「思考力・判断力・表現力」は、新しい大学入試でどのようにして測られる?_2016.1

2016年1月29日

カテゴリー : 大学受験

「思考力・判断力・表現力」は、新しい大学入試でどのようにして測られる?

前回、その内容や重視されるようになった背景などについて紹介した「思考力・判断力・表現力」。実際の入試では、どのようにして測られるのでしょうか。前回に続き、基盤学力総合研究所・ジェネラルマネージャーの上之門宏美さんに解説していただきました。

 

◆正解が一つではない問題に対して手持ちの知識を総動員して解答することが求められる

新しい入試でどのようにして「思考力・判断力・表現力」が測られるのか。ざっくり言うと、「正解が一つに決まらない、あるいは、正解がない問題に対して、手持ちの知識でどれだけあがくことができるかを見る問題」によって測られると考えます。「主体的に勉強する」「さまざまな事象を自分ごととして捉える」という資質を測る出題とも言えるでしょう。

従来の入試において思考力や表現力を問う出題、とされている問題は、多くが「正解が一つに決まっていて、自分で試行錯誤してその正解にたどり着く」という切り口で出題されてきました。例えば、「状況を要約する」。国語の「筆者の言いたいことをまとめなさい」という設問などです。あるいは、「先生から教わったプロセスを再生する」。日本史の「この資料から読み取れる摂関政治の特徴を書きなさい」など、学んだ内容を整理して記述するような設問です。

このように、従来の入試では「課題に対してどう対応するか」ということが問われ、提示された課題そのものの前提に疑問を呈したり、課題を超えて考えたりすることは、基本的には求められていませんでした。しかし、新しい入試においては、従来の入試で問われていたような力に加えて、課題を超えた考えを求められることも出てくるでしょう。具体的には、以下の3つの形式が想定されます。

1.課題の背景や理由を考えさせる
ある事象に対して「どうしてこうなったのか」と自分なりに背景や理由を探ることを問う問題です。例えば、南北問題について「何が問題になっているのか?」だけでなく、「そもそも人類の歴史から考えたときに、なぜこれだけ格差が広がるのだろうか?」というところまで問うような出題がこれにあたります。「何が問題になっているのか?」は、世界史でも地理でも教わりますが、「なぜ格差が広がるのだろうか?」ということは、社会的な観点、経済的な観点、科学的な観点など、さまざまな切り口から考えられ、正解は一つではありません。

2.課題に対する自分の意見を提示させる
課題を単にまとめさせるだけでなく、「では、あなたはどう思いますか?」と、意見を提示させる形式です。例えば、「留年がいいと思うか、悪いと思うか、そう思う根拠は何か」などの設問がこれにあたります。

3.課題に対する解決策を提示させる
課題に対して「では、どうすれば解決できると思いますか? 人が納得できるように提示してください」と、解決策の提示まで求めるものです。例えば「留年が多い」という課題に対して、背景の考察や自分の意見の提示だけでなく、「どのようにして解決すればいいと思うか?」というところまで問われるのです。

また、今後ICTが進展してくると、「インターネットを使って調べても構わない」という条件や、「調べた情報が、なぜ正しいと判断したのか、なぜこの課題の答えを出すのに活用できる情報だと判断したのか、などの論拠も含めて述べよ」という出題も可能になります。あるいは、「隣の生徒と話し合って答えを出しなさい」という試験が実施されることもあるかもしれません。

実は、前述した3つの形式のような問題を、すでに出題している入試もあります。次に、新しい入試の問題をイメージする上で参考になりそうな問題へのリンクを挙げますので、参照していただければと思います。

■新しい入試をイメージする上で参考になる出題例
・東京都立小石川中等教育学校
2015年度 適性検査1 大問1 問題2(2つの異なる意見を読み、自分の意見を書かせる問題)

・東京都立桜修館中等教育学校
2015年度 適性検査2 大問3(水からものが飛び出す様子を調べるための実験に関する問題)

・東京都立日比谷高等学校 2015年度入試 国語 大問4 問6(文章を読んで、自分の意見を書かせる問題)

 

◆日ごろから「なぜ?」「自分ならどうする?」などの視点で 物事を見ていくことが大事

入試が変わるとなると、「どんな形式の問題を練習しておけばいい?」「類題を解いておけば対策できる?」と考える方も多いと思います。ただ、新しい入試の意図からすると、これらの質問は的外れと言わざるを得ません。新しい入試では、「対策をとることのできない課題に対して、手持ちの知識でどうあがくことができるか」を見たいわけなので、類題を解いて対策できるような問題は出題されないでしょう。

とはいえ、今までまったく解いたことがないタイプの問題に対応するには、それなりに慣れや心の準備も必要ですから、どのような「思考力・判断力・表現力」が求められているのか、今の自分はそれに対応できているか、を把握するために、類題にあたっておくことは無駄ではありません。ただ、それ以上に大事なのは、日ごろからニュースなどを見て「これって、要するにどういうことかな?」「なんでこういうことが起こるんだろう?」「どうすれば解決できるんだろう?」と疑問を持つことや、持った疑問について友だちや先生、親子で話すことです。面と向かって話すのが恥ずかしいなら、インターネットで調べて、調べたことをメモにまとめておいてもよいでしょう。まったく興味のない事象について出題されると手も足も出なくなるので、幅広い事象に興味を持ち、自分で考え、調べて、発話や文章という「言葉」にしてみることが大切です。

2021年度から導入予定の「大学入学希望者学力評価テスト(仮)」をめぐっては、現在も様々な議論が展開されています。だからといって、これからの社会を生きていくために必要な学力像が変わるわけではありません。「うちの子は(自分は)中3だから、制度が変わる前に大学入試を受けることができるのでセーフ」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、今までのノウハウを使って大学入試対策を行えるという意味のみにおいて「セーフ」なのであって、社会に出てから必要となる資質・能力は、新しい入試を受ける世代と変わらないことは、念頭に置いておいていただきたいと思います。

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