「教員の人材確保」と「学校の働き方改革」~本気度が高まる国の取り組み~

2023.06.12
Z会
Z会ソリューションズ 先生向け教育ジャーナル
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近年、文部科学省では教員の長時間労働の実態が明らかになったことで、「学校の働き方改革」に関する取り組みを最重要施策の一つと掲げ、様々な施策を行っています。

そのような中で、新たな問題が発生しています。それは教員不足の問題です。

これまでも教員の採用に関する議論は行われてきましたが、多様な人材の確保という点に焦点が当てられ、教員不足という背景を持った議論ではありませんでした。
しかし、2023(令和5)年5月に自民党の特命委員会と永岡桂子文部科学大臣が立て続けに「教員の確保」という直接的なメッセージを込めた提言や諮問を公表し、注目を集めています。

<2023(令和5)年5月16日>
自民党の令和の教育人材確保に関する特命委員会が「令和の教育人材確保実現プラン(提言)」を公表

<2023(令和5)年5月22日>
永岡桂子文部科学大臣が、中央教育審議会に対して「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」諮問

今回は「学校の働き方改革」の議論の変遷を追いつつ、提言と諮問の概要をまとめ、教員不足の解消に向けた国の方向性を確認していきます。

「学校の働き方改革」に関連するこれまでの動き

「学校の働き方改革」の動きは、2016(平成28)年度に実施された教員勤務実態調査で、長時間勤務に関する深刻な状況が明らかとなったことをきっかけとして始まりました。
以下にこれまでの動きを列挙しました。

<2016(平成28)年10月~11月>
教員勤務実態調査にて、長時間勤務の深刻な状況が明らかとなった。

<2017(平成29)年6月~2019(平成31年)1月>
・初等中等教育分科会に「学校における働き方改革特別部会」を設置し、答申作成に向けた議論を進める。

<2019(平成31)年1月>
・中央教育審議会が答申を公表。(「新しい時代に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」
・答申を受け、「学校の働き方改革」は文部科学行政における最重要施策の一つとなった。

<2021(令和3)年>
教員勤務実態調査(8・10・11月実施)の速報値にて、教師の時間外在校等時間の状況は、2016(平成28年)調査時よりも一定程度改善したことが明らかとなった。
・しかし、環境整備を進めてきたにも関わらず、依然として長時間勤務の教師が多いという勤務実態も明らかとなった。
加えて、全国的に教師不足の問題が指摘され始めた。

<2022(令和4)年12月>
・中央教育審議会が答申にて、教師の養成・採用・研修の一体的な改革の必要性について提言し、教師不足の問題についても触れられた。(「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について~「新たな教師の学びの姿」の実現と、多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成~」

<2023(令和5)5月>
・自民党の特命委員会が提言を公表。
・永岡桂子文部科学大臣から中央教育審議会へ諮問。

 

「令和の教育人材確保実現プラン(提言)」の内容

自民党は、2022(令和4)年11月に教員の待遇改善や志望者の増加のため給与の増額や働き方改革を進める法改正を検討するために「令和の教育人材確保に関する特命委員会」を設置しました。

前述した通り2023(令和5)年5月に提言が公表され、この内容は「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2023」に反映する方針となっています。

提言では、2024(令和6)年度からの3年間は予算・制度両面を抜本的に改革する期間として改革を進めるべきとしていますが、提言内容を実現するためには毎年度の国費投入が必要であるとして、政府に実現を求めています。

以下に提言の概要をまとめました。

(1)学校における働き方改革の更なる加速化

教師の長時間勤務の状況を改善することは喫緊の課題であり、時間外在校等時間の縮減に向けて、学校における働き方改革の更なる加速化が必要。まずは、全ての教師の時間外在校等時間を月 45 時間以内とすることを目標として、将来的には平均の時間外在校等時間が月 20 時間程度となることを目指す。

【具体的な施策】
①働き方改革の取組状況の更なる見える化

②校務のDX化による業務効率化

③学校及び教師が担う業務の更なる明確化・適正化

 

(2)教員の処遇改善

昭和 55 年 度には教師の給与月額は地方公務員の一般行政職の給与月額より7%以上上回って いたが、現在では教師の給与の優遇分がほとんどなくなっている。このため、質の高い教育の実現と志ある優れた教師の確保に向け、頑張っている教師の士気を高め、教職の魅力向上を図ることができるよう人材確保法の初心に立ち返った教師の処遇改善を実現する必要がある。

教師の処遇の在り方については、一般の労働者と同様に、時間外勤務手当を支払う仕組みにしてはどうかという指摘もある。
仮に、時間外勤務手当化する場合には、一定の時間外勤務の抑制につながる可能性も考えられる一方、各学校単位でいわゆる36協定を締結する必要があり、管理職が個々の教師の具体の業務を超過勤務として認めるかどうかを判断することとなり、管理コストが増大し、現場の混乱を招く懸念があり、(中略)取るべき選択肢とは言えない。。
様々な力量の教師が自らの専門性と裁量性を発揮して業務にあたる中で、教育の成果は必ずしも勤務時間の長さのみに基づくものではない。

【具体的な施策】
①教職調整額の増額(少なくとも10%以上に増額)

②新たな級の創設(メリハリのある給与体系の構築)

③管理職手当の改善(管理職の職務の重要性)

④学級担任手当の創設(学級担任の職務の重要性)

⑤諸手当の改善(主任手当の改善・拡充等)

 

