特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方〜審議のまとめ〜

2022.10.11
Z会
Z会ソリューションズ 先生向け教育ジャーナル
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2022(令和4)年9月に日本における特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する指導のあり方を審議した有識者会議のまとめが公表されました。
本審議会は、児童生徒を特定の基準で選抜し特別なプログラム等を提供することを目指すものではなく、特異な才能のある児童生徒に対する指導・支援の在り方を考えていくという方向性で議論が進められました。

特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議審議のまとめ~多様性を認め合う個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実の一環として~

今まで、日本の学校において特異な才能をどのように定義し、見いだし、その能力を伸長していくのかという議論は十分行われていませんでしたが、審議のまとめが公表されたことで方向性が示されました。今回は、特異な才能のある児童生徒を取り巻く状況などをまとめつつ、有識者会議が公表した今後の方向性についてまとめていきます。

 

特異な才能のある児童生徒に見られる状況

本有識者会議では、特異な才能のある児童生徒及びその関係者(保護者、学校の教師、支援団体の職員等)を対象としてアンケート調査を行い、児童生徒にみられる状況をまとめています。このアンケート対象者には、特異な才能と学習困難を併せもつ、いわゆる 2E(twice-exceptional)の児童生徒等も含んでいます。
この児童生徒を取り巻く状況は主に以下の3つに分けて説明されています。

① 特異な才能に関する状況
学校における各教科の区分を参考に分類してみると、言語、数理、科学、芸術、音楽、運動等、様々な領域に高い能力がみられました。
小学生にして大学レベルの数学にも理解を示す事例や、7歳で自然科学系の研究を大学において課外で行っている事例などが報告されています。そのほか、映画や本の内容を完全に暗記するといった事例のように、特定の事柄への強い関心や、創造性や集中力、記憶力などに特性がみられる事例も報告されています。

② 学習に関する状況

特定の領域における優れた能力や、特定の事柄への強い関心、創造性や集中力、記憶力などがみられる一方で、これらの特性があるがために、学校において学習すべき内容についての理解が通常以上に早い場合があり、関係する教科において当該特性に起因した学習に関する困難もアンケート結果から示されました。

● 教科書の内容は全て理解していたが、自分のレベルに合わせた勉強をすることができず、授業中は常に暇を持て余していた。
● 発言をすると授業の雰囲気を壊してしまい、申し訳なく感じてしまうので、わからないふりをしたが、それも苦痛で、授業中に自分を見いだすことができなかった。
● 学校で習っていない解法をテストなどで解答すると×にされることが嫌だった。
● 書く速度の遅さと脳内の処理速度が釣り合わず、プリント学習にストレスを感じていた。

「審議まとめ」より

また、アンケート結果から、特異な才能のある児童生徒の中には、例えば、読み書きなどの学習における困難を抱えるなど、様々な障害による学習上又は生活上の困難を併せもつ児童生徒がいる実態が報告されており、こうした困難への対応も課題の一つとなっていたことが報告されたそうです。

③ 学校生活に関する状況
特異な才能のある児童生徒は、学校生活においても以下のような課題を抱える場面があったことが報告されています。
以下のような結果として、特異な才能のある児童生徒の中には不登校になったり、学校に通わない選択をしたりする場合があったようです。

● 言語能力や思考力など知的な側面が年齢に比べて著しく発達しているため、同級生との会話や友人関係の構築に困難を抱える場合がある。
● 教師に対し、授業の進め方や自分への関わり方をめぐって疑問を抱く場合もある。
● 他方で、知的な側面の発達と異なり、精神的な側面では年齢相応の発達であったり、発達の遅れが見られたりする場合もあり、自分の感情を抑えることができず、集団の中で、トラブルが起きたり孤立したりする場合がある。
● こだわりが強かったり、ルールを守ることに厳格であったりするため、学校生活の中で強いストレスを感じている場合がある。

「審議まとめ」より

 

特異な才能がある児童生徒をサポートした事例

上記したように様々な困難を抱える児童生徒に対し、教師、学校、教育委員会による指導や関わり方の工夫、学校内の環境整備、学校外の学びの場の提供などといった支援によって、特異な才能のある児童生徒が困難を克服し、充実した学校生活を送っている実態があることも報告されています。

① 学校における指導や関わり方に関する工夫

●正しい答えだけでなく、「なぜ、そのように考えるのか」、考え方を発表させてくれた先生のクラスは非常に楽しかった。
●自己肯定感が低いので、自信を付けさせる声かけをしていただいたことが有効だった。
●暇になってしまう時間に、他の生徒を助けさせるなど役割を与えると、授業に前向きに参加できていた。


「審議まとめ」より

② 認知や発達の特性に起因する学習上の困難への支援

●ICTの活用や児童生徒の特性に応じた口述や筆記を選択できるようにしたことで、読み書きなど学習上の困難への支援が効果的となったり、支え合う友人関係の構築や教師間の情報共有、養護教諭による保健室での支援、スクールカウンセラーや学校司書等による支援によって学校生活を円滑に送ることができるようになったりした事例が報告された。

