学校一丸となって非認知能力を育む【海陽中等教育学校】

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Z会ソリューションズ 先生向け教育ジャーナル
Z会ソリューションズでは、中学・高等学校の先生向けに教育情報を配信しています。大学入試情報、文部科学省の審議会情報をはじめ、先生方からお伺いした教育についてもご紹介します。

変化の激しい時代において、これからの時代に求められる資質・能力は変化しつつあります。
現在、文部科学省では、これからの時代に求められる資質・能力を以下のように3つの柱として整理しており、ご存知の先生方も多くいらっしゃるかと存じます。
また、実際に以下のような資質・能力を育成するために様々な教育活動を実践している先生方もいらっしゃることでしょう。

 

  • 実際の社会や社会の中で生きて働く「知識及び技能」
  • 未知の状況にも対応できる「思考力、判断力、表現力等」
  • 学んだことを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力、人間性等」

「学習指導要領『生きる力』」(文部科学省)(ttps://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/index.htm

今回は、3つの柱の中でも「学びに向かう力、人間性等」に着目していきたいと思います。
この資質・能力は、測定することが難しく、”非認知能力”と呼ばれるものに近しいと考えられます。

非認知能力とは、コミュニケーション能力、積極性、粘り強さといった、今まで数値化が難しいと言われてきた能力全般を指しており、短期間で身につけにくいことも特徴です。
そのため、育成に向けた指導は難しく、ましてや組織的に細かな指導内容まで定めている学校は多くないと感じています。
これからの時代で大切な力として育成に興味はあるものの、具体的な指導となるとイメージが湧かないという先生もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで本記事では、非認知能力の育成に組織的に取り組まれている海陽中等教育学校の事例をご紹介します。

海陽中等教育学校は、多数の企業の賛同を得て設立された全寮制の学校であり、将来の日本を牽引するリーダーシップ教育に特に力を入れられています。Z会ではDiscoveRe Method®という非認知能力を育成するサービスを通じて取り組みをサポートさせていただいており、以前、先生方に行ったインタビューの内容をまとめました。

海陽中等教育学校

  • 2006 年にトヨタ自動車、JR東海、中部電力を中心とした多数の企業からの賛同で設立
  • 全寮制の中高一貫男子校(寮はハウスと呼ばれる)
  • 1学年の募集定員は120名ほど
  • 建学の精神は「将来の日本を牽引する、明るく希望に満ちた人材の育成」
  • 「社会で活躍するための能力」(=主に非認知能力)を高める取り組みにも力を入れる

詳細な取り組み事例については以下からダウンロードしていただくことが可能ですので、ぜひご覧ください。

    取り組みのきっかけと1年間の流れ

    左から:西村校長先生、金木先生、武田先生、尾崎先生

    海陽中等教育学校では、本取り組み開始前から学校とハウス(寮)生活全般を通じて、生徒の非認知能力が育まれている実感はあったとのこと。しかし、生徒への説明や、保護者・関係者への教育効果の説明の場面で、具体的にどのくらい非認知能力が高まっているのかを客観的に示すことが難しいのが悩みでした。

    そのような折に、非認知能力を育成するツールであるDiscoveRe Method®をご提案いたしました。

    DiscoveRe Method®はアセスメントを通じて教育効果を可視化するだけでなく、アセスメント指標をもとに更なる教育の充実をはかるお手伝いをすることが可能です。

    この取り組みは、学校の文化として根付くよう、じっくり5年計画で進めています。

     

    ①先生がDiscoveRe Method®を理解することからスタート

    まずは生徒と先生方にDiscoveRe Method®のアセスメントを受検いただきました。また先生方には、この受検結果をもとに可視化できる8つの能力や受検結果の見方に関する説明会を行いました。

    DiscoveRe Method®で可視化できる8つの能力

    1. 自己管理
    2. コミュニケーション
    3. 異文化適応
    4. チームワークと集団行動
    5. リーダーシップ
    6. 対人コンフリクト管理
    7. 状況認識
    8. 意思決定と問題解決
    DiscoveRe Method®で可視化できる8つの能力について詳しくは以下でご紹介しています。
    こちらもご参照ください。

    8つの能力は「行動マーカー」と呼ばれる細かな指標によって構成されています。
    「行動マーカー」はアセスメントの質問項目として使われているほか、自らの行動を照らし合わせる指標(目印)としても活用されています。

    例えば、「チームワークと集団行動」「リーダーシップ」能力に対応する「行動マーカー」は、下記のように定義されています。(一部抜粋)

