Z会の大学受験担当者が、2023年度前期試験を徹底分析。長年の入試分析から得られた知見もふまえて、今年の傾向と来年に向けた対策を解説します。
今年度の入試を概観しよう
分量と難度の変化 (理科…時間:2科目150分)
- 2022年度と比べてやや難化した。2017年頃に大きく易化した時期もあったが、ここ数年はかつての難易度に戻りつつある。分量は2022年度から大きな変化はなく、計算量の負担感は2022年度より落ち着いたが、論述問題が大きく増加した。
- 2022年度と同様、すべての大問が中問に分かれており、中問6題であった。小問数は32問で、2022年度の31問と比べてわずかに増加したが、全体の分量は同程度であった。
2023年度入試の特記事項
- 出題順は、第1問:有機、第2問:理論(・無機)、第3問:理論であった。
- 論述問題が6問出題され、2021年度、2022年度の2問と比較して大きく増加した。また、文字数指定がない形式が定着しつつある。
- 2022年度は計算問題の分量が多かったが、2023年度はその分量が減少した。
合否の分かれ目はここだ!
- 2017年頃に大幅に易化したときと比較して難度が上がっているとはいえ、東大としては平易な問題も含まれており、合格には一定の得点が必要になると考えられる。試験時間に対して分量が多いため、解ける問題を優先して解き、得点をしっかりと確保することが重要だっただろう。
- 論述問題の数が増えたため、ポイントを押さえて諦めずに書き上げることが重要である。計算問題については、確実に正解できそうな問題を見極めたうえで、手際よく、ミスなく解き進められるようにしたい。
「本質の理解」につながる学習ができる!
さらに詳しく見てみよう
大問別のポイント
第1問
I <有機> 芳香族化合物(色素類似化合物)の構造決定
芳香族化合物に関する構造決定の問題。昨年に引き続きオゾン分解が扱われたほか、「同じ化学的環境にあり区別できない炭素原子の種類」が構造決定のための条件として与えられた。いずれも高校化学の範囲外の内容であり、問題文中に解説が施されていたが、それらを試験中に読んで理解するのは負担感が大きかった。
- イは、ナフタレンの酸化で生じる化合物の構造を答える問題。化合物Cが生じる反応は高校で扱われず、与えられた条件と矛盾しない化合物を挙げる必要があり、難しかった。ここでCの構造が決まらないと、オの解答が難しくなる。
- ウでは、ヨードホルム反応で得られる化合物についての理解が問われた。
- オでは、オゾン分解や加水分解を逆にたどり、化合物Dの分解生成物から化合物Aの構造を復元する必要があるため、高度な思考力が要求された。
II <有機> シクロアルカンの配座異性体とその安定性
シクロアルカンの配座異性体、分子の立体構造を表す投影図(ニューマン投影式)に関する問題。内容は完全に大学で学ぶ範囲ではあるが、十分な説明が与えられているので解答は可能である。
- キまでの設問は、類似した内容が2009年にも出題されており、過去問での演習経験があれば取り組みやすかった。
- ケは1,2−ジメチルシクロヘキサンの安定な配座異性体を答える問題であり、環反転前後の投影図を正確に表すのがこの中問の山場である。その上で、コでは立体異性体の安定性に関して考察し、ポイントを押さえて論述する必要があるため、難度が高い。
第2問
I <理論・無機> フッ化水素の性質と反応、電離平衡
フッ化水素の性質や反応、フッ化水素酸の電離平衡に関する問題。
- ア、ウは論述問題であるが、問われていることはフッ化水素の性質や凝固点降下に関する基礎的な内容であるため、確実に得点したい。
- エ、オはフッ化水素酸の電離に関わる問題である。オで正しいグラフを選ぶためには、思考力が必要である。
II <理論・無機> アルミニウム・チタンの精錬、結晶構造
アルミニウム、チタンの工業的製法を題材とした問題。
- キは、錯イオンの化学式と図が仰々しいが、図を読み取るだけで解答が可能であり、難しくはない。
- ケは論述問題であるが、内容としては頻出のものであり、確実に得点したい。
- コは、最密充填構造と面心立方格子に関する知識の有無で大きな差がついたと思われる。
第3問
I <理論> 化学平衡、触媒への気体の吸着
ハーバー・ボッシュ法を題材に、平衡移動に対する理解、触媒への気体の吸着に関する考察を問う問題であった。
- アは平衡移動の基礎的な理解を問う問題で、確実に正解したい。
- ウは、水素の吸着量と圧力の関係として正しい図を選ぶ問題。
- エは、2回目の吸着以降にも毎回20mLずつの吸着がみられることの意味を理解するのがやや難しい。
