Z会の大学受験担当者が、2023年度前期試験を徹底分析。長年の入試分析から得られた知見もふまえて、今年の傾向と来年に向けた対策を解説します。
今年度の入試を概観しよう
分量と難度の変化 (地歴…時間:2科目150分)
- 例年通り、第1問-古代、第2問-中世、第3問-近世、第4問-近・現代という出題構成であった。
- 第1問・第2問がともに小問1問構成となり、小問数は2022年度から1問減って6問であった。論述総字数は2022年度と同様の660字。小問の最小字数は60字、最大字数は180字であった。
- 全体的な難易度としては標準的であった。
2023年度入試の特記事項
- 第1問〜第3問は従来の提示文型であり、第4問では提示文に加え、2022年度から2年続けてグラフと史料が提示される形式の出題であった。
- 第4問で2019年度以来となる昭和戦後史が出題された。2023年度は昭和戦後史単独の大問となった。
合否の分かれ目はここだ!
- 比較的取り組みやすい第1問と第3問では高得点をねらいたい。その上で、解答をまとめづらかった第2問と、昭和戦後史の知識を要する第4問でどれだけ得点を積み重ねられたかが、合格へのカギになる。
- 例年、知識の比重が高い第4問であるが、2023年度は昭和戦後史からの出題であったため、学習状況によっては大きく出来に差がついただろう。教科書全範囲を満遍なく学習しておくことが重要である。
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大問別のポイント
第1問
国家的造営工事のあり方の変化 (6行:180字)
- 国家的造営工事のあり方が、国家財政と地方支配との関係を反映して、律令制期・摂関期・院政期でどのように変化したかが問われた。
- 律令に基づく地方支配・国家財政、地方支配の転換、荘園公領制の成立など、基本的な知識や流れの理解を前提として、提示文から得られる情報で解答を構成していけばよい。
- 提示文からの読み取りや論旨の組み立ては難しくないため比較的取り組みやすいが、180字と長めの字数であるため、相応の文章構成力・表現力は必要となる。
第2問
家督継承決定のあり方の変化と応仁・文明の乱の関係(5行:150字)
- 武家における家督継承決定のあり方の変化が、応仁・文明の乱の発生・拡大にどうかかわったかが問われた。
- 提示文からの読み取りと、嘉吉の変や応仁・文明の乱に関する知識・理解も合わせて解答を組み立てればよい。有力守護家などの家督争いが激化し応仁・文明の乱の発生・拡大につながったという解答の骨子はつかめるはずだが、提示文に示された事例をもとに家督継承のあり方がどのように変化しているのかを論理的にまとめるのはやや難しかっただろう。
第3問
A:江戸で寄席が急増した理由(2行:60字)
- 19世紀半ば頃に、江戸で寄席が急増した理由を考察する問題であった。
- 歌舞伎と寄席の対比は提示文に具体的に書かれており、それを踏まえ理由を考察することは容易であり、取り組みやすい問題であった。寄席を楽しんだのがどのような層であったかを明記したい。
B:町奉行が寄席を擁護した理由(3行:90字)
- 寄席の統制に対して、寄席を擁護した町奉行が、どのような事態を懸念していたのかを考察することが求められた。留意点として、「江戸に関する幕府の当時の政策」「幕府がこれ以前に直面したできごと」に触れるよう指示されている。
- 理由を考察することが求められているが、提示文から町奉行の懸念点は汲み取りやすい。加えて、天保の改革の内容や時代背景を理解していれば、留意点に対応させて解答を組み立てることができただろう。
第4問
A:占領終結から岸内閣期における日本の対外関係の変化(3行:90字)
- 占領終結から岸内閣期における日本の対外関係の変化を、国際政治の動向に留意して述べることが求められた。
- 「占領終結から岸内閣期」の各内閣の外交事績は提示文に書かれているため、取り上げるべき「日本の対外関係」はわかりやすい。「背景にある国際政治の動向」として、冷戦下の東西対立の展開を知識で補って、対外関係の変化と結びつけて論じればよい。
B:1950年代後半から岸内閣期における政党間対立の変化(3行:90字)
- 1950年代後半から岸内閣期における政党間対立の変化が問われた。「政党間の対立の変化」を述べるので、55年体制成立に至る保守政党と革新政党の動向を述べていけばよい。
- 「内閣の施策」に留意するという点から、鳩山内閣と岸内閣において、政党間対立の変化につながった施策を明記する必要があると考え、鳩山内閣の改憲方針、岸内閣の安保改定を盛り込みたい。
攻略のためのアドバイス
東大日本史を攻略するには、次の3つの要求を満たす必要がある。
●要求1● 全時代・全分野についての正確な知識・理解
当然だが、日本史についての知識・理解があることが問題を解く上での前提となる。学習の際には、歴史事項の正確な意味内容や、事項の流れに加えて、律令制や幕藩体制といった、各時代を考える際の本質的な事項の理解の両方を身につけることを心掛けよう。
●要求2●提示文・設問文の把握
東大日本史では、与えられた提示文や史・資料すべてをうまく活用すること、設問文の要求や意図を読み取ることが重要になる。東大型の問題演習を通じて、提示文を利用し、設問の趣旨にあった解答を作成する力をつけていこう。
●要求3● 要求された字数に応じて論をまとめる記述力
東大日本史で出題される字数は30字~180字と幅広い。そのため、設問の要求だけでなく、各設問で指定された字数に合わせて、情報を取捨選択し、論旨をまとめる高度な記述力が必要である。定期的な論述演習で、設問の要求を満たした解答を作成する力を養っていこう。
Z会で東大対策をしよう
第1問〜第3問は、例年通りの提示文型で、東大頻出テーマに関連した出題であり、過去問研究を行っていたかどうかで差がついたと考えられます。また第4問では、初めて昭和戦後史単独の出題となり、戸惑った受験生もいたかもしれませんが、基本的な理解が問われているので、提示文やグラフをヒントに、落ち着いて知識を引き出して対応したいところでした。
東大日本史では、各設問での少しずつの失点を防ぐことが、高得点を取るためのカギになります。過去問演習を通して東大特有の形式に慣れるとともに、教科書を精読するなどして、基本的な知識・理解の習得も怠らないことが重要です。
東大日本史は特徴的な出題形式であり、一般的な論述問題の演習を積むだけでは対応しきれません。東大日本史の出題に慣れること、さらに頻出テーマについて理解を深めておくことが、合格への近道です。
Z会の通信教育 本科「東大講座 日本史」では、東大日本史を解けるようになるために取り組んでほしい問題や、東大日本史の出題形式や設問の傾向、頻出テーマを踏まえた問題を豊富に出題しています。Z会オリジナルの、東大日本史に即した問題演習を積み、個々の解答に応じた添削指導を受けることで、東大日本史への対応力を着実に養っていきましょう!