(3)学校における指導・運営体制の充実

多様な専門性を有する人材を教育界の内外から確保し、きめ細かい指導体制の構築と外部専門機関と協働可能な「令和型チーム学校」を構築。

【具体的な施策】
①中学校35人学級の実現

②小学校高学年教科担任制の強化

③通級による指導体制等の充実

④主幹教諭、指導教諭、養護教諭、栄養教諭、事務職員等の充実

⑤支援スタッフの抜本的配置拡充

 

(4)教職の魅力を高め、志ある優れた人材が教師を目指すための支援

教師の養成・採用・現職の各段階を一貫した改革が必要であり、教師の養成段階からの改革として、教職の魅力を高め、志ある優れた人材が教師を目指すための支援が重要。

【具体的な施策】
①大学と教育委員会が連携・協働した教師の養成・採用・研修の一体的充実 ・教職課程の見直しを含む養成改革、教員養成大学等に地域枠を設定、奨学金の返還を免除・軽減

②心理・福祉等の特定分野に強みや専門性を有する教師の育成・配置

③高度専門職としての学びやキャリア形成の保証・充実

「令和の教育人材確保実現プラン(提言)」を抜粋して作成

 

「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」諮問の内容

自民党だけでなく文部科学省でも教育人材の確保に向けた専門的な議論を進めていくために諮問を行いました。諮問の内容は、自民党の「令和の教育人材確保実現プラン(提言)」と共通している部分もあり、党と省庁が同じ方向を見ながら施策を進めていこうという姿勢が見受けられます。

以下に諮問内容から一部を抜粋し、特徴的なキーワードを強調して列挙しました。

(1)教師の勤務制度を含めた、学校における働き方改革の在り方

◎役割分担・適正化を推進する観点からの学校・教師が担う業務の在り方

◎教師の健康及び福祉の確保のために校長等が講ずべき措置について、実効性を高めることができる仕組みの在り方

◎各教育委員会における学校の働き方改革や業務改善の取組状況等を「見える化」するための枠組みの在り方

◎「休日のまとめ取り」のための1年単位の変形労働時間制の一層の活用が図られるようにするための運用の見直しの在り方

長時間の時間外勤務を抑制するための仕組みの在り方

◎教師不足への対応や新たな学びの創出のための多様な人材の教育活動への活用が求められる中で、教員集団の流動性や多様性を高めることに資する仕組みの在り方

 

(2)教師の処遇改善の在り方

◎時間外勤務手当の支給に代えて、一律給料月額の4%を支給することとしている教職調整額及び超勤4項目の在り方

◎教育が、特に教師の自発性、創造性に基づく勤務に期待する面が大きいことなどの教師の職務の特殊性に対する考え方

◎現在の学校現場の状況や県費負担教職員制度等を踏まえた時間外勤務手当の支給に対する考え方

◎現在の教師の職務や勤務の実態を踏まえた教師の意欲や能力の向上に資する給与制度や、各教師の職務や勤務の状況に応じた給与のメリハリの在り方

◎公立学校に固有の仕組みの前提となる公立学校が担う役割と、公立学校が担う役割を踏まえた地方公務員である公立学校の教師の職務の在り方

 

(3)学校の指導・運営体制の充実の在り方

◎持続可能な教職員指導体制を構築することができるよう、義務教育9年間を見通すことにも留意した、より柔軟な学級編制や教職員配置の在り方

◎子供や学校、地域の実態に応じた柔軟な教育活動の実施の在り方

35人学級等についての小学校における多面的な効果検証等を踏まえた、中学校を含めた、学校の望ましい教育環境や指導体制の構築の在り方

◎教育の質の向上と教師の負担軽減のための小学校高学年における教科担任制の在り方

◎組織的・機動的なマネジメント体制を構築するための主幹教諭や指導教諭、事務職員の配置の在り方

多様化・複雑化する健康や食に関する課題に対応するための養護教諭や栄養教諭の配置の在り方

不登校や特別な支援を必要とする児童生徒数の増加に対応できる指導体制の在り方

教師が教師でなければできない業務に集中できるようにするための、教員業務支援員やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、学習指導員、部活動指導員等の支援スタッフの配置の在り方

◎平成 27(2015)年 12 月に中央教育審議会から答申された「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」において示された「チーム学校」の考え方の浸透や支援スタッフの配置等の取組状況も踏まえた、次世代型の「チーム学校」の在り方

「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」を抜粋して作成

 

【執筆担当者より】

「学校の働き方改革」の取り組みが少しずつ進んでいますが、Z会ソリューションズにおいても、先生のご負担を軽減できるようなサービスをご提供しております。

例えば、書籍をご採用いただいた先生には、Googleドライブを介して以下のような機能やデータを無料でご提供しており、小テストを簡便に作成・実施できるようになっています。このようなサービスをご活用いただき、授業準備のご負担を減らしていただければと考えております。
・「Googleフォームテスト自動作成」
・「Googleフォームテストレディメイド」
・「書籍本文データダウンロード」

また、創業以来Z会が提供してきた「添削指導」の強みを活かした「オリジナル添削シリーズ」は、先生方が相当な時間と労力をかけていらっしゃる記述・論述の添削指導についてお手伝いができるサービスです。

生徒一人ひとりの個性や行動を踏まえた「個に応じた指導」は、当該の生徒と日頃から接している先生でなければできない業務です。
そのような業務に先生方がより多くの時間を使うことができるよう、弊社も微力ながらご協力できればと考えておりますので、何かお困りのことがございましたらお問い合わせいただけますと幸いです。

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