「読める」実感をもつために:「活字離れ」時代の読解トレーニング『現代文 多読・速習ドリル』 

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Z会ソリューションズ 先生向け教育ジャーナル
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 若い世代を中心とした「活字離れ」が叫ばれて久しく、その有り様についての議論は出尽くしている感があります。刺激的な画像や動画、世界中への瞬時のアクセスがつまったネット空間に夢中になるのも無理はありません。しかし、こと教育現場においては、腰を据えて文章を読む習慣が失われることは、国語という教科だけにとどまらず、あらゆる学習の基礎的な能力に関わるゆゆしき問題でしょう。
 文章を「読める」という実感を少しずつ深め、「活字」との距離を縮めてもらうためにできること。Z会から、1回10分で気軽に取り組める読解トレーニング教材『現代文 多読・速習ドリル』をご紹介いたします。

共通テストと読む力

「活字離れ」が深刻化する一方で、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)では、教科にかかわらず設問文を読みこなす技量が求められる出題形式への変化が顕著であり、特に国語は複数の文章を比較検討する出題が主流になっています。こうした入試の変化に鑑みても、読解力への危機感は高まる一方ではないでしょうか。
 では、どう対策すればよいでしょうか。目の前の課題としての大学入試に的を絞れば、例えば共通テスト対策演習を前倒して、早くから文章量と形式に慣れるというのも一つの方法かと思います。しかし、共通テスト国語の複数文章形式も、対応問題の演習だけをこなせばクリアできるという性質のものではありません。
 令和5年度本試験は、第1問(論理的文章)でル・コルビュジェの建築における「窓」をめぐる2つの論考が示され、そのうち1つ目では正岡子規『硝子窓』についての考察が加えられるという、まさに複合的な出題でした。「入口」として、そうした形式への慣れは確実に必要ですが、示された2つの文章の論点の違いは簡単に「比較」できるほど明確なものではなく、文章の内部で、語句の概念や論理構造を丁寧に押さえていなければ、選択肢を絞り込むことはできない設問ばかりでした。
 また第2問では、戦後の混乱期、生活苦に追い込まれる主人公の心情を描く梅崎春生『飢えの季節』と、同時代を象徴するポスターなどの【資料】が示されました。「戦後」と一言でいっても主人公のおかれた状況はやや複雑で、その中で心情を正しく読み取って選択肢を絞り込むことは簡単ではありませんでした。時代背景へのイメージ、醜さや卑しさといった感情を抱える人間の本質への理解があるかどうかで「取り組みやすさ」は大きく分かれたといえますし、【資料】と照らし合わせる前提として、本文を丁寧に読み込むことが求められました

読むことの「蓄積」がものをいう

 このように共通テスト国語においては、各文章の内部で語句の概念や背景、骨子や展開、筆者の視点を的確にとらえることを前提として、別の文章との比較・考察が求められており、逆にいえば、それができるならば「複数文章」であること自体は大きな問題ではない、ということになります。一定の長さの文章の内容を的確かつスピーディに読み取る力が決め手であるという従来の「読解力」の、より高度なものが求められている、という見方もできるでしょう。
 こうした力は一朝一夕には身につくものではなく、早い段階からできる限り多様な文章に触れて、読むこと自体へのハードルを下げた上で、評論の語彙や問題意識、文学的世界観などの「引き出し」を多くもつという、オーソドックスな方法こそが有効といえます。長期間の積み重ねが求められますが、結果的には近道になるかもしれません。

「塵も積もれば」で読解の基礎体力をつくる:『現代文多読・速習ドリル』シリーズ

『現代文多読・速習ドリル』シリーズ

 そうはいっても「日常的に新聞や本を読もう」と呼びかけるだけでは簡単に状況は変わるものではありませんし、学習面でも大量の課題を抱えており、そのような時間はないというのが現実でしょう。それでも何とかして読むことの「蓄積」を作ってもらいたいという思いで企画したのが『現代文 多読・速習ドリル 10分で身につく要点把握力』です。レベル1~レベル3まで、800字~1600字程度の問題文に対し、ポイント理解を問う選択肢の確認問題が1~2問という、1回「10分」完結の演習ドリルで、評論・小説・随筆・実用文の各ジャンルを織り交ぜて各25回(レベル3は26回)で構成されています。解説も、本文展開図と選択肢チェックを中心とし、時間をかけて多くの文字を読まなくてもポイントを押さえて復習ができるようにしています。

