学習の基礎となる「言語能力」に欠かせない「語彙力」の重要性
Z会ソリューションズ 先生向け教育ジャーナル
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同じ授業を受けている生徒でも、授業の理解度にはそれぞれ差があります。同じ説明をしても生徒によっては上手く伝わらず、歯がゆく感じたことのある先生方も多いのではないでしょうか。
全ての教科に共通して必要な「学習の基礎」となる能力があり、代表的なものの一つが「言語能力」です。授業内容を理解するために必要となる能力であり、生徒に意識して身につけてもらえるようサポートすることで学習効率を高められると考えます。ここでは、「言語能力」を先生方や教科書の内容を「聞く」「読む」ことで理解し、問いや課題に対して自ら言葉を使って「書く」などで解答できる能力と捉えます。
この「言語能力」の中でも学習の基礎として特に重視したいのが「語彙力」です。
今回は、「語彙力」の重要性についてご紹介します。
学習の基礎として語彙力を重視したい理由
学習の基礎として、語彙力を重視するべき主な理由は次の2つです。
- 語彙力により理解の引き出しが増える
- 語彙力向上の取り組みは比較的容易に行える
それぞれの説明をする前に、「学習の基礎としての語彙力がある」とはどのような状態なのか説明します。一般的な「語彙力がある」という状態よりは、学校内の学習という少し限定的な場面を想定しています。
先生方や各教科の教科書は、新しい学習内容を生徒の成長段階にあわせた言葉(表現)や過去に学習した内容を使って説明します。生徒はこれらの言葉を受容し、自らの理解の助けとします。このように先生方の説明や教科書などの記載内容を受けて新しい学習内容を理解できる状態を「学習の基礎として語彙力がある」状態と考えます。学習した内容を自分の言葉で表現できるようになっていれば理想の状態といえます。
理解のための引き出しが増える
人は新しい物事を学ぶ際に、既知の経験や知識などから類推して理解を深めていきます。
生徒に新しい学習内容への理解を深めてもらうためには「言葉」による説明が必須ですから、先生方や教科書で使用される言葉をより多く「知っている」生徒の方が学習効率は高くなります。
例えば、生徒に英単語を教える時を考えると分かりやすいと思います。初めて出てくる英単語の意味は日本語で説明する必要がありますが、説明で使われている日本語の意味を知らなければ、当然、生徒は単語の意味を理解できません。
また「知っている」状態とは辞書的な意味だけではなく、言葉の背景にあるような抽象的な概念も理解できている状態となることもあります。
例えば、英単語の中には日本語に置き換えにくいものも多くあります。その場合は特に、様々な言葉を使ってニュアンスを説明する必要がありますが、語彙力に課題のある生徒は一部分しか理解ができません。先生方が伝えたかった内容や意図が生徒に十分に伝わらず、これが生徒によって理解度が異なる状態を引き起こしてしまうと考えられます。
まとめると、語彙力がある生徒ほど理解のための引き出しが多く、新しい物事に対する説明をより早く正確に理解できるため、学習の効率も高くなると考えることができます。
語彙力向上の取り組みは比較的容易に行える
もう一つの重視したい理由は、語彙力を付けるための取り組みには大掛かりな準備なく比較的容易に取り組めるものも多いからです。
例えば、鹿児島県にある学校では、毎日、副校長先生が選んだ新聞記事を生徒が要約するという取り組みをしていました。もともと、数学が得意な生徒が集まる学校ですが、入学後の生徒の国語の成績も非常に優秀です。
この取り組みは、生徒が普段触れることがない話題やジャンルに少しでも多く触れてもらうということを目的としています。また要約を取り入れることで、記事に対して能動的に向き合うことができるようです。
では、多くの学校が取り入れていらっしゃる「読書の時間」はどのような効果を発揮するのでしょうか。
2009年度に静岡大学で行われた研究では、一定の読書時間は学力の向上にプラスに働くことがわかっており、次のように結論で記されています。
児童生徒の読書活動は、教科の学力に影響を及ぼすことが確認された。特に、読書好きの児童生徒ほど教科の学力が高いという傾向が、非常に強固であることがわかった。また、平日における一定時間の読書も教科の学力と関係していることが示された。
出典:「読書活動と学力・学習状況調査の関係に関する調査研究(静岡大学) 調査研究報告書3」(文部科学省)(https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2014/02/17/1344295_007.pdf)(2022年6月20日に利用)
始業前の10分などを使い、生徒に読書をしてもらっている学校は多いのではないでしょうか。小説、エッセイ、たとえ漫画でも、何かしらの文章を読んでもらう時間を作ることで生徒の語彙を増やす機会を与えられます。
語彙力を育むサポートは多様性を意識して
語彙力の向上はどのような学校でも取り組みやすく、一定時間の読書でも効果が見込めます。ただし、読書時間はやみくもに増やしても学習の基礎としての「語彙力」が付くとは限らないようです。
先ほどご紹介した静岡大学の研究においても「平日の読書時間も教科の学力とは関係しているが、長時間の読書は必ずしも学力の高さには結びつかない。」と記されています。
「平日の読書時間も教科の学力とは関係しているが、長時間の読書は必ずしも学力の高さには結びつかない。」
出典:「読書活動と学力・学習状況調査の関係に関する調査研究(静岡大学) 調査研究報告書1」(文部科学省)(https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2014/02/17/1344295_005.pdf)(2022年6月20日に利用)
また、2016年に行われた政策研究大学院大学の研究でも下記のように結論付けられています。
