キャリア教育においてなぜ「内省・メタ認知」が重要か

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Z会ソリューションズ 先生向け教育ジャーナル
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「内省・メタ認知」は既に先生方の間ではなじみ深い言葉かと思います。
「総合的な学習の時間」の中でテーマとして取り上げ、生徒に意識してもらうように授業を進めてきたという先生方もいらっしゃるでしょう。

文部科学省の資料でも「メタ認知」というワードは出てきます。
幼稚園から高校までの全ての生徒に対して、育成すべき資質・能力の一つとして「学びに向かう力、人間性等」が掲げられており、そこには「メタ認知」に関わる力も含まれるといった内容が記されています。

「学びに向かう力、人間性等」は児童生徒が「どのように社会や世界と関わり、よりよい人生を送るか」に関わる資質・能力であり、(中略)具体的には主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や、自己の感情や行動を統制する力、よりよい生活や人間関係を自主的に形成する態度等があり、自分の思考や行動を客観的に把握し認識する、いわゆる「メタ認知」に関わる力を含むものです。

出典:「学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料(令和3年3月版)」(文部科学省)((https://www.mext.go.jp/content/210330-mxt_kyoiku01-000013731_09.pdf)(2022年5月20日に利用)

「メタ認知」と「内省」は深く関係のある取り組みであり、特に「総合的な学習の時間」を通して涵養するよう推奨されてきました。

高等学校において「総合的な学習の時間」は「総合的な探究の時間」に変更になりましたが、生徒に「内省・メタ認知」を意識してもらうことは変わらず重要です。

なぜなら「内省・メタ認知」により「学びに向かう力、人間性等」に関する資質・能力を育めるのはもちろん、「総合的な探究の時間」の目的の一つである「キャリア教育」においても欠かせないと考えるからです。

今回は、「キャリア教育」において「内省・メタ認知」がなぜ重要なのかをご紹介します。

「キャリア教育」と「総合的な探究の時間」との結びつきについては下記の記事で詳しくご紹介しています。こちらもご参照ください。

 

内省で情報収集し メタ認知で分析

ご存じの先生方も多いと思いますが、まずは「内省・メタ認知」それぞれの意味と関係性について整理したいと思います。

◎辞書での意味

内省:自分自身の言動や考えを深くかえりみること。
心理学で、自分自身の精神状態やその動きをみずから観察すること。自己観察。

出典:北原保雄「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)

メタ認知:自分で自分の心の働きを監視し、制御すること。

新村 出「広辞苑 第七版」(岩波書店)

内省とは、日々起こった出来事と、それに対してどう感じたのか、なぜそう感じたのか、といったことを振り返ってもらう取り組みです。
感想文や日記などで振り返りを行うと思ってもらえばイメージしやすいかもしれません。

それに対してメタ認知とはどのような取り組みでしょうか。
先ほども紹介した文部科学省の資料では「自分の思考や行動を客観的に把握し認識」するような取り組みと記載されています。

「自分の思考や行動を客観的に把握し認識」

出典:「学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料(令和3年3月版)」(文部科学省)((https://www.mext.go.jp/content/210330-mxt_kyoiku01-000013731_09.pdf)(2022年5月20日に利用)

もう少し詳しくご紹介すると、メタ認知の「メタ」とは「高次の」という意味です。動いたり話したり考えたりしている自分を、高い次元にいるもう一人の自分から見るような取り組みを「メタ認知」といいます。

内省とメタ認知それぞれの取り組みは重なる部分もあり、ハッキリ分けることは困難です。今回の記事においては、次のように捉えていただくと理解しやすいと思います。

◎この記事における大まかな意味

内省:自分自身を振り返る取り組みであり、自分に関する情報を集めるような行為。

メタ認知:自分に関する情報をもう一人の自分という立場から冷静に見つめて分析。自身の行動や思考を制御し、現在や今後の自分に活かす行為。

「内省・メタ認知」は別々に行われるというよりは、常に行ったり来たりしながら行われるのが自然と考えます。

 

キャリア教育は「内省・メタ認知」で「自分を知る」ことから

なぜ、「内省・メタ認知」はキャリア教育において重要なのでしょうか。
それは生徒が自分らしい生き方を実現する上で欠かせない、「自分を知る」ための取り組みとして有効だからと考えるからです。

文部科学省では、キャリア教育で育成すべき力の一つに「自己理解・自己管理能力」をあげています。

「自己理解・自己管理能力」は,自分が「できること」「意義を感じること」「したいこと」について,社会との相互関係を保ちつつ,今後の自分自身の可能性を含めた肯定的な理解に基づき主体的に行動すると同時に,自らの思考や感情を律し,かつ,今後の成長のために進んで学ぼうとする力である。
(中略)
とりわけ自己理解能力は,生涯にわたり多様なキャリアを形成する過程で常に深めていく必要がある。