問題・解答用紙

 この手軽さこそが『現代文 多読・速習ドリル』の最大の魅力です。朝学習や授業開始前のオビ学習のみならず、週末や長期休み課題のなかに、10分程度の「ウォームアップ」のような感覚で現代文の読解練習を取り入れてもらいたいと思います。内容を問う問題は1問~2問、「筆者の主張は要するにこういうことだ」、「主人公の心情はこう動いた」といった、確実に押さえておきたい部分のみに傍線を引いて理解を確認するものです。多くの傍線や空欄があると、問いに答えることに必死になって文章全体への俯瞰的な視点を欠き、要点を取りこぼしてしまいがちです。まず最初のステップとして、短い文章のポイントと全体の把握を確実にしておくことで、長文読解へのハードルも低くなるでしょう。精読問題や入試演習に取り組むまえに「基礎体力」をつくる、というイメージです。

「頭」と「心」を動かす:素材文へのこだわり

 また『現代文 多読・速習ドリル』は「せっかく読んでもらうならば面白くなければならない」という思いで、素材文にとことんこだわっています。レベル1では800字程度、レベル3でも1600字程度と少ない文字数ではありますが、本文を読んで「なるほど」「そんな考え方があるのか」「本当にそう言えるのかな」といった考えや、「信じられない」「わかるわかる」といった心情が起こるなど、何らかのリアクションを引き出せるかどうかで選別しました。生徒たちの多様な興味に応じて、何かしら、そうした「フック」がかかる文章が入るように、評論、文学、実用文の各ジャンルのなかでテーマのバランスをとり、評論ではそれぞれのテーマにおいて、現代的な視点をもった論考を取り入れました。一部をご紹介します。

ー羽生善治『人工知能の核心』ー

 「レベル2」収録の『人工知能の核心』は、AIという相手と将棋の真剣勝負をしてきた羽生善治氏がつかんだ人工知能の本質を、身近な例を挙げながらわかりやすく説明したものです。その冷静かつ真摯な分析は、AIとどう向き合っていくべきかを本格的に考えていくためのヒントを与えてくれます。

 文学はさらに、作品とその切り出し方に徹底的にこだわりました。学校の授業でも文学に時間をかけることが難しくなっているという状況の中で、文学に触れる機会を多くもってもらい、ひいては関心のある作品を自ら手に取ってもらうきっかけとなればと、解答解説に「作品を知る」というコラムも掲載しています。

ー国木田独歩『帽子』ー

 「レベル1」の国木田独歩『帽子』は、成金の男の高級な帽子が乗合馬車の窓から外に飛んでしまい、外にいた農夫が拾って必死で追いかけて届ける場面です。男は農夫に対して「そんな帽子、お前にくれてやる」と、完全に見下した態度を取ります。居合わせた乗客は男のあまりに理不尽で横柄な態度への憤りと農夫への同情で黙り込んでしまうという、今であれば思わずSNSで「つぶやいて」しまうような感覚を味わえるのではないでしょうか。

-高峰秀子『わたしの渡世日記』―

 一方「レベル3」では、より複雑で捉えがたい人間の心情に迫ることを、ねらいとしました。共通テストの出題でも、多くの場合に焦点になるのは「うしろめたさ」「後悔」「妬み」「卑屈さ」といった類の多層的な感情であり、それらを理解する想像力を少しずつ鍛えておく必要があります。高峰秀子『わたしの渡世日記』は、戦争の時代を「国民的女優」という立場で生きた高峰の忸怩たる思いを綴ったエッセイです。子役としてデビューし、家計を支えるために小学校もろくに出ないまま女優業にまい進せざるを得なかったことにコンプレックスを抱いてきたという高峰ですが、そのようなことを微塵も感じさせない秀逸な文章力と、なにより物事に対する透徹した「眼」をもっていることがわかる作品です。筆者の感性そのものを目の当たりにする【随筆】の世界に触れてもらえたらと思います。

10分の積み重ねで自信をつける:入試対策とその先に向けて

 短いながら「力」のある文章に触れて「頭」と「心」を動かす体験を積み上げてもらうというのが『現代文 多読・速習ドリル』のねらいであり、それは、ネット動画と同じようなインパクトを「活字」から受け取ってもらえたなら…という密かな野心でもあります。いろいろな文章をたくさん読んで、その中に「面白い」と思えるものがあれば、現代文にすっかり馴染めてしまうでしょう。
 読解演習という面でも、設問は1~2問のみですので、「2問とも正解」を目指して気負うことなく続ければ、25回(「レベル3」は26回)が終わるころには現代文の問題を解くことは怖くなくなり、「読める」という実感をもつことができるでしょう。入試対策の前提という意味でも、その先の知的関心の広がりという意味でも、まずは文章を「読める」という自信をつけてほしいと思います。学習状況にもよりますが、「レベル1」、「レベル2」は中学生からも取り入れていただける内容です。10分の積み重ねで、現代文の「引き出し」と「自信」を獲得するためのトレーニング、取り入れてみてはいかがでしょうか。

 

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