    チームワークと集団行動 人と競うのではなく、協力して行動することができる。
    チームワークと集団行動 必要であれば、どのような人とも根気強く上手に付き合うことができる。
    チームワークと集団行動 チームのことを考えて、自分の普段のふるまいを変えることができる。
    リーダーシップ リーダーになったとしたら、メンバー一人ひとりの強みや弱みに合わせて分担を決めることができる。
    リーダーシップ リーダーを支えることができる。
    例:リーダーにただ従うだけではなく、そのやり方に疑問があれば、自分の考えを提案する。
    リーダーシップ リーダーになったとしたら、優先順位をつけながら計画を立てることができる。

     

    ②生徒に合わせた海陽版・行動マーカーを選定

    生徒に対して意識してもらいたい行動を明確にするため、「海陽版・行動マーカー」を作成しました。8つの能力に対応する行動マーカーは全部で96項目ありますが、一度に意識する行動マーカーが多すぎるとかえって生徒は何を優先すべきかわからず混乱してしまいます。そこで、先生方に今の生徒の能力や状態に合うものを19項目選定していただき、「海陽版・行動マーカー」と位置づけていただきました。

    中学1年生には、「まずは寮での共同生活において自分のことをできるようになって欲しい」という思いから、「自己管理」に関する行動マーカーが多く選ばれました。また、周りの仲間をフォローできるようにもなってほしいという思いから、「チームワークと集団行動」に関する行動マーカーも6項目選ばれました。

    「リーダーシップ」の項目は、中学1年生ではまだ早いと感じていたようですが、自校における建学の精神から外せないものとして、特に身につけてほしい2項目に絞って選択されました。

     

    ③ゲームを交えて生徒に海陽版・行動マーカーを説明

    「海陽版・行動マーカー」の選定の後、生徒の「行動マーカー」に対する理解を深めるためのワークショップを実施しました。ワークショップはゲーム形式のグループワーク(コンセンサスゲーム)を行い、その後、「行動マーカー」に関する説明会を実施するという流れで行いました。

    コンセンサスゲームとは、出された課題に対してグループで話し合い、全員の合意(コンセンサス)を形成するゲームのことです。具体的には、「月に不時着した宇宙飛行士になった」と生徒に想定してもらい、宇宙船で壊れずに残っていた15のアイテムを、母船に帰還するために必要な順で並べてもらうという内容のグループワークです。

    このグループワークを受けて、「チームワークと集団行動」の行動マーカーに関する説明会も実施してもらいました。グループワークでの自身の行動を振り返ってもらいながらの説明会でしたので、生徒は行動マーカーの内容や重要性をイメージしやすかったようです。

     

    ④2学期からは「振り返りシート」を活用

    説明会後には、生徒に「海陽版・行動マーカー」を意識してもらうために、普段から「行動マーカー」の内容に触れるような助言や声掛けを先生方から行っていただきました。

    それに加え、行動マーカーに照らし合わせて生徒自身が自らの活動を振り返ることができるワークシート(「振り返りシート」)を作成し、都度生徒に記入してもらいました。「振り返りシート」は各学期の終わり、長期休暇明けや学園祭、体育祭などのイベント後など、区切りの良いタイミングで活用されたそうです。

    「振り返りシート」には、「上手くいったこと」「上手くいかなかったこと」と、それらを次にどう活かしていくかを記入します。全体を通しての教訓(次に行動に活かすための学び)を書くスペースがあるのもポイントです。

    「振り返りシート」と「経験学習」
    Z会では非認知能力を育成する上で「振り返りシート」は最も重要だと考えています。
    生徒は「振り返りシート」を通じて下記の「経験学習」のサイクルを繰り返します。何度も繰り返すことで「行動マーカー」を意識することが習慣になり、徐々に非認知能力は育まれていきます。

    経験学習のサイクル
    コルブのモデルを参考に、以下の4つを繰り返しながら経験を成長につなげていきます。

    経験学習サイクル

    経験:日々の学習や生活の中で自分が実際に経験した内容そのものを指します。成功したことも失敗したこともどちらも経験です。行動だけでなく、行動のもととなる、自分の気持ち(心構え)や考えや判断も含まれます。
    内省:経験の結果や、そのなかで感じたことを振り返りシートに沿って自分なりに分析していきます。
    抽象化:経験について内省したことをさらに掘り下げ、他の事例でも今回の気づきや学びを活かせるよう、自分なりの教訓や持論としてまとめていきます。
    行動:教訓や持論に基づき行動します。他のことや場面において実際にやってみることで、新たな経験に繋がります。
    →「経験」へ

     

    ⑤2度目のアセスメント受検と面談による1年間の振り返り

    生徒は、年度末に1年間の取り組みの締めくくりとして、2度目となるDiscoveRe Method® のアセスメントを受検しました。受検後は、過去の「振り返りシート」と、2回分のアセスメントの結果をもとに生徒と担任の先生が話し合う面談の時間を設けました。

