学習者用デジタル教科書の導入で目指すもの
Z会ソリューションズ 先生向け教育ジャーナル
Z会ソリューションズでは、中学・高等学校の先生向けに教育情報を配信しています。大学入試情報、文部科学省の審議会情報をはじめ、先生方からお伺いした教育についてもご紹介します。
以前、「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議 (第一次報告)」という資料を基に、文部科学省にてデジタル教科書に関する議論が進んでいるということをご紹介しました(デジタル教科書の変遷がわかる ~文部科学省で今議論されていること~)。 この第一次報告では、令和6(2024)年度に学習者用デジタル教科書を本格的に導入していく方向性が示されています。
GIGA スクール構想の実現を通じ、本格的に1人1台端末環境が整備される中、これからの学校教育を支える基盤的なツールとして ICT を最大限に活用しつつ、児童生徒の学習環境をより良いものに改善し、学校教育の質を高めていくためには、各学校におけるデジタル教科書の活用を一層推進する必要がある。今後、次の小学校用教科書の改訂時期である令和6年度を、デジタル教科書を本格的に導入する最初の契機として捉え、以下に示すような視点から着実な取組を進めるべきである。
「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議 (第一次報告)」より
先日、デジタル教科書の導入に関する議論を引き継いだ「教科書・教材・ソフトウェアの在り方ワーキンググループ(以下、本ワーキンググループ)」が、中間報告を公表し、令和6(2024)年度は「小学校5年生から中学校3年生を対象に『英語』から導入し、その次に現場ニーズの高い『算数・数学』を導入する方向」と公表しました。デジタル教科書の導入教科について注目が集まっていますが、本ワーキンググループは「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」の下に組織され、デジタル教科書が個別最適な学びと協働的な学びにどのように寄与していくのかということについても議論されています。今回は、デジタル教科書において、現在どのような議論がされているかをご紹介します。
デジタル教科書の基本的な機能と理想的な教育環境について
まずはデジタル教科書の機能についての議論です。中間報告では「デジタル教科書自体はシンプルで軽いものとし、デジタルの強みを活かして他の様々な教材やソフトウェアと効果的に組合せ、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を図る。」としています。この理由として第3回議事録資料では以下のように記述されています。
・日本の教員は、教科書の内容から一部を選び取って用いるということはせず、教科書の内容全部を教えることになっている。これは、日本の全生徒が同じ学力水準まで到達することが期待されている証である
・生徒も保護者も教師も、教科書の記述内容を全て学習・指導すると暗黙の了解があるように思われる。紙の教科書は全てが指導されることを前提の分量となっており、保護者も教科書の記述内容に全て触れるものであると考えており、教師はこれらを体感的に理解しているからこそ、全ての記述内容を指導する。
・令和 6 年度に、教科書のデジタル化とリッチなコンテンツの付加が同時に行われた場合は、あらゆる機能を活用しようとして混乱につながることがありえる。これは、指導者用デジタル教科書の普及期にも度々見られた。
・教科書に対する考え方や態度は、研修や広報をすれば伝わるレベルではなく、保護者も含めて、一朝一夕に変化が期待できないからである。
・生徒も保護者も教師も、教科書の記述内容を全て学習・指導すると暗黙の了解があるように思われる。紙の教科書は全てが指導されることを前提の分量となっており、保護者も教科書の記述内容に全て触れるものであると考えており、教師はこれらを体感的に理解しているからこそ、全ての記述内容を指導する。
・令和 6 年度に、教科書のデジタル化とリッチなコンテンツの付加が同時に行われた場合は、あらゆる機能を活用しようとして混乱につながることがありえる。これは、指導者用デジタル教科書の普及期にも度々見られた。
・教科書に対する考え方や態度は、研修や広報をすれば伝わるレベルではなく、保護者も含めて、一朝一夕に変化が期待できないからである。
(教科書・教材・ソフトウェアの在り方ワーキンググループ(第3回)配布資料を一部編集)
また、デジタル教科書を使用する際には、校内の通信環境の充実も不可欠です。令和3年度と令和4年度にデジタル教科書に関連する実証事業を実施しましたが、実証校の先生方に行ったアンケートでは、校内の通信環境が悪く接続に時間を要するという事例も発生していたようです。このような事例から、「通信環境等の改善に取り組むとともに、円滑な授業実施の観点から、多様な学校の通信環境等を踏まえ、データの軽量化に加えて、音声・動画等のデータの分離配信等が必要。」という方向性を示しました。他にも以下のような視点が留意点としてあげられ、シンプルで軽いデジタル教科書の方向性が示されています。