出典:「高等学校キャリア教育の手引き」(文部科学省)((https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/1312816.htm)(2022年5月20日に利用)

要するに、生徒が自分らしい生き方を実現していくベースには「自己理解(=自分を知る)」があり、キャリア教育において「自分を知る」ための取り組みは必須であるということになります。

自分らしい生き方とは、例えば、興味のある分野を学べる大学に進学する、得意を活かした仕事に就く、仕事とプライベートのバランスなどの価値観が自分に合っている働き方をする、などが考えられると思います。
いずれもまずは自分の興味や得意、価値観といった「自分を知る」取り組みから始めなければ、目指したいと思う「自分らしい生き方」つまり「自分のキャリア」を考えることも、そのために行動することもできません。

 

「自分を知る」取り組みで内省・メタ認知はどう役立つのか

具体的には、どのようにして「内省・メタ認知」を使い「自分を知る」取り組みをすればいいのでしょうか。

実は「内省・メタ認知」は就職活動における自己分析でもっとも必要になってくる能力・資質でもあります。就職活動における自己分析を例に、内省・メタ認知による「自分を知る」取り組みと、その後のキャリアへの活かし方をご紹介します。

就職活動における自己分析では、まず「内省」で学生時代に経験・体験したことや取り組んだことを思い出していくのが一般的です。勉強、部活、委員会など学校での出来事、趣味や旅行、ボランティア活動といった私生活での出来事など、思いつく限り書き出していきます。
合わせて、その時々の自分の感情や考えも書いていきます。

例えば―

  • 小学校の「総合的な学習の時間」で環境問題をテーマに調べものをした。その時に学んだことが印象的で、自分も何かしたいと思い地域のゴミ拾いボランティアに参加するようになった。
  • 中学校で友達に誘われてサッカー部に入った。初めての試合では全く結果を残せず悔しかった。それから本気で練習に取り組むようになり徐々に上達、大学までずっとサッカーを続けている。
  • 高校生のときに父から古いパソコンを譲ってもらった。プログラミングも教えてもらい、夏休みに簡単なパズルゲームを作ったのが楽しかった。その後、あまりやらなくなったが、もっとプログラミングを学びたいという気持ちはずっとある。

このように、内省により出来事や感情を書き出したら、次はメタ認知で「もう一人の自分」という目線で書き出した内容を分析していきます。
自己分析においては、自分はどのような人間なのかという「自分を知る」にフォーカスして分析することになります。

例えば―

  • 小学生のころ、環境問題に興味を持ちボランティアにも参加した。そんな自分は行動力のある人間といえるのではないか。特に興味のあることや気になることに対しては、自主的に行動することができる。
  • 中学から大学までサッカーを続けてこられたことから、自分には継続して一つのことに取り組む力があると思う。失敗もしたが、そこから学んで再チャレンジできる粘り強さも持っている。練習はきつかったがそれでも続けられたのは、やはりサッカーが好きだからなのだろう。
  • 高校生でパズルゲームのプロブラミングをしたときは、一人で何時間もコードを書いては、エラーに対処してというのを繰り返した。長年サッカーをやってきた経験から自分はグループで何かに取り組むのが向いていると思っていたが、一人でコツコツやる仕事でも熱中して取り組めるものもあるのではないか。

といったように分析していきます。そこからまた「内省」に戻り、今までの出来事をさらに振り返っていきます。実際にボランティアをしてみて、どんな人と出会い何を感じたのか。サッカーではどんな練習が厳しいと感じたのか、辞めようと思ったことはなかったのか。プログラミングのように一人で何時間も熱中できたことは他になかったか、など。思いついたことを再び書き出していきます。そして内省により出てきた情報を、またメタ認知で分析していくといった流れで進めていきます。

内省とメタ認知を行ったり来たりすることで、より深く、より客観的に「自分を知る」ことができます。

「内省・メタ認知」により、自分の得意・不得意、好き嫌い、現在の自分を知ることができれば、それに合わせた「自分らしい生き方」を考えられるようになります。
自分が目指すべき仕事や会社、社会での役割がイメージでき、そこに向かって行動できるようになるはずです。
「総合的な探究の時間」を活用し、「内省・メタ認知」を使った「自分を知る」取り組みを早い段階から生徒に経験してもらえるのが望ましいと考えます。

先生方の中には、大学に進学する生徒に対しても就職活動における自己分析のようなことをする必要はあるのかと疑問に思われる方がいらっしゃるかもしれません。
実際、大学進学を目指す生徒の多くは目の前の受験の準備で手一杯であり、自分のキャリアについて意識することは少ないでしょう。

だからこそ「総合的な探究の時間」といった授業の時間を有効活用するべきだと考えます。
就職活動を始めると、まずは「自己分析しましょう」と言われます。ただ、キャリアを考えるためには「自己分析」で「自分を知る」ことから始める必要があると分かっても、すぐにできるものではありません。突然一人で始めてもなかなか上手くできないものです。

