大学入試センターによるCBT活用報告書〜入学者選抜におけるCBT活用の行方〜
Z会ソリューションズ 先生向け教育ジャーナル
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2022年7月8日
大学入試センターによるCBT活用報告書〜入学者選抜におけるCBT活用の行方〜
2022(令和4)年6月、独立行政法人大学入試センター(以下「大学入試センター」)が「CBTでの「情報Ⅰ」の出題に関する調査研究について(報告)」という報告書と、「個別大学の入学者選抜におけるCBTの活用事例集」という報告書を同日に公開しました。
CBT(Computer-based Testing)とは、各種パソコンを用いて行われる試験全般を指し、大学入試センターでは、2011(平成23)年ごろから国内外の動向を踏まえて研究を進めていたようです。
2013(平成25)年の教育再生実行会議第四次提言をきっかけに、大学入学共通テスト(以下「共通テスト」)への CBTの導入について各所から提言が示されたことで、大学入試センターでは大規模入学者選抜におけるCBTの活用に関する可能性を模索してきました。
しかし、各提言の意図するところは必ずしも同じではなかったようで、提言内容は以下の2種類に分類されたようです。
提言内容①:特定の科目に限らず共通テスト全体にCBTを導入する。
提言内容②:共通テストにおいてCBTを活用して「情報Ⅰ」を出題する。
大規模入学者選抜におけるCBT 活用の可能性について【付録】より
大学入試センターでは、どちらの提言内容についても検討していましたが、結論として、どちらの提言内容も実施が見送られています。ただ、本報告書では個別大学の入学者選抜におけるCBTの導入実現性に触れていたり、既に実施されている大学でのCBT導入事例についても紹介したりしています。
見送られた提言内容について報告書をまとめた理由として大学入試センターは、「ミッションの一つとして個別大学の入試改革支援に関する研究がある」としています。
今後、個別大学の入学者選抜でCBTの導入が広がっていくかは不透明ではありますが、どのような試験が考えられるのかについて報告書を基に紹介していきます。
なぜ、共通テストでCBT導入が難しいのか?
前述したように大学入試センターは、共通テストにおけるCBTの導入を一旦は見送る方向性を示しています。その理由は、以下のように記述されています。
単なる学力試験・調査等をはるかに超える実施水準が求められる大学入学者選抜の性質を考えると、全国的に均質で質の高い受験環境(パソコン、ネットワーク等)の確保、トラブルが生じた場合の対応体制の構築、新しい試験の在り方に対する受験者を含めた社会全体の理解などについて細やかな検討が必要であるという結論に至った。
〜中略〜
これらを受けて、文部科学省から令和3年7月に公表された「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施大綱の予告」により、令和7年度共通テストは PBT で実施することとされた。
CBT での「情報Ⅰ」の出題に関する調査研究について(報告)より
大規模実施の場合に関する受験環境の確保や、トラブルが生じた際の対応体制の構築など、課題が山積していることがわかる一方で、②の提言内容であった「情報Ⅰ」だけでCBTの出題を始めても良いのではないかとも考えられます。
しかし、1科目だけで始められない事情がありました。最もわかりやすい理由として経費の問題があります。
環境整備などの経費ももちろんですが、問題を作成する経費についてもPBT(Paper-based Testing,紙で実施するテスト)で実施するよりも増加すると試算されています。
大学入試センターでは、共通テストのような大規模な試験において「情報Ⅰ」を CBT で出題する場合、受験者数などによっては同一時刻に一斉実施することが難しいと考えていました。
そこで、CBTで共通テストを実施する場合には、複数回試験を実施することができたり、時間の融通を利かせやすいIRT(Item Response Theory,項目反応理論)というテスト理論に基づいてその体制を整えることが検討されていました。現在、CBTで実施されている大規模試験の多くはIRTが活用されています。
このテスト理論では、1つの問題傾向に対して同じような問題を多く用意し、ランダムに問題を出題します。統計理論に則って、どの問題が出題されても受験者の能力を同じように測定できることが特徴です。
複数回受験できたり、問題の質にバラツキが出にくかったりとメリットも多いのですが、多くの問題を作成したり、予備調査を実施して統計データを集めたりする必要があります。
「大規模入学者選抜におけるCBT活用の可能性について(報告)」によれば、「情報I」をCBTで実施するための試験問題を5年間で1万問作成する場合、1年当たり1億 125 万円、5年で総額5億625 万円を必要とすると試算されたようです。
令和2年度予算において、PBT で実施する共通テスト1科目の問題作成に要する経費は平均すると約 4,100 万円なので5億円をかけて作成した問題を約 12 年間使用し続けることができれば、1年あたり同程度の経費に抑えることができるようになります。
しかし、問題漏洩などの危険性や学習指導要領の内容が変更になることを考えると再利用には限界があり、このような点からも「情報Ⅰ」だけでCBTを活用することが難しいという結論に至ったようです。
個別試験でCBTを活用した「情報Ⅰ」が出題されるとすればどのような問題になるか?
