大学入学者選抜の好事例集~事前対策は効かない時代に~
Z会ソリューションズ 先生向け教育ジャーナル
Z会ソリューションズでは、中学・高等学校の先生向けに教育情報を配信しています。大学入試情報、文部科学省の審議会情報をはじめ、先生方からお伺いした教育についてもご紹介します。
文部科学省では、「大学入試のあり方に関する検討会議提言(令和3年7月)」を受けて、「大学入学者選抜における好事例選定員会」を設置し、高大接続改革や大学入学者選抜方法の改善を一層促進するために、他大学の模範となる取り組みを集めています。
2023(令和5)年5月には、令和4年度版の好事例が17件公表されました。
これらの取り組みは今後の大学入学者選抜において参考にされる事例となると考えられます。
今回は、選定された17件の中から、以下の対象評価項目で「イ 思考力・判断力・表現力の評価・育成」の項目に該当した事例を抜粋してご紹介したいと思います。
対象の評価項目
ア | 総合的な英語力の評価・育成 |
イ | 思考力・判断力・表現力の評価・育成 |
ウ | 多様な背景を持った学生の受入れへの配慮 |
エ | 高校との連携をはじめとする高大接続改革の推進 |
オ | 文理融合の推進やその他の好事例 |
執筆担当者の個人的な感想となりますが、選定された事例では「入学者選抜のための事前対策が難しく、かつ評価の公平性を担保しているような取り組みが多い」ように感じています。事前の対策が難しくなるだけに、普段の授業や学校生活でいかに資質・能力を養えるかが今後の大学入学者選抜においては重要になるのではないかと考えられます。
本記事では、好事例の一部の情報しか掲載していませんので、興味を持った大学や取り組みがあれば、実際の資料をご覧ください。
宮城大学「一般選抜」
【概要】
●「読解」「情報分析及び活用」「表現」の観点からなる記述式総合問題『論説』の出題
●高等学校等での課題探究型学習の成果を評価し、入学後教育への効果的な接続を図る
【選抜方法】
一般選抜の個別学力検査で記述式総合問題『論説』を出題。検査時間は90分。「資料をもとに科学的に読み解く力」や「事象を論理的に考察する力」 等を多角的に評価し、点数化(看護学群150点、事業構想学群100点)。
【取組が特色あるものと考えるポイント、理由】
『論説』は、複数の教科を総合的に活用する「読解」「情報分析及び活用」「表現」の観点からなる記述式の問題であり、従来の小論文ではカバーできない探究活動で培った力、特に論拠を見出して論理的に思考し、とりまとめる力を評価する点が特色である。
信州大学「一般選抜」
【概要】
●大学入学共通テストで測りにくい能力を総合問題により適切に判定
●教科の知識を横断する、総合的な教養と批判的思考能力・表現力を問う
【選抜方法】
大学入学共通テスト(3教科3科目又は3教科4科目又は3教科5科目)、個別学力検査試験問題(総合問題)及び調査書にて選抜。
【取組が特色あるものと考えるポイント、理由】
総合問題のテーマ論述(最終論述問題)では、それに先行する設問を踏まえなければ解答が困難になるように工夫されており、総合的な教養を測定しようとする点が総合問題の特色といえる。
総合問題がテクニカルな受験訓練の対象となる恐れのある単なるテーマ論述の小論文形式ではないこと、さらに、受験生の表現力や総合力を引き出しにくくならないように、出題する文献・資料に難度を求めないことなどが重視された。
東北大学「一般選抜/AO入試Ⅱ期・Ⅲ期」
【概要】
●特任教授(高校教員経験者)及び特定教授(名誉教授)が作題・採点業務支援を実施
●高等学校学習指導要領を熟知した高校教員経験者による質の高い作題支援
【選抜方法】
<AO入試Ⅱ期>
筆記試験、出願書類及び面接試験により選抜。
<AO入試Ⅲ期>
大学入学共通テストの成績、筆記試験、出願書類及び面接試験により選抜。
<一般選抜>
大学入学共通テスト、個別学力試験及び主体性評価チェックリストの内容を用いて選抜。
※一部の学部では面接試験を実施
【取組が特色あるものと考えるポイント、理由】
・特任教授(高校教員経験者)及び特定教授(名誉教授)が作題・採点業務支援を実施。
・特任教授は、高等学校学習指導要領を熟知した高校教員経験者による質の高い作題支援を行うことができる。
・特定教授は、シニア教員(過去に本学の作題経験 有)を活用した試験問題の安定化と現役教員の負担軽減を図ることができる。
・AO入試では、学部からの要望により特任教授が作題支援を実施し高い評価を得ている。また、一般選抜では、特任教授・特定教授のいずれも質の高い作題支援、教員の負担軽減の実現等に貢献しているとの評価を得ている。
創価大学「PASCAL入試」
【概要】
●アクティブ・ラーニングの手法を取り入れた選抜方式により、行動特性を測定
●入学前に高校生の能力を高める「育成型入試」
【選抜方法】
・第1次選考:書類審査
・第2次選考(経済・経営・法・文・教育・国際教養・ 看護学部):アクティブ・ラーニングの一手法である LTD(Learning Through Discussion、話し合い学習法、以下同)方式のグループワーク及び面接試験を実施。
※学部ごとに、英語運用能力・部活動・海外経験・インターンシップ・生徒会活動や高等学校卒業までに取得した検定・資格などを書類審査で評価。
【取組が特色あるものと考えるポイント、理由】
