進路選択を考える
2022年7月26日
カテゴリー : 大学受験
VUCAの時代を生きていく、という前提
現在は、VUCA(ブーカ)の時代、と言われています。
VUCAとは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を並べたもので、不確実性が高く将来の予測が困難な状況であることを示す造語です。
たとえば、今ある職業には「AIによってなくなるものがある」という予測がありますが、これも、VUCAの時代の象徴の一つ、といえるでしょう。この予測が正しいかどうかはわかりませんが(VUCAの時代ですので、この予測すらも不確実性を含む、と考えるのが適切な姿勢でしょう)、現時点でみなさんが将来就きたいと考えている職業についても、10年後や20年後にはなくなっている可能性は、頭の片隅に置いておくべきでしょう。つまり、みなさんが進路を考えるときには、VUCAの時代を生きていくことを前提にする必要があります。
だからといって、進路の選び方がこれまでと劇的に変わる、と考える必要はありません。ただし、進路の選択には、これまで以上に将来的な不確実性に備えることが重要、とはいえます。ですので、当面はVUCAの時代が続くであろうことを踏まえて、進路を考えることが大切です。
将来就きたい職業から逆算
先ほど、将来就きたい職業も、いずれはなくなるかも、という話をしました。とはいえ、進路の選択において、将来就きたい職業が重要であることは、間違いありません。 医師になりたいのであれば、医学部に進学する必要がありますし、弁護士になりたいのであれば、法学部に進むのが有利でしょうし、小学校や中学校の先生になりたいのであれば、教育学部に進むのが近道といえるでしょう。
このように、職業と学部が一致しているような場合には、進学・受験したい大学・学部を調べ、それらの大学・学部の受験に必要な教科・科目を確認し、それらを履修できるよう、文系や理系の選択、教科・科目の選択を行うことになります。
しかしながら、何度も述べているように、VUCAの時代ですので、文・理や教科・科目の選択の際、極端に絞り込むのはハイリスクです。時代の変化、社会の変化、大学の変化、そして何より、自分自身の将来の希望や志望大学・学部の変化を前提として、できるだけ多くの選択肢に対応できるように、文・理や教科・科目の選択を行うようにしてください。
なお、上で挙げた、医師、弁護士、先生といった職業は、当面なくなることはないと思いますが、将来的に、その役割が変化していく可能性はあります。そういう意味では、上記のような職業を考えている場合でも、文・理や教科・科目の選択の際には、絞り込みすぎないようにしておくことが望ましいと言えます。
興味・関心を活かす
将来就きたい職業について、まだはっきりしていないという人や、大学に入ってからじっくり考えたいという人は、ひとまず、自分の興味・関心を活かす方向で進路を検討するのがよいでしょう。ただし、大学で学ぶ内容や学び方は、高校までの内容や学び方とは質が異なりますので、進路を検討する際に、高校までに得意だった教科・科目だけで決めてしまうと、大学進学後、「こんなはずじゃなかった」となりかねません。
ですので、一旦は、大学名や学部名は脇に置いておき、まずは、「自分はどういうことに興味があるか」「どんなことを学びたいか」を考え、それらを踏まえて、自分の興味や関心に合った大学や学部を調べてみましょう。該当する大学が近くにあれば、オープンキャンパスなどの機会を利用して、大学を直接訪ねてみるのもよいでしょう。実際に学ぶ内容や、自分の興味・関心を、より明確にするうえでも有効です。
また、近年は、大学のWEBサイトもどんどん充実してきていますので、それらを活用しない手はありません。進学したい大学や学部が明確になってきたら、受験に必要な教科・科目を確認し、それらを履修できるよう、文・理や教科・科目の選択を行うのは、将来就きたい職業が決まっているケースと同じです。学びたいことが見えてくれば、進学後に必要となる知識も見えてきますし、受験に必要な教科・科目との関連性も理解しやすくなりますので、進学のための学びの目的もはっきりしてくると思います。
「文系か理系か」から「文系も理系も」へ
文・理や教科・科目選択の際には絞りすぎないように、と書きましたが、それには大学や学部の選択以外にも理由があります。たとえば数学については、世の中の動きとして、数字を使う場面が増えているので、文・理の選択に関係なく、最低限の数学は押さえておくべき、と考えておいてください。
数学で学ぶ、場合分けやベン図、樹形図の考え方は、大学進学後だけでなく、実社会においても、様々な場面で、思考のフレームワークとして役立ちます。また、AIを支える数学の分野でもある統計は、近年、とくに重要度が増しているので、統計分野で必要な基本的な概念は、確実に押さえておきましょう。