● 現行のデジタル教科書が実装しているルビや反転、読み上げ等の機能を維持しつつ、複数のデジタル教科書を使う児童生徒の利便性やユニバーサルデザインの観点から、ビューアの標準化(可能な範囲でのレイアウトや階層の統一化等)が必要。
● 教師の創意工夫を削ぐような形でデジタル教科書の作りこみが進むことには危惧。デジタル教科書は、学習環境の柔軟化、自立化等に向かうべきもの。
● デジタル教科書に全ての役割を持たせるのではなく、教師による学びのコーディネートの向上を考えていくことで、デジタル教科書の最低限のスペックの部分で提供可能。
● デジタル教科書をコンパクトにすることに異論はないが、必要なものまで切られてしまうとそもそもデジタル教科書である意味が半減。デジタル教科書であるメリットを生かした標準的な機能の検討が必要。
● GIGAスクール端末によって児童生徒が自分の都合や判断で、教師が準備したものではない情報にも自由にアクセスできる状況。(情報を過度に詰め込んだものを用意するのではなく)デジタルで児童生徒が自由に様々な情報に直接アクセスすることの方が良質。
● 個別最適化の学習といった場合に、デジタル教科書で視聴できる学年は当該学年だけでなく、学年を超えて前後の学年も視聴できるようにすべき。
● 教師が教えるためではなく児童生徒が学んでいく上で、フリーコンテンツも教材として取り込んで考えたい。
● デジタル教科書と一体的に使用されるデジタル教材と、デジタル教科書からリンクするデジタル教材に分類するべき。
● 教師の創意工夫を削ぐような形でデジタル教科書の作りこみが進むことには危惧。デジタル教科書は、学習環境の柔軟化、自立化等に向かうべきもの。
● デジタル教科書に全ての役割を持たせるのではなく、教師による学びのコーディネートの向上を考えていくことで、デジタル教科書の最低限のスペックの部分で提供可能。
● デジタル教科書をコンパクトにすることに異論はないが、必要なものまで切られてしまうとそもそもデジタル教科書である意味が半減。デジタル教科書であるメリットを生かした標準的な機能の検討が必要。
● GIGAスクール端末によって児童生徒が自分の都合や判断で、教師が準備したものではない情報にも自由にアクセスできる状況。(情報を過度に詰め込んだものを用意するのではなく)デジタルで児童生徒が自由に様々な情報に直接アクセスすることの方が良質。
● 個別最適化の学習といった場合に、デジタル教科書で視聴できる学年は当該学年だけでなく、学年を超えて前後の学年も視聴できるようにすべき。
● 教師が教えるためではなく児童生徒が学んでいく上で、フリーコンテンツも教材として取り込んで考えたい。
● デジタル教科書と一体的に使用されるデジタル教材と、デジタル教科書からリンクするデジタル教材に分類するべき。
(中間報告資料を抜粋して編集)
令和6(2024)年度のデジタル教科書導入方針
本ワーキンググループが発足した際には、令和6年度にデジタル教科書を導入するということが先に決定しており、どのように導入を進めていくか議論する役割を担っていました。
結果として、令和6(2024)年度では小学5年生~中学3年生の「英語」を対象し、その次に現場ニーズの高い「算数・数学」を導入していく方向性を示しました。このように検討した経緯は以下の通りです。
● 学校に端末が導入されて2年目であり、端末の活用レベルの学校間格差などの課題がある。教科を絞ることや学年も発達段階に合わせて段階的に導入するなど、デジタル教科書を導入する教科や学年を段階的に広げていくことが格差を縮めていく上でも現実的に必要。
● 実証事業である程度効果が期待された「英語」、要望が多く授業時間数も多い「算数・数学」が妥当。同時に、今後も見据えてデジタル教科書のレイアウト等の改善などを考えると「国語」の優先順位も高い。
● 教師に聞くと「英語」は音声教材等が4技能の指導や個別指導の観点で有効。「算数・数学」は図形やグラフの作成等で活用できることから、「英語」「算数・数学」からの導入は妥当。
● 実証事業である程度効果が期待された「英語」、要望が多く授業時間数も多い「算数・数学」が妥当。同時に、今後も見据えてデジタル教科書のレイアウト等の改善などを考えると「国語」の優先順位も高い。
● 教師に聞くと「英語」は音声教材等が4技能の指導や個別指導の観点で有効。「算数・数学」は図形やグラフの作成等で活用できることから、「英語」「算数・数学」からの導入は妥当。
(中間報告資料を抜粋して編集)
第2回会議では、デジタルと紙による読解の優位性の違いに関する研究結果が公開されています。
● 多くの児童生徒はデジタルに親しんでいる。前の世代と認知スタイル・ストラテジーがは違う可能性がある。
● スクリーン上と紙媒体での読みにおいて、解読と読解において、全体的には差がない。ただし、ジャンルがフィクションでは差がないが、説明文では紙での読解が優位。
● スクリーン上と紙媒体での読解力において英語では500語以上のテクストの場合は、紙が優位。ただし、テクストのみならば読むスピードはスクリーンの方が早い。
● 英語を母語としない児童生徒には,マルチメディアの教材は効果的だとする報告が少なくない。聴覚と視覚の情報を一緒に処理するほうが,別々に処理するよりも記憶などの認知活動結果が促進される。
