Z会の大学受験担当者が、2023年度前期試験を徹底分析。長年の入試分析から得られた知見もふまえて、今年の傾向と来年に向けた対策を解説します。
今年度の入試を概観しよう
分量と難度の変化 (理科…時間:2科目150分)
- 大問数は3題。大問1題当たりの分量は多い。
- 各大問は分野融合となっており、「遺伝情報の発現」に関わる出題が多い。
- 用語、正誤判断、論述が中心であるが、年度により数学的な分析や解釈を要する問題も出題される。
- 解答用紙は、1題当たり横35文字、縦25行程度の文字が書けるように罫線が入っている。論述問題は字数ではなく行数で指定される。
2023年度入試の特記事項
- 全体のページ数や設問数は2022年度よりも増加し、負担感は増した。
- 各大問の冒頭には4〜5ページ相当のリード文等があり、文章が長い上に図表も多く、また、図表の説明も複雑なので、理解に時間が取られる出題だった。
- 要求される知識の程度はばらけており、基礎的なものから、教科書の発展に記載されている事柄や一部の教科書には記載がない知識を要求するものがあった。
- 論述問題について、2023年度は行数ではなく字数指定の出題もあった。また、第3問では出題がなかった。
合否の分かれ目はここだ!
2023年度の第1問はⅠ・Ⅱが関連した題材であったが、第2・第3問は大問中に異なる題材が入っていた。いずれも、複数の実験結果を統合して考察する設問が多く、時間配分が難しい。見慣れない図やグラフの検討にも時間を取られただろう。解ける設問を見抜いて素早く処理し、考察問題では解答に必要な情報が何かを素早く取捨選択して効率よく理解を進めていくことが、点数を重ねるポイントになった。
- 第1問は、設問数も論述量も多いが、L以外は取り組んでいきたい。とくにA〜Cの知識問題は確実にミスなく解答したい。I・Kは考えすぎず、リード文を利用して述べよう。Ⅱは設問が2つだけの中問であり、どちらの問いも比較的取り組みやすいので、確実に解答したい。
- 第2問のⅠは、知識問題も考察問題も1問1問の検討に時間がかかる問題が並んだ。すぐには解答の見当がつかない問題は深追いせず、先に進む判断も必要だった。ただしD・Eは比較的取り組みやすい考察なので解答したい。その上で、B・C・Fの検討に取り掛かろう。
- 第3問は、論述こそないが処理に時間のかかる設問が多い大問だった。文1のB〜Dは多数の検体がある表を確認する必要があった。とくにBは読む時間があれば解ける設問だが、時間との兼ね合いになっただろう。文2・3のF〜Iはできるだけ取り組んでおきたい。Jは開始位置不明の塩基配列を読む必要があり、これも時間配分次第で取捨する必要があっただろう。
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大問別のポイント
第1問
I がん原因遺伝子産物と細胞周期・複製とDNA修復
がん原因遺伝子産物であるタンパク質Xと細胞周期、同じくがん原因遺伝子産物であるタンパク質Yと複製・DNA修復と分配が題材である。
- Kの実験構築の論述は、リード文を活用して効率的に述べたい。
- Lは一部の教科書にない知識が必要であった。
- B・Lは論述量が行数ではなく字数で指定された。
II がん抑制遺伝子の発現と遺伝
がん抑制遺伝子の変異とがん発症の関係、また、がん抑制遺伝子に変異を有する家系における遺伝について問われた。
第2問
I 果樹の光合成産物の輸送・分配・利用
果実をつける樹木における、光合成産物の供給器官から受容器官への移動や、受容器官ごとの光合成産物の利用が題材である。
- Bは語群と文脈から内容を類推していきたい。
- Eは2018年度以来のグラフ作成問題である。
- Fでは示された結果から予想されるグラフ概形を検討する必要があり、難度が高い。
II 土壌の窒素濃度に対する植物の応答
