国立大学の入試改革を踏まえて、今すべきこと_2017.4

2017年4月7日

カテゴリー : 大学受験

国立大学の入試改革を踏まえて、今すべきこと

2021年度の新大学入試改革に向けてさまざまな議論がなされていますが、国立大学の入試はすでに改革が始まっていることをご存知ですか? 国立大学の入試改革と、それに伴って変化している必要な力について、株式会社基盤学力総合研究所研究開発課の主任で、国家資格キャリアコンサルタントの瀬戸裕一郎さんに、解説していただきます。

 

◆国立大学の入試が変わる

国立大学協会は、2015年9月に、すべての国立大学で2021年度までに推薦入試、AO入試等による入学者を定員の30%を目標に増やす、と発表しています(国立大学協会2015年9月14日付「国立大学の将来ビジョンに関するアクションプラン」工程表の記載による)。平たく言えば、これまでのような紙上の入試に限らない多様な選抜を行うことで、知識一辺倒ではない多様な学生を受け入れたい、という姿勢の表れといえるでしょう。ここで押さえておきたいのは、次の三点です。

(1)2021年度に急に30%になるわけではない
(2)紙上の一斉入試による合格者数は、確実に減少する
(3)大学入学後の学びが変容している

まず(1)について。すでにここ数年で国立大学における推薦入試、AO入試は増加しています。たとえばお茶の水女子大学で2016年度から実施されたAO入試「新フンボルト入試」で課されるのは、文系では論理力や課題探求力、独創性を評価する「図書館入試」、理系では探究する力を見る「実験室入試」です。このような入試で求められる力は、「これまでに得た知識をもとに、行動し、深く思考し、さらにその内容を他者に伝達する力」といえるでしょう。東京大学の推薦入試、京都大学の特色入試、大阪大学の世界適塾入試など、このような入試による選抜は年々広がりを見せており、次第に入学定員に占める割合が大きくなっているのです。
次に(2)です。(1)の一方で、では全体の募集定員が増加するのかといえばそうではありません。つまり、(1)の入試による入学定員が増える一方で、いわゆる従来型の入試による入学定員は確実に減る、ということです。従来型の入試は狭き門になることが予想されるのです。
これらのことは一見すると脅威のように感じられるかもしれません。しかし見方を変えれば、多様な能力を持っている人にとっては、多様な入学のしかたで志望校に合格できる機会が増えるということにもなるのです。
最後に(3)について言及しておきます。こちらについては下の円グラフを見てください。文部科学省が行った調査によれば、アクティブ・ラーニングを効果的にカリキュラムに組み込んでいると回答した大学は平成24年から平成25年までで7ポイント増加し、6割を超えています。

グラフ

このことは、大学の授業も従来の講義型の授業から、グループ型の授業へと変わってきているということを表しています。つまり、大学入学後に求められる能力は、「知識がどの程度身についているか」ではなく、「身についた知識を活かし、さらに新しい知識、価値、考え方を、主体的・協調的に生み出すことができるか」にシフトしつつあるのです。東京大学でも2015年度より、少人数制の必修授業「初年次ゼミナール文科・理科」をスタートさせています。とくに理科では、少人数制のグループワーク・プレゼンテーションを主体とした授業が入学後すぐに行われているのです。

 

 

◆従来の「偏差値上位」の一貫校に入れば安心、という時代の終焉

では、こういった新しい学力が入試で求められるようになると、どのようなことが起こるのでしょうか。データをもとに、さらに考えてみたいと思います。
下の図は、基盤学力総合研究所が2017年度より提供を開始する「課題発見・解決能力テスト」の応用レベル(文系)をモニター受験した中高生の成績結果から、特徴的な部分を抽出したものです。学校群Aは、中学入試の偏差値※が60以上の学校の結果、学校群Bは、中学入試の偏差値が40以下の学校の結果です。高校2年生の得点結果を示したものですが、最も得点の高かった人は学校群Bに属しています。

表

また、次の図は、学校群Aと学校群Bの項目別の評価を比較したものです。これを見ると、「課題分析力」「論理構築力」といった項目では学校群AとBの得点率に大きな開きがありますが、「批判的考察力」「創造的思考力」といった、これからの社会でとくに重視される力については、実はそれほど差がないということがわかります。

表

もちろん、現在の国立大学の推薦入試、AO入試では「高校で学ぶ基礎的な知識がきちんと身についているのか」は前提として選考内容に入っています。すなわち、内申点やセンター入試の得点は、出願要件に加わっているのです。この点で、きちんと各教科の単元内容を理解していることは必要です。ただ、これから求められる学力という観点を重視するのであれば、これまでのような偏差値による序列化が崩れる可能性が大いにありうる、ということも考えられるでしょう。
※中学入試の偏差値は教育開発出版株式会社「国・私立中学入学模擬試験」における80%合格基準偏差値による。

 

 

◆これからの時代に必要な力

文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会の「審議のまとめ」(2016年8月26日付)には、次のような一節があります。

人工知能がいかに進化しようとも、それが行っているのは与えられた目的の中での処理である。一方で人間は、感性を豊かに働かせながら、どのような未来を創っていくのか、どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかという目的を自ら考え出すことができる。

未来を自分一人の力で創り上げることはできません。他者が存在するからこそ、感性は重要な意味を持ちます。「知る」ことは大事ですが、「私はこれだけのことを知っている」で終わってしまうのではコンピュータと変わらないのです。感性をもとに深く考え、多様な人たちと建設的なコミュニケーション・コラボレーションを行っていくことが、これからの時代に必要になる力といえるでしょう。

基盤学力総合研究所では、上述した「課題発見・解決能力テスト」のほかに、これからの時代に求められる集団適応力や自己実現力が測定できる「行動能力・興味関心セルフチェック」をリリースしています。現在どれくらいのレベルに達しているのか、まずは受験して確認してみることをおすすめします。

なお、中学生向けコースを受講しているZ会員は5月に、高1・高2生向けコースを受講しているZ会員は6月に、「行動能力・興味関心セルフチェック」を無料受験できます。

『LIPHARE』の「行動能力・興味関心セルフチェック」

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