「審議まとめ」より

 

今後取り組む具体的な施策

本審議会まとめでは、今後取り組む具体的な施策を以下の5つに整理して報告しています。

① 特異な才能のある児童生徒の理解のための周知・研修の促進

② 多様な学習の場の充実等

③ 特性等を把握する際のサポート

④ 学校外の機関にアクセスできるようにするための情報集約・提供

⑤ 実証研究を通じた実践事例の蓄積

① 特異な才能のある児童生徒の理解のための周知・研修の促進

● 才能や特性ゆえに学習上、生活上の困難を抱えていることへの教師の理解を深め、教師以外のスタッフに対しても研修などを実施する。
● ただし、教師は多忙な状況であるため、研修の実施に当たっては、分かりやすい動画コンテンツなどを国が整備し、各教育委員会や学校において研修が行われるように促すべき。
● このような研修やコンテンツは教員養成大学にも広く周知する。

「審議まとめ」より

② 多様な学習の場の充実等

● 特異な才能のある児童生徒は、普段過ごす教室には居づらい場合があり、一時的に空き教室や学校図書館などで、安心して過ごせるようにする。
● SSH内の以下のような取り組みを推進する。
先進的な理数系教育を実施する高等学校等を支援することを通じて将来のイノベーションの創出を担う科学技術人材の育成を図る「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業」を引き続き推進するとともに、意欲能力が高い小中学生が SSH指定校の取組に参加できるよう、その体制を強化するための支援を実施することが求められる。
● 特異な才能のある児童生徒のキャリア形成に当たっては、多様な学びを蓄積し、振り返り、肯定的な自己理解や自己効力感の向上などにつなげていくため、ポートフォリオとしての「キャリア・パスポート」が有効であり、その活用を推進する。

「審議まとめ」より

③ 特性等を把握する際のサポート

● 特異な才能についての一律の定義を行うことやその定義に当てはまる者を「特異な才能のある児童生徒」と取り扱うことはしない。
● 学校や教師等が児童生徒の抱える困難さに気付いたり、児童生徒本人から相談を受けたりした際に、アセスメントツール等も活用し、認知や発達、行動の特性、状況や才能に伴う学習・社会情緒的な困難を把握することが重要。
● 国は、特異な才能のある児童生徒の特性等を把握するためのツール等に関する情報を収集し、教育委員会や学校が必要に応じて活用できるよう共有すべきである。 こうしたツール等を活用した特性等の把握は全ての児童生徒に対して一律に行われるべきものではない。

「審議まとめ」より

④ 学校外の機関にアクセスできるようにするための情報集約・提供

● 特異な才能のある児童生徒の中には、所属する学校の同級生と話がなかなか合わないという場合があるとされ、こうした場合に学校外で興味を同じくする者と出会ったり、学校外のプログラムに参加することにより自分の才能や興味・関心と社会との関わりについて認識を深めたりすることは有意義である。
● 国は、特異な才能のある児童生徒の指導・支援に関わる学校外の様々な機関が提供するプログラムやイベント、関わる人材などについて、情報を集約し、提供する仕組みを作るべきである。具体的には、オンライン上にプラットフォームを構築することで、使いやすいものとすることが重要である。

「審議まとめ」より

⑤ 実証研究を通じた実践事例の蓄積

● 学校等における特異な才能のある児童生徒に対する指導・支援の実際の事例を蓄積し、例えば、児童生徒の困難の状況や当該児童生徒の特性等を把握するために活用したツール等、把握した特性等を踏まえて講じた支援策の内容、当該児童生徒が参加した教育プログラムの情報の取得方法、取組全体を通じた成果と課題といった情報について、可能な限り類型化・体系化を図った上で、共有していくことが必要である。
● 特異な才能のある児童生徒に対する指導・支援の役割は第一義的には在籍校及び当該学校を設置する自治体が担うこととなるが、小・中学校を設置する市町村の中には規模が大きくなく、特異な才能のある児童生徒に対する指導・支援を進めるための人的・物的な資源が十分確保できない市町村も存在することが懸念される。
このため、広域自治体である都道府県が、市町村の取組を支援する観点から役割を果たしていくことが求められる。他方で、意欲ある市町村の自律的な取組も重要である。したがって、実証研究の設計に当たっては、都道府県の役割や、市町村との役割分担などについても検証できるようにすることが必要である。
● 実証研究の成果の取りまとめに当たっては、成果のあった実践事例のみならず、その時点では課題の解決につながらなかった事例など、実践の中で明らかとなった課題についても含めることも、各学校等においてさらなる取組の改善を進める上で有意義である。
● 国は、これらの検証の成果を全国に展開するとともに、例えば次期学習指導要領や環境整備などの制度的な改善についても、必要に応じて進めるべきである。

「審議まとめ」より

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