高校数学、新しい履修内容にどう対応するか ~統計的な推測~
Z会ソリューションズ 先生向け教育ジャーナル
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2023年3月に『「統計的な推測」ニューアプローチ -速習ワークブック-』を学校専用書籍として発刊しました。この書籍、生徒用の学習教材ですが、実は、先生方向けに作成したいという要望から制作した書籍なのです。
本記事では、『「統計的な推測」ニューアプローチ -速習ワークブック-』をどのような観点で制作した書籍かをご紹介します。
入試の試験範囲はどうなる?
2022年度からの高等学校における新学習指導要領での大きな変更は、ベクトルが数学Cに移ったことではないでしょうか。この変更によって、共通テストがどのように変わるかは、新学習指導要領で履修する生徒はもちろん、授業や進路指導担当の先生方、我々のような教育業界に携わる者においても、早く知りたいことでした。
そのような中、発表された科目は『数学II、数学B、数学C』。数学B、数学Cは選択科目で、数学Bの2項目(数列、統計的な推測)、数学Cの2項目(ベクトル、平面上の曲線と複素数平面)の計4項目から3項目を選択するという内容でした。
理系は概ね、数列、ベクトル、平面上の曲線と複素数平面を履修しているだろうから、統計的な推測は選択しないのではないか。では、文系はどうなるのか。数学Bの2単元に加えて、ベクトルの履修が多いのではないか。そうであれば「統計的な推測」を履修する学生は増えるだろうと予想しました。
その後、国公立大学が個別試験の試験範囲を発表し始めました。多くはないものの、東大を始めとするいくつかの大学で「統計的な推測」が試験範囲に加わりました。
統計的な推測は未履修
現高校3年生が履修している数学Bに「確率分布と統計的な推測」という単元があります。この単元の内容は、新課程の「統計的な推測」に含まれているもので、共通テストや一部の大学では試験範囲として含まれています。
「確率分布と統計的な推測」は選択する生徒が少ないのが現状です。学校の授業で、数学Bはほとんどが数列とベクトルを扱っているのではないでしょうか。Z会の書籍においても、最近では「確率分布と統計的な推測」の問題も含めておりますが、以前の教材ではこの分野の問題は作成しておりませんでした。
「確率分布と統計的な推測」の問題を作成することになり、執筆者こそ、この分野の内容を熟知した先生ではあるものの、編集側は、つねに、教科書や参考書を横に置いて確認しながら編集を進めることが多い状況でした。それは何故か。この分野を高校や大学で、履修していなかったからです。
そのような中での「統計的な推測」の実質的な必修化。これは本腰を入れて、対応しなくてはならないということになりました。
「複素数平面」が履修範囲に戻ったときに
現高校3年生の数学III、新課程の数学Cに「複素数平面」という分野があります。この分野、課程から外れたり、文理共通の範囲になったり、理系のみの範囲になったりと、いろいろな課程変更を経ています。
2000年前半に当時の学習指導要領に戻って来た際、文理ともに入試範囲に含まれることが多く、生徒の多くが受験対策として必要になりました。そこで、Z会の教室の夏期講習で「複素数平面」の講座を設置しました。多くの生徒に受講いただき、満足してもらえました。
しかし、少し気になった点がありました。授業アンケートをとっているのですが、学校の授業がわからないという意見が多く見られたのです。おそらく「複素数平面」を学生時代に履修していない先生もいたのではないでしょうか。教科書の内容は教えられるものの、入試対策の授業までは厳しいという状況だったのではと予想していました。
履修していない先生が多いだろうというのは、今回の「統計的な推測」も同じような状況に違いない。これでは、わからないという生徒が増えるのではないか。今、我々ができることは何かと考えたのです。
未履修分野にどう対応するか
我々が教材を編集するのに必要な学力をつけること、未履修の先生でも十分な授業をできるようにすること、それらが結果として、多くの生徒にとって「統計的な推測」の内容が理解できるようになり、問題が解けるようになることに繋がると考え、書籍の発刊を計画することにしました。この書籍を編集する中で、我々が内容をわかり、問題が解けるようになれば、この書籍を利用した先生方や生徒たちもわかって、解けるようになると考えたのです。
2022年春、従来の統計分野の指導の仕方を見直したいと考え、書籍の発刊を考えていた東京学芸大学の西村先生に執筆をお願いすることができ、2022年夏頃から制作開始、2023年春に発刊となりました。
先生方は本当に困っているのか?
書籍の発刊までには、いろいろな工程があります。まずは企画し、社内で制作の承認が必要です。この企画の承認がおりるまでが大変でした。企画した時点では、本格的に「統計的な推測」の授業をするまで、まだ数年あり、危機感を持っている先生ばかりではなく、営業にはこの状況を理解してもらえませんでした。そこで、Z会で独自に先生方636人にアンケートを実施しました。
質問:「統計的な推測」の授業をするにあたって、不安があるかどうか。
およそ半数の先生が不安を持っているとの回答でした。そして、教科書以外の副教材の検討状況などをふまえ、社内での制作の許可がおり、制作を開始することになりました。
履修時間不足という課題
まず、構成をどうするか。教科書通りでなくてもよい。より理解が深めやすい構成にしようということで、章を考えました。
※カリキュラムは下記のサイトをご覧ください。
https://www.zkai.co.jp/books/guide/id-3121/
そして、先生方へのヒアリングを進めると、文系では数学B以外にベクトルも履修する。この時間が足りないという困りごとも多いことがわかりました。
そこで「統計的な推測」を短時間で履修できるようにすれば、ベクトルの履修時間を確保できるのではないかと考え、標準履修時間25~30時間を半分の時間で履修できるような構成としました。
学習をしながら、どう授業を進めていくかを意識して
この書籍を通じて「統計的な推測」を生徒がどう学習していけばよいか、先生方がどのような授業を進めていくかを意識しながら、編集を進めました。
その結果、よく見られるような、事例を見せて、基本知識の説明という流れではなく、実際にアプリなどを利用して、自ら手を動かし、感覚的に理解することから始めることにしました。標本の数を増やしていくと正規分布の形に近づくなどが、視覚的にわかります。ここで感覚的に理解した後に、数学的に深く理解するという流れにしました。さらに、関連する数学Iや数学Aで履修した内容も復習しながら進めていけるように、復習の内容も加えました。
※授業で利用できるアプリなどは、下記の西村先生のサイトでも紹介しております。
データの分析や活用の学習ツール
アプリだけでなく、統計の指導法なども紹介しています。
西村先生には、それぞれの単元でどのように授業を進めていくのかについて、教授用資料を作成いただき、先生方の授業に役立てる準備もしました。
共通テストの問題が解けるようになることをゴールに
おそらく、「統計的な推測」においては、個別試験で出てくるような問題は、そこまで難しくならないだろう、出題もあまり多くはならないだろうと考え、共通テストが解けるようになることをゴールとして設定しました。
各章で掲載している問題数はそこまで多くありません。内容を理解してもらうことに主眼を置いているからです。理解した後に、実際に使いこなせるかの確認として、最後の章は、試行調査や共通テスト本番の問題を掲載しました(実は、書籍の半分が共通テスト演習のページです)。これで、わかる→解けるということを実感できるはずです。
これらの問題が解けるようになれば、「統計的な推測」はマスターしていると言ってよいでしょう。なお、解答解説は西村先生ではなく、Z会で作成しています。書籍の編集を通して、わかって、解けるようになったのです。
※書籍に掲載されていない問題の解答解説は、本書籍購入者限定サイトで公開しております。
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