● マルチメディアの情報処理には個人差がある。日本の大学生におけるアイトラッキング(どこを見ているか)の検証において、英語の熟達度の高い学生は満遍なく情報を捉え、重要な部分を注視するという行動をとっている。その一方で、英語の熟達度の低い学生の場合は、非常に情報の量が限定されていることがわかる。
● スクリーン上と紙媒体での読みにおいて、解読と読解において、全体的には差がない。ただし、ジャンルがフィクションでは差がないが、説明文では紙での読解が優位。
● スクリーン上と紙媒体での読解力において英語では500語以上のテクストの場合は、紙が優位。ただし、テクストのみならば読むスピードはスクリーンの方が早い。
● 英語を母語としない児童生徒には,マルチメディアの教材は効果的だとする報告が少なくない。聴覚と視覚の情報を一緒に処理するほうが,別々に処理するよりも記憶などの認知活動結果が促進される。
● マルチメディアの情報処理には個人差がある。日本の大学生におけるアイトラッキング(どこを見ているか)の検証において、英語の熟達度の高い学生は満遍なく情報を捉え、重要な部分を注視するという行動をとっている。その一方で、英語の熟達度の低い学生の場合は、非常に情報の量が限定されていることがわかる。
教科書・教材・ソフトウェアの在り方ワーキンググループ(第2回)配布資料より
また、デジタル教科書を導入するにあたっては、紙の教科書やノートなどとの併用を推奨しています。
● 個々の児童生徒の学び方にも特質があり、ハイブリッドにデジタルと紙の教科書の両方が用意されている環境が必要。
● 予算面も考慮しつつ、慣れには少なくとも数年は必要であり、当面の間はデジタルと紙を併用。
● 予算面も考慮しつつ、慣れには少なくとも数年は必要であり、当面の間はデジタルと紙を併用。
(中間報告資料を抜粋して編集)
ここまでは令和6年度段階における主な議論と示された方向性についてご紹介しましたが、今後について以下のように記述しています。
「令和6年度の方向性が未来永劫続くというのではなく、本格的な最初の導入から、更に段階的に進んでいく途上で(教材なのか学習材なのかといった教科書等の在り方も)少しずつ動かしていくことが必要」
(中間報告資料を抜粋)
個別最適な学びと協働的な学びを実現する
前述したように本ワーキンググループは、個別最適な学びと協働的な学びの実現について議論する部会のワーキンググループとして設置されています。このことからデジタル教科書を新たな学びの手段として活用していってほしいという狙いが見えてきます。
中間報告の資料においてもデジタル教科書や他の教具との関係性について現段階で構想しているイメージが紹介されています。
ただ、デジタル教科書を導入しただけでは、資料を分かりやすく見せるといった一斉型授業のやり方が変化しない恐れもあるため、デジタルを活用しながら学びのあり方自体を変化させる意識を持たなければならないと議論されています。そこで中間報告では今後以下のような内容に関する議論をより進めていくとしています。
● 児童生徒に応じて、紙・デジタル、教科書・教材・学習支援ソフト等の「学びの手段」を適切に組合せることのできる「ハイブリッドな教育環境」の整備が必要ではないか。
● デジタル教科書・教材等の活用が、いわゆる「デジタル一斉授業」に留まることなく、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を通して、児童生徒が主体的に学びを選択し、自立した学習者になっていくことが重要であり、学校・教師へのモデルづくりを含めた伴走支援が必要ではないか。
● 学校間・自治体間で教育環境に格差が生じることのないように、デジタル教材や学習支援ソフトウェア等の支援の検討が必要ではないか。
● デジタル教科書・教材等の活用が、いわゆる「デジタル一斉授業」に留まることなく、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を通して、児童生徒が主体的に学びを選択し、自立した学習者になっていくことが重要であり、学校・教師へのモデルづくりを含めた伴走支援が必要ではないか。
● 学校間・自治体間で教育環境に格差が生じることのないように、デジタル教材や学習支援ソフトウェア等の支援の検討が必要ではないか。
(中間報告資料を抜粋)
【執筆担当者より】
Z会では、学習者用デジタル教科書として「NEW TREASURE Digital Textbook」をご用意しております。Lentrance® というプラットフォームを通してご提供しており、契約している他のデジタル教科書と同一のプラットフォームでご利用いただけます。
中高生用英語教科書『NEW TREASURE ENGLISH SERIES』に対応したこのデジタル教科書は、デジタルならではの学習としてどのような機能を搭載すると学習に効果的だろうかと社内で議論を重ねて開発してきました。
今回のワーキンググループでの議論は、機能面だけでなく、個別の学びと協働的な学びを一体化できるデジタル教科書とはどういったものかを改めて考えるきっかけとなりました。
今後も、学習者の学びの質をより高めていけるよう、サービスの改善に努めていきます。
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