大学入試センターがCBT での「情報Ⅰ」の出題に関する調査研究を行う上で参考にしたのが、「平成28~30年度文部科学省委託事業」において大阪大学を中心とするグループによって開発されたCBTシステム「阪大システム」です。
主に大学入学者選抜での「情報」科目の出題するシステムを研究していました。
余談ではありますが、大阪大学は、2022年1月28日に国立大学協会が発表した「2024年度以降の国立大学の入学者選抜制度-国立大学協会の基本方針-」において、共通テストで「情報Ⅰ」を入試科目に含めることを他大学と比べてかなり早い段階で公表しています。
では、どのような問題が出題されるのでしょうか。
阪大システムでは、大きく2種類の問題形式(①短冊型問題、②プログラム実行型問題)でプログラミング問題を出題することができます。
①短冊型問題
「短冊型問題」は、問題に示されたプログラムの断片(以下「短冊」)を並べ替えて指定された内容のプログラムを作成するといった問題形式です。
受験者は、選択肢欄から使用する短冊を解答欄にドラッグ・アンド・ドロップし、短冊を並べ替えて解答を作成します。(下図)
CBT での「情報I」の 出題に関する調査研究について (報告)
このような問題形式でプログラミングに関する力を問おうとした理由として、「プログラミングの本質的な力を問うのであれば、プログラミング言語の些末な文法誤り等のみをもって誤答とするような問い方は避けるべき」という考え方があったそうです。
また、10~20分程度の解答時間でプログラムを一から入力して作成させることは時間的に難しいですが、短冊型問題の形式で出題すれば、受験者は比較的短時間でプログラムを完成できるというメリットもあります。
②プログラム実行型問題
プログラムは試行錯誤を繰り返しながら完成度を高めていくという手法を取ることから、CBTでプログラムを作成する機能、及びそのプログラムを実行して結果を表示する機能が最低限必要です。
そこで、阪大システムでは、受験者がブロックを用いてプログラムを書き、それを実行して結果を確認し、プログラムを修正して再度実行できる問題形式である「プログラム実行型問題」を開発しています。正解となるプログラムは唯一ではなく、複数の解が存在しうるため、採点もプログラムを実行した結果に基づいて行うことが想定されています。
下の写真を見ていただければわかりますが、プログラムを構成するブロックの色合いや形は、小学校や中学校のプログラミングの授業でよく活用される無料のプログラミングツールScratchによく似ています。
CBT での「情報Ⅰ」の 出題に関する調査研究について (報告)
個別大学の入学者選抜における CBT の活用事例
今後、個別大学の入学者選抜におけるCBT活用が増加するか否かは不透明ですが、「実施に大量受験が可能で、かつ解答データの収集が容易である」「新型コロナウィルス対策となる」といった様々な理由で CBTを導入する大学もあるようです。
「個別大学の入学者選抜におけるCBT の活用事例集」 において、個別大学の事例が共有されていましたので、ここでは一部の国立大学の事例をご紹介します。情報はいずれも令和3年度入学者選抜のものとなっています。
東京外国語大学(国立)
選抜区分 :一般選抜
対象教科・科目等 :英語(スピーキング)
受験者数 :57 名
試験会場 :大学の普通教室
試験時のネットワークの活用方法 :スタンドアローン方式
試験実施の機器・設備の整備 :民間事業者からリース
ソフトウェアの開発 :既存の CBT システムをカスタマイズして活用
問題作成、CBT システムへの登録 :作成は大学が担当、登録は民間事業者が担当
当日の試験実施に関わる業務 :大学と民間事業者が連携して業務を担当
※東京外国語大学は、令和4年度入学者選抜からは全学の一般選抜で CBT を導入しており、令和4年度は1,445 名が受験しています。
京都工芸繊維大学(国立)
選抜区分 :総合型選抜
選抜区分 :総合型選抜
対象教科・科目等 :英語(スピーキング)
受験者数 :24 名
試験会場 :大学の情報教育施設
試験時のネットワークの活用方法 :LAN 方式
試験実施の機器・設備の整備 :大学で購入・保有
ソフトウェアの開発 :既存の CBT システムをカスタマイズして活用
問題作成、CBT システムへの登録 :作成は大学が担当、登録は民間事業者が担当
当日の試験実施に関わる業務 :大学と民間事業者が連携して業務を担当
九州工業大学(国立)
選抜区分 :総合型選抜
選抜区分 :総合型選抜
対象教科・科目等 :適性検査(数学、理科、英語)、レポート、課題解決型記述問題
受験者数 :196 名
試験会場 :自宅等の任意の場所
試験時のネットワークの活用方法 :WAN 方式
試験実施の機器・設備の整備 :受験者が用意(BYOD;Bring Your Own Device)
ソフトウェアの開発 :既存の CBT システムを活用
問題作成、CBT システムへの登録 :作成・登録ともに大学が担当
当日の試験実施に関わる業務 :主に大学が業務を担当
佐賀大学(国立)
選抜区分 :総合型選抜、学校推薦型選抜
選抜区分 :総合型選抜、学校推薦型選抜
対象教科・科目等 :基礎学力・学習力テスト、動画を用いて思考力・判断力等を問うテスト、英語(スピーキング・リスニング)
受験者数 :73 名
試験会場 :大学の普通教室
試験時のネットワークの活用方法 :スタンドアローン方式
試験実施の機器・設備の整備 :大学で購入・保有
ソフトウェアの開発 :独自開発
問題作成、CBT システムへの登録 :作成・登録ともに大学が担当
当日の試験実施に関わる業務 :大学と民間事業者が連携して業務を担当
【執筆担当者より】
2020年度に向けて大学入試改革に多くの注目が集まっていた時期に検討が始まったCBTですが、大学入試センターの報告を確認すると共通テストでの活用はまだまだ先のことのように感じます。
しかし、個別大学の入学者選抜では一部の試験でCBTの導入が進むのではないかとも考えられます。今回の報告書では、「情報Ⅰ」が取り上げられていましたが、特に多くの大学でCBTが導入されている試験は英語のスピーキング力を測定するものでした。
外部の英語検定を活用する大学の方が多いとは思いますが、大学側が独自の基準で選抜したいという意向が強い場合においては、CBTの導入が進んでいくかもしれないと感じました。
Z会においても、すでにCBTを活用したスピーキング力を測定できるサービスをご用意しています。外部の英語検定対策としても活用できますので、ぜひ、ご検討いただけますと幸いです。
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