・LTDは予習とグループディスカッションで構成され、受験生は予め提示された予習教材を読み、各自で予習ノートを作成。入試当日のグループディスカッションでは、持参した予習ノートを手がかりにグループで教材の内容について話し合う。
・評価者(監督員)は、受験生がどのように主体的に自分の意見を表現するか、他者の意見に接してどのように教材への理解を深めていくかなどを観察し、一人一人の主体性、協働性といった行動特性 (Competency)の能力・資質、また思考力・判断力・表現力を評価する。
・進学相談会や動画による説明、ホームページでの概要説明、選考方法でもあるLTD体験会を実施している。
・アクティブ・ラーニングの手法である「LTD(Learning Through Discussion)方式のグループワーク」という特色ある試験を実施する(取り組む)ことにより、受験生の行動特性(態度)を測定することができ、学力の3要素の1つ「主体性・多様性・協働性」を評価できる。
・受験前のLTD体験会でのディスカッションを通じて、よりよいパフォーマンスができるようになることは、入学前に高校生の能力を高める「育成型入試」の一面も持っている。
新潟大学「総合型選抜(理系科目/文系科目選択型)」
【概要】
●理系・文系両テーマの講義受講とレポートを全受験者に課し、分野を超えた視野の広い総合的な探究力を評価
●文理融合型での課題解決型学修を謳う創生学部の学修プログラムとの接続で、さらに探究的な素養を増長
【選抜方法】
大学入学共通テストで基礎学力を測るとともに、学力の3要素のうち、課題探究意欲、表現力、コミュニ ケーション能力を適切かつ高い精度で評価するため、講義の聴講及び講義に関する課題レポート(初日:主として思考力・判断力・表現力を問う)、面接(2日目:主として主体性・多様性・協働性を問う)と2日間に渡る充実した内容の選抜を実施。
【取組が特色あるものと考えるポイント、理由】
・試験当日に初めて聞く専門性の高いテーマについての講義を受け、その後関連した課題についてのレポートを課すことにより、事前対策や受験技術等の表層的準備では対応の難しい、真に修得すべき能力である生きる力・創造性を伸ばす上で基盤となる思考力・判断力・表現力をより適切に評価している点。
・理系・文系両テーマの講義受講とレポートを全受験者に課すことで、入学後に学生自身が設定する課題・テーマに対し、分野を超えて多様なアプローチで対応できる、視野の広い総合的な探究力を評価している点。
神戸大学「志」特別選抜
【概要】
●書類審査から最終選抜を通して「学力の3要素」を多面的・総合的に評価
●高校の学びを入試で評価し、入学前教育で大学の学びへ橋渡しを行う
【選抜方法】
・第1次選抜:高大接続卓越グローバル人材育成センターアドミッションオフィス部門(旧アドミッションセンター、以下「センター」)が書類審査、模擬講義・レポート、総合問題(記述式問題)により実施。
※センター内で過去問及び出題・評価のポイントを公開
※一部の学部等では英語資格・検定試験のスコア等を出願要件に設定
・最終選抜:学部・学科・専攻ごとに、小論文、面接、口頭 試問、プレゼンテーション、グループディスカッション、模擬実習、 実技試験等を組合せて選抜を実施。
【取組が特色あるものと考えるポイント、理由】
・「志」特別選抜は大学入学共通テストを課さない総合型選抜であり、書類審査を通した「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性・協働性」の評価のほかに、第1次選抜として、模擬講義・レポートや総合問題を受験生に課すことで「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」を測る点に特色がある。
・最終選抜においても、単純な知識の暗記・再生では解答不可能である点に特色がある。
・入学前教育は、国立大学法人評価委員会による平成30年度に係る業務の実績に関する評価結果において、「主体的な学びの実践の場を設定し、高校までの学びと大学での学びの溝を埋める「学びの転換」を促す橋渡しを行っている。」と評価された。
横浜市立大学「特別公募制学校推薦型選抜」
【概要】
●面接を重視した3段階の選抜方式による時間をかけた多様な資質の評価
●5つの観点別の面接室を巡るMMI(Multiple Mini Interview)方式による面接
【選抜方法】
・基礎学力の担保とともに面接を重視した選抜方式とすべく、1次書類審査(英語資格の得点を要素の1つとして設定)、2次面接審査、3次審査として大学入学共通テストを課す3段階の選抜とし、特に2次面接審査では、各受験者が5つの観点別の面接室を巡るMMI( Multiple Mini Interview)を実施。
【取組が特色あるものと考えるポイント、理由】
・1次書類審査、2次面接審査、3次審査として大学入学共通テストを課す3段階の選抜とし、基礎学力の担保とともに面接を重視した選抜方式としている点が特色ある取組である。
・特に2次面接審査では、各受験者が5つの観点別の面接室を巡るMMI(Multiple Mini Interview)を実施している。
・全体の人的コストがやや大きくなるものの、1人の受験生に対して観点を絞った面接を複数回行うことは、評価のブレを抑えつつ多様な資質を評価する事が可能となる手法であるため、他大学等の参考となる特色ある取組である。
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