戸惑ったかもしれないが、前文とのつながりを考慮して訳出することが必要であったとはいえ、難解な表現を使う必要はなく、全体として大きな困難はなかっただろう。
- 1文が長いので、2文に分ける等、英文の構成を考慮する必要があった。
3 リスニング
昨年度同様、出題形式はすべて英問英答の選択式。問題数は各5問あり、選択肢はそれぞれ5つあった。
(A)(B)が内容的に関連した対話、(C)が講義というスタイルが続いていたが、今年度は(A)、(B)、(C)すべて独立した問題となった。これは2014年の出題以来である。また、(A)はモノローグ、(B)と(C)は講義であり、2人以上の対話は姿を消した。
設問の該当箇所を特定しやすい問題が中心であったが、選択肢が紛らわしく、解きづらい問題も含まれていた。
(A):オウム貝の一種(crusty nautilus)の生体発見の記録
- 選択肢の長さは昨年度よりやや増えて13〜15語程度となり、その分選択肢の吟味に時間がかかり、難しく感じたであろう。
- 流れる英文に語注付きの難度の高い単語が含まれていた。
(B):思考中に行っていること
- (A)同様に選択肢は13〜15語程度と長く、やや抽象的な内容の講義のため判別が難しかったものもあった。
- (12)(14)(15)は、研究者の氏名が登場する箇所に注目すれば、聞き取る箇所の特定はしやすかったと思われる。一方、(11)(13)は選択肢の絞り込みが難しかった。
(C):科学捜査とそれに関する誤った認識
- 5問中4問は内容一致で、残り1問は内容不一致であった。
- 設問は講義の順序通りに並んでいて、取り組みやすい問題であった。
4(A)文法
4年連続で、英文中の下線部から誤りを含むものを選ぶという正誤問題が出題された。英文は5つの段落に分かれており、各段落にそれぞれ5つの下線が引かれているという点も例年通り。
- 「公開討論の重要性」について述べた英文。語数は約590語で、昨年度より増加している。
- 問われている文法・語法のレベルは概ね基本的なものだが、文法・語法面からだけでなく文脈の面からも誤りの有無を判断する必要があること、また、英文自体がやや把握しにくい内容であり、誤りを含まない箇所についても「正しい」と確信を持ちにくいことから、正解を導くのにしばしば苦労する。確かな文法・語法知識と高い読解力の両方が求められる設問である。
4(B)英文和訳
「子どもを読書好きにする方法」に関する約330語の英文。
- 和訳する下線部は3箇所で、例年と変化なし。語数は昨年度よりやや増加した。
- 訳しづらい表現はあったが、全体として文構造の把握は難しくなかった。
- (ア)では so が指す内容を明らかにしなければならなかったが、文脈から推測しやすく、それほど苦労しなかっただろう。
- (イ)の calling の訳出には工夫が必要だっただろう。
- (ウ)では whether through 〜 restrictive policies をどのように訳すかがポイントとなった。
5 長文読解
自らの性別に違和感を持っていた筆者が、幼少期の経験について書いたエッセイからの出題。英文語数は約960語。
- 英文中の場面が頻繁に切り替わる上、過去の内容でも現在形で描写されている部分があるため、各場面の時系列を整理して正しく内容を把握するのがやや難しかっただろう。
- 客観式問題+記述式問題混合。形式・分量ともに、昨年度からほぼ変化はない。
- 英文の内容把握がやや難しかったものの、設問は比較的取り組みやすかったと思われる。とはいえ、客観式問題の(D)については一部紛らわしい選択肢も見られ、注意が必要であった。
攻略のためのアドバイス
東大英語を攻略するには、次の3つの要求を満たす必要がある。
●要求1● 「基本=易しい」と甘く見てはいけない。
難易度が高い語彙はあまり登場しないが、文脈の把握が難しい英文を題材にしたり、基本語の盲点となる用法を設問としたりすることがあり、基本事項の習得が疎かだと得点を伸ばすことができない。
●要求2●高度なリスニング力を身に付けよう。
東大のリスニングは、放送時間が長いのに加え、聞き取り問題として扱うには高度な英文を題材にしており、解答には高度なリスニング力が求められる。差がつきやすい問題の1つなので、対策には十分時間をかけておく必要がある。
●要求3●時間管理力を付けよう。
東大入試英語の最大の壁は、与えられた試験時間内に膨大な問題に適切に解答できるかどうかである。
まずは時間を意識して問題を解くこと。大意要約や自由英作文など記述に時間がかかる問題も含まれているので、日ごろから答案作成→第三者による添削→添削内容の習得・答案改善のサイクルを築いて、質の高い答案を迅速に作成できるようになっておかなければならない。
対策の進め方
まずは基礎力の完成を目指すこと。文法事項を網羅的に習得した上で、さまざまな英文を正確に読めるようにしておこう。また、対策にあてた時間が得点に直結しやすい要約・自由英作文の記述対策にも早い段階から取り組んでおきたい。
基礎力が身についたことを実感できるようになったら、答案の精度を上げていく一方で、時間管理力をつけるために時間を計って演習し、自分の課題を確実に消化しておこう。
最後に、自分で納得できる答案を試験時間内に書けるような時間配分を感覚として身につけておいてほしい。試験本番は必要以上に時間をかけて問題に臨んでしまい、時間配分がうまくいかないこともある。ある程度余裕のある戦略を組み立てられるように、問題に十分慣れておくこと。過去問研究の差が明暗を分ける。
Z会で東大対策をしよう
東大は大学のHPにて、「(高等学校段階までの学習で)その言語についての正確な知識に裏打ちされた論理的な思考力の養成に努めて」「ときにその言語の背景にある社会・文化への理解を要求する問題が出題される」と明言しています。東大英語の問題全体を見れば、このメッセージが含まれていることがわかりますね。
東大英語の英文は、決して語彙・内容面で難しいものではありませんが、意味を理解しただけでは得点につながらない問題がほとんどです。つまり、解答を作成するための日本語・英語での記述力こそが最大のポイントとなります。また、リスニングや自由英作文など、あらゆる出題形式に対応する力をバランスよく身につける必要があります。
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