理工系学部の再編と大学入試の動き〜女子枠増加など〜
Z会ソリューションズ 先生向け教育ジャーナル
Z会ソリューションズでは、中学・高等学校の先生向けに教育情報を配信しています。大学入試情報、文部科学省の審議会情報をはじめ、先生方からお伺いした教育についてもご紹介します。
現在、日本ではデジタルや脱炭素といった特定の成長分野における取り組みが活発化しており、教育分野においても内閣府や文部科学省を中心として様々な施策が動き始めています。この流れを受け、大学でも学部再編や入試における募集定員の在り方を変化させる動きがでてきています。
大きく分けると以下の2つの文脈で取り組みが進められており、これらの動きは今後、大学入試の志望者動向に変化を与える可能性があります。
・理工系学部の女子比率を高める取り組み
・理工系人材の確保と育成、(大学などの)機能の拡充
今回は、特定の成長分野における教育関連の取り組みを2つの文脈に分けて整理しました。
理工系学部の女子比率を高める取り組み
理工系学部の女子比率を高める取り組みは、様々な場面で積極的に行われています。
文部科学省では、2022(令和4)年6月に公表した「令和5年度大学入学者選抜実施要項」において以下の記載を追加しました。
第3 入試方法
2 一般選抜のほか,各大学の判断により,入学定員の一部について,以下のような多様な入試方法を工夫することが望ましい。
(5) 多様な背景を持った者を対象とする選抜 〜中略〜(例えば,理工系分野における女子等)
実際に、理工系分野における募集定員の女子枠が広がりつつあります。
理工系学部の女子枠
現在、一部の私立大学において理工系学部の女子枠が設置されており、国公立大学においても名古屋大学、富山大学、島根大学、名古屋工業大学、兵庫県立大学等が学校推薦型・総合型選抜にて女子枠を設けています。
2022(令和4)年11月には、東京工業大学が2024(令和6)年度の総合型・学校推薦型選抜で143名の女子枠を設けたことが公表され、話題となりました。
また、2023(令和5)年5月にも、熊本大学が2024(令和6)年4月に設置を構想している「情報融合学環」の学校推薦型選抜に女子枠を設置することを公表し、徐々に理工系学部における女子枠設置の流れは広がりつつあります。
女子大学の理工系学部設置
大学入試における女子枠の設置だけでなく、女子大学においても新たに理工系学部が設置され始めています。
特に安田女子大学においては、文部科学省が創設した約3,000億円の基金(後述)の活用も視野に入れているようです。
奈良女子大学
奈良女子大学では、2022(令和4)年4月に女子大として初めて工学部(生体医工学エリア、情報エリア、人間環境エリア、材料工学エリア)を設置。
お茶の水女子大学
お茶の水女子大学では、現在、2024(令和6)年4月に「共創工学部(仮称)」を開設に向けて申請中。「人間環境工学科(仮称)」と「文化情報工学科(仮称)」の2学科を有する学部を目指す。
安田女子大学(広島市)
2025(令和7)年4月に「理工学部(生物科学科、情報科学科、建築学科)」を設置予定(現在、構想中)。
女子大学では、奈良女子大学が2022年に工学部を設置しているものの、理工学部は全国初。
現在、理工学部設置計画に伴い、新しい分野の研究・実験に対応するため、延床面積15,000㎡の新棟(理工学部棟)の建設も予定。
理工系女子の進路選択をサポートする「リコチャレ」
大学側の受け入れ態勢や機能の拡張も重要ですが、志望者を増やす取り組みも重要です。
内閣府男女共同参画局では、女子中高生・女子学生が、理工系分野に興味・関心を持ち、将来の自分をしっかりイメージして進路選択(チャレンジ)することを応援するため、「理工チャレンジ(リコチャレ)」という取り組みを行っています。
理工系分野が充実している大学や企業などの『リコチャレ応援団体』の紹介や、団体が実施するイベント情報の提供を行っており、理工系分野で活躍する女性からの応援メッセージを読んだり、そうした女性に質問したりできる場が用意されています。
当サイトでは、様々な調査結果も掲載されており、特に「女子生徒等の理工系分野への進路選択における地域性についての調査研究」では、女子生徒の進路選択を行う際の環境や地域差などといった分析結果についてまとめられており、大変参考になります。
理工系人材の確保と育成、機能を拡充する
さらに、男女関係なく大学が理工系人材を確保、育成できるような支援や規制緩和も進められています。
理工系学部の再編と新設に3,000億円強の基金
文部科学省は、理工系学部の新設や拡充を支援する3,000億円基金を独立行政法人「大学改革支援・学位授与機構」に創設し、2023年4月から募集を始めました。
支援1では、私立・公立の大学を対象に公募し、学部新設や転換に向けた検討や設備費用など最長7年にわたり、1校あたり数億円~約20億円を支援します。
また、支援2では、情報系の高度専門人材の即戦力を養成するため、国立大学と高等専門学校も対象に含め、専門人材の育成に実績がある学部・研究科などの定員を増やすための人件費や施設整備費として最大10億円を助成するようです。
このような支援の動きは、学部再編を促す可能性があり、公募した大学を確認しておくことで大学側の思惑も見えてきます。
基金の公募目的
デジタル・グリーン等の成長分野の学部等の設置等に必要な資金に充てるための助成金を交付することにより、全国各地における当該成長分野の学部等の設置等を促進することを目的とした助成事業です。
学部再編等による特定成長分野への転換等に係る支援(支援1)
〇支援対象:私立・公立の大学
〇助成期間:原則8年以内
〇件数:250件程度(2032年度まで)
高度情報専門人材の確保に向けた機能強化に係る支援(支援2)
〇支援対象:国立・公立・私立の大学、高等専門学校
〇助成期間:最長10年間
〇選定件数:60件程度
https://www.niad.ac.jp/josei/public-offering/
東京23区の大学定員規制、情報分野に例外措置導入へ
現在、「地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による 若者の修学及び就業の促進に関する法律」において、大学や学部学科の新設、収容定員の増加、東京23区外からのキャンパス移転など、東京23区内において収容定員を増加させることは原則認められていません。
しかし、内閣府と文部科学省は、2023(令和5)年4月26日にその例外としてデジタル分野で定員増を可能にする一部改正命令案を公表しました。
東京 23 区内の大学の学部の収容定員の増加抑制の例外として、収容定員増を可能とする。
① 学位分野が理学関係分野又は工学関係分野の高度なデジタル人材を育成する情報系学部・学科における収容定員増加(学科等の新設を含む。)であること。
② 増加させる分の定員は、新学部等の完成年度以降 3 年以内に大学全体の入学定員を増加前に戻すことを前提とした臨時的な定員増加であること。
③ 特定地域以外の地域における若者の著しい減少を助長するおそれを解消するための取組として、地方企業でのインターンシップ等の地方自治体等と連携した地方における就職促進策を行うとともに、地方大学との連携等により地方におけるデジタル人材育成強化に貢献すること。
特定地域内学部収容定員の抑制等に関する命令の一部を改正する命令案の概要
時限的な措置とはいえ、例外措置を出してでも人材を確保しようとする取り組みを見ると、内閣府や文部科学省の本気度を伺うことができます。
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