学校教育全体を通して言語活動の充実に取り組むことは、学力の向上に影響を与える。ただし、言語活動に関連する取組が全て学力の向上に寄与するものではない。
言語活動に関連する取組で、学力と正で統計的に有意な関係が認められたのは、「学習目標の明示」、「公式のわけを理解」、「図書館利用」、「読書は好き」、「意見発表」、「発表する機会」、「総合的な学習」、「感想・説明を書く」、「解き方を書く」、「文章をまとまりで理解」である。
一方、学力と負で有意な関係が認められたのは、「授業の振返り」、「読書時間」、「話合い活動」、「考えを深め、広げる」である。出典:「言語活動の充実が学力に与える影響について」(政策研究大学院大学)(http://www3.grips.ac.jp/~education/epc/wp-content/uploads/2016/03/2015-a-2.pdf)(2022年6月20日に利用)
長時間の読書が学力向上に結びつかないケースがあるのはなぜでしょうか。
時折、先生方から「読書の時間を設けてもライトノベルばかり読むのであまり意味はない」という声をお聞きすることがあります。
ライトノベルに限らず同じような文章ばかり読んでいては、多様な語彙に触れられなくなり、語彙力を育むという意味では効果は逓減していくと考えられます。
前述した鹿児島県の学校の副校長先生が、ありとあらゆるジャンルの情報を生徒に触れてもらえるように意識していた意図はここにありました。
語彙力を育むサポートは学習段階を意識して
学習段階に応じて必要になる「語彙」の違いも意識する必要があります。
小学校低学年ぐらいまでは、授業で使われている語彙と一般的な書籍や雑誌などで使われている語彙とで大きな差はありません。しかし、学習のレベルが上がるにつれて、普段の読書では触れることのない語彙が頻出するようになり、それらの理解が必須になります。
例えば、小学校低学年では「海」や「山」「川」、「りんご」「みかん」といった、具体的にイメージできる物に関する語彙の理解が主に必要になります。
小学校5~6年生頃から中学生にかけては、徐々に概念的な内容が増え、教科の専門性が高くなり、具体的にイメージしにくい抽象的な語彙の理解も求められるようになります。徐々に学習者の理解度にバラつきも出始める頃です。
さらに、高校生になると教科の専門性はより高まり、今までの学習を前提とした内容が多くを占めるようになります。
数学の公式を思い浮かべると分かりやすいですが、高校1年生で習う「二次関数」は2次の多項式で表される関数ですが、「2次の多項式」「関数」などがどういった状態・定義をさしているのかがわからなければ理解はできません。ここまで来ると普段の学習の積み重ねが重要となってきますが、文系科目などは語彙力を高めておくことで教科書に記述されていることを理解する上での助けとなるでしょう。
前述のように、同じジャンルの本ばかりでは、触れられる「語彙」に限りがあります。従って、多様な形式やジャンルの文章を読むような機会を作るなどの取り組みで、より高い効果を発揮するのではないかと考えます。
また、語彙を増やす取り組みだけでなく、どの程度の語彙力を有し、使いこなせているのか認識することも時には重要です。何らかの指標を活用し、現状を知った上で、必要な語彙を意識的に増やす取り組みを行えば、効率的に学習を進められます。
その際、東京大学の松下 達彦准教授が作成した「学術共通語彙」を活用してもらうことも効果的だと考えます。
「学術共通語彙」とは論説文などの硬い文章にジャンルを問わずよく出てくる言葉であり、日本語で勉強や研究をする学生にとって必要な語彙をまとめたものです。
例えば「当初」「しばしば」「もっぱら」といった普段あまり使うことのない抽象度の高い言葉や、「システム」「プロセス」「サンプル」といった硬い文章で頻出するカタカナ語が重要度別にレベル0~Ⅷに分けてまとめられています。
出典:「日本語学術共通語彙リスト レベル0~Ⅷ (重要度順)」(松下言語学習ラボ)(http://www17408ui.sakura.ne.jp/tatsum/list.html#jcaw)(2022年6月20日に利用)
生徒にどの程度の語彙力があるのかを知ることはなかなか難しいものです。こういった指標を活用し生徒の状態を知る一助としてみてはいかがでしょうか。
学術共通語彙を活用したZ会サービス
Z会では日本語運用能力を測定できる記述式のアセスメントをご用意しています。前述した、松下 達彦准教授が考えた「学術共通語彙」から選んだ語彙も出題されるので、「学術共通語彙」に基づいた語彙力がどのぐらいあるかも可視化できます。
また、先生方が行う授業での理解度に大きく関わる「聞く力」についても測定します。実は「聞く力」については、能力が十分に発揮できていない生徒は多くいます。自身の今の能力を示した上で、どうすれば伸ばしていけるかアドバイスを行うのもZ会サービスの特徴です。
測定だけでなく、その後の能力向上をサポートする「日本語運用能力 練成ワークブック」もご用意しています。合わせてご活用いただくことで、生徒の日本語運用能力を効果的に伸ばすことができます。
まとめ
授業の理解度に大きく関わる「言語能力」の中でも特に重視していただきたい「語彙力」についてお話ししました。
語彙力は、新しい物事を学ぶ際に理解のための引き出しを増やしてくれること、一定時間の読書に代表される語彙力向上のための取り組みに大掛かりな準備が必要ない、という点でメリットがあると考えます。
ただし、読書時間をやみくもに増やしても、学習の基礎としての「語彙力」が付くとは限りません。むしろ、「読書時間」が学力と負で有意な関係が認められたという研究もご紹介しました。その対策として文章やジャンルの多様性を意識した取り組みが有効ではないかと考えます。
また、取り組みの成果を可視化するために生徒の現在の語彙力を定期的に評価・測定することも能力向上には欠かせません。
生徒の状態を知る一助として、Z会のサービスの活用をご検討いただけましたら幸いです。
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