東大の合否結果から振り返る~2022年度高1アドバンストと現代文、古文の指導法~

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Z会ソリューションズ 先生向け教育ジャーナル
Z会ソリューションズでは、中学・高等学校の先生向けに教育情報を配信しています。大学入試情報、文部科学省の審議会情報をはじめ、先生方からお伺いした教育についてもご紹介します。

Z会ソリューションズでは、東大・京大・医学部をはじめとする難関大学を志望する中高一貫校の生徒に向けたハイレベルな実力テスト「中学・高校アドバンスト(以下、アドバンスト)」を実施しています。
今回、アドバンストのデータに東大の合否調査結果をあてはめて、東大合格者と不合格者の平均偏差値を算出しました。

東大合格者の平均偏差値
中3アドバンスト:59.4、高1アドバンスト:61.4

東大不合格者の平均偏差値
中3アドバンスト:56.1、高1アドバンスト:56.5

上記の偏差値をもとに、2022年度アドバンストの受験者を「みなし合格者」と「みなし不合格者」に分けて、それぞれの設問の平均点を算出しその差分に着目しました。
以下では、高1アドバンストで差がついた問題と、そこで求められる力を付けるためにはどのような取り組みが有効なのか、ということを受験校の先生方のご意見も交えながらご説明させていただきます。

 

現代文(評論)について

小問 小問分野名称 全国
平均得点率(%)
合格者
平均得点率(%)
不合格者
平均得点率(%)

(合格者-不合格者)
(三) 空所補充(選択) 72.7 90.6 84.0 6.6
(四) 文脈把握(記述) 46.7 54.4 50.6 3.8

2022年度高1アドバンスト 第1問(評論)では、上記の2問で差が見られました。

(三) 空欄Xに入る表現として最適なものを次の中から選び、記号を記せ。
(ア) 先んずれば「人」を制す
(イ) 「ミイラ取り」が「ミイラ」になる
(ウ) 「泥棒」を見て「縄」をなう
(エ) 「出る杭」は打たれる
(オ) 「禍」転じて「福」となす

(三)については、全体として得点率は高く出ておりますが、選択肢のことわざの理解(語句知識)を前提として、空欄にいたるまでの文脈把握の力で差が生じたと考えられます。

 

(四) 傍線(2)「あらゆる組織や集団で『表の承認』より、『裏の承認』が重視される」とあるが、それはなぜか。九十字以内で説明せよ。

(四)については、問われている内容の意味を理解(「どういうことか」、ではなく「なぜか」)した
上で、解答要素を選び取ってまとめる力が求められています。

以上から、「みなし合格者」と「みなし不合格者」では、

・文脈を把握する力
・設問で要求されている内容を理解する力
・解答要素を選びとってまとめる力

で差がついていると考えられます。

 

先生方から頂いたご意見 現代文(評論)

上記の結果について学校の先生方から頂いたご意見として、以下のようなものがありました。

問題を解く力の前段階の力の養成

・(三) について、文脈を正しく理解して持っている知識を適切に使うには、自分で言葉を使う体験が重要。知識として持っているだけではなく、自分の発言のなかで使い、生きた言葉として主観的に認識させる。東大に合格する生徒は、言語生活が豊かなのではないかという印象がある。生徒の日常における言語体験は限られてしまっている分、授業で実現させてあげることが大切。

・最近の生徒は語彙力がなく、単語帳でインスタントに覚えようとしてしまう。時間はかかるが、文章のなかで丁寧に習得してほしいと感じている。

・語彙については、単語帳から指定した語を用いて作文をさせるという試みをしている。言葉の定義だけでなく、どういう雰囲気で使われているか、ニュアンスを習得する必要がある。

・中学生の段階では「解くこと」からは距離をおき、まずはたくさん読ませて書かせて、経験・知識を豊かに育てることに比重を置いている。実体験との相関も大切。

・書く体験を積ませることが必要だと感じている。具体的には、日常生活で文章を書かせるため、週に1回は要約の時間を取らせた。与える文章のレベルは様々で、要約だけではなく詩の感想文等にも取り組ませた。要約は、答えが明確にないと不安になる今の生徒たちのために、まずはある程度書き方のパターンを教えたが、そのパターンを覚えるだけではだめだとも伝えている。