「自分を知る」ということを十分に行わないままなんとなく仕事を選んでいる生徒は多いようです。

厚生労働省によると、大学を卒業した生徒の約30%が就職後3年以内に辞めるというデータが出ています。2020年度においては31.2%の離職率であり、10年以上も変わらず同じ傾向が続いています。

出典:「厚生労働省 報道発表資料 令和3年10月22日」(厚生労働省)((https://www.mhlw.go.jp/content/11652000/000845829.pdf)(2022年5月20日に利用)

また、国立教育政策研究所の調査でも次のように記されています。自分らしい生き方に結び付いた将来を考えず過ごす生徒が多いため、学校での学びが社会に役立てられていないといったことも問題視されているのです。

子どもたちに視点を移せば,自らの将来を展望しつつ学習に積極的に取り組もうとする意識が国際的にみて低く,働くことへの不安を抱えたまま職業に就き,適応に難しさを感じている状況がある。また,身体的には成熟傾向が早まっているにもかからず精神的・社会的自立が遅れる傾向があることや,勤労観・職業観の未熟さなど,発達上の課題も指摘されている。

出典:「キャリア発達にかかわる諸能力の育成に関する調査研究報告書 平成23年3月」(文部科学省 国立教育政策研究所 生徒指導研究センター)((https://www.nier.go.jp/shido/centerhp/22career_shiryou/pdf/career_hattatsu_all.pdf)(2022年5月20日に利用)

「内省・メタ認知」は日頃から行うことで「自分を知る」ために必要な資質・能力が養われていきます。社会に出る直前で急にやろうとしてできるものではありません。将来、生徒が困らないように、早い段階から取り組んでもらうのが大切です。

「自分を知る」ことで自分らしい目指すべき将来がイメージできれば、今なにをするべきかが明確になります。このような仕事をしたいから、今この勉強をする必要があるといったように、目の前の勉強にも自主的になり学びを深めていけるきっかけにもなるはずです。
この大学に行ってこれを学びたいという目標があれば、受験勉強にも身が入ることでしょう。学校での学びと社会に出てからの活躍も結びつきやすくなります。

生徒のためにも社会のためにも、「総合的な学習の時間」と変わらずに「総合的な探究の時間」でも「内省・メタ認知」を上手く取り入れていきましょう。

 

DiscoveRe Method®で「自分を知る」をサポート

Z会では「自分を知る」ためのツールとしてDiscoveRe Method®をご用意しています。

DiscoveRe Method®で可視化できる8つの能力

  1. 自己管理
  2. コミュニケーション
  3. 異文化適応
  4. チームワークと集団行動
  5. リーダーシップ
  6. 対人コンフリクト管理
  7. 状況認識
  8. 意思決定と問題解決

現在、生徒にどのような資質・能力があるのか、定期的に可視化してあげることで「自分を知る」ための一助になると考えます。
先生や生徒自身が自覚していない資質・能力に気付くきっかけになるのはもちろん。自身の自覚する得意・不得意と結果の違いを見比べることで、自己評価と他者評価の乖離に気付くこともあるでしょう。他者からの目線や意見も取り入れながら、自分はどう行動すべきかを意識してもらえるきっかけにもなるはずです。

また、生徒の「内省・メタ認知」を習慣化してもらうのに役立つ「DiscoveRe® プランナー」という手帳もご用意しています。合わせて活用すれば「自分らしい将来」をイメージし、それに向かって行動できる資質・能力をより効果的に育めると考えます。

 

まとめ

「総合的な学習の時間」において、「内省・メタ認知」を意識してもらうよう授業を進めてきた先生方も多いのではないでしょうか。高等学校においては「総合的な探究の時間」に変更になりましたが、変わらずに「内省・メタ認知」は重要です。
「総合的な探究の時間」の目的の一つに「キャリア教育」が掲げられています。「キャリア教育」のベースである「自分を知る」取り組みにおいて「内省・メタ認知」は欠かせません。
具体的には、就職活動における自己分析をイメージしてもらうとわかりやすいでしょう。内省により自分に関する情報を書き出し、メタ認知により出てきた情報を分析していきます。内省とメタ認知を行ったり来たりすることで、より深く自分を知ることができるのです。
「自分を知る」ができるようになって初めて、「自分らしい生き方(=自分のキャリア)」を考えられるようになります。
早い段階から、「内省・メタ認知」を使って「自分を知る」取り組みをしてもらうことで、就職してもすぐに辞めてしまう生徒、学校での学びと社会に出てからが結びついていない生徒が少なくなるのではないかと思います。
生徒の将来のためにも、社会全体のためにも、「総合的な探究の時間」を通じて早い段階から「内省・メタ認知」による「自分を知る」取り組みをしてもらえるような先生方のサポートが大事だと考えます。

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