接ぎ木を利用した、窒素濃度に応答するホルモンAの濃度変化と、植物体の地上部・地下部の形成が題材である。
- Gには化学式を完成させる問いが出た。
- Kは、複数のグラフを丁寧に比較して確実に解答したい用語選択問題であった。
第3問
中問(Ⅰ・Ⅱ)に分かれていないが、内容は文1のABO式血液型の決定に関わる酵素遺伝子の発現・変異・遺伝と、文2・3の新型コロナウイルス感染細胞の転写・翻訳とウイルス由来ペプチドの中和活性に分けられる。
- 先述のように、論述問題のない大問であった。
文1 ABO式血液型の決定に関わる酵素遺伝子の発現・変異・遺伝
- Aの自然抗体は高校生物で扱わないので、用語は埋められても文章の内容に不安があったかもしれない。
- Cではアミノ酸の性質が問われた。
文2・3 新型コロナウイルス感染細胞の転写・翻訳とウイルス由来ペプチドの中和活性
- Fの空欄4・5は発展の内容である。
- Gは与えられた2つのグラフを見比べて数値を概算したい。
- Iは単位に注意して取り組む。
- Jは対応するコドンが一つしかないアミノ酸を手がかりにする。
攻略のためのアドバイス
東大生物を攻略するには、次の3つの要求を満たす必要がある。
●要求1● 正確な 知識力
各大問の前半に知識問題が出題されることが多い。ハイレベルな勝負になる東大生物では、知識問題での失点は許されない。教科書と図説を参照する習慣を身につけよう。教科書で太字になっている語については単純に暗記するだけでなく、関連する生命現象とあわせて、自分の言葉で説明できるようにしておくこと。
●要求2● 素早く要点をおさえる 読解力
問題の分量が多いので、リード文はすばやく的確に読み解く必要がある。そのためには、内容を箇条書きにして整理する訓練が有効。まずは標準レベルのリード文を読む訓練から始めて、徐々に東大レベルに近づけていこう。
また、解答時間を意識しながらの演習は、スピードアップに効果的。また、問題演習などで表・グラフをみるときは、大小関係や変化の様子をつかむことを意識しよう。
●要求3●読解力と知識力に基づく 考察力+論述力
基本となる見慣れない考察問題攻略のコツは、実戦演習を重ねる中で、仮説→実験→結果→考察という一連の流れを自分なりに整理する癖を身につけること。また、論述力は自分の手を動かして答案を書き上げることが何よりも大切。独りよがりな答案になっていないか、添削をしてもらうとよい。
対策の進め方
なるべく早く●要求1●の完成を目指すこと(遅くとも高3の夏を目指そう)。とくに、「生物の進化と系統」は対策が遅れがちになるので、計画的に学習を進めよう。Z会の本『生物 知識の焦点』は、高校生物の全範囲について、教科書だけでは学べない入試頻出事項を解説しているので、知識力完成に役立つだろう。
次のステップとして、入試形式の演習問題になるべく数多くあたり、●要求2●や●要求3●のレベルUPを図ろう。典型・頻出問題は一通りこなしておくこと。Z会の通信教育「東大講座」でも、東大の出題レベルに合わせて典型・頻出問題を出題していく。
最後に、問題の分量が多い東大生物では、なるべく全部の設問に手をつけられるよう、問題を解くスピードも重要になってくる。本番の入試を意識して、時間配分にも気を配った演習を積もう。
Z会で東大対策をしよう
2023年度も時間をかければ解けると思える問題が多く、時間配分に迷った方が多いのではないでしょうか。「もう少しで解けそう」という問題に次々取り組むと、時間が足りなくなってしまいます。先に確実に解ける問題に取り組む、迷う問題、時間のかかる問題は後回しにするなど、時間を意識しながら解き進めましょう。
東大入試の記述問題では、100文字程度で伝えたいことを抜けもれなく、かつ素早く書く必要があります。読み手に意図が伝わる文章になっているか、不安な場合にはZ会の通信教育「東大講座」を活用して、添削指導を受けることがおすすめです。論述力は一朝一夕には身につきませんから、早めの対策を行っていきましょう!