・授業では、どのような点で、どうしてか、という部分の説明を落とさないようにと指導をしている。筆者の主張に対して「それはどうして?」と深堀りする視点を忘れないように。生徒は、基本的に文章の筋道をたどるのが苦手。主張とその理由が乖離していることもたびたびある。

 

実力テストをどのように活用していくか

・テストが終わった後に授業でグループワークをした。グループ内で一番良いと思われる答案を、なぜそう思うのかという根拠をもとに紹介させたり、模範解答だけ見せて、生徒自身に解答のキーになると考えられるポイントを解説をさせたりした。様々な形でテストの文章をとらえられるように働きかけている。

・生徒が模範解答を見て満足しないように、実際に生徒が書いた答案をいくつかピックアップして、良い点と悪い点を解説している。身近な同級生が書いたものを見せることが大事。

・テストについては、自己採点までしたノートをもとに、個々へのアドバイスを実践。解いて終わりにはさせないことが大切。

 

先生方のご意見を受けて

各学校で共通する課題感として、「書く前提となる語彙力の不足」が挙がりました。語彙力は一朝一夕では身につかないため、単に知識として覚えて終わり、ではなく、自分のものにして活用できる力をつけるために、記述問題を解かせることとは別の「書く指導」の必要性についてご指摘がありました。
また、テストを受験した後は、単に解説を読むだけではなく、復習の中で自分の解答や問題文と改めて向き合う時間を設けることが大切だというご意見もいただきました。

全体を通して、複数の先生方から、先生が一方的に教えるのではなく、生徒同士でアウトプットさせる方が、生徒の授業態度や理解度も高くなる、といった主体的に生徒が授業に関わる姿勢を重視する傾向が強いこともわかります。

 

古典(古文)について

小問 小問分野名称 全国
平均得点率(%)
合格者
平均得点率(%)
不合格者
平均得点率(%)

(合格者‐不合格者)
(三) 口語訳(記述) 59.9 73.9 69.0 4.9
(四)X 文脈把握(記述) 49.7 74.8 68.0 6.8
(四)Y 文脈把握(記述) 44.3 70.6 62.3 8.3

2022年度高1アドバンスト 第3問(古文)では、上記の3問で差が見られました。

(三)傍線⑴「え尋ね得ずなりにけり」を、必要な言葉を補って口語訳せよ。

「え~ず」「に」「けり」といった基本事項+文脈把握の理解を確認する口語訳問題です。みなし合格者、みなし不合格者、いずれにしても全国平均得点率より高く、丁寧な訳出と過不足なく言葉を補うことができたか、で差が付いていると考えられます。

(四)傍線⑵・⑶の「まぼろし」の発言について、次のように整理した。空欄X・空欄Yにあてはまる内容を、それぞれ四十字以内で記せ。

・「楊貴妃がそこにいることについて、玄宗が『まことと思し召さじ』(傍線⑵)」と「まぼろし」が推測したのは、 X からである。
・「楊貴妃がそこにいることについて、玄宗が『まことと思し召すべき』(傍線⑶)」と「まぼろし」が推測したのは、 Y からである。

問題文から解答根拠となる箇所を見つけた上で、それを正確に口語訳し、制限字数以内にまとめるという発展的な問題になります。(三)よりも「みなし合格者」と「みなし不合格者」の差が開いており、読解力、記述力での力の差も確認できます。

以上から、「みなし合格者」と「みなし不合格者」では、

・古文の文脈を把握し、適切に読み解く力
・設問で要求されている内容を理解し、制限字数内に解答をまとめる力

で差がついていると考えられます。

 

先生から頂いたご意見 古典(古文)

