共通テストに隠された、数学の学び方へのメッセージ

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今年度で開始から4年目となる共通テスト。その出題内容や難易度が話題になることはあっても、そこに込められた学び方のメッセージには、まだまだ目が向けられていないのではないでしょうか。

共通テストの問題における題材やテーマは実に様々です。対策としては、単に本番と似た形式の問題を解くだけでなく、「どう学ぶか」という点にも目を向ける必要があります。8月に発刊予定の学校専用書籍『共通テスト分野別演習 数学I・A/II・B・C』(以降、『分野別演習』)では、共通テストのポイントや、問題に込められたメッセージを意識しながら制作しました。

本記事では、制作の中で見えてきた共通テストのポイントに触れながら、『分野別演習』の理念やこだわりをご紹介します。

共通テストは、なぜ問題解決の「泥臭さ」を見せているのか

共通テストの特徴の1つに、日常生活の場面をもとにした問題が出されるということが挙げられます。例えば2023年には、数学I・A本試験で2次関数を用いてバスケットボールのシュートの高さや位置を考察する問題が、数学II・B本試験で積分した値をもとにソメイヨシノの開花日を予測する問題が出題されました。

このような問題を解決するときには、一般的な数学の問題ではあまり見られない

  • 現実の問題を解くために、仮定を元にして考える
  • 厳密な答えでなくても、おおよその値や結論を出す
  • 結果を踏まえて、考察を修正する

のような、「泥臭い」ともいえる試行錯誤の過程を踏む場合があります。なぜ、数学でこのような問題を扱う必要があるのでしょうか。

▲『分野別演習』でも、仮定から考える問題を掲載している。
▲『分野別演習』でも、仮定から考える問題を掲載している。

それは、解決過程であえて試行錯誤をさせることによって、知識や技能をどう活かすか、という思考力や判断力を伸ばせるからです。つまり、共通テストでこのような問題が出題されるのは、試行錯誤をどれだけ普段の学習で行い、知識や技能の活かし方を考えてきたかを測ろうとしているからではないでしょうか。

解決過程の振り返りのポイントは「必要感」と「困り」

令和5年6月9日に大学入試センターが公表した「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針」では、数学について

 
数学の問題発⾒・解決の過程を重視する。
~(略)~
解決過程を振り返り、得られた結果を意味づけたり、活⽤したり、統合的・発展的に考察したりすることなどを求める。

とあります。この解決過程の振り返りも、先に述べた試行錯誤と同様に、思考力や判断力を伸ばす上で重要な役割を担っています。

ここで注意が必要なのは、「解決過程の振り返り」とは、単に日常場面を素材にした問題に取り組んだり、似たパターンの複数の問題を繰り返したりするのではないという点です。『分野別演習』の制作でも、「繰り返し」ではなく「振り返り」ができるような問題を取り入れることを意識しました。

では、「振り返り」を生み出すポイントは何でしょうか。2023年数学I・A本試験で登場した2つの問題から考えてみましょう。2023年数学I・A本試験の第1問[2]では

  • (1)で、円とそれに内接する三角形の面積について考察する
  • (2)で、球とそれに内接する三角錐の体積について考察する

という問題が出されました。また、第5問では

  • (1)で、円とそれに2点で交わる直線に関する作図について、成り立つ性質を考察する
  • (2)で、円とそれに交わらない直線に関する作図について、成り立つ性質を考察する

という問題が出されました。

両方の問題に共通するのは、(1)と(2)の場面設定がよく似ていることです。そこで、(2)を解く際には「(1)と似ているから、考え方を上手く利用すれば解けるのではないか?」と、(1)の解決過程を振り返る「必要感」が生まれます。ただ、これらの問題におけるもう1つのポイントは、単に(1)と同じ考え方をすれば(2)が解ける訳ではないということです。

例えば第1問[2]では、(1)(ii)で辺の”真ん中”、すなわち中点がポイントになります。(2)では平面図形から立体図形へと扱う対象が変わるため、「面の”真ん中”とは何だろう?」と考えることで考察が進めやすくなります。また、第5問では、(1)と(2)で手順は変わりますが、「辺や角の関係は変わらないのではないか?」と見通しをもつことで、(2)の考察が進めやすくなります。このように、条件が変わったときの「困り」が、解決過程を振り返る上での視点を生み出すもとになるのです。

つまり、「この考え、うまく使いたいな。」という「必要感」と、「このままじゃうまくいかないな。何に着目すればよいのだろう?」という「困り」の両方がある問題が、解決過程の振り返りを促し、思考力や判断力を伸ばすことにつながるといえます。

共通テスト対策と『分野別演習』のこだわり

そこで『分野別演習』では、問題を解く上で前提となる知識・技能の定着を大切にしながらも、試行錯誤や振り返りを促し、思考力や判断力を伸ばす問題を多く取り入れました。

例えば、図形の性質の問題の1つに、P、Qがともに△ABCの外部にある場合について考察した後、PまたはQが△ABCの内部にある場合について考察する問題があります。この問題では、P、Qの条件が変わるため図形の形が一見異なるように見えるのですが、実は両方の場合で大きさが変わらない角度があり、それが解く上でのヒントとなっています。「条件は少し異なるけど、変化しないものは何だろう?」という視点で解決過程を振り返ることをねらいとした問題です。

また、新課程で新しく加わった2次曲線でも、複素数平面上の点の軌跡に対して、2つの方針で答えを求めた後、条件を変えた場合について考察する問題があります。これは、1つの問題に対して様々な考え方で答えを求めるだけでなく、それぞれの考え方のよさに着目し、問題に応じた解法を判断することをねらいとしています。2022年数学II・B本試験の第1問とよく似たねらいの問題です。

このような問題を解くことで、単に知識・技能が身についているかを確認するだけでなく、それをどのように活かすか、そのよさは何かを考えながら学ぶことにつながります。そしてその積み重ねが、今まで見たことのない問題に出会ったときにも対応できる、思考力や判断力を伸ばしていくことになるでしょう。

共通テスト対策は、共通テストだけの対策ではない

ただし、大切なのは、こうした学習を共通テストだけの対策として捉えないことです。共通テスト対策では、「日常場面を題材にする」「解決過程を振り返る」といった、問題の表面的な部分の対策をするだけではなく、その根底にある「試行錯誤を通して、知っていることを応用する力や、見たことのない問題に対応する力を伸ばす」という学び方を取り入れることが大切です。『分野別演習』は共通テスト対策の書籍ではありますが、掲載している問題を解くことを通して、基本的な知識・技能の習得と同時に、その活かし方まで考えることができるようになるはずです。そして、この力は2次試験対策や、大学進学後でも必要とされるものでもあります。新課程に向けて更に進化した『分野別演習』が、1人でも多くの生徒の力を伸ばすための助けとなれば幸いです。

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