なお、数学については、どうしても、問題が解ける・解けないが気になると思いますが、それよりも、まずは、定義や論理を正確に理解するようにしてください。定義や論理を理解することで、基本的な問題は解けるようになりますし、実は、それらの理解は、応用力を身に付けるためにも大切なことです。
それから、国語や英語といった、言葉・言語に関する教科・科目も大切です。たとえば、英語では4技能が大切、と言われますが、これは実は、国語についても同様です。 また、国語や英語は、コミュニケーションのために必須であるだけでなく、大学進学以降の学びにとっても重要です。難しい概念の理解や新たな知見の獲得には、適切な言語力・語学力が不可欠ですので、国語や英語も大切にしてください。
少し話は変わりますが、OECD(経済協力開発機構。ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38ヶ国の先進国が加盟する国際機関)が進めている
PISA(Programme for International Student Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度に関する調査では、
- 読解リテラシー(reading literacy)
- 数学的リテラシー(mathematical literacy)
- 科学的リテラシー(scientific literacy)
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/
の3つのリテラシーの調査を実施しています。
このことからも、国語や英語、数学の重要性が理解いただけると思います。
VUCAと言われる不確実な時代だからこそ、対象とする事象を正確に取り扱うことができる数学や、互いの理解を深めるとともに、理解の齟齬を回避・抑制するための言語力・語学力を支える国語や英語は大切ですので、「文系か理系か」という態度ではなく、「文系も理系も」という考え方で、日々の学習に取り組むようにしてください。
基本を大切にしよう。
すでに述べてきたことですが、進路を考えるときは、「どんな職業につきたいか」や「何を学びたいか」から考えるようにしましょう。それが、進路を考えるときの基本です。逆に、今の自分の状態を起点に考えてしまうと、どうしても、目の前のことや、すぐにやらなくてはならないことに目を奪われ、勉強の目的を見失いがちになります。
そうではなく、「どんな職業につきたいか」や「何を学びたいか」が明確になっていれば、文・理や教科・科目の選択の仕方も明確になりますし、それらを起点に、今の自分の状態を考えることができれば、選択した教科・科目についても、自分にとっての重要度や優先順位がハッキリし、どれにどの程度の力を入れるべきか、どの程度の時間をかけるべきかがわかりやすくなります。
そして、各教科・科目の勉強においても、基本が大切です。ただし、基本=簡単、ではありません。たとえば、数学において、二次方程式の解の公式が基本かというと、疑問が残ります。二次方程式であれば、二次方程式の定義が基本になりますし、次のステップは、定義された二次方程式からの解の公式の導出過程であり、その結果として、ようやく解の公式が出てきます。
さらにいえば、二次方程式に至る前の、一次方程式の定義の方が、二次方程式の定義より基本、です。苦手な教科・科目こそ、基本にさかのぼって理解することが大切ですし、上記の二次方程式の例のように、できるだけさかのぼって基本を押さえられるようになれば、応用力も自然と身に付いてきます。
進路についてはときどき確認を
「どんな職業につきたいか」や「何を学びたいか」は明確になった、それらを踏まえて、文・理や教科・科目の選択も行った、だからあとは目標に向かってまっしぐら、といきたいところですが、時代の変化、社会の変化、大学の変化、さらには、自分自身の変化などにより、「どんな職業につきたいか」や「何を学びたいか」が変わる可能性は十分にあります。
また、日々、成長している高校生にとって、目標が変わることは自然なことですし、決して悪いことではありません。
ですので、ときどきは、「どんな職業につきたいか」や「何を学びたいか」を確認するようにしましょう。変化がなければ、これまで通りの目標に向かって努力を続ればよいですし、
変化があれば、選択した教科・科目について、自分にとっての重要度や優先順位を見直しましょう。自分に合った目標を設定し、自分に合った努力をするためにも、進路の確認は大切です。
ここまでの記事の中でも言及されていた「英数国の取り組み」や「基本にさかのぼる学習」については、Z会のタブレットコースでお手伝いできることがあります。
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