上記の結果について学校の先生方から頂いたご意見として、以下のようなものがありました。

基礎知識(古典文法)の定着

・前提となる文法知識は中学2年生、中学3年生で身につけさせるようにしているが、文法だけの授業は生徒がつまらなく感じてしまう傾向にある。文法を教えたあと習った文法事項が出てくる短い文章の読解をさせている。

・文法は差がつきやすいところなので、早期の対策が重要。グループワークなどで教え合いも実践しており、退屈さを避ける意識を教員側でもっている。

 

古典の指導で気を付けていること

・今回の高1アドバンストの出題のように、一見なじみのない人物の話でも、「人に自分の主張をきちんと伝えるためにはどんなことが大切か」というテーマで今の私たちに置き換えることができる。日常に当てはまらないような身分制度の話もあるにはあるが、東大の入試を見ていると、現代の私たちに置き換えられる内容の出題もあると感じる。そこを意識、理解させることが大切。

・古文は同じ日本語だが、生徒に古文漢文の感覚がないのでなかなか厳しい。今の中高生は、古典の世界との縁遠さ、理解へのハードルの高さがある。細かい知識よりも世界観から入ることは重要かつ効果的。断絶した過去のものではないことを理解してもらうため、生徒と同い年のひとが書いた古文漢文を読ませたり、日本人(菅原道真など)が書いた漢文(漢詩)を読ませたり、現代にも影響を与えている例を紹介したりしている。親近感をもって、前向きに取り組んでもらえるように、現代とのつながりを感じさせることを心がけている。

・現代文ができる生徒も、古文になるとなかなか書けなくなることもあり、まずは「読む」ことを充実させることが大事だと考える。文章を読む際にはある程度スピード感を持って読ませることも大事だと考えるようになった。(細かく指導すると生徒が飽きるケースもあり、古文嫌いを増やしてしまう恐れがある)生徒が興味を持つテーマに行きあたる可能性を増やすことで、生徒を飽きさせないように心がけている。

・授業ではどうしても定番の素材を使っての指導になるが、アドバンストの素材は切り口が違うものや古典では話のオチがついたおもしろいものを選定してきており、指導に役立てている。

 

古文の記述力指導

・現代文と同様に生徒の作った解答を見せ合うことが効果的だと感じている。生徒が解答を発表→生徒が生徒の答案を添削→先生が添削(答え合わせ)、という流れで授業をしている。自分の友達が作った答案に突っ込み合う。他人の答案を客観的に見ることが、自分の答案を客観的に見ることにつながる。

・授業では、同じ傍線箇所に対して、逐語訳に近い純粋な現代語訳・逐語訳+必要な語を補う現代語訳・傍線箇所の説明問題、という3パターンで出題することが多い。

・言葉を補う現代語訳問題については、基本的に補うべき部分は「だれがどうした」の部分。これは、普段、あなたが相手に伝えるときに重要視している部分と同じではないか、と呼び掛け、気づかせる。古文で補うべき要素は、現代語でも英語でも同じ。何を補えばいいか分かりにくい問題の時は、そこから生徒に議論させる。

・上手く書くためには取捨選択が大事。あえて字数制限をつけて出題し、キーワードに優先順位をつける。生徒も、内容は理解できているのに評価してもらえないのは不本意に感じているはず。分かってもらえるためには何を伝えるべきか、を考えさせる。

 

先生方のご意見を受けて

文法事項の定着の必要性はどの学校でも共通認識ではありますが、そのための指導については各校で様々な取り組みをされているようです。その際には、各生徒の到達度に応じた、個に沿ったご指導が必要になります。
基礎的な学習はどうしても生徒に敬遠されがちではありますが、古文と現代を結び付けるご指導や、生徒が楽しめる題材の提供、生徒同士のグループワークを授業に盛り込むなどして、古典文法を学習する意義やそれをテストでの得点に結びつける工夫をしていただければと思います。
基礎力を固めた上で、設問要求の把握や文脈を追って考える力など、現代文にも通ずる力を生かして記述問題へのご指導に展開いただくことをお勧めします。

 

 

 

 

 

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