- オは、答えるべき内容を読み取るのが難しい。
II <理論> コロイド溶液、浸透圧
コロイド溶液、浸透圧に関する問題。
- キは、コロイドの凝集と粒子表面の電荷について考察する問題。
- クは、U字管での浸透圧に関する計算問題であり、典型的ではあるが、液面差から圧力への換算は経験の有無で差がつくところである。
- コは、粒子の半径r1について考察する問題。ケの結果と、浸透圧に関する実験結果を結びつけて考えることがポイントである。
攻略のためのアドバイス
見慣れない題材について長いリード文を読むような問題はなりを潜めていた時期もあったが、高校化学で扱わない内容を考察する問題として、また姿が見られるようになってきている。出題傾向の変化に関わらず、必要とされる力そのものに大きな変化はない。基本的な事項を、暗記するだけではなく深く理解しておくことはもちろん、例年どおりの難度の高い応用問題が出題されても対応できるだけの十分な力をつけておくべきである。
東大化学を攻略するには、次の3つの要求を満たすことをめざそう。
●要求1●難問に対応する思考力と応用力
東大化学では、高校で学習する内容をそのままあてはめるだけの問題も出題されるが、合否の決め手となるのは、高校範囲の知識を応用させて考える問題である。よって、基礎力の確立と、それを柔軟に使いこなせる思考力、応用力の養成が求められる。全分野において法則を正しく使いこなせるようになるのが第一である。
●要求2● 長い問題文を短時間で読み解く読解力
東大化学では、実験操作や高校化学の範囲外の内容などに関する長い問題文を読み、題意を読み取り解答する問題が出題される。限られた時間の中で問題文を読みこなし、正確に理解する力が要求される。見慣れない題材・実験にも臆さないよう、他大学の過去問(京大・阪大といった難関大)にも目を向けて演習しておくとよい。
●要求3●計算問題の解答時間を短縮する計算力
煩雑な計算問題が出題される東大化学では、計算力を身につけることが必須である。ふだんの問題演習では、電卓を使用したり、頭の中だけで考えたりするのではなく、実際に手を動かして計算し、計算自体に早いうちからしっかり慣れておこう。
対策の進め方
まずは、高校化学の内容を完全に理解することから始めよう。高校化学の内容で曖昧な部分があると、●要求1●を満たすことはできない。近年の東大化学では、応用問題を解くうえで前提となる標準的な内容を確実に押さえることが、よりいっそう求められている。また、有機の「高分子化合物」の単元は対策が遅れがちなので、とくに意識して取り組んでおきたい。Z会の通信教育やZ会の本『化学 解法の焦点』などを利用して、基本的な各単元の理解を確認しながら学習を進めよう。
高校化学全般の内容を理解したら、次に●要求1●を満たすために、高校範囲の内容を応用させて考える問題に取り組んでみよう。このタイプの問題は問題文が長いことが多いため、並行して●要求2●を満たしていくこともできる。Z会の通信教育でも、さまざまなタイプの添削問題を通して、演習を積んでいく。
演習を順調にこなしていけるようであれば、●要求3●もある程度は満たされていくであろう。自分の得意不得意、問題の難易度などを意識し、解答時間内で得点を最大化できるような自分の解き方を身につけてほしい。
Z会で東大対策をしよう
今年の東大化学でも、近年と変わらず見慣れない題材に関する出題がみられ、問題文中で与えられた情報を読み取って適用する対応力が必要となりました。問題の分量が2016年度以前の水準にほぼ戻り、ところどころに高度な思考力や計算力を要する問題、難度の高い論述問題も含まれていたため、かつてのように「解かない問題を見抜く力」も必要なセットだったといえると思います。
したがって、まずは標準的な問題を確実に正解したうえで、差がつく問題をできるだけ多く正解して、高得点をめざしたいところです。分量が多いので、解く問題に優先順位をつけ、試験時間内にすばやく処理する力が求められるでしょう。
また、2022年と比較して論述問題の数が増加しています。日頃の演習や過去問演習をとおして、通り一遍の学習をするのではなく、「この現象はなぜ?」「この操作は何のために行っている?」ということを常に考えながら、それらを自分の言葉で説明できるか、という点に意識を向けて学習を進めていくとよいと思います。Z会の通信教育講座では、このような盲点になりがちな箇所を突く出題をしていきます。東大受験を目指す方には、表面的な理解にとどまらない、本当の学力を身につけていただきたいと思います。