化学 – 共通テスト(2023年度)の分析&対策の指針

投稿日時:2023年2月1日

Z会の大学受験生向け講座の化学担当者が、2023年度の共通テストを分析。出題内容や「カギとなる問題」の攻略ポイント、次年度に向けたアドバイスなどを詳しく解説します。

 

共通テスト「化学」の出題内容は?

まずは、科目全体の傾向を把握しましょう。分量、問題構成、難度などを解説します。

試験時間と配点

時間 / 配点:60分 / 100点


全体の傾向

●大問数は5のままであったが、マーク数は33から35と2つ増加した。実質の解答数は2022年度と同じ29であった。2022年度に続いて、個別試験レベルの問題が出題されたり、選択肢の吟味に時間を要する問題がみられたりしたため、時間のやりくりに苦労するセットであった。解答時間に対する負担感は、2022年度と同様に大きかった。

●数値を桁ごとに解答する問題が1問出題されたほか、正答を2つ選ぶ問題が出題された。また、2022年度では出題されなかった、方眼紙を用いる問題が出題された。

●高校化学において深く学習しない内容に関する説明文を読み込み、考察する問題が出題された。


化学の「カギとなる問題」は?

次に、化学で「カギとなる問題」を見てみましょう。共通テスト特有の問題や、合格点をとるうえで重要な問題を取り上げ、攻略ポイントを解説します。

第1問 問4 c

イオン半径と結晶の安定性を考える問題。問われている状況の図が与えられていなかったため、難しく感じた受験生もいただろう。個別試験では時折問われる内容であるため、演習の経験がある人にとっては手が付けやすかったと考えられる。


第2問 問4 c

過酸化水素の分解を題材とした、反応速度の問題。問題文より、反応速度定数が2.0倍になると反応速度も2.0倍となることと、過酸化水素水の濃度と体積が変わらなければ生成する酸素の物質量の上限も変わらないことから判断できるが、図中の選択肢がやや複雑であり注意力が要求される


第5問 問2

酸化還元滴定の問題。電子を含むイオン反応式が3つ与えられているが、問題文から実験の操作を正確に理解し、量的関係を把握した上でこれらの式をどのように使うのかを判断する必要がある。


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大問別ポイント/設問形式別ポイント

次に、化学の出題内容を詳しく見ていきましょう。各問の難度や求められる知識・考え方を解説します。

第1問:理論  [標準]

・問1は化学結合に関する出題であり、平易であった。

・問2はコロイドに関する知識問題であったが、あまり問われることがない内容であったため、対策が手薄だった受験生が多かったのではないだろうか。

・問3は飽和蒸気圧に関する問題。圧縮後の水蒸気の分圧が、水の飽和蒸気圧に等しいことがポイントであるほか、圧縮後の液体の水の物質量は直接求められず、水蒸気の物質量から求めるしかないことに気づかないと方針が立てづらい。

・問4は、イオン結晶の構造に関する問題。受験生にとっては見慣れた題材であり、類題の演習経験の有無で差がついたと思われる。aは基本的である。bは問われ方が目新しいが、単位格子の体積と物質量、結晶の体積の関係を正しく把握できれば、必要な知識・考え方は典型問題と同様である。cは、問われている状況の図が与えられていなかったため、難しく感じた受験生もいただろう。


第2問:理論  [標準]

・問1は熱化学に関する問題であった。基本的な問題であるため、確実に得点したいところである。

・問2は、電気分解の問題。各極板で起こる反応を正しく判断できれば正解できる。

・問3は、化学平衡の量的関係に関する問題。温度が等しければ平衡定数も等しいことから、はじめの平衡状態から平衡定数を求め、次の平衡状態に適用することがポイントである。

・問4は過酸化水素の分解を題材にした、反応速度の問題。見慣れた題材ではあるが、細かな注意力が要求される。aは、触媒が反応前後で変化しないことを押さえておけば確信をもって正答を選ぶことができる。bは過酸化水素の分解反応の平均反応速度を求める問題だが、誤って酸素生成の平均反応速度を求めてしまったり、反応溶液の体積が1.0Lではなく10.0mLであるのを見落としたりしないように注意したい。cは、図中の選択肢がやや複雑である。


第3問:理論、無機  [やや難]

・問1は、フッ化水素に関する正誤判断問題である。フッ素とヨウ素の酸化力の強さが問われた。

・問2は、金属イオンの分離に関する問題。定番の題材ではあるが、操作の内容と結果の表し方が少し独特である。

・問3は、1族、2族元素に関する問題。aは、1族元素の単体2molから1molの水素が、2族元素の単体1molからは1molの水素が発生することがポイントであるが、方針を立てづらかった受験生も多かったと思われる。bは、気体の吸収方法に関する基本的な問題。有機化学の元素分析と同様に考えればよい。cは、水、二酸化炭素がそれぞれ水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムから得られることがわかれば、正解が可能である。