    面談では、これまで生徒が記入してきた「振り返りシート」の記載内容と、アセスメントの結果についてどう感じているのか、まず生徒に話してもらい、それに応じて先生からフィードバックを行っていただきました。

     

    成果を感じた1年

    インタビューでは、取り組みを1年続けた成果についても伺いました。

    ①「行動マーカー」で非認知能力の指導がスムーズに

    「行動マーカー」を意識した声掛けを行うことで、「行動マーカー」の文言が先生・生徒間の共通言語になり、非認知能力に関する概念的な指導が行いやすくなったそうです。
    今までは、その時々で言葉を紡いで指導を行っていましたが、本当に伝わっているのか不安に思う場面もあったとのこと。しかし、「行動マーカー」を例に出して指導することで、短時間かつ短い言葉で伝えたいことが生徒に伝わっているという場面が増えていき、ちょっとした声掛けでもすぐに理解してもらえるようになったため、生徒に非認知能力を意識してもらう頻度も増えてきたようです。

    また、先生はもちろんハウス(寮)スタッフにも行動マーカーを共有しましたので、ハウス内でも一貫性のある指導や声掛けができるようになりました。人により指導内容にズレが生じるなども起こりにくく、取り組みが浸透しやすかったとのことでした。

     

    ②「振り返りシート」が自ら成長できる土台に

    「振り返りシート」も今回の取り組みで非常に重要な役目を果たしたようです。「振り返りシート」を活用して「経験学習サイクル」を回した結果、徐々に振り返るスピードも上がり、生徒自らが「行動マーカー」を意識しながら考えることができるようになったそうです。
    最初は「振り返りシート」を作成するのに時間を要する生徒がほとんどだったそうですが、1年続けることでほとんどの生徒が振り返りシートをスムーズに書けるようになり、振り返り内容も深くなっていったようです。

    自ら振り返ることができるようになったことで、これまでの指導とは違う反応を示す生徒も出てきています。

    例えば、テストの成績が振るわないなど自分に都合の悪いことがあっても、「先生の教え方が悪いからだ」と他者を責めるのではなく、自分自身の行動を振り返り、その原因を見つけ、改善していこうとする生徒が多くなった印象があったそうです。

    社会に出てからはもちろん、受験や部活などでも、自ら目標に向かって改善しながら進んでいく力が身に付いてきているようです。

     

    ③自分を客観的に見ることができる生徒が増えた

    DiscoveRe Method®では「セルフチェック(自己評価)」「スキルチェック(客観評価)」という2つのアセスメントで、非認知能力を可視化します。1回目の結果では自己評価が高く、客観評価が低い生徒が多く、少し自意識が高めの生徒が多い結果となりました。

    しかし、一連の取り組みによる経験学習サイクルを経た後に実施した2回目の測定では客観評価のスコアが上がり、自己評価のスコアが下がった生徒が多くあらわれ、徐々に客観的な評価と自分の評価が一致するようになっていました。

    このように自分は周りからはどう見られているのか、また周りから何を求められているのかといった自らを客観的に見る能力が身に付きつつあるようです。客観的に自らを捉えることができるようになれば、自らの目指すべき姿と現在の姿のギャップを正しく捉えることができるようになり、今後の成長の助けとなることでしょう。

    これらの成果を踏まえて、2年目は行動マーカーの「リーダーシップ」の項目を大幅に増やしました。また、ハウス生活を含めた周りの仲間との関係にも引き続き重きをおきたいとのことで、「チームワークと集団行動」「コミュニケーション」の項目も増やしています。

    さらに、1年目では生徒と先生が面談する機会をあまり取れなかったため、2年目は面談の機会も増やし、先生からのフィードバックで成長のきっかけになる気付きをより多く与えたいと考えているようです。
    今の生徒が後期課程(高校)に進むまでには、先生のサポートなしでも深い振り返りができ、自ら望む姿に成長していける力をつけてもらうことを目指しているとのことでした。

     

    まとめ

    今回の記事では、海陽中等教育学校の非認知能力育成の取り組みを紹介しました。DiscoveRe Method®のアセスメントと振り返りシートをうまく活用することで、生徒が行動マーカーを意識し非認知能力を高めることにつながっています。

    Z会では海陽中等教育学校のように生徒の非認知能力の育成に力を入れたいと思っている学校・先生方をDiscoveRe Method®を通じてサポートしています。非認知能力に関する取り組みを模索中の学校・先生方はぜひ、お気軽にご相談ください。

     

    DiscoveRe Method®(ディスカバリー メソッド)の詳細はこちら

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