第4問:有機  [やや易]

・問1は、条件に合うアルコールを選ぶ問題である。分子内脱水反応により生成したアルケンに臭素を付加させた化合物を考える必要があり、さほど複雑ではないにせよ少し手間がかかった受験生もいたかもしれない。

・問2は、芳香族化合物の性質に関する問題である。アニリンは塩基性の化合物であることがポイントである。

・問3は、高分子化合物の水素結合に関する問題である。広範な知識が必要な分野であるが、本問の正解は選びやすくつくられている。

・問4は、トリグリセリドに関する問題。aは、トリグリセリドのC=C結合に付加する水素の物質量を求める問題。数値を桁ごとに解答する形式であったが、考え方、計算ともに平易な問題なので確実に得点したい。bは、トリグリセリドXを加水分解したときに得られる脂肪酸A、Bの物質量比と、各脂肪酸中のC=C結合の有無から正解を選ぶことができる。過マンガン酸カリウム水溶液がC=C結合の検出に用いられることは、盲点だったかもしれない。cは、トリグリセリドX 1分子を完全に加水分解すると2分子の脂肪酸Bが得られることと、化合物Yには不斉炭素原子が存在しないことに着目すればよい。


第5問:理論、無機  [やや難]

・問1aは、硫化水素や二酸化硫黄の発生、反応に関わる正誤問題である。酸化還元反応、酸・塩基反応と関連付けて考えれば、正答を選ぶことができる。bは、化学平衡に関する基本的な問題であり、確実に得点したい。

・問2は、混合気体中の硫化水素の量を酸化還元滴定によって求める問題である。問題文から実験の操作を正確に理解し、量的関係を把握しなければならない点は難しいが、溶液の希釈や取り分けがないために立式はさほど煩雑ではなかっただろう。

・問3は、光の吸収を利用して物質の濃度を求めるという、高校化学では深く扱われない内容を題材とした問題であった。未知の題材に対し、その場で説明を理解して問題に適用する能力が要求された。aは、log10Tが二酸化硫黄のモル濃度に比例することを読み取れれば、必ずしも方眼紙を使わなくても解くことができる。bは、対数の数学的処理を行えば解くことができる問題であった。


攻略へのアドバイス

最後に、次年度以降の共通テストに向けた攻略ポイントを確認しましょう。化学で求められる力をふまえて、必要となる対策を解説します。

幅広い分野の正確な知識が必要

共通テスト化学も3年目となったが、一部大問・中問形式を含みながらも小問集合を中心とした出題が続いており、この形が定着しつつある。小問集合の場合、テーマを絞られた大問・中問形式に比べて必然的に問われる範囲が広くなることから、引き続き、全範囲を抜けもれなく学習することが肝要である。


個別試験を想定した演習を

2022年度に続いて、個別試験レベルの問題、処理に時間のかかる問題が出題されている。また、時間に対する解答の負担感も、大きい状況が続いている。個別試験レベルにおいて典型的な問題、頻出の問題は、方針に迷うことなく素早く解けるまでよく習熟しておき、本番では処理に時間のかかる問題に充てる時間を捻出できるようにしておきたい。よって、共通テストの直前であっても、個別試験レベルを想定した演習を積んでおくことが望ましい。

また、正答を導くにあたり、複数の段階を経て考える必要があり、方針が立てづらい問題が見られるようになってきている。日頃の演習の中では、答えが合えばよし、設問による誘導にのって解ければよしとするだけでなく、その誘導の意味を考えるなど、正答に至るまでのプロセスや考え方の流れを意識するように心がけるとよいだろう。


共通テスト独自の出題形式にも注意

小問集合が出題の中心ではあるが、数値を桁ごとに解答する問題、方眼紙を用いる問題など、共通テスト独自の出題形式も見られる。また、今年度もグラフを扱う問題が3問出題されたほか、高校で深く学ばない問題、測定や実験によって得られた値からモル濃度などを求める問題が出題されている。これは「観察、実験などを行い、科学的に探究する力を養う」という学習指導要領の目標を意識した現れの一つと考えられる。

今後、実験レポートを題材とした問題など、より学習のプロセスを意識した出題が行われる可能性もあるので、もし出題されても面食らわないように、共通テスト試行調査の問題にも目を通し、必要に応じて模試型問題などで対策をしておくとよいだろう。


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